事件番号:JP2006-0005

                             裁    定

申立人:
氏名(名称):スターバックス・コーポレーション
住所       :アメリカ合衆国  ワシントン州  98134
             シアトル  ユタアベニューサウス  2401
代理人     :弁護士  高橋  美智留
             同      辻河  哲爾
             同      浅野  絵里

登録者:
  氏名(名称):Restore
  住所        :166-0002  東京都杉並区高円寺北3-43-13

  日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針、
JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則及び日本知的財産仲裁センター
JPドメイン名紛争処理のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立書・提
出された資料に基づいて審理を遂げた結果、以下のとおり裁定する。

1  裁定主文
  ドメイン名「STARBUCKS.JP」の登録を申立人に移転せよ。

2  ドメイン名
  紛争に係るドメイン名は「STARBUCKS.JP」である。

3  手続の経緯
  別記のとおりである。

4  当事者の主張
a  申立人
(1)JPNICのWhoisデータベース(以下「Whois」という。)によれば、ド
   メイン名登録者はRestoreであり、紛争に関わるドメイン名
   「STARBUCKS.JP」(以下「本件ドメイン名」という。)は、2004年11
   月23日に登録された【資料3の1】。本件ドメイン名は、2006年4月13
   日時点においては、Star Bucks(以下「前登録者」という。)が保有して
   いたが【資料3の2】、遅くとも2006年5月16日までに登録者に移転さ
   れた【資料3の3】。

(2)申立人の商標とその著名性
     申立人は、日本で、その商号の略称である欧文字「STARBUCKS」から
   成る商標を、旧29類「茶、コーヒー、ココア、清涼飲料、果実飲料、氷」
   を指定商品として、1989年12月25日に登録を得(登録第2200242号)
   【資料4の1】、さらに上記商標について、42類「茶・コーヒー・ココア・
   清涼飲料又は果実飲料を主とする飲食物の提供、その他の飲食物の提供」
   を指定役務として、1995年12月26日登録を得た(登録第3111381号)
   【資料4の2】。その他にも、多くの商品及び役務の類にわたり、その商号
   の略称である欧文字「STARBUCKS」から成る商標について登録し、同商
   標について合計19件の登録商標を有している【資料4の1ないし19】。
   申立人はさらに、「STARBUCKS COFFEE」、「STARBUCKS BARISTA」、
   STARBUCKS COFFEEの文字を含むロゴマーク、等「STARBUCKS」
   の文字が含まれる37件の商標を登録している【資料5の1ないし5の37】
   (以下、これらを併せて「申立人商標」という。)。
     申立人は、全米最大手のスペシャルティ  コーヒー並びにコーヒー関連
   製品の製造及び販売会社であり、申立人商標を使用し、米国本土にとどま
   らず、他の36カ国において、2006年8月現在、合計11,784店のスペシ
   ャルティ  コーヒー  ストアを直接またはライセンシーを通じて運営し、
   消費者の多大な人気を得ている【資料6】。また、日本においても、スター
   バックス  コーヒー  ジャパン株式会社を通じて、スターバックス  コー
   ヒー  ストアを展開し、若者を中心として急速に顧客を増やしている。
     1996年の日本におけるスターバックス  コーヒー  ストア第一号店開
   店以後、申立人の日本における店舗及び商品展開などに関する新聞記事が
   多数掲載されている【資料10】。例えば、2000年7月29日付の日本経済
   新聞には、申立人のハワード・シュルツ会長が、「日本市場を過小評価して
   いた」として、日本での出店加速を申し入れたというコメントを含む記事
   【資料10、66ページ】、2000年11月23日付の日本経済新聞には、スタ
   ーバックス  コーヒー  ジャパン株式会社が、好調な売り上げの伸びを受
   けて、出店数を上積みすると発表した記事【資料10、57ページ】、2002
   年6月29日付の日本経済新聞には、申立人のハワード・シュルツ会長が、
   日本国内の出店戦略について、「北米を除き最も重要な市場」として、「年
   間120店の出店ペースで1000店まで広げたい」というコメントを含む記
   事【資料10、37ページ】が掲載された。これらの記事から明らかなとお
   り、申立人は、日本での好調な業績を受けて、日本国内において順調に店
   舗を拡大し続けている。
     さらに、日本において、「スターバックス成功物語」ハワード・シュルツ、
   ドリー・ジョーンズ・ヤング著、小幡輝雄、大川修二訳(日経BP社/1998
   年)【資料11の1】、「スターバックス  コーヒー  豆と、人と、心と」ジ
   ョン・シモンズ著、小林愛訳(ソフトバンク  パブリッシング/2004年)
   【資料11の2】、「スターバックス  マニアックス」小石原はるか著(小学
   館文庫/2002年)【資料11の3】、「勝ち組の人材マネジメント-スターバ
   ックス急成長を支える自立型組織に学ぶ」毛利英昭著(商業界/2005年)
   【資料11の4】、「なぜみんなスターバックスに行きたがるのか?」スコッ
   ト・ベドベリ著、土屋京子訳(講談社/2002年)【資料11の5】、「Starbucks
   A to Z-スターバックスのことならなんでもわかる総合ガイド」(ぴあ/
   2002年)【資料11の6】など、スターバックスの企業としての成長の記録、
   商品、企業文化、マネジメント、ブランド管理などを特集した書籍がこれ
   までに何冊も刊行されている。
     以上の通り、申立人商標は、申立人の製品とその営業を表す商標及び表
   示として、遅くとも本件ドメイン名の登録日である2004年11月23日に
   おいて、需要者の間に広く認識され、かつ著名になるに至っていたもので
   ある。

