事件番号:JP2012-0010

               裁定

申立人:
(名称) 特定非営利活動法人日本モーゲージプランナーズ協会
(住所) 千葉県流山市南流山1丁目1番15グローリアパレス壱番館303
代理人: 弁護士 菊地陽介
登録者:
(名称) 特定非営利活動法人日本資産証券化センター
(住所) 東京都文京区本郷4丁目9番25号604
代理人: 弁護士 渡邊智宏

 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針、JPドメ
イン名紛争処理方針のための手続規則及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争
処理方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立書・答弁書・提出された証拠に
基づいて審理を遂げた結果、以下のとおり裁定する。

1 裁定主文
  ドメイン名「j-mpa.jp」登録の申立人への移転請求は成り立たない。
2 ドメイン名
  紛争に係るドメイン名は「j-mpa.jp」である。
3 手続の経緯
  別記のとおりである。

4 当事者の主張
 a 申立人
 申立人は、平成20年8月の設立以来、①米国のモーゲージプランナー(モーゲージブ
ローカー)団体である「National Association of Mortgage Brokers, [NABM]」に倣って、
「日本モーゲージプランナーズ協会」の英語表記Japan Mortgage Planners Association
の略称としてJMPAを用いており、「JMPA」は申立人を表示し、かつ、申立人の事業である
モーゲージプランナーの資格と資格認定講座の出所を表示するが、登録者は同団体の略称
「JASC」を用い、「JMPC」の文字列を含む営業活動を行っていない、②登録者名義で登
録されている「j-mpa.jp」を借りて、「www.j-mpa.jp」のアドレスで広告用のウエッブサイ
トを運営し、「問い合わせメールアドレス」として 「info@j-mpa.jp」を作成して利用して
いところ、登録者は、平成24年5月28日、申立人に対し本件ドメイン名の返還を要求
し、同月31日以降 申立人は本件ドメイン名を利用できなくなった、登録者は6月3日
に、「www.j-mpa.jp」のアドレスで「日本住宅ローン診断士協会」(以下「診断士協会」と
いう)のウエッブサイトを立ち上げた、同ウエッブサイトでは、「Japan Mortgage Planners
Association」の表記の入ったロゴを使用し、「住宅ローンのプラニングや診断、住宅ローン
借入・借り換えまで、一貫したサポートができる体勢づくりと、それを担う『日本住宅ロ
ーン診断士』の養成を行う」などと、申立人の業務と酷似する事業を行う旨記載しており、
申立人の問い合わせメールアドレスとして用いていた「info@j-mpa.jp」を登録者は問い合
わせメールアドレスとして用いている、このため、顧客や申立人の既存会員において、申
立人と診断士協会との誤認混同が生じ、かつ、問い合わせ先を流用しているため申立人宛
のEメールが凡て診断士協会に送信される状況が続いている、この団体がウエッブサイト
を立ち上げる際に、当該ドメイン名を使用したことは、競業者である申立人の事業を混乱
せしめると同時に、ウエッブサイトに登場する商品及びサービスの出所について誤認混同
を生ぜしめることを意図したものであると主張する。これらの主張に基づいて、申立人は、
本件ドメイン名登録を申立人に移転する裁定を求める。

