事件番号:JP2022-0005

                  裁 定

  申立人:
  (名称)ヨーロッパ ブランズ エス.アー.エール.エル.
  (住所)ルクセンブルグ国 エル-2086 ルート エッシュ 412エフ
  代理人:弁理士 加藤 勉、同 萼 経夫、同 今井 雅夫
  登録者:
  (氏名)田中 海司
  公開連絡窓口
  (名前/名称)株式会社朝日ネット
  (住所)〒104-0061 東京都中央区銀座4-12-15歌舞伎座タワー21F

 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針、JPドメイン
名紛争処理方針のための手続規則及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理
方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立書・提出された証拠に基づいて審理
を遂げた結果、以下のとおり裁定する。

1 裁定主文
  ドメイン名「WATERMAN.JP」の登録を申立人に移転せよ。

2 ドメイン名
  紛争に係るドメイン名は「WATERMAN.JP」である。

3 手続の経緯
  別記のとおりである。

4 当事者の主張
 a 申立人
(1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と
同一または混同を引き起こすほど類似していること

 申立の対象となっているドメイン名「WATERMAN.JP」のうち主たる識別記号である
「WATERMAN」は、「ウォーターマン」の称呼、「ウォーターマン/船頭」の観念が生ずる。
申立人は、商標登録第1453002号(ロゴ:ウォーターマン)及び同第4001251号
(ロゴ:WATERMAN)を有しており、それぞれ、第16類「文房具類」と第16
類「文房具類(「昆虫採集用具」を除く。)」を指定商品として登録されている。

 また、上記申立人商標は、出願時においては、ウォーターマン ソシエテ アノニム又
はウォーターマン エス アーの法人名称で出願・登録され、現在は、申立人が上記登録
商標を承継し、この登録商標を使用した万年筆、ボールペン等を、日本を含む各国で販売
している。

本件ドメイン名の第3レベル「WATERMAN」と、申立人の上記2登録商標の「WATERMAN」は
同一の欧文字の綴りからなるものであり、これによって生ずる称呼並びに観念も同一であ
る。
従って、本件ドメイン名「WATERMAN.JP」は、申立人の上記登録商標「WATERMAN」と同一又
は類似の標章、または、混同を引き起こすほど類似する標章と言える。

(2)登録者が当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有しないこと
 申立人の登録商標「WATERMAN」は、その日本における登録日である1981年(昭和56年)
1月30日前後から、継続して約40年を超える年月に亘って使用され、宣伝されてきたも
のであるのに対し、本件ドメイン名は、田中海司の個人名義で、2001年5月1日にJPRS
に登録された。本件ドメイン名の登録は、申立人の上記登録商標の登録日から20年も後の
ことであり、申立人の登録商標「WATERMAN」が万年筆のブランドとして日本で周知され、
高い顧客吸引力を持つようになった後のことである。従って登録者は、ドメイン名の登録
についての権利または正当な利益を有しない。

(3)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること
登録者が何らかの業務を立ち上げたとき、その業務に関連する商品を販売するホームペー
ジで本件ドメイン名を使用するならば、本件ドメイン名は、申立人の登録商標と同一また
は類似するものであるから、申立人が使用する登録商標「WATERMAN」の持つ著名性および
高い顧客吸引力を利用して、需要者を自己のホームページへ誘導し、または、申立人の直
販商品または関連する法人の商品であるかのごとく需要者を誤認させ、利を得る意図があ
る。申立人は、登録者に、本件ドメイン名を登録することについて、同意を与えたことは
ない。または、本件ドメイン名が使用されておらず、単に保持されているのみであるなら
ば、申立人または関連会社の名において、本件ドメイン名を日本で登録することを妨げる
ものであり、しかも、申立人が使用する登録商標「WATERMAN」の持つ著名性および高い顧
客吸引力を考慮するならば、本件ドメイン名は、売買等の不正の目的を持った登録と看做
されるべきである。