(3)申立人商標と本件ドメイン名の混同類似性
     本件ドメイン名は、申立人の登録商標「STARBUCKS」と極めて類似し、
   混同を引き起こすおそれがあるのは明らかである。
     本件ドメイン名において、「.JP」は、国別コードにより日本を意味す
   る部分にすぎない。従って、本件ドメイン名において、取引者・需要者に
   対する出所識別機能を有する要部は、「STARBUCKS」の部分である。そ
   して、申立人商標のうち「STARBUCKS」の文字のみから成る商標と本件
   ドメイン名の要部とを比較すると、その称呼、外観、観念ともに同一であ
   る。また、申立人商標のうちその他の「STARBUCKS」の文字を含む結合
   商標についても、申立人の商号の略称である「STARBUCKS」の文字部分
   が要部であると考えられ、本件ドメイン名はその要部と同一である。従っ
   て、本件ドメイン名と申立人商標とは客観的にみて極めて類似するものと
   いえる。
     また、前述したとおり、申立人商標は、申立人の製品とその営業を表す
   表示として需要者の間に広く認識されており、世界的にも著名な商標であ
   ることを考えると、「STARBUCKS」というアルファベットの文字列から
   なる本件ドメイン名は、需要者に、申立人と登録者との間に緊密な営業上
   の関係が存するものとの誤認を生じせしめる恐れが極めて高い。従って、
   本件ドメイン名は、申立人商標と極めて類似し、申立人と登録者の商品及
   び役務の出所及び営業主体の混同のおそれがあるといえることも明白であ
   る。

