事件番号:JP2011-0005

                  裁 定


  申立人:
  (名称)バカラ
  (住所)フランス国 54120 バカラ リュ デ クリスタルリー
  代理人:弁護士 宮川 美津子
      弁理士 佐藤 俊司
      弁護士 佐藤 力哉
  登録者:
  (名称)牧田 みどり
  (住所)静岡県藤枝市音羽町3丁目12番6号



 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針、JPドメイン
名紛争処理方針のための手続規則及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理
方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立書・答弁書・提出された証拠に基づ
いて審理を遂げた結果、以下のとおり裁定する。

1 裁定主文
  ドメイン名「BACCARAT-CRYSTAL.JP」の登録を申立人に移転せよ
2 ドメイン名
  紛争に係るドメイン名は「BACCARAT-CRYSTAL.JP」である。
3 手続の経緯
  別記のとおりである。

4 当事者の主張
  a 申立人
  申立人によれば、紛争に係るドメイン名「BACCARAT-CRYSTAL.JP」(以下、本件ドメイ
 ン名という。)は、申立人の商標と混同を引き起こすほどに類似し、登録者はドメイン名に
 ついて正当な利益を有していない、そして、ドメイン名は不正の目的で登録され、かつ使
 用されている。
  よって、申立人は、ドメイン名「BACCARAT-CRYSTAL.JP」の登録の申立人への移転を請求
 する。
  b 登録者
   登録者は、答弁書を提出し、申立人の各主張に対し、反論はないと述べ、本件ドメイ
 ン名は本年7月で契約が切れるので、使用しない、と答弁している。

5 争点および事実認定
(1)規則第15条(a)は、パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原
則についてパネルに次のように指示する。「パネルは、提出された陳述・文書および審問の
結果に基づき、処理方針、本規則および適用されうる関係法規の規定・原則、ならびに条
理に従って、裁定を下さなければならない。」
  本件において、登録者は、申立人の主張及び主張に係る事実については、明らかに争
わない旨を述べており、それゆえ、本件における実質的な争点は存在しない。

(2)方針第7条(現状の維持)によれば、株式会社日本レジストリサービス(JPRS)
は、方針第3条の規定および登録規則に定めのある場合を除き、ドメイン名の移転、取消
又はその他の現状を変更する手続を行わないこととしている。そこで、パネルは、本件に
おける申立人の本件ドメイン名の移転請求に関し、現状に基づき裁定を行う。

(3)ドメイン名の移転に関して、方針第4条aは、申立人が次の事項の各々を証明しな
ければならないことを指図している。
 (ⅰ)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示
    と同一または混同を引き起こすほど類似していること
 (ⅱ)登録者が、ドメイン名の登録についての権利又は正当な利益を有していないこと
 (ⅲ)登録者のドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること。
  申立人の主張に係る事実は、提出された各証拠及び登録者の答弁によって、これをそ
の通りであると認めることができる。そこで、以下、これらの事実によって上記方針第4
条aの各要件を充足するかにつき検討する。

 (ⅰ)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示
と同一または混同を引き起こすほど類似しているか否か

  本件紛争に係る本件ドメイン名「BACCARAT-CRYSTAL.JP」において、トップレベルドメ
イン「.JP」は国別コードを表す部分に過ぎないから、要部は「BACCARAT-CRYSTAL」である。

  他方、申立人の主張並びに提出された甲第3号~同第8号の2(登録商標公報)及び
甲第12号~同第24号・同第26号(取扱商品類)から、申立人が永年にわたりクリス
タル製品等の製造・販売を行い、「BACCARAT」の名称は現在既に著名性を確立していること
が認められる。また、甲第8号証の1は、申立人が「BACCARAT(図形)CRYSTAL」の商標権
も所有していることを証している。
  そこで、本件ドメイン名の要部「BACCARAT-CRYSTAL」と、申立人の営業を表す著名な
商標であって申立人が商標権を有する商標「BACCARAT」(以下、「本件商標」という。)を比
較すると、本件ドメイン名は、申立人の著名な商標「BACCARAT」と申立人の主たる業務で
あるクリスタル製品を表す「CRYSTAL」の結合から成るものであり、そのため、本件ドメイ
ン名「BACCARAT-CRYSTAL」は、全体として、「BACCARAT」のクリスタルを想起させ、当該表
示に接した者をして、申立人の商標と混同を引き起こすほど類似しているということがで
きる。

