事件番号:JP2010-0006

                                   裁 定

  申立人:
  (名称)株式会社栗本鐵工所
  (住所)大阪市西区北堀江一丁目12番19号
  代理人:弁護士 松本 徹
  登録者:
  (名称)shijian wu
  (住所)東京都杉並区高円寺北三丁目43番13号

 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針、JPドメイン
名紛争処理方針のための手続規則及び日本知的財産仲裁センターJP ドメイン名紛争処理
方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立書・答弁書・提出された証拠に基づ
いて審理を遂げた結果、以下のとおり裁定する。

1 裁定主文
  ドメイン名「KURMOTO.JP」の登録を取り消せ
2 ドメイン名
  紛争に係るドメイン名は「KURMOTO.JP」である。
3 手続の経緯
  別記のとおりである。

4 当事者の主張
 a 申立人
  申立人は、申立人の商標その他表示「KURIMOTO」を実質的に模写し、マークにおける
申立人の好評を利用する意図をもって、登録者が本件ドメイン名「KURMOTO.JP」を登録し
ていることを主張する。申立人によれば、本件ドメイン名は、申立人の商標その他表示と
混同を引き起こすほどに類似し、登録者は本件ドメイン名について正当な利益を有してい
ない、そして本件ドメイン名は不正の目的で登録され且つ使用されている。
 従って、申立人は、ドメイン名登録の取消を請求する。
 b 登録者
  登録者によって答弁書は提出されなかった。

5 争点および事実認定
 規則第15条(a)は、パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原則に
ついてパネルに次のように指示する。「パネルは、提出された陳述・文書および審問の結果
に基づき、処理方針、本規則および適用されうる関係法規の規定・原則、ならびに条理
に従って、裁定を下さなければならない。」
 方針第4条aは、申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図してい
る。
 (1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示
と同一または混同を引き起こすほど類似していること
 (2)登録者が、ドメイン名の登録についての権利又は正当な利益を有していないこと
 (3)登録者のドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること

 (1)同一又混同を引き起こすほどの類似性
 方針第4条aに規定する「商標その他表示」には、登録商標の他に、申立人の名称や使
用するドメイン名等も該当する(JP2000-0002,JP2004-0002,JP2005-0009等)。
 申立人は、1996年9月24日付でドメイン名「KURIMOTO.CO.JP」を、2001年3
月26日付でドメイン名「KURIMOTO.JP」を、それぞれ登録している。
 登録者は、2008年7月15日付で本件ドメイン名「KURMOTO.JP」を登録し、インタ
ーネットサイトを開設した。
 ところで、ドメイン名中、「JP」は国別、「CO」は組織の属性を示すものであり、申立人
と登録者のドメイン名のうち識別力を有するのは「KURIMOTO」と「KURMOTO」の部分といえ
る。
 そこで「KURIMOTO」と「KURMOTO」を見比べると、両者はその構成上、印象が比較的薄ら
ぐ中間部に位置するアルファベット一文字「I」の有無に差異を有するにすぎないから、両
者は外観上相紛らわしく類似する。
 したがって、本件ドメイン名は、申立人の商標その他表示と混同を引き起こすほど類似
していると認められる。

 (2)権利又は正当な利益
 登録者の名称は、「shijian wu」であり、本件ドメイン名と一致しない。
また、申立人が提出した証拠(甲第3号証乃至甲第7号証)によれば、登録者は、イン
ターネットサイトにおいて、企業名を「KURMOTO VALVE CO., LTD」、本社所在地を「大
阪府大阪市中央区本町4丁目8番1号大栄産業本町ビル702号」と表記しているが、前
記住所に本店を有する法人は法務局に登記されておらず、前記住所には前記会社は実在し
ないとのことである。
 さらに、登録者は、遅くとも2010年7月22日までは、インターネットサイトにお
いて本社所在地を「大阪府大阪市西区北堀江3丁目8番14号」と表記しているが(甲第
8号証)、この住所は申立人の本店所在地と「大阪府大阪市西区北堀江」まで同一であり、
また、当該住所に本店を有する法人は法務局に登記されていない(甲第6号証)。
 そして、登録者は答弁書を提出せず、本件ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を
有していることの証明をしないことも併せて考慮すると、登録者が本件ドメイン名につい
て権利又は正当な利益を有するものとは認めることはできない。

