事件番号:JP2003-0004

                裁定書

申立人
  名称:イムノテック リサーチ リミテッド
  住所:カナダ国,J7V 5V5,ケベック,ボードリュール-ドリオン,
     アドリアン パテノード 292
  代理人:弁理士 吉岡 宏嗣

登録者
  名称:イミュノカル・パシフィック・ジャパン株式会社
  住所:東京都渋谷区千駄ヶ谷5-20-11 第一シルバービル401号

 日本知的財産仲裁センターの紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方
針、JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則及び日本知的財産仲裁セン
ターJPドメイン名紛争処理方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、
申立書・提出された証拠に基づいて審理をした結果,以下のとおり裁定する。

1 裁定主文
  ドメイン名「immunocal.co.jp」の登録の取消をせよ。
2 紛争に係るドメイン名は「immunocal.co.jp」である。
3 手続の経緯
  別記のとおり

4 当事者の主張
a 申立人の主張
(1) 申立人は、カナダ国における法人、イムノテック リサーチ リミテ
  ッドである。
    登録者は、イミュノカル・パシフィック・ジャパン株式会社と称する
  法人である。
(2)申立人は、登録第3104815号(甲第1号証-1)、第3137793号(甲
  第1号証-2)及び第4500788号(甲第1号証-3)に係る各商標
  「IMMUNOCAL」の商標権者である。
  現時点においてJPRSに登録されているドメイン名
  「immunocal.co.jp」は、「co.jp」は何れの管理下にあるかを示す符号で
  あるから自他識別力がなく、要部は「immunocal」にある。これと、申
  立人所有の登録商標とが称呼、外観、そして造語という点で観念において
  類似していることは明らかである。
   したがって、当該ドメイン名は、大文字・小文字の差異はあるが、申立
  人所有の登録商標と社会通念上同一又は混同を引き起こすほど類似して
  いる。
(3)登録者の名称による「immunocal」についての商標登録出願は存在せず
  (甲第2号証)、申立人が商標の使用を許諾した事実はない。
    また、「immunocal」は一般的な言葉ではなく、辞書にも見られない
  造語である。申立人による世界各国への商標登録出願(甲第3号証)によ
  る固有の造語という状況にある。
    したがって、申立人から何の権限も与えられていない登録者が、当該
  ドメイン名を偶然に発案・選択したとは考えられず、登録者はドメイン名
  登録についての権利又は正当な権限を有しているとは言えない。
(4) 登録者のホームページに掲載されている「Immunocal」と記載したカ
  プセル入り加工食品(甲第4号証)は、申立人の商標登録第3104815号
  「肉製品,加工水産物、加工野菜及び加工果実」に含まれるもので、その
  使用は侵害行為となる。
    また、「アメリカ、カナダ、ドイツで愛用されています」との宣伝文は、
  愛用されているのは各国に商標登録出願されている申立人商品のことで
  あり、その評判を利用しているとしか考えられない。カプセルの宣伝文に
  「日本だけの新製品です」とあるが、表示されているカプセル入り・パッ
  ク入りの両商品とも申立人には無断で製造されたものである。よって、登
  録者が申立人の商品名を自社製品とドメインに使用することにより、申立
  人の評判に只乗りする意思があることは容易に推認できる。
   さらに、申立人は登録者が「会社概要」の欄の住所には実際は存在しな
  いことを確認したが、ホームページは現在でも見ることが可能な状態にあ
  る。
    したがって、登録者は他人の商標・商品名を付した自社製品による利
  得を得るため商品の出所混同を意図し、営業をしていない住所を表示し、
  申立人の商品が自社製品と関連あるようにしてインターネット上のユー
  ザーを自らのウェブサイトに誘引するためにドメイン名を不正目的で使
  用していると判断できる。

b 登録者
    登録者によって答弁書は提出されなかった。

5 争点および事実認定
 パネルは、提出された陳述・文書に基づき、方針、規則及び適用されうる関
係法規の規定、原則ならびに条理にしたがって、以下のとおり、裁定を下す。
 方針第4条aは、申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを
指図している。
 (1) 登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標そ
   の他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること。
 (2) 登録者が、ドメイン名の登録についての権利又は正当な利益を有してい
   ないこと。
 (3) 登録者のドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること

a要件(1)について。
 申立人は、わが国において、登録第3104815号、同第3137793
号及び第4500788号として登録されている「IMMUNOCAL」の文字から
なる商標に係る商標権者である。
 他方、本件ドメイン名「immunocal.co.jp」の構成中、「jp」は国コード、「co」
は属性(組織種別)コードに過ぎないから、識別力を有する部分(要部)は
「immunocal」にあることが明らかである。
 したがって、申立人の上記登録商標「IMMUNOCAL」と本件ドメイン名の要
部「immunocal」とは、実質的に全く同一である。
 よって、本件ドメイン名は、申立人が権利又は正当な利益を有する商標その
他表示と混同を起こすほど類似するということができる。