b 登録者
 登録者が本件ドメイン名の登録を登録者名義で行ったのは、平成18年12月8日であ
り(甲1号証)、申立人の設立日:平成20年8月21日(甲2号証)より以前である。申
立人が、登録者から貸与された本件ドメイン名を使い「www.j-mpa.jp」のアドレスでホー
ムページ(以下「HP」という)を開設し、問い合わせ用メールアドレスとして
「info@j-mpa.jp」(以下「本件アドレス」という)を用いていたことは認める。しかし、本
件アドレスは、平成18年7月に設立された「日本モーゲージプランナーズ協会」(平成2
0年3月解散、以下、申立人と区別するため「MP協会」という)のメールアドレスとし
て作成されたものであって(乙38号証)、申立人が作成したものではない。「JMPA」は同
協会の略称として、申立人設立以前から、登録者の許可のもとに使用されていたものであ
り、申立人やその事業のみを表示するものではない。登録者が、診断士協会に本件ドメイ
ン名を貸与し、同協会のHPで本件ドメイン名が使用されていることを認める。同協会の
HPで使用されているロゴの表記及び記載内容は認めるが、同協会の業務が申立人のそれ
と酷似するという申立人の主張は否認する。
 登録人の理事長である井村進哉氏(中央大学経済学部教授)は、平成17年頃から、従
来の「住宅ローンアドバイザー」によるコンサルタントに止まらず、住宅ローンの「斡旋」
までできるビジネスを日本で確立させるべきであると考えるようになり、平成18年7月
に米国MBの日本版としてMP協会を創設した。申立人も、井村氏を創設者としてこの目
的のために設立された組織であり、登録者が本件ドメイン名を申立人に貸与したのもこの
目的のためであった。登録者は、平成19年11月から平成20年1月にかけて、「建物の
売買の代理又は媒介」の職能を有する「SCMP」(シニア・サーテイファイド・モーゲージ
プランナー)と「日本モーゲージプランナーズ協会認定 モーゲージプランナー」の2つの
用語を商標登録し(以下「本件商標」という。乙5号証、乙6号証)、平成20年3月に認
証申請中の申立人に 本件商標権及び関連ロゴの使用権を貸与した(乙27号証、乙28
号証)。MPに関するロゴ(以下「本件ロゴ」という)は、井村氏が、妻の知人である下村
氏に 平成15年頃に作成してもらっていた。本件ロゴは、著作権者の下村氏から登録者
に貸与され、平成18年以降 登録者から更にMP協会に貸与された。
 平成20年8月設立当時の申立人の定款の目的(乙10号証の3条)及び登記簿上の事
業目的(乙20号証)には「斡旋を行うMPを養成・認証」の文言が記載されていたが、
その後申立人内の数名の理事(山中紀明氏と椿谷法子氏)は、MPを斡旋を行わない単な
るコンサルタントと位置づけ、登録者と申立人との間で MPの職能について意見が鋭く
対立するに至った。申立人は、登録者の理事長に無断で 主たる事務所を東京都文京区本
郷から千葉県流山市に移し、定款の目的規定やMP養成講座から「斡旋」の文言を削除し
た(乙9号証、乙8号証)。登録者は、事業目的を異にするに至った申立人に対し 平成2
4年4月26日、MPに係わるロゴ及び本件商標の使用差止め、更に5月28日、これら
の他 サーバー利用とドメイン名の使用差止めを通告した(乙13号証、乙14号証)。
 申立人は、平成24年5月22日付けで 貸与を受けていた本件ドメイン名とは異なる
ドメイン名で新しいHPを立ち上げる旨をMP支援センター宛に通知していた(乙15号
証)が、登録者が診断士協会と提携してMBビジネスを進めること(乙16号証)を知っ
た途端に、態度を急変して、本件ドメイン名の移転を要求するに至った。
 上述の通り、登録者は、本件ドメイン名の権利または正当な利益を有し、MPに関して
「日本モーゲージプランナーズ協会認定 モーゲージプランナー」の商標を有しており、
これらは不正の目的で登録または使用されていない、申立人は、登録者と事業目的を同じ
くする期間に限って これらの権利を登録者から貸与されていたに過ぎないと主張して、
本件申立は速やかに棄却されるべきであると結論する。

5 争点および事実認定
 規則第15条(a)は、パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原則につい
てパネルに次のように指示する。「パネルは、提出された陳述・文書および審問の結果に従
って、裁定をくださなければなない。」
 方針第4条aは、申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図してい
る。
(1)  登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示
        と同一または混同を引き起こすほど類似していること
(2)  登録者が、ドメイン名に関する権利又は正当な利益を有していないこと
(3)  登録者のドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること

  (1)  同一又混同を引き起こすほどの類似性
  申立人は、自前の商標およびドメイン名を有しておらず、登録者の商標およびドメイ
ン名を貸与されている。登録者は、申立人の設立日である平成20年8月21日(甲2号
証)の約2年前の平成18年12月8日に本件ドメイン名を登録している(甲1号証)。登
録者は、平成18年7月に設立されたMP協会に本件ドメイン名を貸与した。MP協会の
パンフレット(乙38号証)やMP養成講座の案内(乙39号証)に 問い合わせ用メー
ルアドレスの「info@j-mpa.jp」やHPアドレス「http://j-mpa.jp」が記載されている。MP
協会は平成20年3月に解散し、それに代わって8月に設立された申立人に本件ドメイン
名は登録者から貸与された。登録者は、平成19年11月から平成20年1月にかけて、「建
物の売買の代理又は媒介」の職能を有する「SCMP」(シニア・サーテイファイド・モーゲ
ージプランナー)と「日本モーゲージプランナーズ協会認定 モーゲージプランナー」の2
つの用語を商標登録し(乙5号証、乙6号証)、平成20年3月に認証申請中の申立人に 本
件商標権及び関連ロゴの使用権を貸与した(乙27号証、乙28号証)。このように登録者
が本件ドメイン名、本件商標権及び関連ロゴの使用権を申立人に貸与した前提は、住宅ロ
ーンの斡旋まで出来るMPの養成・認証という事業目的を申立人が遂行することであった。
設立当時の申立人の定款の目的(乙10号証の3条)及び登記簿上の事業目的(乙20号
証)には「斡旋を行うMPを養成・認証」の文言が記載されていたが、その後申立人内の
数名の理事(山中紀明氏と椿谷法子氏)は、MPを斡旋を行わない単なるコンサルタント
と位置づけ、登録者と申立人との間で MPの職能について意見が鋭く対立するに至った。
申立人は、登録者の理事長に無断で 主たる事務所を東京都から流山市に移し、定款の目
的規定やMP養成講座から「斡旋」の文言を削除した(乙9号証、乙8号証)。登録者は、
事業目的を異にするに至った申立人に対し 平成24年4月26日、MPに係わるロゴ及
び本件商標の使用差止め、更に5月28日、これらの他 サーバー利用とドメイン名の使
用差止めを通告した(乙13号証、乙14号証)。同月31日以降 申立人は本件ドメイン
名を利用できなくなった。登録者は6月3日に、「www.j-mpa.jp」のアドレスで「日本住宅
ローン診断士協会」のウエッブサイトを立ち上げ、同ウエッブサイトでは、「Japan
Mortgage Planners Association」の表記の入ったロゴを使用し、住宅ローンのコンサルテ
イング、斡旋業務を担う「日本住宅ローン診断士」の養成を行う(乙16号証)と、申立
人の業務と類似する事業を行う旨記載しており、申立人の問い合わせメールアドレスとし
て用いていた「info@j-mpa.jp」を登録者は問い合わせメールアドレスとして用いている、
このため、顧客や申立人の既存会員において、申立人と診断士協会との誤認混同が生じ、
かつ、問い合わせ先を流用しているため申立人宛のEメールが凡て診断士協会に送信され
る状況が続いている。
 確かに、登録者が現在 事業提携している診断士協会と申立人との間には、本件ドメイ
ン名を用いた問い合わせメールアドレスである「info@j-mpa.jp」及びJMPAのロゴを共用
していることから誤認混同が生じている。しかし、この誤認混同は、本件ドメイン名、商
標権および関連ロゴの使用権が登録者から申立人に貸与された前提条件である「斡旋を行
うMPを養成・認証」の事業目的の遂行について、申立人が異なる見解を持ち、登録者と
袂を分かった時点で、申立人は、平成24年5月22日付けで 貸与を受けていた本件ド
メイン名とは異なるドメイン名で新しいHPを立ち上げる旨をMP支援センター宛に通知
していた(乙15号証)通りに実行しなかったことに起因する。

