事件番号:JP2003-0005

                裁定

申立人:
(名称)インターナショナル・ビジネス・マシーンズ・コーポレーション
(住所)アメリカ合衆国 10504 ニューヨーク州
       アーモンク ニュー オーチャード ロード
代理人:
 弁理士 村上健次
 弁理士 坂口博
 弁理士 市位嘉宏
 弁理士 上野剛史
登録者:
(名称)株式会社茨城ビジネスマシン
(住所)茨城県日立市相田町2丁目5番5号

 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン紛争処理方針、JPドメ
イン名紛争処理方針のための手続規則及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛
争処理方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立書・提出された証拠に基づ
いて審理を遂げた結果、以下のとおり裁定する。

1 裁定主文
  ドメイン名「IBM-NET.CO.JP」の登録の取消をせよ。
2 ドメイン名
  紛争に係るドメイン名は「IBM-NET.CO.JP」である。
3 手続の経緯
  別記のとおり。
4 当事者の主張
 a 申立人の主張
 (1)申立人は、1911年「Computing Tabulating Recording Company」としてア
   メリカ合衆国ニューヨーク州において設立され、1924年に「International
   Business Machines Corporation」(IMB Corporation)と社名変更され、今日
   まで、コンピュータハードウェア、ソフトウェア、及びこれらに関連する各種サ
   ービスの提供を主たる業務とし、従業員31万5889人(2002年12月3
   1日現在)をかかえ、現在、世界170カ国で事業展開している多国籍企業であ
   る。
    また、申立人の日本に置ける事業展開は、1937年に「日本ワットソン統計
   会計機械株式会社」を設立して開始され、1959年に「日本アイ・ビー・エム
   株式会社」に商号変更しながら事業を継続し今日に至っている(甲1)。
   申立人は、登録第1226278号(甲5の1)、第0390923号(甲5
   の2)、第4404469号(甲5の3)、第0675121号(甲5の4)、第
   0388139号(甲5の5)、第0389702号(甲5の6)に係る英文字
   から成る各商標「IBM」の商標権者である。
    また、申立人は、登録第1773062号(甲6の1)、第1943666号(甲
   6の2)、第1821129号(甲6の3)、第4404470号(甲6の4)、
   第4261532号(甲6の5)、第2071467号(甲6の6)、第4339
   525号(甲6の7)、第2074635号(甲6の8)、第1548039号(甲
   6の9)、第1616173号(甲6の10)、第3022987号(甲6の11)、
   第4400228号(甲6の12)、第3010836号(甲6の13)、第30
   78200号(甲6の14)、第3172178号(甲6の15)に係るロゴか
   ら成る各商標「IBM」の商標権者である。
    なお、上記登録第1226278号に係る英文字から成る商標「IBM」は、
   28件の防護標章登録がなされており、うち27件は、1986年から1988
   年に登録されたものである(甲5の1)。
    以上の事実等に照らし、「IBM」は、日本国内において申立人の著名な商標で
   あると認められ、かつ、1986年ないし1988年において申立人の著名な商
   標となっていたと認められる。
 (2)登録者は、1990年10月4日に設立登記された法人である(甲9)。
 (3)登録者のドメイン名は「IBM-NET.CO.JP」(以下「本件ドメイン名」という。)で
   あるところ、「CO.JP」の部分は登録者の属性を示す部分に過ぎず、本件ドメイン
   名と申立人の上記商標とが同一または類似しているかの判断は「IBM-NET」を対
   象として行われるべきである。
    しかして、「IBM-NET」は「IBM」と「NET」をハイフンを介して結合して
   成るところ、「NET」は「NETWORK」の略称として国内において広く知
   られていると認められる(甲12)。
    このことから、本件ドメイン名の自他識別力ある要部は、「IBM」の部分である。
   そこで、本件ドメイン名を申立人の英文字から成る登録商標「IBM」およびロ
   ゴから成る登録商標「IBM」と比較すると、称呼上も、外観上も、両者は同一
   または混同を引き起こすほど類似している。
 (4)登録者は、申立人と一切の資本関係、取引関係、業務提携関係がなく、本件ド
   メイン名に関係する何らの商標権も現在保有しておらず、申立人が登録者に対し
   上記登録商標「IBM」の使用を許諾した事実もない。
    登録者が本件ドメイン名を登録した2000年7月5日の時点はもとより、登
   録者が設立登記した時点において、既に「IBM」という表示は著名であり、少
   なくとも営業表示として周知性を獲得していた。
    したがって、登録者は、本件ドメイン名の登録についての権利または正当な利
   益を有していない。
 (5)既に本件ドメイン名の登録時において、「IBM」という表示が申立人の商標お
   よび営業表示として著名となっていたことに鑑み、登録者が本件ドメイン名を善
   意で選択し登録したとは到底考えられない。
    また、登録者は、本件ドメイン名を使用してホームページを開設し、申立人が
   取り扱っているコンピュータ関連商品およびサービスと同種・同等の商品および
   サービスの提供を広告していることから、当該ホームページを閲覧したインター
   ネットユーザーをして、明らかに申立人を連想させ、もしくは、当該ホームペー
   ジが申立人と何らかの関連があるものと誤信させるべく意図して本件ドメイン
   名を使用していることは明らかである。
    したがって、登録者が不正の目的で本件ドメイン名を登録・使用していること
   は明らかである。
(6)よって、申立人は、本件ドメイン名の登録を取消すとの裁定を求める。
  b 登録者の答弁
   登録者は答弁書を提出しなかった。
5 争点および事実認定
 a 登録者の答弁書不提出の効果
 (1)本件において登録者は、JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則(以下
   「手続規則」という。)第2条(a)(ⅰ)に基づいて適式に申立書の送付を受けた
   にもかかわらず、答弁書提出期限までに答弁書を提出しなかった(別紙手続の経