(4)登録者の権利・正当な利益の欠如
     次の理由から、登録者が本件ドメイン名の登録についての権利または正
   当な利益を有していないのは明らかである。
 ①(2)で述べたように、申立人は申立人商標を、日本において10年以上
   にわたって継続して使用しており、この商標は日本国内のみならず世界的
   にも極めて著名な商標となっている。前登録者が本件ドメイン名を登録し
   た2004年11月23日当時、また登録者が本件ドメイン名を譲り受けた2006
   年5月ごろ、前登録者ないし登録者が著名な申立人商標を知らなかったと
   は考えられない。
 ②登録者及び前登録者とも申立人とは資本的にも組織的にも何らの関係の
   ない者である。申立人がこれらの者に対し、申立人商標について使用許諾
   したことはない。
 ③そもそも、登録者及び前登録者とも、その登録名、登録住所ともに虚偽で
   あり、実際に登録住所にかかる名称の個人ないし団体は存在しないのであ
   る。すなわち、申立人は前登録者Star Bucksの登録住所であった「東京
   都杉並区方南2-29-37」【資料3の2】を調査会社に依頼して2006年5
   月4日に現地調査を行ったところ、当該住所地には4つのマンション・ア
   パートと一軒の個人宅が存在し、かつ「Star Bucks」という名称の表示は
   見つからず、前登録者がどこに居住するか特定できなかった【資料12】。
   また電話番号の記載も不自然であり実在しないものである【資料3の2】。
   さらに、申立人は、2006年5月16日時点において、本件ドメインが登録
   者に移転されたことを確認したので、2006年6月2日に登録者に対して
   通知書を郵便で送付し、また同内容を添付して登録者の登録e-mailアドレ
   スに送付した【資料13の1、13の2及び13の3】。郵便で送付した通告
   書は宛先不明で返送され、e-mailは送付されているものの、本日現在何ら
   の回答も受け取っていない。また、電話番号の記載は不自然であり実在し
   ない番号である【資料3の3】。
 ④本件ドメイン名の使用状況
     前登録者は、「sextoy.sex.com」内のShop nowのホームページにリ
   ダイレクト先を設定し、本件ドメイン名から、アダルトグッズの商品販売
   ページが表示されるようにして本件ドメイン名を使用していた【資料14】。
   その後、2006年5月16日時点において、申立人は本件ドメイン名が登録
   者に移転されたことを確認したが、登録者は、「Index of /」の見出しをつ
   けて、「Parent Directory」及び「cbi ? bin /」という名称のフォルダ等を
   表示して本件ドメイン名を使用している【資料15】。登録者のホームペー
   ジ内では、「STARBUCKS」の名称を商品又はサービスの提供に使用して
   いない。

     以上のとおり、登録者及び前登録者のいずれにおいても、自己の営業に
   関わる商品又は役務等の提供を行うために本件ドメイン名又はこれに対応
   する名称を使用していたことはなく、その使用の準備をしていた事実もな
   い。登録者または前登録者が本件ドメイン名の名称で一般に認識されてい
   たという事実はなく、また、本件ドメイン名について正当な非商業的使用、
   公正な使用もない。以上の理由により、登録者は、本件ドメイン名につい
   て権利・正当な利益を有していないことは明らかである。

(5)本件ドメイン名の不正の目的による登録・使用
     次の理由から、登録者が本件ドメイン名を不正の目的で登録し、使用し
   ていたことは明らかである。
 ①(2)で述べたように、申立人は申立人商標を、日本において10年以上
   にわたって継続して使用しており、この商標は日本国内のみならず世界的
   にも極めて著名な商標となっている。登録者ないし前登録者が登録時ない
   し譲受時において著名な申立人商標を知らなかったとは考えられない。
 ②本件ドメイン名の前登録者は、(4)で述べたように、本件ドメイン名か
   ら、「sextoy.sex.com」内のShop nowのホームページにリダイレクト
   先を設定し、本件ドメイン名から、アダルトグッズの商品販売ページが表
   示されるようにして本件ドメイン名を使用しており、申立人の保有する申
   立人商標の顧客誘引力を利用して、商業上の利得を得る目的で本件ドメイ
   ン名を使用していたことは明らかである。
 ③登録者は、(4)で述べたように、本件ドメインを使用して、本件ドメイ
   ン名のような名称で商品又は役務の提供を行っておらず、その使用の準備
   もしていない。本件ドメイン名に関わるサイトは「Index of /」の見出しを
   つけた1ページのみから成るきわめて名目的な内容である。このような場
   合であっても、本件ドメイン名は、「.JP」を除いて申立人の保有する
   「STARBUCKS」という文字商標と同一であり、同商標の著名性に鑑みれ
   ば、登録者が正当な権利・利益無しに本件ドメイン名を譲受け、保持して
   いるのは、申立人の競業者等への転売目的、または、申立人が権利を有す
   る商標をドメイン名として使用できないよう妨害する目的、申立人と登録
   者の商品又は業務に誤認混同を生じさせ、商業上の利得を得る目的のいず
   れかによることは明らかであるといえる。
     以上より、登録者は、本件ドメイン名を不正の目的で登録し、使用して
   いる。