  (2)  権利又は正当な利益
 申立人は、登録者のドメイン名、商標権及び関連ロゴの使用権を貸与されていたに過ぎ
ず、貸与の前提条件が充足されなくなった時点で、申立人はこれらについて権利又は正当
な利益を有しない。

  (3)  不正の目的での登録及び使用
 申立人が登録者のドメイン名の貸与条件に違反したので、登録者は日本住宅ローン診断
士協会に登録者のドメイン名を用いた問い合わせメールアドレスの「info@j-mpa.jp」及び
関連ロゴを使用させたので、申立人との間に誤認混同を生ぜしめることを意図したという
不正の目的は認められない。

6 結論
 上記に照らして、パネルは、登録者のドメイン名を用いた問い合わせメールアドレスが
申立人に貸与されていたが、申立人が貸与条件に違反した時点で、本件ドメイン名と異な
るドメイン名で新しいHPを立ち上げることを怠ったため誤認混同が生じた。登録者がド
メイン名に関して権利又は正当な利益を有しており、および登録者のドメイン名が不正な
目的で登録され且つ使用されていなかったと裁定する。従って、申立人によってなされた、
ドメイン名「j-mpa.jp」の申立人への移転請求は成り立たない。

2012年8月31日

日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
            小原喜雄
            単独パネリスト






別記  手続の経緯
(1)申立書受領日
      2012年7月5日(電子メール)及び7月6日(書面)
(2)手数料受領日
      2012年7月6日  申立手数料の受領確認
(3)ドメイン名及び登録者の確認
      2012年7月6日  JPRSへ照会
      2012年7月6日  JPRSから登録情報の回答
      回答内容:申立書に記載された登録者はドメイン名の登録者であること、JPRS
      に登録されている登録者の電子メールアドレス(以下「登録アドレス」)及び住
      所(以下「登録住所」)等
(4)適式性
      日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、2012年7月9
    日に、申立書の再提出が必要と判断してその旨を申立人に通知し、補正申立書を7
    月10日に受領した。同年7月11日に申立書が処理方針と規則に照らし申立書が
    適合していることを確認した。
(5)登録者への通知日及び内容
      1) 申立書送付日(手続開始日) 2012年7月13日(電子メール及び郵送)
      2) 申立書及び証拠等一式
      3) 答弁書提出期限  2012年8月13日
(6)手続開始日  2012年7月13日
      センターは、2012年7月13日に申立人及び登録者には電子メール及び郵送
    で、JPRS及びJPNICには電子メールで、手続開始日を通知した。
(7)答弁書の提出の有無及び提出日
      センターは、2012年8月13日に答弁書を受領し、同年8月16日、答弁書
    が処理方針と規則に照らし、申立書が適合していることを確認した。
(8)パネリストの選任  2012年8月20日
      申立人は1名のパネルによって審理・裁定されることを選択。
      中立宣言書の受領日:2012年8月23日
      パネリスト:小原 喜雄 弁護士
(9)紛争処理パネルの指名及び裁定予定日の通知
      2012年8月20日  JPNIC及びJPRSへ電子メールで通知
                          申立人及び登録者へ電子メール及び郵送で通知
      裁定予定日:2012年9月7日
(10)パネリストへのパネリスト指名書及び一件書類受け渡し
      2012年8月20日(電子メール及び郵送)
(11)パネルによる審理・裁定
      2012年8月31日  審理終了、裁定。