事件番号:JP2009-0005

裁 定

  申立人:
  (名称)株式会社ドワンゴ
  (住所)東京都中央区日本橋浜町二丁目31番1号
  登録者:
  (名称)マックスビジョン
  (住所)〒657-0031
      兵庫県神戸市灘区大和町3-2-12

 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針、JPドメイン名紛争処
理方針のための手続規則及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理方針のための手続
規則の補則並びに条理に則り、申立書・答弁書・提出された証拠に基づいて審理を遂げた結果、以
下のとおり裁定する。

1 裁定主文
  ドメイン名「ニコニコ動画.JP」の登録を申立人に移転せよ

2 ドメイン名
  紛争に係るドメイン名は「ニコニコ動画.JP」である。

3 手続の経緯
  別記のとおりである。

4 当事者の主張
a 申立人株式会社ドワンゴの主張の要旨
(1) 申立人は平成9年に設立されたネットワークエンターテイメントコンテンツおよびシステムの企画、開
  発、運用、サポートおよびコンサルティングを主要事業とする株式会社で、「DWANGO」、「ドワン
  ゴ」のブランドネームで携帯電話事業やネットワークゲーム事業を中心にコンテンツ事業を展開してき
  た。
   平成18年12月に子会社の㈱ニワンゴ(以下、「ニワンゴ」という。)と共同ではじめた動画コミュニ
  ティサイトの「ニコニコ動画」(以下「申立人サイト」という。)は、投稿された動画に閲覧者がコメント
  を付け、他の閲覧者と共有できるユニークな機能が話題を呼び、正式サービス開始から僅か1年8
  ケ月で1000万人を超える会員を確保するに至っている。]
(2) 申立人は次の登録商標を所有している。
         登録第5098492号  (出願日:平成19年2月14日)
         登録日:平成19年12月14日
         商標:「ニコニコ動画」  指定商品:第38類、第41類、第42類
(3) 申立人は、商標「ニコニコ動画」を、申立人とニワンゴが共同で運営するインターネットを利用した
  動画コミュニティサイトの名称として、平成18年12月12日から使用している。 「ニコニコ動画」は、
  我が国において申立人サイトの名称として取引者および需要者の間で広く認知され、サービス自体
  も非常に活発に利用されている。
(4) 登録者はドメイン名「ニコニコ動画.JP」をJPRSに登録している。登録日:平成20年5月2
 1日(甲1号証)
(5) 「ニコニコ動画」のID登録者による利用者数は、平成19年3月6日(ID登録制移行日)からわ
  ずか72日間で100万人を突破した。これは、日本の独立したネットワークサービスの中で最も短い
  期間での100万人達成である。 その後も「ニコニコ動画」のサービスは順調に拡大し、平成20年
  11月12日にID登録者数1000万人、平成21年5月3日に動画の累計再生回数100億回を
  達成している。
(6) 「ニコニコ動画」はインターネット検索エンジン「Google」では、約2,700万件、「Yahoo」では、「ニ
コニコ動画」は約7,470万件が検索され、そのいずれもが申立人サイトに関するものである。
  以上のことから、「ニコニコ動画」の表示が申立人サイトを示す商標として著名なものであること