b  登録者
      登録者によって答弁書は提出されなかった。

5  争点及び事実認定
      登録者は、JPドメイン名紛争処理方針(以下「紛争処理方針」という。)
    のための手続規則(以下「手続規則」という。)2条(a)に基づいて適式
    に申立書の送付を受けたにもかかわらず答弁書を提出していない(別記答
    弁書不提出通知書参照)。なお、申立人の主張によれば、通告を登録者の
    e-mailアドレスに送付したが何らの回答も受け取っていないというので
    ある。よって、本件において争点は形成されていない。
      登録者から答弁書が提出されなかった場合、手続規則5条(f)は、パ
    ネルに対し、例外的な事情がない限り、申立書に基づいて裁定を下すこと
    を指示している。そして、手続規則15条(a)は、パネルは、提出され
    た陳述・文書に基づき、紛争処理方針、手続規則および適用されうる関係
    法規の規定・原則、ならびに条理に従って、裁定を下すべきこと、さらに
    手続規則10条(b)は、パネルは、すべての事件において当事者が平等
    に扱われ、各当事者のそれぞれの立場を表明する機会が公平に与えられる
    よう努力すべきことを指示している。
      一方、紛争処理方針4条aは、申立人が次の事項の各々を証明しなけれ
    ばならないことを指図している。
    (i)  登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標そ
         の他の表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること
    (ii) 登録者が、ドメイン名の登録についての権利または正当な利益を有して
         いないこと
    (iii)登録者のドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること
           よって、当パネルは、手続規則の定めに従って、申立人の提出した申立
         書及び資料に基づき次のとおりの事実を認定した。

(1)申立人及び登録者
      申立人は、1971年にアメリカ合衆国ワシントン州の法律に基づき設立さ
    れ、存続しており、アメリカ合衆国  ワシントン州  98134  シアトル  ユ
    タアベニューサウス  2401に登記された営業所を有する法人であって、コ
    ーヒー関連製品の製造及び販売等の業務を営むものである。
      登録者は、東京都杉並区高円寺北3-43-13を登録住所とするRestore
    である(資料3の3)。

(2)本件ドメイン名「STARBUCKS.JP」は、申立人が商標権を有する商
    標と同一又は混同を引き起こすほど類似するか
      本件ドメイン名は「STARBUCKS.JP」であり、本件ドメイン名のう
    ち、「JP」の部分は国別コードを表す部分であり、識別機能を果たす部分
    は「STARBUCKS」の部分である。
      これに対し、申立人が商標権を有する商標は、申立人の商号の略称でも
    ある欧文字「STARBUCKS」からなるものである(資料4の1ないし19)。
      したがって、本件ドメイン名の識別機能を果たす部分と申立人が有する
    商標とは、同一であるから、本件ドメイン名「STARBUCKS.JP」は申
    立人の有する商標「STARBUCKS」と混同を引き起こすほど類似するもの
    であることは明らかである。
      上記のとおり、本件においては紛争処理方針4条a(ⅰ)に該当する事
    実が認められる。