b要件(2)について。
 本件ドメイン名の要部「immunocal」の称呼は「イミュノカル」であり、こ
れと登録者の商号「イミュノカル・パシフィック・ジャパン株式会社」の要部
である「イミュノカル」とは、称呼を共通にするものである。
 しかしながら、次の事実が認められる。
  ① 本件ドメイン名の要部「immunocal」は、辞書等に掲載されていない
    造語であること。
  ② 本件ドメイン名の要部「immunocal」は、申立人が商標権を有する商
    標と同一であること。
  ③ 登録者自身のウェブページに記載されていたところによれば登録者の
    会社設立は2000年4月であり(甲第4号証)、また、本件ドメイン名
    登録の登録日は2001年2月7日であるのに対し、申立人所有の
    「IMMUNOCAL」に係る前記登録第3104815号及び同第313
    7793号の出願日はそれに数年以上先立つ1993年8月4日であるこ
    と(甲第1号証-1及び同号証-2)。
  ④ 本件ドメイン名をURLとする登録者のウェブページ上において、申立
    人の登録商標が、申立人の許諾なくいわゆる健康食品について使用され、
    申立人の商標権が侵害されていたこと(甲第4号証)。
 以上の事実から、登録者は前記のとおり本件ドメイン名の要部を要部とする
商号を有するものの、その商号の採用自体も申立人の商標を模倣したものと解
するのが合理的である。
 したがって、登録者が、本件ドメイン名「immunocal.co.jp」の登録につい
ての権利又は正当な利益を有しているとは認めることができない。

c要件(3)について。
 登録者は、答弁書を提出していないので、登録者が本件ドメイン名
「immunocal.co.jp」の登録を取得した目的を直接知ることはできない。しか
しながら、上記5b①~④で認定した事実に照らせば、申立人が主張するとおり、
申立人の商品が登録者の製品と関連あるようにしてインターネット上のユーザ
ーを登録者自らのウェブサイトに誘引するためにドメイン名を不正目的で取得
したものと認められる。
 なお、申立人は、甲第号4証として、本件ドメイン名をURLとするウェブペ
ージのプリントアウトを提出しているが、2003年10月16日現在においては、
同ウェブページにアクセスすることはできなくなっている。しかしながら、こ
のウェブページが存在したとの事実に反する証拠はなく、登録者は、本件ドメ
イン名を取得・使用して申立人の商品と混同を生じるおそれのある商標使用を
行っていたものと認められる。換言すれば、本件には、当該ドメイン名の登録
または使用を不正の目的であると認めることができると定めたJPドメイン名
紛争処理方針第4条b. (iv) に規定する事情があったものと認められる。
 つまり、本件ドメイン名は、現在は使用されていないようであるが、前記の
ような不正使用の目的で登録されているものであることは客観的に明らかであ
る。
 以上のとおり、本件ドメイン名は、少なくとも、不正の目的で登録されてい
るものと認めるほかない。

6 結論
 以上に照らして、紛争処理パネルは、登録者によって登録されたドメイン名
「immunocal.co.jp」が申立人の商標その他表示と混同を引き起こすほど類似
し、登録者が、ドメイン名について権利又は正当な利益を有しておらず、かつ、
登録者のドメイン名が不正の目的で登録されているものと判断する。
 よって、方針第4条iに従って、ドメイン名「immunocal.co.jp」の登録を
取り消すものとし,主文のとおり裁定する。

        2003年10月17日
        日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
                     大 島  厚
                     単独パネリスト


別記(手続の経過)
(1)申立受領日
   電子メール 2003年8月18日   書面 2003年8月20日
(2)料金受領日 2003年8月18日 金 180000円 入金
         2003年8月21日     9000円 入金
(3)ドメイン名及び登録者の確認日
   2003年8月18日 センターの照会(電子メール)
   2003年8月18日 JPNICの確認(電子メール)
   確認内容
   1) 申立書に記載の登録者はドメイン名の登録者であること
   2) 登録担当者は本人であること
(4)申立不備通知書の送付日
   2003年8月21日 委任状に不備があったので、申し立て不備通知書を
申立人代理人に送付(郵送、電子メール、及びFAX)
(5)補正申立書受領日
   2003年8月26日 (郵送)
(6)適式性
 日本知的財産仲裁センターは、2003年8月26日、申立書が社団法人日本ネ
ットワークインフォメーションセンター(JPNIC)のJPドメイン名紛争処理
方針(方針)、JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則(規則)、JPド
メイン名紛争処理方針のための補則(補則)の形式要件を充足することを確認
した。
(7)手続開始日  2003年8月26日
   手続開始の通知 2003年8月26日
           JPNICへ(電子メール)
           申立人へ(郵送、電子メール、及びFAX)
(8)登録者への通知日及び内容
  1)2003年8月26日、センターは、郵送、電子メール、及びFAXによ
り登録者に通知したが、電子メールを除き、不達であった。申立人が知ってい
る登録者への連絡先として記載されていた者に問い合わせる等、可能な手段を
尽くしたが、転送先は不明であった。
  2)以上より、センターは、電子メールにて、答弁書提出期限が2003年9
月25日であることを通知した。
(9)答弁書の提出の有無
  登録者は答弁書を提出しなかった。
(10)答弁書不提出通知書の登録者への送付日
  2003年9月26日 (郵送、電子メール、及びFAX)
(11)パネリストの選任
  単独
  パネリストの氏名  大島 厚
  中立宣言書の受領日 2003年9月30日
(12)紛争処理パネルの指名及び予定裁定日の通知日
  2003年9月26日 (郵送、電子メール、及びFAX)
(13)予定裁定日 2003年10月17日事件番号:JP2003-0004
(14)パネルによる管理
  適宜に、電子メール及びFAX・電話等の手段を利用