事件番号:JP2007-0006
                   裁 定
申立人:
 名 称:モンブラン-ジンプロ ゲー・エム・ベー・ハー
 住 所:ドイツ連邦共和国 ディー・22525 ハンブルグ、ヘルグルントベック1
     00
代理人
  弁護士 加藤 義明
  弁護士 町田 健一
  弁護士 木村 育代
  弁理士 アインゼル・フェリックス=ラインハルト
  弁理士 山崎 和香子

登録者:
 氏 名:Stefano Vescovi
 住 所:〒101-0064 東京都千代田区猿楽町1-4-8 松村ビル2階

 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針、JPドメイン
名紛争処理方針のための手続規則及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理
方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立書・提出された証拠に基づいて審理
を遂げた結果、以下のとおり裁定する。

1 裁定主文
  登録者はドメイン名「MONTBLANC.JP」の登録を申立人に移転せよ
2 ドメイン名
  紛争に係るドメイン名は「MONTBLANC.JP」である。
3 手続の経緯
  別記のとおりである。

4 当事者の主張
 a 申立人
  申立人は、次のとおり主張して、登録者に対し本件ドメイン名「MONTBLANC.JP」の登
録を申立人に移転するよう求めた。
 すなわち、申立人はかねてから我が国において登録商標「MONTBLANC」のほか、この文字
列と「モンブラン」等を結合させた登録商標を合計12件保有し、その指定商品、指定役
務は世界的に著名な「万年筆」を初めとして文具その他多岐にわたっているところ(以下、
「本件登録商標」と総称する。)、本件登録商標は遅くとも本件ドメイン名の登録日であ
る2005年3月29日までには我が国においても需要者及び取引者の間で周知著名にな
っていたため、本件ドメイン名は申立人の本件登録商標と混同をひきおこすほどに類似し
ているにもかかわらず、登録者は本件ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有して
おらず、かつ登録者は本件ドメイン名を不正の目的で登録している。

 b 登録者
  登録者は規則5条(a)所定の期間内に答弁書を提出しなかった。

5 争点および事実認定
 規則第15条(a)は、パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原則に
ついてパネルに次のように指示する。「パネルは、提出された陳述・文書および審問の結
果に基づき、処理方針、本規則および適用されうる関係法規の規定・原則、ならびに条理
に従って、裁定を下さなければならない。」
 方針第4条aは、申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図してい
る。
 (i)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示
    と同一または混同を引き起こすほど類似していること
 (ii)登録者が、当該ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有していないこと
 (iii)登録者のドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること

 なお、登録者は本年11月22日e-メールで本件ドメイン名にかかる権利を放棄する
旨の意思表示をしたが、処理方針第7条(現状維持規定)によれば、株式会社日本レジス
トリサービス(JPRS)は、上記方針第3条の規定および登録規則に定めのある場合を
除き、係争ドメイン名の現状を変更する手続きを行わないこととしているから、当パネル
は現状に基づき裁定を行う。

 (1)登録者の本件ドメイン名が、申立人が権利又は正当な利益を有する本件登録商標
    等と同一または混同を引き起こすほど類似しているか否かについて
 本件ドメイン名のトップレベルドメイン「.JP」は国別コードを表す部分に過ぎないから、
本件ドメイン名が商品や役務の出所表示として機能を果たす要部は第二レベルドメインで
ある「MONTBLANC」であることは明白である。
 他方、甲第1、第2号証の各1ないし12によれば、申立人が保有することが明らかな
本件登録商標はすべて登録者の上記本件ドメイン名の要部「MONTBLANC」と同一または類似
しており、それゆえ、双方全体として類似していることが明らかである。
 また、証拠によれば、本件については、以上のほか次のような事情も認められる。すな
わち、申立人は、かねてからインターネットサイトを開設し(甲第3号証)、標章「MONTBLANC」
を含む本件登録商標等を万年筆、カバン類、腕時計、アクセサリーなどの商品や役務(以
下、両者を「商品等」と略称する。)について長期間に亘って継続して使用していること、
その結果標章「MONTBLANC」を含む本件登録商標等が使用された商品等が、一流品・一流役
務として評価されていたことが認められる(甲第4号証の1ないし8)。
 そして、これらの事実、特に甲第4号証に示される各種出版物における申立人商品の紹
介記事によれば、標章「MONBLANC」は申立人の商号の略称及び申立人の商品等を指標する
ものとして、本件ドメイン名の登録日である2005年3月29日において、すでに我が
国の取引者・需要者の間に広く知られていたものと認めることができ、これらのことから
すると、申立人は、万年筆、カバン類、腕時計、アクセサリーなどの商品等との関係にお
いて、自社保有の標章「MONBLANC」を含む本件登録商標等の顧客吸引力につき正当な利益
を有していた、ということができる。
 従って、登録者の本件ドメイン名は、需要者及び取引者に、登録者が申立人と何らかの
資本関係や取引関係があるなど経済的な又は組織的な関連があるものと誤認し、それゆえ
に、申立人の権利又は正当な利益を有する本件登録商標等と同一または混同を引き起こす
ほど類似していると認めるに十分である。