(3)登録者は本件ドメイン名の登録について権利又は正当な利益を有するか
  ①本件においては、登録者及び前登録者はともに申立人とは資本的にも組織
    的にも何ら関係のないものであること、申立人は調査会社に依頼して2006
    年5月16日に前登録者Star  Bucksの登録住所である「東京都杉並区方
    南町2-29-37」を現地調査したところ、当該地には四つのマンション・
    アパートと一軒の個人住宅が存在するものの、「Star Bucks」という名称
    の表示は発見できなかったこと(資料12)、また電話番号も実在しないも
    のであること(資料3の2)、申立人は2006年6月2日に登録者に対し本
    件ドメイン名の使用の即時中止及び本件ドメイン名を原告に対し無償で譲
    渡することを求める旨の通告書を郵送したけれども宛て先不明で返送され
    たこと(資料13の1、13の2)、また同一内容の通告書を添付して登録者
    の登録e-mailアドレスに発信している(資料13の3)ものの何らの回答
    を受けとっていないこと、並びに当該電話番号も実在しないことが認めら
    れる(資料3の3)。かかる実体が不明であり、かつ、不誠実な行動のもの
    については本件ドメイン名についての権利も正当な利益も観念することが
    できないというべきである。
  ②前登録者は「sextoy.sex.com」内のホームページにリダイレクト先を設
    定し、本件ドメイン名からアダルトグッズの商品販売ページが表示される
    ようにして本件ドメイン名を使用していた(資料14)にすぎず、また現在
    の登録者は「Index of /」の見出しをつけて、「Parent Directory」及び「cbi
    ? bin /」という名称のフォルダ等を表示して本件ドメイン名を使用してい
    る(資料15)ところ、登録者のホームページ内では「STARBUCKS」の
    標章を商品又はサービスについて使用していないことが認められる。
  ③登録者及び前登録者のいずれも、自己の業務に係る商品又はサービスの提
    供を行うために本件ドメイン名又はこれに対応する標章を使用し、又は使
    用の準備をしていた事実も認められない。また、登録者が本件ドメイン名
    の名称で一般に認識されていた事実も、本件ドメイン名を非商業的目的に
    使用し、または公正に使用している事実も認められない。
  ④よって、登録者は本件ドメイン名の登録についての権利または正当な利益
    を有していないというべきである。
      上記のとおり、本件においては、紛争処理方針4条a(ⅱ)に該当する
    事実が認められる。

(4)登録者の本件ドメイン名は、不正の目的で登録又は使用されているか
  ①本件ドメイン名は2004年11月23日に登録され、2006年5月16日まで
    に登録者に移転された事実(資料3の1、3の2、3の3)が認められる。
  ②一方、申立人は、1971年に設立され、アメリカ合衆国ワシントン州シアト
    ルに本拠を置く最大手のコーヒーチェーン店で、2006年8月現在、米国
    内では直営コーヒーハウスが5,393店、ライセンス店2,952店、のほか、
    世界36カ国で直営コーヒーハウス1,357店、合弁及びライセンス店2,082
    店に上っていることが認められる。1996年8月の東京・銀座に「銀座松
    屋通り店」のオープンにより日本進出を果たし、本件ドメイン名登録前で
    ある2004年11月21日には538店を数え(資料7及び資料8)、日本での
    売上高も、2002年3月期475億5700万円、2003年3月期545億9900
    万円、2004年3月期592億4100万円、2005年3月期615億9100万円
    に達していることが認められる(資料9)。
  ③申立人の日本における店舗及び商品展開などに関する記事が新聞紙上に
    多数掲載されている事実(資料10)並びにスターバックスの企業としての
    成長の記録、成功物語、商品、企業文化、マネージメント、ブランド管理
    等を扱った書籍が何冊も刊行されている事実が認められる(資料11の1
    ないし6)。
  ④上記事実等によれば、「STARBUCKS」から成る標章は、我が国において
    も本件ドメイン名の登録日である2004年11月23日においては申立人の
    製品及びサービスを表示する商標及び営業の表示として、需要者の間に広
    く認識されるに至っており、また現在も引き続き周知の商標等であるもの
    と認められる。
  ⑤上記(4)②で述べたような事情のもとでは、前登録者にあっては登録時、
    現登録者にあっては譲受時において周知である申立人の商標ないし営業
    の存在を知らなかったとみるのは不合理であるといわざるを得ない。よっ
    て、登録者は、申立人の周知表示の有する社会的価値、名声等がもたらす
    顧客吸引力等の経済的価値に着目し、それを利用し、商業上の利益を図る
    べく本件ドメイン名を販売、貸与または移転する目的で登録または取得し
    ているものと評価すべきである。
  ⑥申立人の有する商標等の周知性に加え、登録者がその登録についての権利
    または正当な利益なしに本件ドメイン名を譲受け、保有し続けていること
    自体、登録者が、商業上の利得を得る目的で、申立人の有する商標をドメ
    イン名として使用できないように妨害するため、または申立人の業務に係
    る商品若しくはサービスの出所などについて誤認混同を生ぜしめること
    を意図しているものと評価すべきである。
  ⑦上記(3)②で述べたように、本件ドメイン名からアダルトグッズの商品
    販売ページが表示されるようにしているという使用態様は、当該商品の購
    入を誘引し商業上の利益を得ることを意図しているものといわなければ
    ならない。よって、本件ドメイン名の使用態様は、社会的に相当として容
    認できる程度を超えるものであって、到底許されないものと評価すべきで
    ある。
      以上述べたところからすれば、本件ドメイン名が不正の目的で使用され
    ているものというべきものである。
    本件においては、紛争処理方針4条a(ⅲ)に該当する事実が認められ
    る。