 従って、申立人は、ドメイン名登録の申立人への移転を請求する。

 b 登録者
 登録者によって答弁書は提出されなかった。

5 争点および事実認定
 規則第15条(a)は、パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原則に
ついてパネルに次のように指示する。「パネルは、提出された陳述・書類及び審問の結果に
基づき、処理方針、本規則及び適用されうる関係法規の規定・原則、ならびに条理に従っ
て、裁定を下さなければならない。」
 方針第4条aは、申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図してい
る。
 (1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示
と同一または混同を引き起こすほど類似していること
 (2)登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと
 (3)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること
本件では、登録者が答弁書を提出しなかった。例外的な事情がない限り、パネルは申立書
に基づいて裁定を下すものとされる(規則第5条(f))一方で、方針第4条aは、申立人
に対して上記(1)~(3)のすべてを立証する義務を課している。そのため、仮に答弁
書が不提出であったとしても、パネルが申立書に基づき事実の認定等を行ったうえで裁定
を下すことになる。

 (1)同一又は混同を引き起こすほどの類似性

 申立人の商標登録第1453002号は、欧文字「WATERMAN」とカタカナ「ウォーターマン」
を2行書きにしたものであり、また同第4001251号は欧文字「WATERMAN」からなるもので
あるから、申立人は、「WATERMAN」について、権利及び正当な利益を有していると認められ
る。また、申立人の商標からは、欧文字「WATERMAN」の外観「ウォーターマン」の称呼が
生ずると共に、「WATERMAN」の英単語の意味である「船頭・船夫」との観念が生ずる。
 他方、本件ドメイン名は、「WATERMAN.JP」と欧文字で構成されているところ、末尾の「JP」
の部分は、日本国に割り当てられたccTLD(国別コードトップドメイン)示すものにすぎ
ないから、識別力を有さず、「WATERMAN」の部分が本件ドメイン名の要部である。この要部
からは、「ウォーターマン」という称呼が生じ、また「船頭・船夫」との観念が生ずる。
 よって、申立人が権利または正当な利益を有していると認められる「WATERMAN」の商標
と、本件ドメイン名の要部は、「ウォーターマン」という称呼、「WATERMAN」の欧文字とい
う外観、「船頭・船夫」との観念において一致する。
 以上より、登録者のドメイン名は、全体として、申立人が権利及び正当な利益を有する
商標と、混同を引き起こすほど類似しているものと認められる。

 (2)権利または正当な利益
登録者は個人であり、その氏名は、本件ドメイン名の要部である「WATERMAN」との文字列
と関係がない。また、申立人自身も、登録者に対して「WATERMAN」との文字列についての
使用許諾を与えていない。

登録者は答弁書を提出せず、その他一件記録を検討しても、登録者が本件ドメイン名を正
当な目的のために使用していた事実を窺わせる事情は認められない。本件ドメイン名の要
部は「WATERMAN」であり、上述の通りその英単語における意味は「船頭・船夫」という比
較的一般的なものではあるものの、登録者がこれを登録者の何らかの商品又はサービスの
提供その正当な目的のために使用する準備をしているとも認められない。

