事件番号:JP2012-0008

                裁 定

申立人:
  (名称)アメリカン イーグル アウトフィッターズ インコーポレイテ
      ッド
  (住所)アメリカ合衆国 15203 ペンシルバニア州 ピッツバーグ
      ホット・メタル・ストリート 77
  代理人:弁理士 久保 怜子
       同  鈴木 博久
       同  高柴 忠夫

  登録者:
  (氏名)水島 宏
  (住所)栃木県宇都宮市二荒町8番13号2階

 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JP ドメイン名紛争処理方針、
JP ドメイン名紛争処理方針のための手続規則及び日本知的財産仲裁センター
JP ドメイン名紛争処理方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立
書・答弁書・提出された証拠に基づいて審理を遂げた結果、以下のとおり裁定
する。

1 裁定主文
  ドメイン名「アメリカンイーグル.jp」の登録を申立人に移転せよ。
2 ドメイン名
  紛争に係るドメイン名は「アメリカンイーグル.jp」である。
3 手続の経緯
  別記のとおりである。

4 当事者の主張
 a 申立人
  申立人は世界中で「AMERICAN EAGLE」について商標権を所有しており、
日本においては以下にあげる登録商標を有している。

 i)  商標「AMERICAN EAGLE」
   第25類 登録第2489282号(第1号証)
   第18類、第25類 登録第2507697号(第2号証)
   第18類、第21類 登録第4835448号(第3号証)
   第3類、第14類 登録第5036292号(第4号証)
   第35類 登録第5259238号(第5号証)
   第35類 登録第5265265号(第6号証)
   第35類 登録第5265266号(第7号証)

 ii) 商標「AMERICAN EAGLE OUTFITTERS」
   第25類 登録第3294569号(第8号証)
   第3類 登録第5009372号(第9号証)
   第3類、第18類、第25類、第35類 登録第5013286号(第10号証)
   第3類、第18類、第25類、第35類 登録第5013287号(第11号証)
   第35類 登録第5259237号(第12号証)
   第35類 登録第5265263号(第13号証)
   第35類 登録第5265264号(第14号証)
   第18類 登録第5397958号(第15号証)

 iii) 商標「AERIE BY AMERICAN EAGLE」
   第25類 登録第5290777号(第16号証)

 iv) 商標「little 77 by american eagle」
   第3類 登録第5426554号(第17号証)

 上記登録商標の商標権者はリテイル ロイヤルティー カンパニーであるが、
同社は申立人の子会社である(第18号証)。
 申立人のブランド「アメリカン・イーグル・アウトフィッターズ」は、米国
発のアパレルブランドであり、若者を中心に絶大な人気を誇っている(第19号
証)。同社は、1977年に米国で第1号店をオープンして以来、現在は北米のみ
ならずアジアや中東等12ヶ国にも店舗を展開しており、店舗総数は1100店を
超え、2010年度の売上高は950億円を超えている(第19号証、第20号証)。

「アメリカン・イーグル・アウトフィッターズ」は、2012年4月18日に日本
1号店を、翌19日に2号店を開店し、各店舗は連日の大盛況が続いている(第
21号証、第22号証)。このことはテレビ・新聞・雑誌等のメディアでも大々
的に取り上げられ、同ブランドに対する日本人の関心が極めて高いことがうか
がい知れる。

 本件ドメイン名「アメリカンイーグル.jp」が申請された2010年の新聞記事
では、アメリカンイーグルは“日本未進出の「最後の大物」”(第23号証)と
紹介されていることから、ドメイン名申請時において同ブランドが著名である
ことは、日本でも既に認識されていたと言える。
 かかる状況で、ドメイン名登録者は抜け駆け的に「アメリカンイーグル.jp」
ドメイン名を取得し、そのドメイン名を使って本家「アメリカン・イーグル・
アウトフィッターズ」を模したウェブサイトを運営し、不正に利益を上げてい
た。

申立の理由(1)について

 本件にかかるドメイン名「アメリカンイーグル.jp」は、申立人が商標権を有
する商標その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似している。
 当該ドメイン名のうち、「.jp」の部分は、ドメイン名の属性を示すものであ
り、それ以外の部分「アメリカンイーグル」は、申立人が長年アメリカで使用
して来た商標“AMERICAN EAGLE”をカタカナで表記したものであり、申立
人の商標と称呼及び観念が一致し、同一又は同一に限りなく近い類似である。
 したがって、本件にかかるドメイン名は、申立人が商標権を有する商標その
他表示と同一または混同を引き起こすほど類似している。