   緯参照)。したがって、本件において争点は形成されていない。
 (2)答弁書が提出されなかった場合、手続規則によれば、パネルは申立書に基づい
   て裁定を下すものとするとされている(第5条(f))が、パネルは登録者が答弁
   書を提出しないという事実のみを理由として、申立人の申立を認容すること、お
   よび、申立書記載の事実、判断について登録者が全部自認したものと扱うこと(擬
   制自白)は許されず、JPドメイン紛争処理方針(以下「処理方針」という。)
   および手続規則の定める要件が充足されているか否かの判断を申立人の提出し
   た証拠と当事者の陳述(審理の全趣旨)に基づいて認定しなければならないもの
   と言うべきである。
 (3)そこで、本件申立事件が処理方針第4条aに定める3要件を充足しているかど
   うかを検討する。
 b 処理方針第4条aの各号について
 (1)処理方針第4条aは、申立人が次の事項の各々を証明しなければならないこと
   を指図している。
  (ⅰ)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他
    表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること。
  (ⅱ)登録者が、当該ドメイン名の登録についての権利または正当な利益を有して
    いないこと。
  (ⅲ)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること。
 (2)そこで、まず、(ⅰ)について検討する。
    申立人は、英文字から成る登録商標「IBM」およびロゴからなる登録商標「I
   BM」について正当な権利および利益を有する(甲1ないし甲6の15、甲8)。
    次に、本件ドメイン名と上記商標との同一・類似性を検討すると、まず、
   「IBM-NET.CO.JP」のうち、「CO.JP」の部分は、使用主体が属する国および組織
   を表示するものであるに過ぎない。
    更に、「IBM-NET」の部分は、「IBM」と「NET」の各英文字をハイフンを介して
   結合してなる。そして、「NET」とは、「NETWORK」の略称として国内にお
   いて広く知られていると認められるところである(甲12)。
    特に、「インターネット」等、「ネット」という用語がコンピュータの世界にお
   いて急速に一般化しつつあること、また、ドメイン名の世界においては、分野別
   トップドメイン(gTLD)において末尾が「.net」となるドメインを誰もが取得可
   能であること(公知の事実)からすれば、「-NET」という表示に、ドメイン名と
   いう用途において独自の識別性があるとはいえない。
    以上から、登録者のドメイン名「IBM-NET.CO.JP」において、主たる識別力を
   有するのは、「IBM」の部分にあると認められ、登録者のドメイン名
   「IBM-NET.CO.JP」の要部は「IBM」と認められる。
    そこで、登録者の本件ドメイン名の要部「IBM」と、申立人の上記商標の要部
   である「IBM」とを比較すると、両者の間には称呼・外観等において、同一また
   は混同を引き起こす程の類似性を認めることができる。
     したがって、「IBM-NET.CO.JP」は、英文字から成る登録商標「IBM」および
   ロゴからなる登録商標「IBM」と誤認混同を生ずるほど類似すると認められる。
 (3)次に、(ⅱ)について検討する。
    申立人は既に本ドメイン名に関し自らの権利または正当な利益を有する商標
   を有していることを立証していること、登録者の権利・利益は登録者が最も立証
   することが容易であることから、本要件については、登録者がかかる権利または
   利益を立証しなければならない。
    ところが、登録者は答弁書を提出せずこれを立証しない。また、一件記録を検
   討しても、登録者にかかる権利または利益があることを推認させる事情は見あた
   らない。処理方針第4条cの各号に該当する事情も見あたらない。
     よって、登録者が権利または正当な権利を有していないと認めることができる。
 (4)更に、(ⅲ)について検討する。
    登録者がこの「株式会社茨城ビジネスマシン」という商号を選定した1990
   年当時においても、また、本件ドメイン名登録を行った2000年7月5日時点
   においても、申立人の商標および営業表示として「IBM」という名称が著名と
   なっていたことが認められる(甲1~6、8、審理の全趣旨)。
     登録者は、「株式会社茨城ビジネスマシン」という商号であるが、同社が本件
   ドメイン名を使用して開設したホームページ(甲11、13)を観察すると、「I
   BM」という略称が登録者の商号の英文字「Ibaragi Business
   Machine」の略称である旨を示す表現は一切ない。むしろ、申立人も指摘
   するように「Ibaragi」の部分だけをカットして、申立人の商号と共通と
   なる「Business Machine」の部分だけを大きく記載しているこ
   とが認められる(甲11)。
    加えて、登録者は、申立人が取り扱っているコンピュータ関連商品及びサービ
   スと同種・同等の商品およびサービスの提供を、本件ドメイン名を使用して開設
   したホームページにおいて広告していることも認められる(甲11、13)。
    したがって、登録者のドメイン名「IBM-NET.CO.JP」を登録し、これを使用し
   てホームページを開設すれば、インターネット上のユーザーに申立人のホームペ
   ージと誤認混同を生じ、あるいは、登録者ホームページをして申立人と関係する
   ホームページであると誤認を生ぜしめることとなり、その結果、登録者は申立人
   の信用にただ乗りして不正に利得を得ることになる一方、申立人の事業に混乱を
   生ずることとなることを、登録者は意図していたか、少なくとも、これを認容し
   ていたと断じざるを得ない。
    よって、登録者のドメイン名「IBM-NET.CO.JP」は、不正の目的で登録され、
   かつ使用されているものと認められる。
6 結論
  以上に照らして、当パネルは、登録者によって登録されたドメイン名
 「IBM-NET.CO.JP」が申立人の商標と混同を引き起こすほど類似し、登録者が登録者の
 ドメイン名について権利または正当な利益を有しておらず、登録者のドメイン名が不
 正の目的で登録され、かつ使用されているものと認定する。
  よって、処理方針第4条iに従って、ドメイン名「IBM-NET.CO.JP」の登録を取消す
 ものとし、主文のとおり裁定する。