  は明白である。
(7) 登録者はドメイン名「ニコニコ動画.JP」をJPRSに登録しているが、このドメイン名「ニコニコ動
  画.JP」は、トップレベル・ドメイン部分(.JP)を除くと、その要部は「ニコニコ動画」であり、申立人の登
  録商標「ニコニコ動画」と完全に同一である。
(8) 申立人の「ニコニコ動画」のID登録者数は、被申立人の本件ドメイン名の登録を完了日である
  平成20年5月21日以前の平成21年3月20日に既に600万人を超えており、累計動画再生
  数も平成20年5月13日に50億回を達成し、本件ドメイン名登録時には既に商標「ニコニコ動
  画」が著名なものになっていた。
(9) 「ニコニコ動画」について申立人が有している商標権や過去および現在にわたり行っている活動、
  商標「ニコニコ動画」の我が国における著名性(特にインターネット分野における高度の著名性)から
  考えて、本件ドメイン名を取得しようとした登録者が、その登録時に申立人の上記商標を知らなか
  ったということは経験則上あり得ない。
(10) 申立人と登録者との間には一切の資本関係、取引関係、業務提携関係はない
(11) 登録者の名称と本件ドメイン名との間に関連性がない。
(12) 申立人は登録者に対し、過去および現在において、商標「ニコニコ動画」の使用許諾をしたこ
  とはない。
(13) 登録者は本件サイトにおいて、「ニコニコ動画」のサイトで使用されている「ニコニコ動画(β
  β)」((ββ)はバージョン番号)のロゴマークを申立人およびニワンゴの許諾なく使用しているほか、
  「まずはこちらをご覧ください」と表示し、その先に「ニコニコ動画とは」「ニコニコ動画の使い方」「ニコニ
  コ動画の活かし方」「お問い合わせ」といった名称のリンクを表示する(リンク先は未だ制作中)などし
  ており、本件ドメイン名は、取引者および需要者のみならず一般世人をして申立人と登録者との間
  に緊密な取引上または組織上の関係があるものと誤認混同を生じさせるおそれが極めて高い。
    以上のことから、登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その
    他表示と同一または混同を引き起こすほどに類似していることは明白である。
(14) 登録者は「ニコニコ動画.JP」を2008年5月21日にドメイン名登録している。
     本件商標の著名性や本件サイトの内容からすると、登録者が申立人の商標を知らず、これと
  無関係に本件ドメイン名を偶然に登録したということは考えられず、客観的に見た場合、登録者の
  意図ないし目的は、申立人の商標と同一の本件ドメイン名を登録することにより何らかの経済的利
  益を得ることにあると考えざるを得ない。これは登録者がJPRSの公開情報上自らの住所や連絡
  先を明らかにしていないという「匿名性」にも現れている。
    申立人商標の著名性、本件ドメイン名における「ニコニコ動画」と申立人の商標との間の誤
  認混同のおそれからすれば、本件ドメイン名は不正の目的での登録であると認められるべきである。
    以上のことから、登録者は、申立人の著名な商標と同一であることを認識した上で、これを
    模倣し、申立人の業務上の信用および顧客吸引力にフリーライドするか、または申立人から
    対価を得るという不正な目的で登録を行ったと認められる。

