事件番号:JP2007-0005

裁 定

  申立人:
  (名称)社団法人 大日本弓馬会
  (住所)〒248-0014
     神奈川県鎌倉市由比ガ浜一丁目九番四号
  代理人:弁護士 上村眞司
  登録者:
  (名称)金子家暢
  (住所)〒248-0014
     神奈川県鎌倉市由比ガ浜1-9-4

 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針、JPドメイン
名紛争処理方針のための手続規則及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理
方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立書・提出された証拠に基づいて(な
お、答弁書は提出されていない。)審理を遂げた結果、以下のとおり裁定する。

1 裁定主文
  ドメイン名「yabusame.jp」の登録を申立人に移転せよ
2 ドメイン名
  紛争に係るドメイン名は「yabusame.jp」である。
3 手続の経緯
  別記のとおりである。

4 当事者の主張
 a 申立人
    申立人は、鎌倉時代由来の弓馬軍礼故実司家に伝承された日本弓馬道を普及発展
   させ、古式馬術の実践指導により国民の心身の向上に努めるとともに、国際親善に
   寄与することを目的として昭和14年に認可されて成立した文部科学省管轄の公益
   社団法人である。
    弓馬軍礼故実司家は、現在、総領金子四郎家教氏が継承し、武田流の流鏑馬、笠
   懸を伝えており、その武道名称を「武田流弓馬道」としている。
    主な事業として、鶴岡八幡宮(神奈川県鎌倉市)、三嶋大社(静岡県三島市)、寒
   川神社(神奈川県高座郡寒川町)、上賀茂神社(京都府京都市)、明治神宮(東京都
   渋谷区)などの各神社で毎年、武田流の流鏑馬奉納を行い、オマーン、バハレーン、
   モンゴル、ブラジル、フランス、ドイツなどの諸外国で流鏑馬公演を行っている。
    申立人は、馬上から弓を射る行為を表す言葉として広く一般に認知されている普
   通名詞である「流鏑馬」をローマ字で表現した「yabusame」を第3レベルドメイン
   とする「yabusame.or.jp」なるドメイン名を登録して使用している(以下、「申立人
   ドメイン名」という。)。
    紛争に係るドメイン名「yabusame.jp」(以下、「本件ドメイン名」という。)の
   「yabusame」は申立人ドメイン名「yabusame.or.jp」における第3レベルドメイン
   「yabusame」と同様に「流鏑馬」をローマ字で表現したものである。
    「本件ドメイン名」は、平成14年2月12日、申立人が平成13年文部科学省
   通達に基づき申立人の業務及び財務等の公開のため並びに申立人の広報活動のため
   に登録したものであり、「本件ドメイン名」の登録者である金子家暢は申立人のため
   に事実上登録手続を行ったに過ぎず、「本件ドメイン名」の登録に要する費用及び維
   持費は申立人が負担している。
    申立人は本件ドメイン名「yabusame.jp」の登録名義を申立人に移転するように求
   めたが、登録者はこれを拒否し、本件ドメイン名「yabusame.jp」で申立人及び「武
   田流弓馬道」に関するホームページを開設・掲載している(以下、登録者ホームペ
   ージという。)。登録者ホームページは申立人が費用を負担して作成したものである。
    申立人は、本件ドメイン名「yabusame.jp」の登録名義の移転を登録者に拒否され
   たので、申立人ドメイン名「yabusame.or.jp」の登録を受け、これを申立人に係る
   ドメイン名として文部科学省に報告している。文部科学省への報告に伴い申立人は
   申立人ドメイン名「yabusame.or.jp」で申立人及び「武田流弓馬道」に関するホー
   ムページを開設・掲載している。
    登録者の「本件ドメイン名」は申立人ドメイン名「yabusame.or.jp」と混同を引
   き起こすほど類似しており、登録者は「本件ドメイン名」に関係する権利または正
   当な利益を有していない、「本件ドメイン名」は不正の目的で登録または使用されて
   いる。
    従って、申立人は、「本件ドメイン名」の登録を申立人へ移転することを請求する。
 b 登録者
    登録者によって答弁書は提出されなかった。