申立の理由(2)について

 本件にかかるドメイン名の登録者は、当該ドメイン名に関係する権利または
正当な利益を有していない。

① 登録者は、当該ドメイン名に係わる紛争に関し、第三者または紛争処理機関
  から通知を受ける前に、商品またはサービスの提供を正当な目的をもって行
  うために、当該ドメイン名またはこれに対応する名称を使用していた、また
  は明らかにその使用の準備をしていた、とは言えない。

 登録者は、当該ドメイン名にかかるウェブサイトにて、申立人のブランドに
かかる被服、かばん類等を販売している。更に、後に詳述するが、登録者は、
第25号証からも明らかな通り、本件にかかるウェブサイトにて、ドメイン名以
外にも申立人の商標その他表示を無断で使用している。また、登録者が当該ド
メイン名を取得したのは2010年7月の時点だが(第26号証)、この時点で申
立人のブランド「アメリカンイーグル」は米国において著名になっていた。こ
れらの事実から、登録者が申立人になりすまして、申立人が先月まで日本に進
出していなかったことを奇貨として、本件ウェブサイトにて商品を販売して来
たことが明らかである。
 したがって、登録者の当該ドメイン名の使用態様、及びウェブサイトにおい
て申立人の商標を無断で使用している事実から、登録者が正当な目的をもって
ドメイン名またはこれに対応する名称を使用していた、とは言えない。

②  登録者が、商標その他表示の登録等をしているか否かにかかわらず、当該
  ドメイン名の名称が一般に認識されていたとは言えない。すなわち、当該ド
  メイン名にかかる表示「アメリカンイーグル」が、一般名称として認識され
  ていた事実は無い。

 インターネット上の検索エンジンにおいて、“アメリカンイーグル”と入力
して検索すると、上位はほぼ申立人のブランドを示す検索結果であった(第27
号証)。
 したがって、登録当時「アメリカンイーグル」が一般名称として認識されて
いた、との事実は無いものと言える。

③ 登録者は、申立人の商標その他表示を利用して消費者の誤認を惹き起こすこ
  とにより、商業上の利得を得る意図、または、申立人の商標その他表示の価
  値を毀損する意図を有することなく、当該ドメイン名を非商業的目的に使用
  し、または公正に使用しているとは言えない。

 本件は、登録者が、申立人の商標その他の表示を利用して消費者の誤認を惹
き起こすことにより、ウェブサイトへのアクセス数を増やし、通信販売による
商業上の利益を得る意図を有しているものの典型例である。また、登録者の当
該ドメイン名の使用は、商業的目的の使用であり、その使用態様が消費者の誤
認を惹き起こす態様であることから、公正な使用と言えるものでもない。
 これらの事実から、登録者が、申立人の商標その他表示の価値を毀損する意
図を有することなく、ドメイン名を非商業的目的に使用し、または公正に使用
しているとは到底言えない。

申立の理由(3)について

 本件にかかるドメイン名は、不正の目的で登録または使用されている。
 登録者は、申立人の事業を混乱させることや商業上の利得を得る目的で、そ
のウェブサイトまたはそこに登場する商品およびサービスの出所、スポンサー
シップ、取引提携関係、推奨関係などについて誤認混同を生ぜしめることを意
図して、インターネット上のユーザーを、そのウェブサイトに誘引するために、
当該ドメイン名を使用している。
 登録者が、当該ドメイン名を取得した2010年7月時点(第26号証)におい
て、申立人のブランド「アメリカンイーグル」は、後述の通り既に米国におい
て著名になっており、人気を博していた。したがって、登録者が本件にかかる
ドメイン名を登録し、そのウェブサイトにて、申立人のブランドにかかる商品
を販売することは、米国で人気を博している申立人が、まだ日本に進出してい
なかったことを奇貨として、その人気に便乗した行為である。しかも、当該ド
メイン名は、米国の法人である申立人が容易に把握出来るアルファベットから
なるドメイン名ではなく、カタカナのドメイン名であり、申立人の把握し辛い
ドメイン名を利用して利益を得ようという目的が明らかである。
 このように登録者が、申立人のブランドの著名性を利用し、不正の目的を持
ってドメイン名を登録及び使用していることは、以下の事実から明白である。
 今年の4月18日に、申立人のブランド1号店が開店(第21号証)したが、
第28号証乃至第31号証、第32号証から、当該ブランドの日本進出が非常に
注目されていることがうかがえる。更に、翌日には2号店を開店した(第22号
証)。
 以下、申立人のブランドにかかる広告や、ブランドを取り上げたテレビ報道、
記事等の一部を紹介する。
 特に、第23号証からは、我が国に欧米のカジュアルファッションブランドが
近年続々と進出する中、本件にかかるドメイン名が登録された直後である2010
年12月において既に、“日本未進出の「最後の大物」”と新聞で報道されてい
ることから、その数か月前であるドメイン名登録時に当該ブランドが注目され
ていたことが明白である。

