日本知的財産仲裁センター
紛争処理パネル裁定書
オムロンヘルスケア株式会社社対colin-mt.jp
事件番号:JP2009-0004
1. 当事者
申立人:(名称)オムロンヘルスケア株式会社
(住所)京都府京都市右京区山ノ内山ノ下町24番地
代理人:弁理士 深見 久郎
(送達場所)大阪市北区中之島二丁目2番7号
中之島セントラルタワー22階
深見特許事務所
登録者:colin-mt.jp
(送達場所)愛知県東海市荒尾町坂本20-1
(電子メール)n604391@hotmail.com
2. 裁定
ドメイン 「COLIN-MT.JP」の登録を取り消せ
3. ドメイン名
紛争に係るドメイン名は「COLIN-MT.JP」である。
4. 手続の経緯
日本知的財産仲裁センターは、申立人の申立書を2009年4月30日に書面
で受領した。センターは、申立書が社団法人日本ネットワークインフォーメーシ
ョンセンター(JPNIC)のJPドメイン名紛争処理方針(方針)、JPドメイ
ン名紛争処理方針のための手続規則(規則)、JPドメイン名紛争処理方針のため
の補則(補則)の形式要件を充足することを確認した。申立人はセンターに対し
て規定料金を支払った。この紛争手続の開始日は2009年5月1日である。
2009年4月30日に、センターは、本件に関してドメイン名及び登録者の
確認を株式会社日本レジストリサービス(JPRS)に電子メールで行った。2
009年4月30日に、JPRSは、申立書に記載の登録者がドメイン名の登録
者であり、登録担当者が三澤健司であることを確認するドメイン名情報および登
録担当者情報を電子メールでセンターに電送した。
申立書が方針及び規則を充足することを確認してから、センターは、2009
年5月1日に、申立書及び処理手続の開始通知書を登録者に電子メールで伝達し
た。
センターは、答弁書の提出最終期限日が2009年6月2日であることを通知
した。
登録者は、答弁書を提出しなかった。従って、センターは、2009年6月4
日に、答弁書不提出通知書を登録者に送付した。
2009年6月8日に、センターは、弁護士渡邊敏が単独パネリストとして正
式に指名されたとする紛争処理パネルの指名及び予定裁定日の通知を当事者に送
った。予定裁定日は2009年6月29日であった。
5. 事実
登録者が答弁書を提出しなかったので、申立人が主張する事実のうち、パネリ
ストが相当であると思量する事実をここに摘示する。
a 申立人について
(Ⅰ)申立人の登録商標について
申立人は、下記の6つの登録商標(以下、「COLIN商標」という。)を
所有している。
記
(ⅰ)商標「COLIN/コーリン」(商標登録第2350235号)
(ⅱ)商標「COLIN」(商標登録第2524513号)
(ⅲ)商標「COLIN」(商標登録第4117595号)
(ⅳ)商標「coLin」(商標登録第5047561号)
(ⅴ)商標「COLIN」(商標登録第5153693号)
(ⅵ)商標「coLin」(国際登録番号885142)
(Ⅱ)申立人(オムロン株式会社)とオムロンコーリン株式会社との関係に
ついて
申立人が所有する前記「COLIN商標」は、申立人の子会社である申立
外オムロンコーリン株式会社(以下、申立外オムロンコーリン社という。)の社名
の一部である「コーリン」を欧文字で表示したものである。
(Ⅲ)申立人子会社である申立外オムロンコーリン社について
(ⅰ)申立外オムロンコーリン社の前身である申立外日本コーリン株式会
社(以下申立外日本コーリン社という。)は1975年(昭和50年)に設立され
た。申立外日本コーリン社は、2003年に、その営業部門の子会社として設立
されていた申立外コーリンメディカルテクノロジー株式会社を米国のカーライ
ル・グループへ譲渡した。当該カーライル・グループは営業譲渡を受けた後も「c
olin」(コーリン)のブランドを引き継いだ。
(ⅱ)申立人は、2005年(平成17年)に申立外コーリンメディカル
テクノロジー株式会社の全株式を米国のカーライル・グループから取得して子会
社化した。申立外コーリンメディカルテクノロジー株式会社は、2006年に申
立外オムロンコーリン株式会社に商号を変更した。申立外オムロンコーリン株式
会社は、主に医療関係者向けの医療機械器具を製造及び販売している。
申立外オムロンコーリン株式会社も、前記「colin」(コーリン)のブラン