b.登録者マックスビジョンの主張の要旨
(1) 登録者が「ニコニコ動画.JP」を取得した理由
    登録者は、現在経営コンサルティング業を本業とするが、Max Visionの代表者であり、インター
  ネットに特化したベンチャー企業の株式会社日本ドメインの代表取締役でもある。
(2) 約6年前から、自己PRの啓蒙活動への取組みとして、自己PRを楽しく磨ける環境を創造する
  過程で、自己PRに必要な笑顔、つまり「ニコニコ」と、自己PRをビデオなど画像録画、つまり「動
  画」を生かすことで自分自身の自己PRを自分で確認したり仲間に見せてアドバイスをし合えるとい
  う新しい勉強スタイルの環境を作ろうと考え、そのために分かりやすく覚えやすい日本語ドメインを決
  めようと考えて編み出したのが「ニコニコ」と笑顔で自己PRしたものを『動画』にして学び、そして日本
  を元気にしたい!という想いを .jp というトップレベルドメインで表すことが、取得した「ニコニコ動画.
jp」に込められている。
(2) ニコニコ動画.jpサイトの現状
  平成21年8月5日(本件申立日) の時点では、製作途中で未完成。
  平成21年5月半ば辺りに初めてサイトをサーバーアップしたが、それ以降のアクセス数は一日平
 均約7件。
   サイトは申立人に迷惑をかけるつもりで制作していた訳ではないから、商標を無断で掲載したと
  いうこちらの落ち度で誤解を招いてしまったことを真摯に受け止め、誠意をもって速やかに申立通知
  を受けた平成21年8月5日時点でのサイトをサーバーから外し、リニューアル注表示に差替えた。
(3) ニコニコ動画のロゴ無断掲載の理由
   自己PRの練習を動画を使ってやる仕組みを思案中に、たまたま同名の申立人のニコニコ動画
  のシステムを使って上手く仕組みが構築できないものかと思いつき、自分自身が使い方も全く知らな
  かったこともあって、いろいろサイトを調べてみると使い方などを紹介する利用者や第3者のサイトが
  たくさん存在することを知った。 そこで自分も使い方を紹介するサイトをまず作ってみてもいいかなと
  思い、使い方を紹介するサイトだから、申立人であるドワゴンにも利用者(ユーザー)が増えてメリット
  があるだろうと考えた。
(4) ロゴの無断掲載に関しては罰をうけなければならない事態が発生しているのなら当然その報い
  やお咎めは受けるべきだと思っている。申立人の動画配信の仕組みを、自己PRを動画を生かして
  学ぶ環境の構築に使おうと安易に取り入れようとしたことが誤解を招いてしまい失敗したと感じている。
  ロゴの掲載はサイトを公開した平成21年5月半ばではなく、正確には覚えていないが、何度かサイ
  トを更新する過程で掲載したと思う。たまたま同名であった申立人の動画配信の仕組みを、自己
  PRを動画を生かして学ぶ環境の構築に使おうと安易に取り入れようとしたことが誤解を招いてしまい
  失敗したなと感じている。
(5) ニコニコ動画の著名性及び商標に関する反論
  ニコニコ動画は、「ニコニコ」と「動画」という世間一般でよく使われる言葉を単純に組み合わせただ
  けのものである。
  「ニコニコ」の語は、「Google」では約4,840万件、「Yahoo」では約約13,000万件、「動画」の
  語は、「Google」では約28,000万件、「Yahoo」では約96,100万件がウエブサイトで検索され
  る。
   商標に関しては、申立人の商標権の指定商品:第38、41、42類以外の範囲である商品名や
  サービス名であれば、同名であっても何ら問題ではないはずである。
   ドメイン名紛争では、ロゴの無断掲載による商標権の侵害とは分けて考えるべきである。
(6) ドメインは、先願主義が原則である。登録者が当該ドメインを取得した2008年5月21日以前
  の段階で、ニコニコ動画jpというドメインを申立人自らが取得していなかったことは、そもそもニコニコ
  動画.jpという日本語ドメインがユーザーに間違われることは無いと認識していることの証明ではない
  か。
   ニコニコ動画.jpのサイトへのアクセスは、一日に数件ほどであり、申立人の主張する1000万人
  のユーザーや累計動画再生数100億回を達成していることから考えて、現時点でドメインを間違え
  てニコニコ動画.JPサイトに申立人の取引関係者やユーザーが訪問していることは、ほぼ考えられな
  い。もし間違えてアクセスされているならニコニコ動画.Jpへのアクセス数は一日に数件で済むはずが
  ない。
   申立人のニコニコ動画が申立人が主張するとおり著名であればあるほど、nicovideo.jpという申
  立人のサイトアドレスが広く認知されているから、誤認混同は生じない。

