事件番号:JP2006-0004

                                       裁  定

申立人:
(名称)        ハイアット  インターナショナル  コーポレーション
(住所)        アメリカ合衆国  イリノイ州  60606  シカゴ
                サウス  ワッカー  ドライブ  71
(代理人)      弁理士  高梨  範夫
                弁理士  木村  三朗
                弁理士  大村  昇

登録者:
(名称)        HYATT
(住所)        〒444-0022  愛知県岡崎市朝日町3-32

  日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針、JPドメイン
名紛争処理方針のための手続規則及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理
方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立書・提出された証拠に基づいて審理
を遂げた結果、以下のとおり裁定する。

1  裁定主文
    ドメイン名「HYATT.JP」の登録を申立人に移転せよ。

2  ドメイン名
    紛争に係るドメイン名は「HYATT.JP」である。

3  手続の経緯
    別記のとおりである。

4  当事者の主張
  a  申立人の主張の要旨
    申立人は、申立人の登録商標「HYATT」が申立人の業務に係る宿泊施設の提供を表示
  するものとして遅くとも「HYATT.JP」(以下「本件ドメイン名」という。)の登録日であ
  る2005年1月22日には、我が国において需要者及び取引者の間で著名となってい
  たとした上で、本件ドメイン名は申立人の商標及び著名表示と混同を引き起こすほどに
  類似し、登録者は本件ドメイン名の登録についての権利又は正当な利益を有しておらず、
  かつ登録者により本件ドメイン名が不正の目的で登録又は使用されていると主張し、本
  件ドメイン名登録の申立人への移転を請求する。

  b  登録者の主張
    登録者によって答弁書は提出されなかった。

5  争点及び事実認定
  a  本件ドメイン名が、申立人が権利又は正当な利益を有する商標及び著名表示と同一
    又は混同を引き起こすほど類似していること(処理方針第4条a.(i))
  (1)本件ドメイン名
      本件ドメイン名「HYATT.JP」のうち、「.JP」の部分はトップレベルドメインと呼ば
    れる部分であって国別コードからなっており、「HYATT」の部分が当該ドメイン名を使
    用する主体を示す部分である。トップレベルドメインは使用主体が属する国を表示す
    るものであるにすぎないから、本件ドメイン名「HYATT.JP」において、主たる識別力
    を有するのは「HYATT」の部分にあるものと認められる。
      したがって、本件ドメイン名「HYATT.JP」の要部は「HYATT」と認められる。
  (2)申立人の商標と著名表示
      申立人と「ハイアット  コーポレーション」が、「グローバル  ハイアット  コー
    ポレーション」により運営され、「ハイアット  コーポレーション」が、アメリカ、
    カナダ及びカリブ諸島に展開されるホテルを統括し、申立人は、それ以外の地域に展
    開されるホテルを統括しており、申立人及びハイアット  コーポレーション(以下「申
    立人等」という。)が、「HYATT」並びに「HYATT REGENCY」「GRAND HYATT」及び「PARK
    HYATT」という名称で、ロゴマークも設けてホテルを展開し、それぞれの名称やロゴ
    マークで商標を登録していることは証拠(甲1ないし4、甲7、甲8の1、甲8の6)
    により認められる。
      申立人が我が国において登録している商標は、別紙記載のとおりである(甲1ない
    し4)。これらの登録商標では、いずれも「HYATT」というファミリーネームに由来す
    る独特なスペルの語が用いられており、「HYATT」の文字のみよりなる場合は、それ自
    体が商標としての識別力を有することは明らかであり、「HYATT」と「REGENCY」、「GRAND」、
    「PARK」等の語が組み合わされている場合も、付加された語は普通名詞としても用い
    られる語であるから、その要部は「HYATT」の部分にあると認められる。「HYATT」の
    文字が伏せた三日月型のマークと組み合わされた形で配置された標章(ハイアット・
    クレセントと呼ばれる。甲8の6)については、これに「PARK」や「RESIDENTIAL
    SUITES」等の文字あるいは樹木の図形が付加されている場合にも、「HYATT」の文字が
    これら付加された文字や図形に比して格段に大きく表されていることから、商標とし
    ての識別力を有する要部は、いずれも「HYATT」であると認められる。
      また、申立人等が展開するホテルは、設備やサービスについて高い評価を受け、日
    本及び各国において広く知られていることが証拠(甲9ないし甲20)により認めら
    れ、これら全てのホテルに統一的に「HYATT」という略称が用いられていることから、
    「HYATT」は申立人等の著名な営業表示に当ると認めることができる。
  (3)本件ドメイン名と申立人の商標及び著名表示との同一性又は類似性
      本件ドメイン名の「HYATT.JP」のうち、トップレベルドメインの「.JP」を除いた
    要部の「HYATT」は、申立人が根拠とする申立人の商標の要部である「HYATT」及び申
    立人等の著名な営業表示である「HYATT」と、共に欧文字のスペルも称呼も全く同一
    である。したがって、本件ドメイン名と申立人の商標及び申立人等の著名な営業表示
    とは実質的に同一であり、また混同を引き起こすほど類似していることが明らかであ
    る。