2003年11月18日

日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
       パネリスト  山  上  和  則


別記(手続の経過)

(1)申立受領日
   電子メール 2003年9月19日   書面 2003年9月22日
(2)料金受領日 2003年9月19日 金 189,000円(消費税込)入金
(3)ドメイン名及び登録者の確認日
   2003年9月19日 センターの照会(電子メール)
   2003年9月19日 JPRSの確認(電子メール)
   確認内容
   1) 申立書に記載の登録者はドメイン名の登録者であること
   2) 登録担当者は登録者に所属する松村英文であること
(4)適式性
   日本知的財産仲裁センターは、2003年9月25日、申立書が社団法人日本ネット
  ワークインフォメーションセンター(JPNIC)のJPドメイン名紛争処理方針(方針)、
  JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則(規則)、JPドメイン名紛争処理方
  針のための補則(補則)の形式要件を充足することを確認した。
(5)手続開始日   2003年9月26日
   手続開始の通知 2003年9月26日
   JPNIC/JPRSへ手続開始の通知を発送(電子メール)
   申立人へ手続開始の通知を発送(郵送、電子メール、及びFAX)
(6)登録者への通知日及び内容
  1)2003年9月26日、センターは、配達証明付郵送、電子メール、及びFAXに
   より登録者に通知した。電子メールについては、不達[User unknown]であったが、
   配達証明付郵便については、2003年9月27日に配達された旨の通知があり、ま
   た、FAXも到達した。
  2)以上より、センターは、配達証明付郵便及びFAXにて、答弁書提出期限が2003
   年10月27日であることを通知した。
(7)答弁書の提出の有無
   登録者は答弁書を提出しなかった。
(8)答弁書不提出通知書の登録者への送付日
   2003年10月28日
(9)パネリストの選任
   単独
   パネリストの氏名  山上和則
   中立宣言書の受領日 2003年11月11日
(10)紛争処理パネルの指名及び予定裁定日の通知日
   2003年10月29日
(11)予定裁定日 2003年11月19日
(12)パネルによる審理
   適宜に、電子メール及びFAX・電話等の手段を利用



【誤記訂正】

上記、裁定中、
「4 当事者の主張 a 申立人の主張」の
・  「(IMB Corporation)」は「(IBM Corporation)」
の誤記であるため、訂正を致します。

                       2003年12月19日
                       パネリスト  山  上  和  則

                                         以  上