 i)  広告宣伝
 ・雑誌”POPEYE” 2012年5月号 161~180頁 (第34号証)

 ii)  テレビ報道
 ・「ワールドビジネスサテライト」 テレビ東京 4月13日23:00~23:58 (第
 35号証)
 ・「ヒルナンデス」 日本テレビ 4月16日 11:55~13:55 (第36号証)
 ・「シューイチ」 日本テレビ 4月22日 8:00~9:55 (第37号証)
 ・「やじうまテレビ!~マルごと生活情報局~」 4月18日 4:55~8:00 (第
 38号証)

 iii)  雑誌
 ・“MEN’S NON-NO”2012年2月号 (第39号証)
 ・“POPEYE”2012年3月号 (第40号証)
 ・“DIME” 2012年1月号 (第41号証)
 ・“ELLE girl” 2011年12月号 (第42号証)
 ・“ELLE girl” 2012年3月号 (第43号証)
 ・“ELLE girl” 2012年4月号 (第44号証)
 ・“ELLE girl” 2012年4月号 (第45号証)
 ・“ウィメンズ・ウェア・デイリー・ジャパン” 2011年7月18日発売号 (第
 46号証)
 ・“inCELEBstyle” 2012年4月号 (第47号証)
 ・“GOSSIPS” 2012年5月号 (第48号証)
 ・“Fine” 2012年4月号 (第49号証)
 ・“TRENDY” 2011年12月号 (第50号証)
 ・“TRENDY” 2012年4月号 (第51号証)

 iv)  新聞記事
 ・2001年5月8日 日経流通新聞 (第52号証)
 ・2008年1月25日 日経流通新聞 (第53号証)
 ・2010年12月24日 日経MJ (第23号証)
 ・2011年12月23日 日本経済新聞 朝刊 (第54号証)
 ・2012年4月17日 日本経済新聞 朝刊 (第55号証)
 ・2012年4月18日 朝日新聞 夕刊 (第56号証)

 以上の事実から、申立人のブランドは、本件ドメイン名登録時に、既に日本
においても広く認識されていた。これらの事実に加えて、以前から本国米国に
おいても、著名なブランドとして認識されていたことは、以下に述べる事実か
ら立証される。
 申立人のアニュアルレポートを見ると、「アメリカンイーグル」は、本件ド
メイン名登録時の2010年7月には、前年売上高約949億7159万8000円で
店舗数が少なくとも1103店となっている(第57号証乃至第63号証)。
 更に、申立人は、本国米国及び日本に加え、世界各国で商標登録を行ってお
り、他人の商標登録に対する異議申立も行っている。その際、各国の異議申立
において申立人の商標の著名性が認められている(第64号証乃至第47号証)。
 申立人のブランドが、著名雑誌等において上位にランクインした例の一部と
して、以下のものが挙げられる。

i)  「2006年Forbesのプラチナ勝者」(第68号証)
1位 アメリカン・イーグル・アウトフィッターズ
(業態:小売 価格:30.48ドル 価格変化:108%)

ii)  ファッション誌THEWWD(2008年4月10日)(第69号証)
過去12ヶ月で10代の女性が買い物をしたと回答した店トップ10
― 2位 アメリカン・イーグル・アウトフィッターズ

iii)  ファッション誌WWD(2008年11月13日)(第70号証)
「十代女性に最も好まれるアパレルブランド」
―2位 アメリカン・イーグル・アウトフィッターズ