  b  登録者の本件ドメイン名が、不正の目的で登録又は使用されていること(処理方針
    第4条a.(iii))
  (1)本件ドメイン名の使用
      本件ドメイン名は、特急「しらさぎ」及びリニモの写真を掲載する2ページのみか
    らなる「鉄道画像電車写真」と題するウェブサイトとして使用されており、上段に「オ
    トナの出会い専門サイト」というタイトルのバナー(見出し画像)が置かれて、18
    歳未満入場禁止と記載された「オトナの出会い専門サイトPure」と題するウェブサイ
    ト(http://pc.venus-i.com/)にリンクしており、バナーをクリックすることにより
    当該ウェブサイトに移動するようになっていることが証拠(甲21、22)により認
    められる。
  (2)商業上の利得を得る目的
      上記事実からすると、本件ドメイン名のウェブサイトは、アクセスしたユーザーを
    「オトナの出会い専門サイトPure」と題するウェブサイトに誘引することを一つの目
    的としていると推認される。
      そして、リンク先の「オトナの出会い専門サイトPure」と題するウェブサイトには、
    「クレジット決済代行TELECOM CREDIT」、「お支払いはBit Cash」という表示があり
    (甲22)、18歳以上向けに商業的なサービスを行っていると認められる。このよ
    うな場合、リンク元であるドメイン名のウェブサイトを運営する者は、ドメイン名の
    ウェブサイトにアクセスしたユーザーがバナーをクリックして商業的なサイトに移
    動する回数に応じて報酬を得ることができるようになっているのが通常であるから、
    このことに照らすと、本件ドメイン名の登録者にも、商業上の利得を得る目的(処理
    方針第4条b.(iv))があったと認めるのが相当である。
  (3)誤認混同を生ぜしめる意図でのウェブサイトへの誘引
      申立人等が展開する各ホテルが高い評価を受け、日本及び各国において「HYATT」
    という営業表示によって著名であることは前記のとおりであり、しかも「鉄道画像電
    車写真」や「オトナの出会い専門サイト」の表題や内容と本件ドメイン名の「HYATT」
    の間には何ら関連性を見出せない。これらの事実からすると、ユーザーは、本件ドメ
    イン名をブラウザのアドレスバーに打ち込む際に、「鉄道画像電車写真」や「オトナ
    の出会い専門サイト」にアクセスすることを期待するのではなく、申立人等が展開す
    るホテルに関するウェブサイトにアクセスすることを期待しているのが通常である
    と考えられる。したがって、登録者は、申立人等が展開するホテルに関するウェブサ
    イトにアクセスすることを期待するユーザーを、「鉄道画像電車写真」等の掲載され
    るウェブサイトやそこからリンクする「オトナの出会い専門サイト」に誘引するため
    に、本件ドメイン名を使用していると認められる。
      また、上記の結果、本件ドメイン名のウェブサイトにアクセスしたユーザーは、「鉄
    道画像電車写真」や「オトナの出会い専門サイト」の出所が申立人等である、あるい
    は、申立人と何らかの関係があると誤認し混同するおそれがないとはいえないと認め
    られる。そして、「HYATT」という営業表示が著名であることからすれば、登録者が、
    わざわざ本件ドメイン名を採用したのは、申立人等が展開するホテルの著名性につい
    て認識を有し、これらのホテル営業との誤認混同を生ぜしめる意図を有していたと容
    易に推認することができる。
      それゆえ、登録者は、申立人等が展開するホテル営業との誤認混同を生ぜしめるこ
    とを意図して自己のウェブサイトに誘引するために本件ドメインを使用している(処
    理方針第4条b.(iv))と認めることができる。
  (4)小括
      以上の事実により、本件ドメイン名は、不正の目的で登録又は使用されているとい
    うべきである。