5 争点および事実認定
  規則第15条(a)は、パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原則
 についてパネルに次のように指示する。「パネルは、提出された陳述・文書および審問
 の結果に基づき、処理方針、本規則および適用されうる関係法規の規定・原則、ならび
 に条理に従って、裁定を下さなければならない。」
  方針第4条aは、申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図して
 いる。
 (i)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示
   と同一または混同を引き起こすほど類似していること
 (ii)登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと
 (iii)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること

 本パネルは、提出された陳述及び証拠の結果に基づき、次のとおりの事実を認定した。
(1)  方針第4条a(i)について
   本件ドメイン名「yabusame.jp」と申立人ドメイン名「yabusame.or.jp」における
  「yabusame」はいずれも馬上から弓を射る行為を表す言葉として広く一般に認知さ
  れている普通名詞である「流鏑馬」をローマ字で表現したものであり(資料7)、外
  観、称呼、観念はいずれも同一であるのに対して、本件ドメイン名「yabusame.jp」
  と申立人ドメイン名「yabusame.or.jp」とは本件ドメイン名「yabusame.jp」には「.or」
  がない点で異なるが、閲覧者(利用者)が第2レベルの「.or」に着目して
  「yabusame.jp」と「yabusame.or.jp」を識別すると解することは相当ではないから、
  提出された陳述及び証拠によれば、本件ドメイン名「yabusame.jp」と申立人ドメイ
  ン名「yabusame.or.jp」は混同を引き起こすほど類似しているというべきである。
(2)方針第4条a(ii)について
   提出された陳述及び証拠によれば、「本件ドメイン名」は、平成14年2月12日、
  申立人が平成13年文部科学省通達に基づき申立人の業務及び財務等の公開のため
  並びに申立人の広報活動のために登録したものであり、「本件ドメイン名」の登録者
  である金子家暢は申立人のために事実上登録手続を行ったに過ぎず、登録費と維持
  費は申立人が負担している(資料2,資料3)。また、申立人は「本件ドメイン名」
  で申立人及び「武田流弓馬道」に関するホームページ(登録者ホームページ)を開
  設・掲載したが、当該ホームページ(登録者ホームページ)の作成・管理の費用は
  申立人が負担している(資料4)。
   登録者は本件ドメイン名「yabusame.jp」で申立人及び「武田流弓馬道」に関する
  ホームページを開設・掲載しているが、登録者は申立人ではないから、平成13年
  文部科学省通達に基づき申立人の業務及び財務等の公開のため並びに申立人の広報
  活動を行うべき立場にはないし、申立人による「本件ドメイン名」の登録手続を事
  実上行ったに過ぎず、申立人を代理して申立人の業務及び財務等の公開のため並び
  に申立人の広報活動を行う権限を有する者ではないから、平成13年文部科学省通
  達に基づき申立人の業務及び財務等の公開のため並びに申立人の広報活動のために
  登録された「本件ドメイン名」について、これに関係する権利または正当な利益を
  有するものではないと認められる。
(3)方針第4条a(iii)について
   提出された陳述及び証拠によれば、次のことが認められる。
  ①  登録者ホームページは、申立人が平成13年文部科学省通達に基づき申立人
    の業務及び財務等の公開のため並びに申立人の広報活動のために「本件ドメイ
    ン名」を登録し、「本件ドメイン名」で申立人及び「武田流弓馬道」に関するホー
    ムページ(登録者ホームページ)を開設・掲載しており、「本件ドメイン名」
    を登録・維持の費用、及び、当該ホームページ(登録者ホームページ)の作成・
    管理の費用は申立人が負担している(資料2,資料3、資料4)。
  ②  登録者ホームページは申立人が申立人及び「武田流弓馬道」に関するホーム
    ページとして作成掲載したものであり、申立人の名義「社団法人大日本弓馬会」
    と武道団体名「武田流弓馬道」が使用されており、社団法人大日本弓馬会への
    入会案内や武田流弓馬道への入門案内が存在し、連絡先として申立人(「社団法
    人大日本弓馬会」)が記載されているが、メールアドレス(info@yabusame.jp)、
    電話番号(0467-22-2092)、及びFAX番号(0467-22-2098)は何れも申立人に連
    絡することが出来ないものであり(【資料8】)、社団法人大日本弓馬会への入会
    希望者や武田流弓馬道への入門希望者が当該メールアドレス
    (info@yabusame.jp)、電話番号(0467-22-2092)、及びFAX番号(0467-22-2098)
    にしたがって連絡を取ろうとすると、登録者である金子家暢に案内されること
    となる。登録者ホームページを見た閲覧者が、登録者ホームページを申立人の
    公式ホームページであると誤認するおそれは極めて高く、閲覧者が登録者ホー
    ムページの記載にしたがって申立人への連絡を試みることが予想されるところ、
    登録者ホームページに記載の申立人の連絡先(上記の記載メールアドレス
    (info@yabusame.jp)、電話番号(0467-22-2092)、及びFAX番号(0467-22-2098))
    に連絡しても申立人には連絡できないこととなる。これらは申立人にとって深
    刻な業務妨害であることは容易に推測される。
  ③  登録者は上記①及び②の事情を認識していると推認されるところ、申立人の
    申し入れにもかかわらず、「本件ドメイン名」及び登録者ホームページを申立人
    に移転することを拒否し、また、登録者ホームページの内容を是正することを
    拒み、登録者ホームページに記載の申立人の連絡先(上記の記載メールアドレ
    ス(info@yabusame.jp)、電話番号(0467-22-2092)、及びFAX番号(0467-22-2098))
    に連絡しても申立人には連絡できないという状況を敢えて継続し、これらが申
    立人の業務を妨害するものであることを認識し、これを容認していると解する
    のが相当である。
   以上に因れば、登録者は申立人の業務を混乱させることを主たる目的として「本
  件ドメイン名」を登録、使用しているといわざるを得ず、登録者の「本件ドメイン
  名」は不正の目的で登録または使用されているものと認められる。