 更に、本件ドメイン名にかかる登録者のウェブサイトにおける表示や商標の
使用態様からも、登録者の不正目的が強く推認出来る。登録者は、(2)でも
述べた通り、当該ウェブサイトの最も目立つ位置を含む複数箇所に、申立人の
登録商標である鷲のマークを使用している(第71号証乃至第74号証)。当該
鷲のマークは、申立人のブランド「アメリカンイーグル」を象徴する商標とし
て、申立人の店舗やウェブサイトにおいて使用されて来たため、文字商標とと
もに広く知られている。当該商標は、インターネット上の辞書Wikipediaにお
ける申立人の紹介にも使用されており(第75号証)、日本向けウェブサイト等
においても使用されている(第76号証)。また、登録者のウェブサイト最下部
には、“Copyright c 2011 アメリカンイーグル.jp All Rights Reserved.”と
表示され、通常著作権者名として社名を記載する部分に、ドメイン名と同じ“ア
メリカンイーグル.jp”を記載していることから、社名としてもこの表示を使用
している。これら複数の行為により、当該ウェブサイトにアクセスした者に対
し、全体として申立人が直接運営するウェブサイトであるとの混同を引き起こ
す蓋然性が極めて高くなる。
 以上のことから、登録者が、申立人のブランドの人気に着目し、その人気を
利用して自ら商業上の利益を得る不正の目的で、本件にかかるドメイン名を取
得し、使用していることは明らかである。したがって、登録者は、申立人の事
業を混乱させることを主たる目的として、当該ドメイン名を登録しており、商
業上の利得を得る目的で、そのウェブサイトまたはそれらに登場する商品の出
所などについて誤認混同を生ぜしめることを意図し、インターネット上のユー
ザーを、そのウェブサイトに誘引するために、当該ドメイン名を使用している
と言える。

 従って、申立人は、申立理由(1)、(2)及び(3)の理由により、本件
 にかかるドメイン名が申立人に移転されることを請求する。

b 登録者
  登録者によって答弁書は提出されなかった。

5 争点および事実認定

 規則第15条(a)は、パネルが紛争を裁定する際に使用することになって
いる原則についてパネルに次のように指示する。「パネルは、提出された陳述・
文書および審問の結果に基づき、処理方針、本規則および適用されうる関係法
規の規定・原則、ならびに条理に従って、裁定を下さなければならない。」
 方針第4条aは、申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを
指図している。

 (1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標
その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること
 (2)登録者が、ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有していない
こと
 (3)登録者のドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること

 なお、本件においては、上記のとおり、登録者は答弁書を提出しなかった。
このような場合、手続規則は、「もし登録者が答弁書を提出しないときには、
例外的な事情がない限り、パネルは申立書に基づいて裁定を下すものとする。」
(5条(f))と定めるとともに、「すべての事件において、両当事者が平等に扱わ
れ、各当事者のそれぞれの立場を表明する機会が公平に与えられるよう、パネ
ルは努力しなければならない。」(10条(b))、「いずれかの当事者が本規則の
規定もしくは要件またはパネルの要請を履行しないとしても、パネルは適切と
思われる判断を下さなければならない。」(14条(b))とも規定している。した
がって、パネルは、単に答弁書が提出されなかったことをもって、申立人の主
張事実を登録者が自白したものとみなすことは許されず、証拠に基づいて合理
的に判断すべきものと解される。

 よって、上記(1)~(3)について検討する。

 (1)同一又混同を引き起こすほどの類似性

a 申立人の商標

 申立人は、商標「AMERICAN EAGLE」(以下「申立人商標」という。)に
ついて、次の商標登録を所有している旨主張している。

  第25類 登録第2489282号(第1号証)
  第18類、第25類 登録第2507697号(第2号証)
  第18類、第21類 登録第4835448号(第3号証)
  第3類、第14類 登録第5036292号(第4号証)
  第35類 登録第5259238号(第5号証)
  第35類 登録第5265265号(第6号証)
  第35類 登録第5265266号(第7号証)

