事件番号:JP2007-0009


                 裁  定


申立人:
       名称:モジラ・ファウンデーション
       住所:アメリカ合衆国 カリフォルニア州 94043
       マウンテン ビュー ビルディング ケー
       ランディングス ドライブ 1981

代理人:
    弁護士 東 澤 紀 子
        同  久 保 啓一朗

登録者:
       氏名(名称):沖 津 大 輔(登録名 Daisuke)
       住 所:〒183-0025
        東京都府中市矢崎町2-3-5

 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針、JPド
メイン名紛争処理方針のための手続規則及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン
名紛争処理方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立書、提出された証拠
に基づいて審理を遂げた結果、以下のとおり裁定する。

1 裁定主文

  ドメイン名「MOZILLA.JP」の登録を申立人に移転せよ

2 ドメイン名

  紛争に係るドメイン名は「MOZILLA.JP」である。

3 手続の経緯

  別記のとおりである。

4 当事者の主張

a 申立人

(1)申立人とその関連会社について
  申立人は、American Online Inc. の Netscape Navigator 部門の支援を受けて
 2003年7月に米国において設立された非営利団体であり、「mozilla」の名称に
 よる無償提供ソフトウエアのプロジェクトを組織的、法的、財政的に支援すること
 を目的とするものである。
  日本においては関係法人として2004年7月28日に有限責任中間法人
 Mozilla Japan を設立している(甲第2号証)。

(2)申立人の名称、商標等について
  申立人は、上記支援者らが1998年から行っていた「mozilla.org」の名称によ
 るウエブブラウザなどをフリーソフトウエアとして無償で提供するプロジェクト
 を引継いだものである。「mozilla」は「mosaic(モザイク)」と「gozilla(ゴジラ)」
 とを合成した造語であり、元来支援者の社内において使用されていたコードネーム
 であったが、無償提供するフリーソフトウエアの名称として「mozilla.org」が用い
 られるに至った(甲第3~8号証)。
  申立人はウエブブラウザを「Firefox」の名称で、またメールソフトを
 「Thunderbird」の名称により提供し、これが昨今では市場においてマイクロソフ
 トのインターネット・エクスプローラーに次ぐシェアを占めるに至っている(甲第
 12号証)。
  また申立人は商標「MOZILLA」を、2006年10月6日付、商願2006-
 93584号として弟9類に属する商品を指定商品として日本特許庁に対し出願
 いている(甲第13号証)。
  以上からすれば、申立人の名称の略称である「mozilla」は1998年から広まっ
 ており、ウエブブラウザ Firefox 等のフリーソフトウエアを提供するものの名称の
 略称として、全世界的に著名であり、申立人が正当な利益を有する表示であること
 は明らかである。

(3)申立の理由

 i)ドメイン名と申立人表示の同一もしくは類似について

  本件ドメイン名「MOZILLA.JP」において、「JP」は国別コードにより日本を意
 味する部分に過ぎず、多くのドメイン名に共通する要素であるから、登録者のドメ
 イン名において主たる識別力を有するのは「MOZILLA」であるといえる。申立人
 が正当な利益を有する表示は「mozilla」であり、本件ドメイン名は、申立人の表示
 を大文字にしたに過ぎず、称呼を共通にするものである。

 ii)登録者が対象ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有してないと考える
  理由

  本件ドメイン名の登録者は個人であり、その名前も「Daisuke」であって(甲第
 1号証)、申立人の表示である「mozilla」とは一切何ら関係もない。
  また登録者は、インターネット上で本件ドメイン名を利用した事業も行っておら
 ず、本件ドメイン名の一部である「MOZILLA」について商標登録出願を行ってい
 ない。
  インターネットの大手検索サイトにおいて「MOZILLA」を検索すると、極めて
 多数のヒット数があるが、Mozilla Japanのホームページがトップに出るが、登録
 者の本件ドメイン名の名称はほとんど認識されないので、登録者は本件ドメイン名
 を使用する利益を有していないと思料する。