5 争点および事実認定
  規則第15条(a)は、パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原則についてパネルに
次のように指示する。「パネルは、提出された陳述・文書および審問の結果に基づき、処理方針、本規
則および適用されうる関係法規の規定・原則、ならびに条理に従って、裁定を下さなければならない。」
 方針第4条aは、申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図している。
 (1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と同一または
    混同を引き起こすほど類似していること
 (2)登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと
 (3)登録者のドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること
  以下に、各事項について検討する。


(1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と同一または
   混同を引き起こすほど類似しているか (処理方針第4条a(i))
 ア 申立人の商標
   甲第5号証、同第9号証により、申立人が、商標「ニコニコ動画」につき、多区分役務指定の登
   録第5098492号(以下、「本件商標」という。)を正当に所有しており、その指定役務が第38
   類、第41類、第42類であることが認められ、また、甲第5号証、同第6号証、同第7号証、並び
   に2009年10月1日付申立人回答より、申立人がニワンゴとの共同運営により、本件商標を平
   成18年12月から、インターネット利用の動画コミュニティサイト事業において使用し現在に至って
   いることが認められる。

 イ 本件ドメイン名と、本件商標「ニコニコ動画」との同一性又は類似性
   甲第1号証が示すように、登録者が登録したドメイン名は「ニコニコ動画.JP」(以下、「本件ドメ
   イン名」という。)で、その登録日は2008年(平成20年)5月21日である。
   本件ドメイン名のうち「JP」部分は、日本の国別コードを示すトップレベルドメインであるから特段の
   識別力を有するものではない。したがって、本件ドメイン名の識別力を有する要部は、「ニコニコ動
   画」部分であり、これは申立人が保有する登録商標とその外観・称呼・観念のいずれにおいても
   一致する。 したがって、本件ドメイン名は、申立人が保有し正当な利益を有する本件商標「ニコ
   ニコ動画」と同一であり、混同を惹き起こすほど酷似していることが認められる。


(2)登録者は、本件ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有しているか (処理方針第4
  条a (ii))
ア  争いの無い事実
 (i) 申立人と登録者との間には一切の資本関係、取引関係、業務提携関係は存していない。
 (ⅱ) 申立人は登録者に対し、過去および現在において、本件商標「ニコニコ動画」の使用を許諾し
   たことはない。
イ  申立人は、申立人の本件商標が、本件ドメイン名の登録完了日以前の平成20年3月20
  日時点で既に600万人を超え(甲14)、累計動画再生数も平成20年5月13日には50億
  回に達成して(甲15)、本件ドメイン名登録時には既に本件商標「ニコニコ動画」が著名なも
  のになっており、ニコニコ動画について申立人が有している商標権や過去および現在にわたり行
  なっている活動、商標「ニコニコ動画」の日本における著名性(特にインターネット分野おける高
  度の著名性)から考えて、本件ドメイン名を取得しようとした登録者が、その登録時に申立人
  の本件商標「ニコニコ動画」を知らなかったということは経験則上あり得ず、また、登録者が自己
  のサイト上で申立人の「ニコニコ動画(ββ)」のロゴマークを申立人およびニワンゴの許諾なく使
  用した上、「まずはこちらをご覧ください」と表示し、その先に「ニコニコ動画とは」「ニコニコ動画の
  使い方」「ニコニコ動画の活かし方」「お問い合わせ」といった名称のリンクを表示する(リンク先は
  未だ制作中)などしており、本件ドメイン名は、取引者および需要者のみならず一般世人をし
  て申立人と登録者との間に緊密な取引上または組織上の関係があるものと誤認混同を生じ
  させるおそれが極めて高いと指摘して、登録者が本件ドメイン名についての権利または正当な
  利益を有していないと主張した。

  これに対し登録者は、登録した本件ドメイン名「ニコニコ動画.JP」は、約6年前から取組みは
  じめた自己PRの啓蒙活動への、自己PRを楽しく磨ける環境を創造する過程で、自己PRに
  必要な笑顔、つまり「ニコニコ」と、自己PRをビデオなど画像録画、つまり「動画」を生かすことで
  自分自身の自己PRを自分で確認したり仲間に見せてアドバイスをし合えるという新しい勉強
  スタイルの環境を作ろうと考え、そのために分かりやすく覚えやすい日本語ドメインを決めようと考
  えて編み出したのが「ニコニコ」と笑顔で自己PRしたものを「動画」にして学ぶという意味を有す
  「ニコニコ動画.JP」であると反論した。

  また、登録人サイト上に申立人の本件商標を使用したことについてはその無断掲載を認め、
  「たまたま同名であった申立人の動画配信の仕組みを、自己PRを動画を生かして学ぶ環境の
  構築に使おうと安易に取り入れようとしたことが誤解を招いてしまい失敗したなと感じている。」と
  釈明した。