  c  登録者が、本件ドメイン名の登録についての権利又は正当な利益を有していないこ
    と(処理方針第4条a.(ii))
  (1)商業上の利得を得る意図又は申立人の商標及び著名表示の価値を毀損する意図等
      bにおいて述べたように、登録者が、申立人の商標及び申立人等の著名な営業表示
    を利用して需要者等の誤認を惹き起こすことにより商業上の利得を得る意図を有し
    ていることが認められる。
      また、「HYATT」という著名な営業表示には強い顧客誘引力があり、申立人等のホテ
    ル営業に対する社会的信用を化体した表示であると認められるところ、登録者が、本
    件ドメイン名のウェブサイトを、18歳未満入場禁止という記載を掲げるような内容
    のサイトに誘引するためのページとして用いることは、「HYATT」という営業表示に対
    する社会的な信用を毀損する意図があるというべきである。
      結局のところ、登録者が本件ドメイン名を何らの不正の目的を有することなく(処
    理方針第4条c.(i))、非商業的目的に使用し、又は公正に使用している(同条c.
    (iii))と認めることはできない。
  (2)本件ドメイン名の名称での一般の認識
      「HYATT.JP」は、株式会社日本レジストリサービス(JPRS)のJPドメイン名登録
    情報によれば、「HYATT」(住所:愛知県岡崎市朝日町3-32)の名義で登録されて
    いるが、この登録者が「HYATT」という名称で本件ドメイン名の上記ウェブサイトの
    運営以外に何らかの活動を行っていることは証拠上認めることができず、登録者が本
    件ドメイン名の名称で一般に認識されていた(処理方針第4条c.(ii))と認めるこ
    ともできない。
  (3)小括
      したがって、登録者が、本件ドメイン名の登録についての権利又は正当な利益を有
    していると認めることはできない。

6  結論
    以上に照らして、紛争処理パネルは、登録者によって登録されたドメイン名
  「HYATT.JP」が申立人の商標及び著名表示と実質的に同一又は混同を引き起こすほど類
  似し、登録者が、そのドメイン名について権利又は正当な利益を有しておらず、また登
  録者のドメイン名が不正の目的で登録され、かつ使用されているものと判断する。
    よって、処理方針第4条i.に従って、ドメイン名「HYATT.JP」の登録を申立人に移
  転するものとし、主文のとおり、裁定する。

     2006年11月6日

      日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
                            牧 野 利 秋
                            単独パネリスト


別記(手続の経過)
(1) 申立受領日
    電子メール  2006年8月31日    書面  2006年8月31日
(2) 適式性
  日本知的財産仲裁センターは、申立書が社団法人日本ネットワークインフォーメーショ
ンセンター(JPNIC)のJPドメイン名紛争処理方針(方針)、JPドメイン名紛争処
理方針のための手続規則(規則)、JPドメイン名紛争処理方針のための補則(補則)の形
式要件を充足することを確認した。
(3) 手続開始日    2006年9月5日
    申立人はセンターに対して2006年8月31日に規定料金を支払った。
(4) ドメイン名及び登録者の確認日
    センターの照会日(電子メール)                2006年8月31日
    JPRSの確認日及び確認内容(電子メール)
    1)  2006年8月31日
    2)  申立書に記載の登録者はドメイン名の登録者である。
    3)  登録担当者はHYATTである。
(5) 登録者・登録担当者への通知日及び内容
    1)  2006年9月5日
    2)  申立書、申立通知書(郵送、ファクシミリ、及び電子メール)
        なお、電子メールについては、2006年9月26日に送付。
    3)  答弁書提出期限   2006年10月4日
(6) 答弁書の提出の有無及び提出日
    登録者は答弁書を提出しなかった。
(7) 答弁書不提出通知書の登録者への送付日  2006年10月5日
(8) パネリストの選任
    ■  単独(□  申立人の指定  □  相手方の指定  ■  センターの選任)
    パネリストの氏名    牧野利秋
(9) 紛争処理パネルの指名及び予定裁定日の通知日  2006年10月6日
(10)宣言書の受領日  2006年10月16日
(11)予定裁定日  2006年11月6日



別紙  申立人登録商標

         商標                         登録番号          登録日

HYATT                               第4006236号   平成9年5月30日

(HYATT (Logo))                      第3325174号   平成9年6月20日
            
hyattロゴ1
PARK HYATT                          第3125290号   平成8年2月29日

(PARK HYATT (Logo))                 第4165836号   平成10年7月10日
            
hyattロゴ2
HYATT REGENCY                       第3125288号   平成8年2月29日

GRAND HYATT                         第3125289号   平成8年2月29日

(HYATT RESIDENTIAL SUITES (Logo))   第3354288号   平成9年10月24日
            
hyattロゴ3
HYATT HOTELS AND RESORTS            第4165837号   平成10年7月10日

HYATT INTERNATIONAL                 第4165839号   平成10年7月10日

(HYATT (Logo))                      第2675268号   平成6年6月29日
            
hyattロゴ4
PARK HYATT                          第2252364号   平成2年7月30日

PARK HYATT                          第2267275号   平成2年9月21日

PARK HYATT                          第2289304号   平成2年12月26日

PARK HYATT                          第2303605号   平成3年3月29日

(PARK HYATT (Logo))                 第2675269号   平成6年6月29日
            
hyattロゴ5
HYATT REGENCY                       第2547862号   平成5年6月30日

HYATT REGENCY                       第3101198号   平成7年11月30日


以上