 (2)登録者が本件ドメイン名に関し権利又は正当な利益を有していないか否かについ
    て
 甲第6号証によれば、登録者が我が国において標章「MONTBLANC」若しくはその片仮名表
記である「モンブラン」又はこれらを含む標章を登録商標として保有し、あるいは商標登
録出願している事実はないことが認められる。
 さらに、登録者が答弁書を提出せず、かつ証拠も提出しない本件にあっては、登録者が
申立人と何らかの取引関係がある事実、申立人が登録者に対し標章「MONTBLANC」を含む本
件登録商標等の全部または一部について使用を許諾した事実を認めることはできず、また、
処理方針第4条C項各号所定の事実を認めることもできない。
 従って、登録者は本件ドメイン名に関して何らの権利又は正当な利益を有するものでな
いと言うほかない。

 (3)登録者が本件ドメイン名を不正の目的で登録または使用しているか否かについて
ア)前記認定事実を総合すると、申立人が保有する標章「MONTBLANC」を含む本件登録商
  標等は、登録者が本件ドメイン名を登録した2005年3月29日には既に申立人の
  商品等ひいては申立人の略称を表示するものとして我が国の取引者・需要者の間で広
  く知られていたものであり、それゆえ、登録者による本件ドメイン名の使用は申立人
  の業務との間で混同を生ずるおそれのあるものであり、このことは登録者も十分知悉
  できたことが認められる。
イ)また、甲第7号証によれば、登録者は、本件ドメイン名をドメイン管理等のサービス
  を行っている業者のウエブサイト「www.sedo.com」を通じて売却しようと試み、その
  際の売却希望価格として、本件ドメイン名の取得に要した費用をはるかに超える9,
  995ユーロ(日本円にして約\1,636,000 1ユーロ=約163円で換算)という高
  額を提示していたことが認められる。
ウ)さらに、甲第8号証によれば、登録者が本件ドメイン名で開設したウエブサイトは、
  ここにアクセスすると、自動的に他のウエブサイト
  「sedoparking.com/search/registrar.php?domain=montblanc.jp&registrar=sedopa
  rk」に転送され、申立人およびその競業者の商品等で本件登録商標の全部または一部
  を使用したものを扱う業者のウエブサイトを含む様々なサイトへのリンクを貼った
  ページへジャンプするものであることが認められる。
   なお、①申立人はここでのジャンプ先には申立人の並行輸入品を扱う業者のウエブ
  サイトが含まれていると主張しているが、この点は証拠上必ずしも明らかではない。
  ②また、申立人は、同じくここで取り上げた登録者のウエブサイト利用方法は「ドメ
  インパーキング」というサービスを利用したものであり、当該ページにアクセスした
  ユーザーがリンクの貼られたウエブサイトを訪問すると、その人数に応じてドメイン
  名の登録者に手数料が入る仕組みになっているものであると主張し、なるほど甲第9
  号証にはそのような仕組みと方法を説明していることが認められるのであるが、これ
  だけでは登録者が現実にこの方法を使用したと断定するのは困難である。
   しかし、いずれにしても、上記①②の事情はここでの判断((3)の判断)を左右
  するほどの事情ではない。
エ)そのほか、当パネルに顕著な事実として次のような事情も認められる。
   登録者は過去において「ERMENEGILDOZEGNA.JP」というドメイン名を登録し、平成
  4年(2004年)10月頃、登録商標「ERMENEGILDO ZEGNA」を有する商標権者か
  ら本件と同じ紛争処理の申立を受け、そのドメイン名を申立人に移転すべき旨の裁定
  を受け、これが確定している(JP2004-3号事件)。
 そして、上記イ)の事実によれば、登録者は本件ドメイン名を本件ドメイン名取得に直
接要した金額を遙かに超える高額の対価を得るために販売することを目的として登録した
ものといえ(処理方針第4条b.(i)に該当)、さらに、上記ア)ウ)の各事実によれば、
登録者は他方で本件ドメイン名を正常な使用目的外の使用をして利得を得る目的でインタ
ーネット上のユーザーを上記リンクサイトへ誘引しようとしていることは明らかである
(処理方針第4条b.(iii)および(iv)に該当)。
 したがって、登録者は本件ドメイン名を不正の目的で登録または使用しているものと認
められる。