ドを引き継いでいる。
(Ⅳ)申立人が所有するCOLIN商標について
申立人は、前述したように、「COLIN商標」を所有しており、申立人製造
の各製品に対して「COLIN商標」を付して販売しており、海外でも、少なく
とも関係の会社が「COLIN商標」を出願・登録したことが伺える(但し申立
人の所有名義を立証する明白な証拠はない)。
b ドメイン名及びドメイン名の登録者について
(Ⅰ)ドメイン名について
ドメイン名「COLIN-MT.JP」(以下、本件ドメインという。)
は、株式会社ラットを連絡取次窓口として、2008年12月1日付で登録され
ている。そして、登録者の法人名は定かではなく、登録担当者名の登録した氏名
と、当センターに実際に連絡してきている氏名は異なっている。また連絡取次窓
口の株式会社ラットと登録者の関係が定かではない。
本件ドメイン登録は、申立人が所有する「COLIN商標」の最初商標登録
が平成3年(1991年)11月29日より遥か後であり、また、申立人の子会
社となった申立外コーリンメディカルテクノロジー株式会社が2006年に申立
外オムロンコーリン株式会社に商号を変更して、消滅した後である。
(Ⅱ)本登録者のウェブサイトの記載は、登録者が申立外オムロンコーリン
株式会社の前身である「コーリンメディカルテクノロジー株式会社」の名称を使
用して、主に医療関係者向けの医療機械器具を製造及び販売していると広告して
いる。
6. 当事者の主張
a 申立人
申立人は、申立人の前記「COLIN商標」について、申立人の好評を利用
する意図をもって、その「COLIN商標」をドメイン名として登録しているこ
とを主張する。申立人によれば、ドメイン名は、申立人の商標と混同を引き起こ
すほどに類似し、登録者はドメイン名について正当な利益を有していない。そし
てドメイン名は不正の目的で登録され且つ使用されている。
従って、申立人は、ドメイン名登録の取消を請求する。
b 登録者
登録者によって答弁書は提出されなかった。
7. 争点および事実認定
(争点)
規則第15条(a)は、パネルが紛争を裁定する際に使用することになって
いる原則についてパネルに次のように指示する。「パネルは、提出された陳述及び
文書の結果に基づき、方針、規則、及び適用されうる関係法規の規定、原則なら
びに条理に従って、裁定を下さなければならない。」
方針第4条aは、申立人が次事項の各々を証明しなければならないことを指図
している。
(1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標そ
の他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること
(2)登録者が、ドメイン名の登録についての権利又は正当な利益を有してい
ないこと
(3)登録者のドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること
(事実認定)
a 同一又混同を引き起こすほどの類似性について
(i)申立人の「COLIN商標」は、その外観は商標「COLIN/コー
リン」(商標登録第2350235号)のうち、二段に表記されている商標の下段
部分を除き、大文字あるいは小文字の相違はあるが、欧文字で「COLIN」又
は「colin」と表記されている。その称呼は「コーリン」であり、観念は、
特にないが氏名で使用されている。
(ⅱ)登録者のドメイン名は「COLIN-MT.JP」である。このうち
「JP」は、日本を示す国別の属性を示すものであり、株式会社日本レジストリ
サービスが管理しているものである。「COLIN-MT」については、中途で「-」
が記載されており、「-」(ハイフン)とは合成度の浅い複合語の連結に使用され
るものであり、「COLIN」と「MT」を結びつけるものであるが、「MT」が
二文字で識別力が弱いこと、「COLIN」が冒頭にあって識別性が高いことから、
登録者のドメイン名は「COLIN」の部分が独立した要部となりうるものであ
る。
そこで、申立人の「COLIN商標」は欧文字で「COLIN」又は「co
lin」であるが、登録者のドメイン名の要部である「COLIN」を対比する
と、両者は外観、称呼、観念のいずれの部分でも類似している(なお観念は人名
である。)。したがって登録者のドメイン名は申立人の「COLIN商標」に類似
