事件番号:JP2011-0008

                  裁 定

申立人:
(名称) グーグル インコーポレイテッド
(住所) アメリカ合衆国 カリフォルニア州 94043 マウンテン ビュー
     アンピシアター パークウェイ 1600
代理人  弁護士 五十嵐 敦
         古西 桜子
(住所) 〒106-6123  東京都港区六本木六丁目10番1号
     六本木ヒルズ森タワー23F
           TMI総合法律事務所
登録者:
(名称) アリ マハモド モスタファ マハモド
(住所) 〒351-0031  埼玉県朝霞市宮戸1丁目5番92号
     ヴェズレーの丘W棟10号室

 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針、JPドメイン
名紛争処理方針のための手続規則及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理方
針のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立書・提出された証拠に基づいて審理を
遂げた結果、以下のとおり裁定する。

1 裁定文
  ドメイン名「youtube.ne.jp」の登録を申立人に移転せよ
2 ドメイン名
  紛争に係るドメイン名は「youtube.ne.jp」である。
3 手続の経緯
  別記のとおりである。

4  当事者の主張
  a   申立人
 申立人は、申立人の登録商標YouTubeを実質的に模写し、マークにおける申立人の世界
的な著名性を利用する意図をもって登録者によって採択されたドメイン名を登録している
ことを主張する。申立人によれば、ドメイン名は、申立人の商標と混同を引き起こすほど
に類似し、登録者はドメイン名について正当な利益を有していない、そしてドメイン名は
不正の目的で登録され且つ使用されている。
 従って、申立人は、ドメイン名登録の申立人への移転を請求する。
  b 登録者
 登録者によって答弁書は提出されなかった。

5 争点および事実認定
 規則第15条(a)は、パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原則につ
いてパネルに次のように指示する。「パネルは、提出された陳述・文書および審問の結果に
基づき、処理方針、本規則および適用されうる関係法規の規定・原則、ならびに条理に従
って、裁定を下さなければならない。」
 方針第4条aは、申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図してい
る。
 (1)  登録者のドメイン名が、申立人の権利または正当な利益を有する商標その他表示
     と同一または混同を引き起こすほど類似していること
 (2)  登録者が、ドメイン名の登録についての権利又は正当な利益を有していないこと
 (3)  登録者のドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること

 (1)  同一又は混同を引き起こすほどの類似性
 申立人は、「YouTube」という商標の所有者であり、この商標は、日本を含む世界各国に
出願登録されている(以下、「申立人の表示」という。別紙、甲第1号証、YouTube(標準
文字)、国内登録番号:第4999382号、登録日:平成18年10月27日;YouTube、
国内登録番号:第4999383号、登録日:上記と同日;YouTube、国際登録第991
364号、国際登録日:平成20年10月16日;YOUTUBE, 国際登録第995316号、
国際登録日:平成20年12月11日)。申立人は、この商標を営業表示として動画共有サイ
ト「youtube.com」を営んでおり(以下、「申立人サイト」という。甲第2号証)、一般的に
トップレベルドメインを省略した「YouTube」と呼ばれて親しまれている。
 登録者は、2011年3月16日に、本件ドメイン名「youtube.ne.jp」をJPRSに登録
している(甲第3号証)。JPRSに登録されている本件ドメイン名「youtube.ne.jp」のうち、
「.jp」の部分はトップレベルドメインと呼ばれる国別コードから成り、また「.ne」の部分
は属性型ドメインと呼ばれる部分から成っているので、本件ドメイン名において主たる識
別力を有するのは、「youtube」の部分である。従って、本件ドメイン名「youtube.ne.jp」
の要部は「youtube」である。
 以上により、本件ドメイン名の要部「youtube」は、申立人の表示、欧文字のスペリング
および呼称と同一又は実質的に同一であるので、申立人の商標及び営業表示と実質的に同
一であり、かつ、誤認混同を引き起こすほどに類似している。

