事件番号:JP2011-0010


             裁 定

申立人:
(名称) iRobot Corporation
(住所) 8 Crosby Drive Bedfond, MA 01730
代理人: 弁護士 窪田英一郎
登録者:
(名称) Dotname Korea Corp
(住所) 3rd F1.Sam-ik-Ra-Bi-Dol bd. Yeoksam 2 dong,
     Gangnamu-gu,Seoul

  日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処
理方針、JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則及び日本知的財
産仲裁センター JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則の補則
並びに条理に則り、申立書・答弁書・提出された証拠に基づいて審理
を遂げた結果、以下のとおり裁定する。

1.裁定主文
  ドメイン名「IROBOT.JP」の登録を申立人に移転せよ
2.ドメイン名
  紛争に係るドメイン名は「IROBOT.JP」である。
3.手続経緯
  別記のとおりである。

4.当事者の主張
 a 申立人
  申立人は次のように主張する。登録者のドメイン名は、申立人が
 権利または正当な利益を有する商標その他表示と同一または混同を
 引き起こすほどに類似し、登録者は当該ドメイン名に関係する権利
 または正当な利益を有していない、即ち、本件ドメイン名を入力し
 ても、そのドメイン名を持つサイトにアクセスすることはできず、
 本件ドメイン名はウェブ上で使われておらず、登録者は本件ドメイ
 ン名を利用した事業を行っていない。そして登録者のドメイン名は
 不正の目的で登録されている。登録者は、本件ドメイン名の他に、
 148件のJPドメイン名を登録、保有しているところ、149件
 のJPドメイン名のうち登録者自身が使用しているものは僅か3件
 にすぎず、登録者以外の第三者が使用しているものは25件であり、
 残り121件はウェブ上で使用されていない。また、上記第三者が
 使用する25件のドメイン名のうち22件のドメイン名は当該第三
 者の名称またはサービス名そのものであり、登録者の名称または事
 業とは無関係である。また、上記ウェブ上で使用されていないドメ
 イン名の中には、ファッションイベントとして著名な「東京ガール
 ズコレクション」と類似する「TOKYO GIRLS COLLECTION.JP」
 や人気漫画「こちら葛飾区亀有公園前派出所」の略称として著名な
 「こち亀」と類似する「KOCHIKAME.JP」等がある。
  また、本件ドメイン名は申立人が日本における営業活動を本格的
 に開始した2004年4月の僅か7ヶ月後に登録者によって登録さ
 れた。「IROBOT」及び「iROBOT」の表示は当時既に申立人の商号
 および商標として著名であること等に鑑みれば、登録者が申立人に
 対して、本件ドメインに直接かかった金額を超える対価を得るため
 に登録者が本件ドメイン名を登録していることは明らかである。
  また、登録者が本件ドメイン名を使用しないで登録を保有し続け
 ること自体、申立人の事業活動に対する妨害を構成する。
  申立人はその主張を裏付ける甲第1号証から甲第83号証までの
 書証を提出した。
  従って、申立人は、ドメイン名登録の申立人への移転を請求する。
 b 登録者
  登録者は答弁書により次のように主張した。
  Dotname Korea Corpは、大韓民国国家公認ドメイン登録代行者
 である。登録者元素柚は、現在まで「www.iRobot.jp」を運営して管
 理する登録者であり、インターネット放送で時事とドキュメンタリ
 ーとロボット中心のインターネット放送「InternetTV-“iRobot.
 jp”を2004年-2012年まで責任と義務を正しく履行した。
  登録者元素柚が8年間幾多の時間と資本を投資して発展させたあ
 らゆる利益を強奪することはできない。
  “irobot.jp”は2004年にはどんな誰にも関心がなかったドメ
 インを10年間活用して価値を進めて来た幾多の時間が経った後、
 他人が欲心のみを先に立たせて相互主張は違背される行為で、侵害
 行為で犯罪行為である。登録者元素柚が8年間深い愛情でインター
 ネット放送で運営してきたドメイン“irobot.jp”を申請者(アメリ
 カ会社)は奪う目的にこのような紛争訴訟は……刑事訴訟の近い犯
 罪行為だ。(以上原文のまま)
  登録者元素柚は、深い愛情で8年の間正当に登録した理由と事由
 で8年間毎年ドメイン登録の根拠として維持費用と登録費用と責任
 と義務を充実に履行した。

5.争点および事実認定
  規則第15条(a)は、パネルが紛争を裁定する際に使用するこ
 とになっている原則についてパネルに次のように指示する。「パネル
 は、提出された陳述・文書および審問の結果に基づき、処理方針、
 本規則および適用されうる関係法規の規定・原則、ならびに条理に
 従って、裁定を下さなければならない。」
  方針第4条aは、申立人が次の事項の各々を証明しなければなら
 ないことを指図している。
  (1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有
    する商標その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似し
    ていること
  (2)登録者が、ドメイン名の登録についての権利または正当な利
    益を有していないこと
  (3)登録者のドメイン名が、不正の目的で登録または使用されて
    いること