 上記各号証から、これらの登録の存在は認められるが、各登録の名義人は申
立人ではなく、すべて「リテイル ロイヤルティー カンパニー」(以下「リ
テイル社」という。)である。
 この点につき、2012年9月5日申立人提出の「JP ドメイン名紛争処理方針
に基づく報告書」(以下「報告書」という。)によれば、リテイル社は申立人
の関連会社であり、申立人の商標の登録・維持管理を行っているとのことであ
る。これに関し、第18号証の申立人の年次報告書には、リテイル社が子会社と
して掲載されていること、申立人はそのウェブサイト(第24号証、報告書4.
(3))において、「AMERICAN EAGLE OUTFITTERS」、その略号「AEO」「AE」
を使用して衣料品、バッグ、アクセサリー、サンダル,水着などを販売してい
ること、申立人の店舗において「AMERICAN EAGLE」を大きく掲げて営業を
行っていること(第30号証)、第67号証の米国異議申立決定書によれば、申
立人とリテイル社は申立人が使用する商標に関して共同異議申立人となってい
ること、報告書に添付されて提出された第77及び78号証によれば、申立人の
商号商標である「AMERICAN EAGLE OUTFITTERS」に係る最新の米国出願
がリテイル社の名義で行われていることが認められる。
 以上の事実を総合すると、申立人は、子会社であるリテイル社をして自らの
商標の登録・管理をさせているものと認められ、少なくとも申立人商標は、「申
立人が正当な利益を有する商標」であるということができる。

b 登録者のドメイン名と申立人商標との類似性

 登録者のドメイン名(以下、「本件ドメイン名」という。)は、「アメリカ
ンイーグル.JP」であり、このうち「.JP」はドメイン名の属性を示す国別コー
ドに過ぎないものであり、本件ドメイン名中識別機能を有する部分(要部)は
「アメリカンイーグル」の部分にあることが明らかである。
 しかして、「アメリカンイーグル」は、申立人商標の音訳と一致し、称呼及
び観念において申立人商標と同一である。
 したがって、本件ドメイン名は、申立人商標すなわち申立人が正当な利益を
有する商標と混同を引き起こすほど類似しているものと認められる。

 (2)権利又は正当な利益
a 申立人の名称は、「アメリカン イーグル アウトフィッターズ インコー
ポレイテッド」であるが、「アウトフィッターズ」は「装身具商」を意味し(ラ
ンダムハウス英和大辞典)、「インコーポレイテッド」は法人組織であること
を示すに過ぎないものであるから、「アメリカンイーグル」がその要部と解さ
れ、現にそのように略称されていることが認められる(第19、27、35、36号
証)。
 また、2012年4月に申立人の1号店が日本に出店された際に大きく報道され、
それ以前から申立人のブランドである「AMERICAN EAGLE OUTFITTERS」
ないし「AMERICAN EAGLE」に大きな関心が持たれていたことは、第28~
51号証、第54~56号証から明らかであり、第23・54号証の新聞記事には申
立人がそれまで日本未進出の「最後の大物」「最後のカジュアル衣料大手」と
認識されていたことが報道されている。このような認識は、既に2001年及び
2008年に申立人に関する記事が日本の新聞に掲載されている(第52・53号証)
ことからも窺える。
 さらに、申立人は1977年に開業され(第19・75号証)、本件ドメイン名
の登録日である2010年7月19日前の2010年1月の時点で、申立人の売上
額は1,000億円近く、店舗数は1,100店を超えていた(第57・62号証)。
 また、第64~66号証の韓国・台湾における2007年、2009年の異議申立決
定によっても、申立人ブランドが、米国のみならず国際的にも広く展開されて
いたことが認定されている。
 以上の事実を総合勘案すると、申立人商標ないし「アメリカンイーグル」ブ
ランドは、本件ドメイン名の登録日以前から、わが国を含め国際的に広く知ら
れていたものと推認できる。

b これに対し、本件ドメイン名に係る登録者のウェブページ(第25号証)に
は、申立人の上記周知商標「アメリカンイーグル」の下で商品が展示・販売さ
れ、申立人が主張するとおり、申立人の鷲のマーク(第71~75号証)と同一
と見られる図形商標が「.jp」の文字を伴って表示されている。
 つまり、登録者は、自己のサイトにおいて、少なくとも外見上、申立人の商
品を申立人商標の下で販売しており、登録者が申立人商標と類似する本件ドメ
イン名について独自の権利又は正当な利益を有しているものとは到底認められ
ない。

c さらに、方針4条cの規定に沿って考察する。

  「(i) 登録者が、当該ドメイン名に係わる紛争に関し、第三者または紛争
処理機関から通知を受ける前に、商品またはサービスの提供を正当な目的をも
って行うために、当該ドメイン名またはこれに対応する名称を使用していたと
き、または明らかにその使用の準備をしていたとき」に該当するか。