 (2)  権利又は正当な利益
 申立人の表示は申立人のオリジナルであり、登録者は、申立人と何の関係も持たず、か
つ、申立人は、登録者に対し本件ドメイン名に関してライセンスを付与していない。
 申立人サイトは世界的に著名であり(申立人サイトにアップロードされた動画の一日の
再生回数が2009年10月時点で10億回を突破している。甲第4号証)、この「YouTube」
という表示は、申立人の表示として日本においても著名である(日本語の題字の動画での
閲覧回数が累計100万回単位であり、申立人サイトにアップされた動画の一日の再生回
数が8,000回以上である。甲第5号証)。
 他方、登録者は、本件ドメイン名について、リダイレクト用ネームサーバーを使用し、
本件ドメイン名を入力した一般閲覧者を別のサイト(http://japan.jalss.com, 以下「 登録
者サイト」という)に転送して誘導するように設定している(甲第6号証)。この登録者サ
イトでは、「NPO 法人HEART」が当該サイト運営者である旨説明しているが、当該法人と
本件ドメイン名の要部「youtube」とは一致しない。ところで、NPO 法人を名乗るために
は、特定非営利活動促進法に基づいて法人格を取得する必要があるが、登録者および登録
者サイトは所定の手続を経ずにNPO 法人を名乗っている可能性が高い(甲第7・8号証)。
 日本で「YouTube」という申立人の表示が著名になった後の2011年3月16日に本件
ドメイン名「youtube.ne.jp」が登録されたことは、申立人の表示の著名性を利用して、URL
入力欄に申立人の表示を入力して申立人サイトを探そうとするインターネットユーザーを
登録者サイトに誘導する意図をもって本件ドメイン名が登録されたとも考えられる。
 申立人の調査によれば、本件ドメイン名と実質的に同一と認められる商標登録を登録者
は有していない。
 以上に基づいて、登録者は、本件ドメイン名について関連する権利および正当な利益を
有していないと認定される。

 (3)  不正の目的で登録及び使用
ア 本件ドメイン名について、上記(2)のとおり、
   (ア)  本件ドメイン名は、リダイレクト用ネームサーバーを使用して、登録者サイ
       トに転送されるようになっていること
   (イ)  登録者サイトを所定の手続を経ずにNPO 法人を名乗っている可能性が高い
       こと
   (ウ)  申立人の表示の著名性を利用して、URL入力欄に申立人の表示を入力して申
       立人サイトを探そうとするインターネットユーザーを登録者サイトに誘導す
       る意図をもって本件ドメイン名が登録されたとも考えられること に加え、
   (エ)  登録者サイトは、その画面冒頭に、英語および日本語で、2011年3月1
       1日に発生した東日本大震災の被災者支援の名目で、義援金を募っているこ
       と(甲第8号証)
   (オ)  本件ドメイン名を記載することで、当該ドメイン名の要部「youtube」をイ
       ンターネットユーザーに示し、同ユーザーに対し、恰も申立人が運営する
       「YouTube」が登録者サイトを支援しているかのような誤解を生じさせる内
       容であること
     それぞれが明らかである。

イ 不正の目的での登録及び使用(JPドメイン名紛争処理方針第4条b.(iv))
  本件ドメイン名は、上記(1)のとおり、申立人の表示と実質的に同一であり、
 本件ドメイン名に接した顧客をして出所の誤認混同を惹起していることは、本件ドメ
 イン名に対する50万/日もの膨大なアクセス数という登録者自身の記述(甲第9号証)
 から、明らかである。
  さらに、登録者は、本件ドメイン名について、申立人の表示の著名性を利用して、UR
 L入力欄に申立人の表示を入力して申立人サイトを探そうとするインターネットユー
 ザーを登録者サイトに誘導し、虚偽のNPO法人の名称により義援金名目で金銭を集め
 させ、かつ、申立人サイトと登録者サイトとの間に何らかの協力関係があるかのよう
 な誤認をインターネットユーザーに生じさせるような記述をしていること(上記ア(オ)
 )から、登録者が、商業上の利得を得る目的で、登録者サイトの出所、取引関係等に
 ついて誤認混同を生じさせることを意図して、インターネットユーザーを登録者サイ
 トに誘引するために、本件ドメイン名を使用していると認定される。

ウ 実費金額を超える対価で転売することを目的とする登録(JPドメイン名紛争処理方針
  第4条b.(i))
   (カ)  登録者は、本件ドメイン名の取得日から僅か約1カ月しか経過していない2
       011年4月13日に、NPO法人であると詐称して、被災地東日本を支援す
       るという名目で、本件ドメイン名の買取価格が少なくとも11,645,250USド
       ル(約97万6,802円)を下らない旨を申立人に提案して来た(甲第10号証の
       3)。ドメイン名の取得に要する費用は、通常、高くても1万円程度と言われ
       るので、登録者の申立人に対する提案が、不当に高額であると思料する。
   (キ)  申立人は、6月17日に、登録者が登録担当者および技術連絡担当者として
       公開している電子メールアドレス(info@jalss.com)を通じて、登録者に対し、
       本件ドメイン名の登録取消または移転等を申し出た(甲第11号証)。同日、
       登録者は、ドメイン名移転の他の事例の買取価格が1,200万ドル(約 9億
       6,480円)を下らない旨述べ、本件ドメイン名を取得後 約3カ月しか経過
       していないにも拘わらず、本件ドメイン名の高額買取を強く要望した(甲第
       9号証)。
     これらの事実から、本件ドメイン名は、まさに、JPドメイン名紛争処理方針第4
    条b.(i)に定められた「当該ドメイン名に直接にかかった金額を超える対価を得るた
    めに、当該ドメイン名を販売、貸与または移転することを主たる目的として、当該
    ドメイン名を登録または取得」したと認定される。