する。
b 権利又は正当な利益の欠如について
登録者は、申立人が提出した登録者のウェブサイトの記載によれば、消滅
したはずの申立外コーリンメディカルテクノロジー株式会社を名乗り、申立人の
100%子会社であって、医科向け血圧計のシェアがNO.1の会社であるとし
ている。しかしながら、登録者は答弁書等の何らかの主張もしておらず、登録当
時から商品の提供を行っていたものとは認められない。2009年6月22日に
本パネリストが登録者のウェブサイトを検索したところ、介護福祉専門の求人情
報サービスである介護ジョブにリンクするのみで、前述した医科向け血圧計の販
売をしている形跡が無い。よって、登録者は、登録当時正当な利益を有していた
とは認められない。
c 不正の目的での登録及び使用
(Ⅰ)申立人は、登録者のウェブサイトと申立人の子会社であるオムロンコーリ
ンのウェブサイトの掲載内容を比較して、登録者の不正の目的による登録および
使用を主張しているので検討する。
(ⅰ)甲第16号証と甲第17号証との比較
甲第16号証は前記子会社オムロンコーリンのウェブサイトであり、甲第17
号証は登録者のウェブサイトであるが、両者は、「資本金」の額、「営業拠点」の
個数、「納入先」の記載が同一である。また、甲第16号証では取締役会長として
掲載されている「井上秀一」氏は、甲第17号証では代表取締役会長となってい
るが、両者が関連会社であるとの証拠は無いのみならず、本申立を総合判断する
と、「井上秀一」氏が両者の役員を兼任する可能性は無いから、登録者のウェブサ
イトは、虚偽の記載をしていると判断せざるを得ない。
(ⅱ)甲第18号証と甲第19号証との比較
甲第18号証は前記子会社オムロンコーリンのウェブサイトであり、甲第19
号証は登録者のウェブサイトであるが、甲第18号証と甲第19号証とを比較す
ると、札幌、盛岡、仙台、埼玉、横浜、静岡、長野、京都、大阪、神戸、岡山、
四国、福岡及び熊本の営業所の住所が同一であるが、前記両社の実態からして、
甲第19号証は登録者のウェブサイトは、虚偽の記載をしていると判断せざるを
得ない。
(ⅲ)甲第20号証及び甲第21号証について
甲第20号証及び甲第21号証は、登録者のウェブサイトの写しであるが、甲
第20号証の上部右上には、「オムロンヘルスケア」の表示が掲載されており、当
該表示をクリックすると、オムロンヘルスケア株式会社のウェブサイトにリンク
する構造になっている。これは、登録者が申立人のホームページにリンクするこ
とにより、申立人の会社の関連会社であることを消費者に誤認させる意図がある
と判断せざるをえない。
同様に、甲第21号証の下線部には、当該ウェブサイトでコーリンメディカル
テクノロジー株式会社がオムロンヘルスケア株式会社の100%子会社になった
ことが記載されていることは前述したが、本申立の経緯からして、申立人が申立
外コーリンメディカルテクノロジー株式会社の全株式を米国のカーライル・グル
ープから取得して子会社化し、申立外コーリンメディカルテクノロジー株式会社
は、申立外オムロンコーリン株式会社に商号を変更しているので、申立外コーリ
ンメディカルテクノロジー株式会社が申立人の子会社であることは無い。
よって、前述した登録者のウェブサイトでコーリンメディカルテクノロジー株
式会社がオムロンヘルスケア株式会社の100%子会社になったことが記載され
ていることは虚偽と判断せざるを得ない。
(Ⅱ)以上より、登録者は本件ドメイン名の登録及び使用について、既に存在し
ない申立人の子会社を名乗ったり、実存する申立人の子会社のウェブサイトと似
た内容を多数含んだウェブサイトを作成する等により、商品の需要者の混同を引
き起こし、申立人の登録商標にフリーライドする目的で本ドメイン名の登録及び
使用がされていると判断せざるを得ない。
8. 結論
以上に照らして、紛争処理パネルは、登録者によって登録されたドメイン名「C
OLIN-MT.JP」が申立人の商標と混同を引き起こすほど類似し、登録者
が、ドメイン名について権利又は正当な利益を有していず、登録者のドメイン名
が不正の目的で登録され且つ使用されているものと裁定する。
従って、方針の第4条iに従って、紛争処理パネルは、ドメイン名「COLI
N-MT.JP」の登録が取り消されるべきであることを要求する。
渡 邊 敏
単独パネリスト
2009年6月29日