 iii)本件ドメイン名が不正の目的で登録又は使用されていると考える理由

  そもそも「MOZILLA」の語は、申立人が設立に際し支援を受けたAmerican
 Online Inc. の Netscape Navigator 部門による造語であり、そのような造語を登
 録者が自ら造ったとは考え難い。
  しかも登録者は、本件ドメイン名の登録を、申立人の設立されて3ヶ月後に行っ
 たが、「mozilla.org」は2002年からウエブブラウザの技術プレビュー版として
 リリースしており(甲第3号証)、また2003年にはmozilla製品としてのウエブ
 ブラウザ「mozilla」は高い評価を受け、数々の賞を受賞していた(甲第16号証)。
 登録者は、申立人設立のニュース(甲第17~18号証)から、本件ドメイン名
 を登録したものと思料する。
  また登録者は、本件ドメイン名を利用した事業を行っていないにもかかわらず、
 2006年11月1日に本件ドメイン名の更新を行った(甲第1号証)。
  また登録者は申立人が有限責任中間法人 Mozilla Japan を設立した2004年
 7月の直後頃、本件ドメイン名を利用して「mozilla.org」を完全にコピーしたウエ
 ブページを作成した(甲第19~20号証)。正規の「mozilla.org」のウエブサイ
 トではオンラインストアを開設していることもあり、このような模倣サイトはいわ
 ゆる「フィッシング詐欺」に悪用される可能性もあった。

(4)求める救済措置
  よって申立人は、選任されたパネルが、本件ドメイン名の登録について、申立人
 への移転の裁定を下すことを求める。

b 登録者

 登録者によって答弁書は提出されなかった。

5 争点及び事実認定

 規則第15条(a)は、パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原
則についてパネルに次のように指示する。「パネルは、提出された陳述・文書および審
問の結果に基づき、処理方針、本規則及び適用されうる関係法規の規定・原則、なら
びに条理にしたがって、裁定を下さなければならない。」
 方針第4条aは、申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図し
ている。

I)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表
 示と同一または混同を引き起こすほど類似していること
II)登録者が、ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有していないこと
III)登録者のドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること

 登録者は答弁書を提出しなかったが、申立人から提出された主張及び証拠の結果に
基づき、次のとおりの事実を認定した。

(1)登録者のドメイン名と、申立人の商標その他表示との類似性

  本件ドメイン名「MOZILLA.JP」において、「JP」は日本を意味する国別コード
 に過ぎないから、登録者のドメイン名において識別力を有するのは「MOZILLA」
 の部分のみであり、この部分が本件ドメイン名の要部であると認める。

  他方、申立人は、American Online Inc. の Netscape Navigator 部門の支援を
 受けて2003年7月に米国において設立された非営利団体であり、上記支援者ら
 が1998年から行っていた「mozilla.org」の名称によるウエブブラウザなどをフ
 リーソフトウエアとして無償で提供するプロジェクトを引継いだものであって、無
 償提供するフリーソフトウエアの名称として「mozilla.org」が用いられ、「mozilla」
 の名称による無償提供ソフトウエアのプロジェクトを組織的、法的、財政的に支援
 することを目的とするものであり、また申立人は商標「MOZILLA」を、2006
 年10月6日付、商願2006-93584号として弟9類に属する商品を指定商
 品として日本特許庁に対し出願している。
  また申立人は日本において関係法人として2004年7月28日に有限責任中
 間法人 Mozilla Japan を設立している。
  以上からすれば、「mozilla」は申立人の名称の略称ならびに申立人が提供するフ
 リーソフトウエアの名称の略称として用いられていることは明らかであり、従って
 申立人は「mozilla」の表示について正当な利益を有すると認めることができる。


  そこで、登録者のドメイン名の要部「MOZILLA」と、申立人が正当な利益を有
 する表示「mozilla」とを比較すると、これは全く同一のローマ字の語を大文字で表
 すか、小文字で表すかが相違するのみであるから、外観はともかく称呼においては
 全く同一であり、これは実質的には同一といえるほどに類似するものであると認め
 る。

(2)登録者がドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有しているか否か

  本件ドメイン名を所有する登録者は、その氏名もしくは商号は本件ドメイン名と
 全く関連を有さず、また答弁書を提出していないので、本件ドメイン名と同一もし
 くは類似する商標その他の表示につき何らかの権利又は正当な利益を所有してい
 るかどうか不明である。
  他方「mozilla」が申立人及びその関連する会社の名称および申立人が無償提供す
 るソフトウエアに関連する名称として採択され使用されていることを考慮すると、
 登録者が本件ドメイン名に関係する何らかの権利又は正当な利益を有していると
 認めることは困難である。