 (ⅱ)登録者が、ドメイン名の登録についての権利又は正当な利益を有しているか否か

  申立人は、登録者の氏名、国内での保有登録商標、本件商標のライセンス状況、本件
ドメイン名に係るウェブサイトの利用状況、登録者についての一般人の認識において、登
録者が本件ドメイン名に関する正当な利益を有しないとし、また、本件ドメイン名に係る
ウェブサイトは、本件商標を商業的目的に利用して消費者の誤認を惹き起こすことにより
商業上の利益を得ようとするものであると主張する。

  登録者は、この申立人の主張に対し反論はない旨述べているため、登録者は本件ドメ
イン名の登録についての権利又は正当な利益を有していないという他はない。

 (ⅲ)登録者のドメイン名が、不正の目的で登録または使用されているか否か

  申立人は、本件商標である「BACCARAT」は申立人を示すものとして著名であるところ、
登録者は申立人と何ら関係を有しないにも関わらず、本件ドメイン名を登録し、本件ドメ
イン名に係るウェブサイトにおいて商品又はサービスの提供をいつでも行いうる状態とし、
行おうとしているから、本件ドメインの使用は、登録者において、商業上の利益を得る目
的で、本件ウェブサイトにおいて商品又はサービスの出所や取引関係についての誤認混同
を生ぜしめることを意図して、インターネット上のユーザーを本件ウェブサイトへ誘引す
るための使用であると主張する。
  登録者は、この申立人の主張に対し反論はない旨述べているため、方針第4条b(ⅳ)
に照らしても、登録者は本件ドメイン名を不正の目的で使用していると認められる。

  以上から、方針第4条a(ⅰ)から(ⅲ)の各要件は充足されるものと認められる。

6 結論
 よって、紛争処理パネルは、方針第4条iに従って、ドメイン名「BACCARAT-CRYSTAL.JP」
の登録を申立人に移転するものとし、主文のとおり裁定する。

   2011年8月30日

   日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
              下坂 スミ子   (印)
              単独パネリスト


別記 手続の経緯
(1)申立書受領日
   電子メール 2011年7月21日 書面 2011年7月21日
(2)手数料受領日
   2011年7月21日 申立手数料の受領確認
(3)ドメイン名及び登録者の確認
   2011年7月22日 JPRSへ照会
   2011年7月22日 JPRSから登録情報の確認
   確認内容:申立書に記載された登録者はドメイン名の登録者であること
(4)適式性
   日本知的財産仲裁センター(以下、センターという。)は、2011年7月25日に、
処理方針とJPドメイン名紛争処理手続規則(以下、規則という。)に照らし、申立書が適
合していることを確認した。
(5)手続開始日 2011年7月26日
   手続開始日の通知 2011年7月26日に申立人、登録者、JPRS及びJPNIC
へ通知(電子メール、ファクシミリおよび郵送)
(6)登録者への通知日及び内容
   1) 2011年7月26日(電子メールおよび郵送)
   2) 申立書及び証拠等一式
   3) 答弁書提出期限 2011年8月23日
(7)答弁書の提出の有無及び提出日
   センターは、2011年8月5日、申立人代理人から、同代理人宛に本件答弁書が
送付された旨の連絡を受け、同月8日、受領した答弁書の一式のセンター宛転送を申立人代理人に依頼した。同月9日、転送を受けた答弁書が規則に適合していることを確認した
ので、翌8月10日、写しを申立人に送付した。
(8)パネリストの選任 2011年8月10日
   申立人は1名のパネルによって審理・裁定されることを選択。
   中立宣言書の受領日:2011年8月11日
   パネリスト:下坂 スミ子
(9)紛争処理パネルの指名及び裁定予定日の通知
   2011年8月10日 JPNICおよびJPRSへ通知(電子メール)
              申立人および登録者へ通知
(電子メール、ファクシミリおよび郵送)
   裁定予定日:2011年8月30日
(10)パネリスト指名書及び一件書類受け渡し
   2011年8月10日(電子メールおよび郵送)
(11)パネルによる審理・裁定
   2011年8月30日 審理終了、裁定。