6 結論
 以上のとおりであるから、本件紛争処理パネルは、①登録者によって登録された本件ド
メイン名「MONTBLANC.JP」は申立人の商標又は標章と混同を引き起こすほど類似しており、
②登録者は、本件ドメイン名に関する権利又は正当な利益を有しておらず、③かつ、登録
者の本件ドメイン名が不正の目的で登録され且つ使用されているものと認定する。
 よって、処理方針第4条h.iに従って、本件ドメイン名「MONTBLANC.JP」の登録を申
立人に移転するものとし、主文のとおり裁定する。

   2007年12月13日

   日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
                            主任パネリスト      峯  唯 夫

                          パネリスト          土 肥 一 史

                          パネリスト          畑  郁 夫


別記(手続の経過)
(1) 申立受領日
  電子メール 2007年10月3日  書面 2007年10月4日
  2007年10月3日に申立人はセンターに対して規定料金を支払った。
(2) 適式性
 日本知的財産仲裁センターは、2007年10月4日に申立書が社団法人日本ネットワ
ークインフォーメーションセンター(JPNIC)のJPドメイン名紛争処理方針(方針)、
JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則(規則)、JPドメイン名紛争処理方針のた
めの補則(補則)の形式要件を充足することを確認した。
(3) 手続開始日   2007年10月9日
(4) ドメイン名及び登録者の確認日
  センターの照会日(電子メール)        2007年10月3日
  JPRSの確認日及び確認内容(電子メール)
  1) 2007年10月3日
  2) 申立書に記載の登録者はドメイン名の登録者及び登録担当者である。
(5) 登録者・登録担当者への通知日及び内容
  1)  2007年10月9日
  2) 申立書、申立通知書(郵送、ファクシミリ、及び電子メール)
  3) 答弁書提出期限   2007年11月6日
(6) 答弁書の提出の有無及び提出日
   登録者は答弁書を提出しなかった。
(7) 答弁書不提出通知書の登録者への送付日 2007年11月7日
(8) 登録者の連絡先(郵送先、ファクシミリ、電子メールアドレス。JPRSに登録確認
  済み)はいずれも無効であり、センターからの通知ないし送付はいずれも到達不能と
  して返送された。 (7)の通知(不達・返送)後の本年11月22日に、登録者から、
  センター宛てe-メールにより、本件ドメイン名にかかる権利を放棄する旨の意思表
  示があったので、センターはJPNICの方針(第3条、第7条等)に基づき本件裁
  定手続が行われる旨を回答した。
(9) パネリストの選任
  1) 3名パネル(申立人のみ指定有り。2名はセンター選出)
  2) センターは2007年11月29日にパネリスト1名の辞任に伴いパネリスト1
    名を新たに選任した(規則7条)。
  3) パネリストの氏名
    主任パネリスト  峯 唯夫
    パネリスト    土肥 一史
    パネリスト    畑 郁夫
(10) 紛争処理パネルの指名及び予定裁定日の通知日
   1) 2007年11月13日(郵送、ファクシミリ、及び電子メール)
   2) 2007年11月29日、変更後のパネル及び裁定期限日変更を通知した。
(11)宣言書の受領日
   1) 主任パネリスト 峯 唯夫  2007年11月15日
   2) パネリスト   土肥 一史 2007年11月16日
   3) パネリスト   畑 郁夫  2007年11月30日
(12)予定裁定日 2007年12月13日