6  結論
      以上に照らし、当パネルは、登録者によって登録された本件ドメイン名
    「STARBUCKS.JP」が申立人の商標と混同を引き起こすほどに類似し、
    登録者は本件ドメイン名について権利又は正当な利益を有しておらず、本
    件ドメイン名が不正の目的で前登録者によって登録され、さらに登録者に
    移転登録され、かつ、不正の目的で使用されているものと認定する。
      よって、処理方針4条iに従って、本件ドメイン名「STARBUCKS.JP」
    の登録を申立人に移転するものとし、主文のとおり裁定する。

    2006年11月6日

日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
                        後  藤    晴  男
                        単独パネリスト



別記 (手続の経過)
(1)申立受領日
      2006年9月1日    (電子メール)
      2006年9月1日    (窓口持参)
(2)料金受領日
      2006年8月24日
      申立人から189.000円の申立手数料が振り込まれた。
(3)ドメイン名及び登録者の確認日
      2006年9月4日    センターからの照会日(電子メール)
      2006年9月4日    JPRSからの確認日(電子メール)
      確認内容
      STARBUCKS.JP
      1)申立書記載の登録者は本件ドメイン名の登録者である。
      2)登録連絡窓口のaddressは、henrik@restore.dkである。
(4)適式性
      日本知的財産仲裁センターは、2006年9月5日、申立書が社団法人
      日本ネットワークインフォーメーションセンター(JPNIC)のJP
      ドメイン名紛争処理方針(方針)、JPドメイン名紛争処理方針のための
      手続規則(規則)、JPドメイン名紛争処理方針のための補則(補則)の
      形式要件を充足することを確認した。
(5)手続開始日
      2006年9月7日(答弁書提出期限:2006年10月6日)
      同日、JPNIC及びJPRS(電子メール)へ手続開始日の通知。
      2006年9月8日申立人代理人(電子メール及び郵便)へ手続開始日
      の通知(9月11日受領)。
      9月13日申立人代理人相違のため、手続開始日の通知再発送(9月1
      4日受領)。
      答弁書提出期限:2006年10月6日
(6)答弁書の提出の有無及び提出日
      登録者からは答弁書の提出無し
(7)答弁書不提出通知書の登録者への送付日
      2006年10月10日(10月11日申立人代理人受領)
(8)パネリストの選任
      パネリストの氏名  後藤晴男
      中立宣言書の受領日  2006年10月27日
(9)紛争処理パネルの指名及び予定裁定日の通知(JPNIC・JPRS及び
      両当事者へ)
      2006年10月16日(郵便、FAX、電子メール)(10月17日申
      立人代理人受領)
      裁定予定日  2006年11月6日
(10)パネルによる審理