ウ  そこで検討するに、登録者の上記反論には、分かりやすく覚えやすい日本語ドメインを決めよう
  と自ら編み出したのが「ニコニコ動画」であるとの主張はあるものの、それが編み出されたのが「自
  己PRを楽しく磨ける環境を創造する過程」であるとのみで、状況や時間軸が不明であり、それ
  らを裏付ける証拠の提出もない。登録者の陳述中の「6年前」という数字は「自己PRの啓蒙
  活動に取組みはじめた年」のこととれるから、「ニコニコ動画」を編み出した年とは関係がない。し
  たがって、登録者が編み出したという陳述には客観性がなく時間軸が不明であって信憑性が確
  認できないので、これを認めることができない。

  また、登録者は、申立人の「ニコニコ動画について申立人が有している商標権や過去および現
  在にわたり行なっている活動、商標「ニコニコ動画」の日本における著名性(特にインターネット
  分野おける高度の著名性)から考えて、本件ドメイン名を取得しようとした登録者が、その登録
  時に申立人の本件商標「ニコニコ動画」を知らなかったということは経験則上あり得ない」という
  主張に対する直接的な反論を行なっていない。

  したがって、パネルは、登録者は、本件ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有してい
  ないと認定する。


(3)登録者の本件ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること (処理方針第4条
   a (iii))
  ア.  両当事者の主張、および、判断
  (ⅰ) 申立人は、本件ドメイン名が不正の目的で登録または使用されている主張の一つに、本件
    商標の著名性や本件サイトの内容から、登録者が申立人の商標を知らずにこれと無関係に
    本件ドメイン名を偶然に登録したということは考えられず、客観的に見た場合、登録者の意図
    ないし目的は、申立人の商標と同一の本件ドメイン名を登録することにより何らかの経済的利
    益を得ることにあると考えざるを得ない。これは登録者がJPRSの公開情報上自らの住所や連
    絡先を明らかにしていないという「匿名性」にも現れていると主張した。

  (ⅱ) これに対し登録者は、本願ドメイン名が自己PRに必要な笑顔、つまり「ニコニコ」と、自己P
    Rをビデオなど画像録画、つまり「動画」を生かすことで自分自身の自己PRを自分で確認した
    り仲間に見せてアドバイスをし合えるという新しい勉強スタイルの環境を作ろうと考え、そのために
    分かりやすく覚えやすい日本語ドメインを決めようと考えて編み出したのが「ニコニコ」と笑顔で自
    己PRしたものを『動画』にして学び、そして日本を元気にしたい!という想いを .jp というトッ
    プレベルドメインで表すことが、取得した「ニコニコ動画.jp」に込められていると反論した。そして、
    自己PRの練習を動画を使ってやる仕組みを思案中に、たまたま同名の申立人のニコニコ動画
    のシステムを使って上手く仕組みが構築できないものかと思いつき、さらに、自分も使い方を紹
    介するサイトをまず作ってみてもいいかなと思い、使い方を紹介するサイトだから、申立人である
    ドワゴンにも利用者(ユーザー)が増えてメリットがあるだろうと考えたと反論した。

     しかしながら、登録者が申立人サイトにアクセスした時点、もしくはそれ以前に、登録者が既
    に同名の「ニコニコ動画」を採用していたり使用していたりしたという事実を証するものは何も提
    出されていない。 したがって、「たまたま同名」の申立人のニコニコ動画のシステムの存在を知っ
    たという登録者の主張については、これを認定することができない。

     また、登録者は、本件において、ロゴの無断掲載に関しては罰をうけなければならない事
    態が発生しているのなら当然その報いやお咎めは受けるべきだと思っていると述べているように、
    既に自己のサイト上に申立人に無断で申立人の商標を掲載したり、ニコニコ動画へのリンクを
    張ったり削除したりの行為を行なっている。

  (ⅲ) これら一連の両当事者の行為を時間軸を中心に総体的に判断したうえ、紛争パネルは、登
    録者が本件ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないと認定する。

  (ⅳ) なお、登録者は、上記申立人主張中の匿名性の指摘に関しては、㈱日本ドメインに連絡口
    を一本化するために、JPRSの公開情報上にはそれらの情報が出ないように設定したためであって
    (乙16)、登録者の連絡先や所在を隠すためではない旨反論している。