 上記のとおり、登録者は、本件の通知を受ける前に本件ドメイン名の要部で
ある「アメリカンイーグル」を使用していた(第25号証)が、その使用態様か
らみて、これを登録者自身の商標としてではなく、明らかに申立人の商標とし
て使用していたものと認められる。したがって、登録者の使用は、登録者独自
の権利ないし利益に結びつくようなものではないから、この(i)にいう「商品また
はサービスの提供を正当な目的をもって行うために、当該ドメイン名またはこ
れに対応する名称を使用していたとき」には該当しないものというべきである。

  「(ii) 登録者が、商標その他表示の登録等をしているか否かにかかわらず、
当該ドメイン名の名称で一般に認識されていたとき」に該当するか。

 申立人は、インターネット上の検索エンジンにおいて「アメリカンイーグル」
と入力すると、上位はほぼ申立人のブランドを示す検索結果であった(第27号
証)と主張している。第27号証によれば、検索結果1頁目の13件のうち、登
録者の本件ドメイン名に係るウェブサイト及び「Facebook」の表示のある不明
なウェブサイトを除く他の11件の検索結果はすべて申立人に関連するものと
認められる。このようなインターネットの検索結果から、「登録者が、当該ド
メイン名の名称で一般に認識されていた」との事実を認めることはできない。

  「(iii) 登録者が、申立人の商標その他表示を利用して消費者の誤認を惹き
起こすことにより商業上の利得を得る意図、または、申立人の商標その他表示
の価値を毀損する意図を有することなく、当該ドメイン名を非商業的目的に使
用し、または公正に使用しているとき」に該当するか。

  後述するとおり、登録者のウェブページ(第25号証)は、あたかも申立人
のウェブページであるかのような外観を呈し、申立人のブランドと混同を生じ
させ、又は、申立人のウェブページと誤認させて同ウェブサイトに誘引しよう
とするものと認められるから、登録者が、本件ドメイン名を非商業的目的に使
用し、または公正に使用しているとは到底いえない。

c 以上のとおり、登録者は、本件ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を
有していないものと認められる。

 (3)不正の目的での登録及び使用

a 前記のとおり、申立人商標「AMERICAN EAGLE」及び申立人商号の略称
である「アメリカンイーグル」は、本件ドメイン名登録日の前から、既に周知
であったと推認できるところ、登録者はそのウェブページ(第25号証)におい
て、申立人商標及びそのカタカナ音訳を申立人に無断で(報告書4. (2))使用し
ている。
 また、前記のとおり、同申立人の鷲のマークについても、「.JP」を付して若
干改変したマークを使用している。
 さらに、同ウェブページにおいては、「アメリカンイーグルの歴史」と題し
て申立人の沿革を記載し、その下には「2012年春:アメリカンイーグル日本上
陸予定」等との記載もなされている。
 これらの表示を総合的に見ると、このウェブページは、あたかも申立人のウ
ェブページであるかのような誤認を生じさせるように設計されているものと解
さざるを得ず、申立人のブランドと混同を生じさせ、又は、申立人のウェブペ
ージと誤認させて同ウェブサイトに誘引しようとするものと認められる。そし
て、本件ドメイン名の登録は、そのような誤認惹起行為の一環として取得され
たものと解するのが合理的である。

b これを、JPドメイン名紛争処理方針に照らせば、上記登録者の行為は、同
方針4条b (iv)所定の「登録者が、商業上の利得を得る目的で、そのウェブサイ
トもしくはその他のオンラインロケーション、またはそれらに登場する商品お
よびサービスの出所、スポンサーシップ、取引提携関係、推奨関係などについ
て誤認混同を生ぜしめることを意図して、インターネット上のユーザーを、そ
のウェブサイトまたはその他のオンラインロケーションに誘引するために、当
該ドメイン名を使用しているとき」に該当し、したがって、パネルは、当該ド
メイン名の登録または使用は、不正の目的であると認めなければならない。

c 以上のとおり、本件ドメイン名は、不正の目的で登録・使用されているもの
と認められる。

6 結論

 以上に照らして、紛争処理パネルは、登録者によって登録されたドメイン名
「アメリカンイーグル.jp」が申立人の商標と混同を引き起こすほど類似し、登
録者が、ドメイン名について権利又は正当な利益を有しておらず、かつ登録者
のドメイン名が不正の目的で登録・使用されているものと裁定する。