  (1)同一または混同を引き起こすほどの類似性
     登録者のドメイン名はIROBOT.JPであり、申立人の登録商
    標はIROBOTであり、IROBOTとIROBOTを比較すれば、外
    観及び称呼において同一である。また、申立人の商号は、iRobot
    Corporationであるところ、その略称と認められるiRobotと
    IROBOTは外観において一部の大文字と小文字の差異がある
    が、称呼において同一であり、結局両者は同一少なくとも類似
    である。
  (2)権利または正当な利益
     登録者は答弁においてDotname Korea Corpはドメインの登
    録代行を業とすることを主張としており、IROBOTなるドメイ
    ン名を事業として使用したこともなければ、使用する可能性も
    ないことを自ら認めている。また、「インターネット放送で時事
    とドキュメンタリーとロボット中心の放送「InternetTV-
    “iRobot.jp”を2004年-2012年まで責任と義務を正
    しく履行した」という主張をIROBOTなるドメイン名を事業と
    して使用してきたという意味に解するとしても、登録者が使用
    したことにはならない。従って登録者には本件ドメイン名につ
    いての権利または正当な利益は認められない。
     結局登録者は8年間ドメイン名の登録を続けていたというこ
    とのみを「IROBOT.JP」なるドメイン名につき自己の権利また
    は正当な利益があるという根拠の主張にしているに過ぎない。
  (3)不正の目的での登録及び使用
     この点に関する申立人の主張立証に対し、登録者は納得でき
    る反論、反証を示していない。殊に、ドメイン登録の時期が「申
    立人の総代理店を通しての事業が日本で盛んになり、その商号
    ならびに商標が当事者や消費者に周知され、マスコミに取り上
    げられていた2004年の11月であったこと。登録者が根拠
    もなく多くの著名なブランドに類似したドメイン名を登録して
    いること」は不正の目的を推測されるのに十分である。


 6.結論
   以上に照らして紛争処理パネルは、登録者によって登録されたド
  メイン名が申立人の商標及び商号等営業表示と混同を引き起こすほ
  ど類似し、登録者が、ドメイン名について権利または正当な利益を
  有しておらず、登録者のドメインが不正の目的で登録され且つ使用
  されているものと裁定する。
   よって、方針第4条iに従って、ドメイン名「IROBOT.JP」の登
  録を申立人に移転するものとし、主文のとおり裁定する。


   2012年1月11日


   日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
               単独パネリスト
               弁護士 小林 十四雄


別記 手続の経緯

(1)申立書受領日
   2011年10月17日 書面
   2011年10月18日 電子メール
(2)手数料受領日
   2011年10月18日 申立手数料の受領確認
(3)ドメイン名及び登録者の確認
   2011年10月18日 JPRSへ照会
   2011年10月18日 JPRSから登録情報の確認
   確認内容:申立書に記載された登録者はドメイン名の登録者で
        あること
(4)適式性
   日本知的財産仲裁センター(以下、センターという。)は、20
  11年10月19日に、処理方針及び規則に照らし、申立書が適
  式であることを確認した。
(5)手続開始日  2011年10月20日
   同日、申立人、登録者、JPRS及びJPNICに対し、20
  11年10月20日が手続開始日であることを、電子メール及び
  郵送により通知した。
(6)登録者への通知日及び内容
   1)2011年10月20日
   2)申立書及び証拠等一式
   3)答弁書提出期限  2011年11月18日
   登録者住所及び公開連絡窓口宛に電子メール及び郵送により通
  知したところ、登録者住所宛郵送分は「あて所に尋ねあたりませ
  ん」としてセンターに返送された。
(7)答弁書の提出の有無及び提出日
   センターは、2011年11月8日、登録者(公開連絡窓口)
  から、登録者が本件対象ドメイン名の「実所有者」であるという
  者に対し、直接連絡することを求める電子メールを受信し、同月
  11日、JPRSに登録された登録者及び公開連絡窓口以外の者
  に対し直接連絡することはできない旨を回答したところ、15日、
  電子メールにより登録者名義の答弁書の送信を受けた。
   しかし、その答弁書は、方式上の要件を備えていなかったため、
  同月17日、手続規則及び同補則に定める事項をすべて記載し、
  権限ある代表者が記名捺印した答弁書に代表者の資格を証明する
  公的書類を添えて12月2日までに提出することを求める旨の答
  弁書不備通知書を公開連絡先に宛てて電子メールにより送信した。
   センターは、11月25日に電子メールにより、12月1日に
  書面により、答弁書の提出を受けた。
(8)パネリストの選任  2011年12月9日
   申立人は1名のパネルによって審理・裁定されることを選択。
   中立宣言書の受領日:2011年12月13日
   パネリスト:小林十四雄
(9)紛争処理パネルの指名及び裁定予定日の通知
   2011年12月12日 JPNIC及びJPRSへ電子メー
  ルにより、また、申立人及び登録者へ電子メール及び郵送により
  通知(登録者住所宛郵送分については前記同様、返送された。)
   裁定予定日:2012年1月5日
(10)パネリスト指名書及び一件書類受け渡し
    2011年12月9日(電子メール及び郵送)
(11)パネルによる審理・裁定
    2012年1月11日 審理終了、裁定。