(3)登録者のドメイン名が、不正の目的で登録または使用されているか否か

  登録者は答弁書を提出していないので、登録者が本件ドメイン名を登録した目的
 を窺い知ることはできない。しかしながら、上記(1)及び(2)に記載した客観
 的な事情や状況から判断するなら、本件ドメイン名は登録者が申立人の名称もしく
 は申立人またはその関連する法人が無償で提供するソフトウエアと何らかの関係
 があるかの如くに世人に誤認混同を惹き起こさせる虞があり、また更に本件ドメイ
 ン名の登録は、申立人もしくはその関連する法人が同じドメイン名を採択し使用し
 ようとすることに対する妨害行為となりうる。
  また本件ドメイン名は現在不使用であるが、たとえドメイン名が使用されていな
 い場合であっても、登録がなされた事情や状況などから判断して、ドメイン名が不
 正の目的で登録されたと認めた事例(例:申立人提出の甲第21号証JP2001-0002
 事件及び同22号証JP2006-0008事件ならびにJP2002-0007事件)がこれまでに
 もある。
  本件ドメイン名の登録がなされた事情や状況については、1998年から
 「mozilla.org」の名称によるウエブブラウザなどをフリーソフトウエアとして無償
 で提供するプロジェクトが存在していたこと、「mozilla」なる語は辞書に掲載され
 ておらず、造語であると判断できること、また本件ドメイン名の登録が、申立人が
 非営利団体として設立された2003年7月から間もない2003年10月2日
 になされた事実があることなどを勘案すれば、登録者が本件メイン名を善意で採択し
 登録したと認めることは困難であり、従って本件ドメイン名は不正な目的をもって登
 録を得たものと判断せざるをえない。


6 結論

  以上に照らして、紛争処理パネルは、登録者によって登録されたドメイン名
 「MOZILLA.JP」が申立人の商標その他の表示と混同を引き起こすほど類似し、登
 録者が、ドメイン名に関する権利又は正当な利益を有しておらず、かつ、登録者の
 ドメイン名が不正の目的で登録されているものと判断する。
  よって、方針第4条iに従って、ドメイン名「MOZILLA.JP」の登録を申立人に
 移転するものとし,主文のとおり裁定する。

  2007年12月14日
   日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
               清 水 徹 男
               単独パネリスト





別記  手続の経緯
(1)申立書受領日
      2007年10月16日
(2)料金受領日
      2007年10月16日  申立手数料の受領確認
(3)ドメイン名及び登録者の確認
      2007年10月16日  JPRSへ照会
      2007年10月16日  JPRSから登録情報の確認
      確認内容:申立書に記載された登録者はドメイン名の登録者であること
(4)適式性
      日本知的財産仲裁センターは、2007年10月17日に申立書が処理
      方針と規則に照らし適合していることを確認した。
(5)手続開始日  2007年10月19日
      手続開始日の通知  2007年10月19日
      申立人へ通知(電子メール・ファクシミリ及び配達証明郵便)
(6)登録者への通知日及び内容
      1)2007年10月19日(電子メール及び配達証明郵便)
      2)申立書及び証拠等一式
      3)答弁書提出期限  2007年11月16日
(7)答弁書の提出の有無及び提出日
      提出なし
(8)パネリストの選任  2007年11月26日
      申立人は1名のパネルによって審理・裁定されることを選択
      中立宣言書の受領日:2007年11月30日
      パネリスト:清水 徹男
(9)紛争処理パネルの指名及び裁定予定日の通知
      2007年11月26日  JPNIC及びJPRSへ通知(電子メール)
                            申立人及び登録者へ通知
                           (電子メール・ファクシミリ及び配達証明郵便)
      裁定予定日:2007年12月14日
(10)パネリスト指名書及び一件書類受け渡し
      2007年11月26日(電子メール及び配達証明郵送)
(11)パネルによる審理・裁定
      2007年12月14日  審理終了、裁定