 よって、方針第4条iに従って、ドメイン名「アメリカンイーグル.jp」の登
録を申立人に移転するものとし、主文のとおり裁定する。

  2012年9月27日

   日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
              主任パネリスト 大島 厚


              パネリスト   清水 徹男


              パネリスト   島田 康男


別記 手続の経緯
(1)申立書受領日
   2012年5月25日(電子メール)及び6月1日(書面)
(2)手数料受領日
   2012年5月25日 申立手数料の受領確認
(3)ドメイン名及び登録者の確認
   2012年6月4日 JPRSへ照会
   2012年6月4日 JPRSから登録情報の回答
   回答内容:申立書に記載された登録者はドメイン名の登録者であること、
        JPRSに登録されている登録者の電子メールアドレス(以下「登
        録アドレス」)及び住所(以下「登録住所」)等
(4)適式性
   日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、2012
  年6月5日に、代表資格証明書類並びに委任状及び委任状の訳文の再提出
  が必要と判断してその旨を申立人に通知した。同年6月11日に申立人か
  ら申立書補正期間の延長を求める上申書の提出があり、センターはこれを
  認め、同年6月13日に同年7月末日まで補正期間を延長する旨を通知し
  た。センターは、申立人から代表資格証明書類及び補正委任状を7月2日
  に受領し、同年7月3日に申立書が処理方針と規則に照らし申立書が適合
  していることを確認した。
(5)登録者への通知日及び内容
   1) 申立書送付日(手続開始日) 2012年7月5日(電子メール及び郵送)
   2) 申立書及び証拠等一式
   3) 答弁書提出期限 2012年8月3日
(6)手続開始日 2012年7月5日
   センターは、2012年7月5日に申立人及び登録者には電子メール及
  び郵送で、JPRS及びJPNICには電子メールで、手続開始日を通知した。
(7)答弁書の提出の有無及び提出日
   センターは、提出期限日までに答弁書を受領しなかったので、2012
  年8月6日に「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不提出
  通知書を、電子メール及び郵送により申立人及び登録者に送付した。
(8)パネリストの選任 2012年8月16日
   申立人が3名のパネルによって審理・裁定されることを選択したため、
  センターは、申立人及びに登録者にパネリストの候補者を提示し、意向を
  確認したうえで、次の3名のパネリストを選任した。
   パネリスト:清水 徹男(申立人が提示した候補者から指名)
         島田 康男(登録者から候補者を記した答弁書の提出がな
               かったので、センターのパネリスト名簿登載
               者の中から指名)
         大島 厚 (「三番目のパネリスト」として指名)
   中立宣言書の受領日:2012年8月20日、8月22日
(9)紛争処理パネルの指名及び裁定予定日の通知
   2012年8月16日 JPNIC及びJPRSへ電子メールで通知
              申立人及び登録者へ電子メール及び郵送で通知
   裁定予定日:2012年9月5日
(10)パネリストへのパネリスト指名書及び一件書類受け渡し
   2012年8月16日(電子メール及び郵送)
(11) 報告書の提出
   2012年8月23日、パネリストは、手続規則12条の規定により、申
  立人に対し、報告書の提出を求めた(電子メール及び郵送)。
   センターは、申立人から、2012年9月5日に電子メールにより、翌6
  日に郵送により、報告書を受領し、同日、パネリストに電子メール及び郵
  送により送付した。
(12) 裁定期限の延長
   2012年8月21日、パネリストは、手続規則10条(c)ただし書
  の規定により本件裁定期限を同年9月12日まで延長する旨を、電子メー
  ル及び郵送により申立人及び登録者に、また電子メールによりJPNIC及び
  JPRSに、通知した。
   同年8月23日、パネリストは、手続規則10条(c)ただし書の規定
  により本件裁定期限を同年9月27日まで再延長する旨を、電子メール及
  び郵送により申立人及び登録者に、また電子メールによりJPNIC及びJPRS
  に、通知した。
(13)パネルによる審理・裁定
   2012年9月27日 審理終了、裁定。