6 結論
  以上に照らして、紛争処理パネルは、登録者によって登録された「本件ドメイン
 名」(「yabusame.jp」)が申立人のドメイン名と混同を引き起こすほど類似し、登録
 者が「本件ドメイン名」に関係する権利または正当な利益を有していない、及び、
 登録者の「本件ドメイン名」が不正の目的で登録、使用されていると裁定する。
  よって、方針第4条iに従って、ドメイン名「yabusame.jp」の登録を申立人に移
 転するものとし、主文のとおり裁定する。

   2007年11月26日

   日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
                            島田康男
              単独パネリスト


別記(手続の経過)
(1) 申立受領日
  電子メール 2007年9月25日  書面 2007年9月26日
(2) 適式性
  日本知的財産仲裁センターは、申立書が社団法人日本ネットワークインフォーメーショ
 ンセンター(JPNIC)のJPドメイン名紛争処理方針(方針)、JPドメイン名
 紛争処理方針のための手続規則(規則)、JPドメイン名紛争処理方針のための補則(補
 則)の形式要件を充足することを確認した。
(3) 手続開始日   2007年9月28日
  申立人はセンターに対して9月26日に規定料金を支払った。
(4) ドメイン名及び登録者の確認日
  センターの照会日(電子メール)  2007年9月25日
  JPRSの確認日及び確認内容(電子メール)
   1) 2007年9月26日
   2) 申立書に記載の登録者はドメイン名の登録者である。
   3) 登録担当者は金子家暢である。
(5) 登録者・登録担当者への通知日及び内容
   1)  2007年9月28日
   2) 申立書、申立通知書(郵送、ファクシミリ、及び電子メール)
   3) 答弁書提出期限   2007年10月29日
(6) 答弁書の提出の有無及び提出日
  登録者は答弁書を提出しなかった。なお、10月5日、登録者の母親を名乗る者から、
 本人が海外に長期在住しているため、本人が受け取れない旨の電話があった。また、1
 0月9日に、金子家敏なる者から、海外留学中につき本人が不在であるとして、申立書
 類一式が返送された。
(7) 答弁書不提出通知書の登録者への送付日 2007年10月30日(郵送、ファクシ
  ミリ、及び電子メール)
  11月9日、郵送による登録者宛の答弁書不提出通知書が返送された。
(8) パネリストの選任
  単独(センターの選任)
  パネリストの氏名 島田康男
(9) 紛争処理パネルの指名及び予定裁定日の通知日 2007年11月5日(郵送、ファ
  クシミリ、及び電子メール)
   但し、登録者へのファクシミリはエラーにより不到達。11月14日、郵送による登
  録者宛のパネリスト指名通知書が返送された。
(10)宣言書の受領日  2007年11月6日
(11)予定裁定日 2007年11月26日