  イ また、登録者は、下記の陳述をしているので、検討する。
    ①そもそもニコニコ動画は、「ニコニコ」と「動画」という世間一般によく使われている二つの言葉を単
     純に組み合わせただけのものである。「Google」では「ニコニコ」について約4,840万件、
     「Yahoo」では約13,000万件、「動画」については「Google」では約28,000万件、「Yahoo」
     では約96,100万件13,000万件のウエブサイトが検索される。(乙12、13、14、15)。
    ②商標に関しては、申立人の商標権の指定商品:第38、41、42類以外の範囲である商品命
     やサービス名であれば、同名であっても何ら問題ではない筈である。

    上記①について、登録者は、「世間一般によく使われている二つの言葉を単純に組み合わせただけ
    のものである」という指摘を行なっているが、だからそれが何なのかという主張がない。そのためたパネル
    には上記①の陳述の意図が判然としないのであるが、商標は常に指定商品/指定役務との関係
    において商標性の有無が判断されるものであるから、造語でなければならないというものではなく、世
    間一般によく使われている言葉であるから、あるいは言葉の結合だから、商標にはなり得ないという
    ものではない。指定される商品や役務との関係において自他商品の識別性のある言葉はたとえ世
    間一般に使用されている言葉であっても登録要件を具備し登録されることは可能である。それゆえ、
    本願商標が、世間一般でよく使われる二個の言葉を単純に組み合わせただけという登録者の指摘
    は、本願商標の商標性を否定する根拠とはなり得ない。なお、商標は原則として全体を総合的に
    考察されるべきものであって、本件商標「ニコニコ動画」については、それを「ニコニコ」と「動画」に分
    離して考察されなければならない必然性はどこにも見出し得ないから、登録者のこの点に関する主
    張は認められない。

    上記②に関してもまた、登録者の陳述の意図が明確でない。上記②における登録者の主張は、
    「商標に関しては、申立人の商標権の指定商品:第38、41、42類以外の範囲である商品名や
    サービス名であれば、同名であっても何ら問題ではないはずである。」というものであるが、もしこれが
    「商標と商品/役務」に関する原則につき述べているのであれば、登録者の主張は原則的に正しい
    といえる。ただし、乙第5号証(「自己PR総合研究所」のホームページ)に示す登録者の役務は指
    定役務第41類の知識の教授(41A01)やセミナーの企画・運営又は開催(41A03)などに該
    当すると思えるから、その場合は登録者の役務は申立人の商標権と抵触すると判断される。

  ウ 登録者の答弁書の「今回のドメインン紛争に対する私の意見」について
    登録者は、「私の意見」として要約下記のものを陳述した。そこでパネルは、これらの意見につき検
    討をしたので、各項目毎に記載する。

    i)登録者の意見は、ドメインは、先願主義が原則であることを申立人は当然承知のはずである。し
      かし登録人が取得した2008年5月21日以前の段階で、ニコニコ動画.jpというドメインを申立
      人自らが取得していなかったことは、そもそもニコニコ動画.jpという日本語ドメインがユーザーに間
      違われることは無いと認識していることの証明ではないかというものである。

      登録者指摘のとおり、ドメインも商標も先願主義の原則を採用している。しかしそれは原則であ
      って先願が常にオールマイティであるということにはならない。先願すなわち「早い者勝ち」には多く
      の短所もあるので、JPはドメイン名紛争処理方針を定め、商標法や不正競争防止法等は各
      法律において短所を補う方策を講じ、これらの法が互いにからみあいながら市場における業務の
      正常で公平な運用を図っているのである。

    ii)登録者の意見は、ニコニコ動画.jpのサイトへのアクセスは、一日に数件(乙9)ほどであり、申立
      人の主張する1000万人のユーザーや累計動画再生数100億回を達成していることから考え
      て、現時点でドメインを間違えてニコニコ動画jpサイトに申立人の取引関係者やユーザーが訪問
      しているとはほぼ考えられない。申立人のニコニコ動画が著名であればあるほど、nicovideo.jpとい
      う申立人のサイトアドレスが広く認知されているからであると考える。