エ 競業者の事業を混乱させることを目的とする登録(JPドメイン名紛争処理方針第4
  条b.(iii))
   本件ドメイン名と申立人の表示とは、欧文字のスペリングが同一であるから、イ
  ンターネットユーザーのうち、日本語版の申立人サイト「youtube.com」を利用しよ
  うとしてURL入力欄に「youtube.ne.jp」と誤って入力する者が一定数存在するこ
  とは、登録者自身が「本ドメイン名は一日に500,000クリックを超えるラン
  キング上位のドメイン」であると述べていること(甲第9号証)から、明らかであ
  る。そのようなインターネットユーザーがリダイレクト設定により登録者サイトに
  誘導されることによって、目的としていた申立人サイトに辿り着けないこととなり、
  結果として、インターネットユーザーによる申立人サイトの利用が妨害され、その
  結果、申立人の事業を混乱させるおそれが高い。
   従って、本件ドメイン名は、競業者の事業を混乱させることを目的とする登録で
  あると推認される。

6 結論
 以上に照らして、紛争処理パネルは、登録者によって登録されたドメイン名
「youtube.ne.jp」が申立人の商標「YouTube」と混同を引き起こすほど類似し、登録者が、
ドメイン名について権利又は正当な利益を有していない、登録者のドメイン名が不正の目
的で登録され且つ使用されているものと裁定する。
 よって、方針第4条iに従って、ドメイン名「youtube.ne.jp」の登録を申立人に移転す
るものとし、主文のとおり裁定する。

  2011年11月15日

  日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル

               小原喜雄

              単独パネリスト



別記  手続の経緯
(1)申立書受領日
      電子メール及び書面 2011年9月8日
(2)手数料受領日
      2011年9月8日  申立手数料の受領確認
(3)ドメイン名及び登録者の確認
      2011年9月8日  JPRSへ照会
      2011年9月8日  JPRSから登録情報の確認
      確認内容:申立書に記載された登録者はドメイン名の登録者であること
(4)適式性
      日本知的財産仲裁センター(以下、センターという。)は、2011年9月13日
  に、申立書が処理方針と規則に照らし、申立人の電話番号、ファクシミリ番号及び電
  子メールアドレスの記載及び申立の対象となっているドメイン名に適用される処理方
  針の写しの添付を追完すべき旨の申立不備通知を、電子メールおよびファクシミリに
  て申立人に対し送信し、翌14日、補正書の文書ファイルを電子メールにより受信し、
  必要通数の補正書を受領した。
(5)手続開始日  2011年9月15日
      手続開始日の通知  2011年9月15日に申立人、登録者、JPRS及びJPNICへ通
  知(電子メール及び郵送)
(6)登録者への通知日及び内容
      1) 2011年9月15日(電子メール及び郵送。郵送分は「保管期間経過」とし
                て当センターに返送された。)
      2) 申立書及び証拠等一式
      3) 答弁書提出期限  2011年10月18日
(7)答弁書の提出の有無及び提出日
      日本知的財産仲裁センターは、提出期限日までに答弁書を受領しなかったので、2
  010年10月19日に「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不出通
  知書を、電子メールと郵送にて申立人および登録者に送付した(登録者宛郵送分につ
  いては前記同様、返送された)。
(8)パネリストの選任  2011年10月25日
      申立人は1名のパネルによって審理・裁定されることを選択。
      中立宣言書の受領日:2011年10月31日
      パネリスト:小原 喜雄
(9)紛争処理パネルの指名及び裁定予定日の通知
      2011年10月27日  JPNICおよびJPRSへ通知(電子メール)
                           申立人および登録者へ通知(電子メール及び郵送。登
               録者宛郵送分については前記同様、返送された)
      裁定予定日:2011年11月15日
(10)パネリスト指名書及び一件書類受け渡し
      2011年10月25日(電子メール及び郵送)
(11)パネルによる審理・裁定
      2011年11月15日  審理終了、裁定。