 (3)不正の目的での登録及び使用
 申立人は、登録者のインターネットサイトにおける掲載内容に基づいて、登録者の不正
の目的による登録及び使用を主張しているので検討する。
 (i)申立人の登録商標と近似する標章の使用
 登録者がインターネットサイトにおいて使用しているロゴ(マーク)(甲第3号証)と、
申立人が所有する登録第593227号、第598812号、第823989号、第12
08975号、第2684870号、第2688706号の商標(甲第9号証及び甲第1
0号証)とは、その構成において上下に位置する横線部に切れ目があるかないかの差異が
あるにすぎず、近似している。
 (ii)財団法人日本品質保証機構により交付された申立人の認証番号の使用
 登録者がインターネットサイトにおいて表示している、品質に関する国際規格である
ISO9001【JQA-1281】(甲第13号証)は、申立人の住吉工場が受けている登録証番号で
あり(甲第11号証)、環境に関する国際規格であるISO14001【JQA-em0454】(甲第1
3号証)は、申立人が所有していた泉北工場(2007年3月閉鎖)が受けていた登録証
番号である(甲第12号証、なお、正規の認証番号は【JQA-EM0454】)。
 マネジメントシステムの審査登録等を行う認証機関である財団法人日本品質保証機構が、
他法人に対して同一の認証番号を交付することはないことから、登録者は申立人が受けた認
証番号をインターネットサイトにおいて盗用しているという事実が確認される。
 (iii)申立人のカタログに掲載している図表等の使用
 登録者がインターネットサイトの【製品紹介】ページの「BT-E 600型 小型ガスター
ビン用バキュームバタフライ弁」で表示している図面と製品写真(甲第13号証)、及び登
録者が中国語製品カタログに掲載している図面と製品写真(甲第14号証)は、申立人が
作成している「総合カタログ〈バルブ〉」(2007年11月製本)の第10頁で使用して
いる図面及び製品写真と同一である(甲第15号証)。
 また、登録者のインターネットサイトの上記【製品紹介】と同ページの「外観寸法図」
と「寸法一覧表」(甲第13号証)は、申立人が作成している「火力・原子力発電設備用バ
タフライ弁」(2008年8月製本)の第9頁で使用している図面及び電動式寸法表と同一
である(甲第16号証)。
 さらに、登録者の中国語製品カタログ(甲第14号証)の表紙の写真は、申立人の前記
「火力・原子力発電設備用バタフライ弁」(甲第16号証)の表紙の写真(上下2枚の写真
中の下の写真)と同一である。
 以上の事実から判断すれば、登録者は、申立人の商標その他表示を利用して商業上の利
得を得る目的で本件ドメイン名の登録及び使用していると認められる。

6 結論
 以上に照らして、紛争処理パネルは、登録者によって登録されたドメイン名「KURMOTO.JP」
が申立人の商標その他表示と混同を引き起こすほど類似し、登録者がドメイン名について
権利又は正当な利益を有していない、登録者のドメイン名が不正の目的で登録され且つ使
用されているものと裁定する。
 よって、方針第4条iに従って、ドメイン名「KURMOTO.JP」の登録が取り消されるべき
であるものとし、主文のとおり裁定する。

   2010年11月22日

   日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
                            福井 陽一
              単独パネリスト


別記  手続の経緯

(1)申立書受領日
   電子メール 2010年9月15日 書面 2010年9月16日
(2)手数料受領日
   2010年9月17日 申立手数料の受領確認
(3)ドメイン名及び登録者の確認
   2010年9月24日 JPRSへ照会
   2010年9月24日 JPRSから登録情報の確認
      確認内容:申立書に記載された登録者はドメイン名の登録者であること
(4)適式性
    日本知的財産仲裁センター(以下、センターという。)は、2010年9月
   22日に、申立書が処理方針と規則に照らし適合していることを確認した。
(5)手続開始日 2010年9月24日
    手続開始日の通知 2010年9月24日に申立人、登録者、JPRS及びJPNIC
   へ通知(電子メール、ファクシミリおよび郵送)
(6)登録者への通知日及び内容
   1) 2010年9月24日(電子メールおよび郵送)
    ただし、郵送分は「あて所に尋ねあたりません」として2010年9月
   27日、センター宛返送された。
   2) 申立書及び証拠等一式
   3) 答弁書提出期限 2010年10月25日
(7)答弁書の提出の有無及び提出日
   日本知的財産仲裁センターは、提出期限日までに答弁書を受領しなかったので、
2010年10月26日に「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書
不提出通知書を、電子メールと郵送にて申立人および登録者に送付した(登録者
宛は電子メールのみ)。
(8)パネリストの選任 2010年11月1日
   申立人は1名のパネルによって審理・裁定されることを選択。
   中立宣言書の受領日:2010年11月4日
   パネリスト:福井 陽一
(9)紛争処理パネルの指名及び裁定予定日の通知
   2010年11月1日 JPNICおよびJPRSへ通知(電子メール)
            申立人および登録者へ通知
            (電子メール、ファクシミリおよび郵送。登録者宛は電子
             メールのみ)
   裁定予定日:2010年11月22日
(10)パネリスト指名書及び一件書類受け渡し
   2010年11月1日(電子メールおよび郵送)
(11)パネルによる審理・裁定
   2010年11月22日 審理終了、裁定。