      ドメイン名に限っていえば、申立人のニコニコ動画が著名であればあるほど、nicovideo.jpという申
      立人のサイトアドレスが広く認知されるであろうと考えられるから、登録者の意見はそのとおりであ
      る。しかしそのサイトには申立人の本件商標「ニコニコ動画」が出てくるのであるから、nicovideo.jp
      とともに、「ニコニコ動画」もまた著名性を向上させるから、サイトアドレスnicovideo.jpとともに
      「ニコニコ動画」の著名度もまた広く認知されることになる。

  エ 紛争パネルは、登録者が、その提出した答弁書の諸所において陳述する主観的、心情的内容に
    関して配慮をもってその裏づけに努めたが、陳述を立証する証拠がないため主張の信憑性を確立
    することができなかった。したがって客観的には申立人の著名商標とその要部において同一であり、
    申立人の商標との間に誤認混同を生じさせるおそれが極めて大きい本件ドメイン名は、登録者が
    何等かの商業上の利得を得ようとする不正の目的で登録および使用したと認定する。

6 結論
  以上に照らして、紛争処理パネルは、登録者によって登録されたドメイン名「ニコニコ動画.JP」が、
 申立人の商標と混同を惹起するほど酷似し、登録者が当該ドメイン名について権利又は正当な利益
 を有しておらず、登録者のドメイン名が不正の目的で登録され、かつ使用されているものと裁定する。
  よって、紛争処理方針第4条 i に従って、ドメイン名「ニコニコ動画.JP」を申立人に移転するもの
 とし、主文のとおり裁定する。


2009年10月2日

日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル

               下坂スミ子

               単独パネリスト


別記  手続の経緯
(1)申立書受領日
      電子メール 2009年7月22日 書面 2009年7月24日
(2)手数料受領日
      2009年7月24日  申立手数料の受領確認
(3)ドメイン名及び登録者の確認
      2009年7月28日  JPRSへ照会
      2009年7月28日  JPRSから登録情報の確認
      確認内容:申立書に記載された登録者はドメイン名の登録者であること
(4)適式性
        日本知的財産仲裁センター(以下、センターという。)は、2009年7月28日に申立書が処理
      方針と規則に照らし申立人に対し連絡先の一部と証拠一覧表の追完を求めることが相当と判断
      し、この旨を連絡し、2009年8月5日に追完書類を受領した。
(5)手続開始日  2009年8月5日
      手続開始日の通知  2009年8月5日
      申立人らへ通知(電子メール、ファクシミリ及び郵送)
(6)登録者への通知日及び内容
      1) 2009年8月5日(電子メール及び郵送)
      2) 申立書及び証拠等一式
      3) 答弁書提出期限  2009年9月2日
(7)答弁書の提出の有無及び提出日
      センターは、登録者の2009年9月1日付答弁書を2009年9月2日に受領した。
(8)パネリストの選任  2009年9月9日
      申立人らは1名のパネルによって審理・裁定されることを選択。
      中立宣言書の受領日:2009年9月25日
      パネリスト:下坂 スミ子
(9)紛争処理パネルの指名及び裁定予定日の通知
      2009年9月10日  JPNIC及びJPRSへ通知(電子メール)
                              申立人及び登録者へ通知
                             (電子メール、ファクシミリ及び郵送)
      裁定予定日:2009年10月2日
(10)パネリスト指名書及び一件書類受け渡し
      2009年9月10日(電子メール及び郵送)
 (11)求釈明
    センターは、パネリストの要請により、2009年9月29日に、申立人に対して釈明事項を示し、主
    張・立証のための陳述・書類の追加を求めた(2009年10月1日期限)。これに対して、10月1
    日に申立人から回答書を受信し(電子メール)、同月2日に書面を受領した。
(12)パネルによる審理・裁定
      2009年10月2日  審理終了、裁定。