よって、登録者が本件ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有しているとは認めら
れない。

 (3)不正の目的での登録または使用
本件ドメイン名は実際には使用されておらず、URL「http://www.waterman.jp/」に一般的
なインターネットブラウザを用いてアクセスを試みても、何らの内容も表示されない。他
方で本件では、登録者が本件ドメイン名の譲渡の提案などの方法で何らかの対価を得、又
は事業を混乱しようとしたなどといった、不正の目的による登録または使用を認めるべき
積極的な行動は認められない。
 しかし、申立人は、申立人の登録商標「WATERMAN」が継続して約40年を超える年月に亘
って使用され、宣伝された結果、万年筆のブランドとして日本で周知され、高い顧客吸引
力を持つようになったと主張し、またその提出した資料からも、遅くとも本件ドメイン名
の登録日である2001年5月1日までには、「WATERMAN」のブランドの下で販売される万年
筆が一定の周知性を獲得していたことが認められる。
 よって、本件ドメイン名が、上記の通り比較的一般的な意味を有する単語である点を考
慮しても、登録者が、申立人の商標と無関係に、偶然本件ドメイン名を登録した可能性は
極めて低い。
 さらに、JPRSのJPドメイン登録データベースによれば、公開されている事実として、
登録者は、本件ドメイン名の登録日と同一日に、「STYX.JP」というドメイン名も同時に登
録し、現在まで保有し続けているが、この「STYX.JP」というドメイン名もについてアクセ
スを試みても、何らの内容も表示されない。このようなドメイン名を同時に複数登録し、
実際には使用せずに保持し続けているという事実から、登録者が、その後、本件ドメイン
を含むこのようなドメイン名を売却したり、自己のウェブサイトにインターネット上のユ
ーザーを誤ってアクセスさせたりすることにより一定の金銭的利益を得ることを目的とし
ていた可能性が十分に認められる。
そのような目的は、インターネットの情報流通を円滑化させるというドメイン名制度の趣
旨に反し、不正なものである。
 以上より、登録者の当該ドメイン名は、不正の目的で登録されたものであると認めるら
れる。

6 結論
 以上に照らして、紛争処理パネルは、登録者によって登録されたドメイン名「WATERMAN.JP」
が申立人の商標と混同を引き起こすほど類似し、登録者が、ドメイン名に関係する権利ま
たは正当な利益を有しておらず、登録者のドメイン名が不正の目的で登録または使用され
ているものと判断する。
 よって、方針第4条iに従って、ドメイン名「WATERMAN.JP」の登録を申立人に移転する
ものとし、主文のとおり裁定する。


  2022年5月6日

   日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
          単独パネリスト 達野 大輔


別記 手続の経緯
(1)申立書の受領
   日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、2022年2月25日
に申立書(添付する関係書類を含む。)を申立人から電子的送信により受領した。
(2)申立手数料の受領
   センターは、2022年3月1日に申立人より申立手数料を受領した。
(3)ドメイン名及び登録者の確認
   センターは、2022年3月1日にJPRSに登録情報を照会し、2022年3月
1日にJPRSから申立書に記載された登録者が対象ドメイン名の登録者であることを確
認する回答並びにJPRSに登録されている登録者の電子メールアドレス及び住所等を受
領した。
(4)適式性
   センターは、2022年3月2日に申立書が処理方針と手続規則に照らし適合して
いることを確認した。
(5)手続開始
   センターは、2022年3月7日に申立人、JPNIC及びJPRSに対し電子的
送信により、手続開始を通知した。センターは、2022年3月7日に登録者に対し郵送
及び電子メールにより、開始通知を送付した。開始通知により、登録者に対し、手続開始
日(2022年3月7日)、答弁書提出期限(2022年4月5日)並びに書面の受領及び
提出のための手段について通知した。登録者の住所に送付した通知は「あて所に尋ねあた
りありません」として返送された。
(6)答弁書の提出
   センターは、提出期限日までに答弁書を受領しなかったので、2022年4月6日
に「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不提出通知書を、電子的送信によ
り申立人及び登録者に送付した。
(7)パネルの指名及び裁定予定日の通知
   申立人は、1名のパネルによって審理・裁定されることを選択し、センターは、2
022年4月12日に弁護士 達野 大輔を単独パネリストとして指名し、一件書類を電
子的送信によりパネルに送付した。センターは、2022年4月12日に申立人、登録者、
JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、指名したパネリスト及び裁定予定日(2
022年5月6日)を通知した。パネルは、2022年4月21日に公正性・独立性・中
立性に関する言明書をセンターに提出した。
(8)パネルによる審理・裁定
   パネルは、2022年5月6日に審理を終了し、裁定を行った。