事件番号:JP2012-0005

                  裁 定

  申立人:
  氏名(名称):SCSK株式会社
  住所:〒104-6241 東京都中央区晴海一丁目8番12号
  代理人:弁護士・弁理士 山内 貴博
  代理人:弁護士 中川 隆太郎
  登録者:
  氏名(名称):有限会社サンファミリア
  住所:〒232-0066 横浜市南区六ツ川二丁目25番地30サンハウス旭が丘202号室

 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針、JPドメイン
名紛争処理方針のための手続規則及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理
方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立書・答弁書・提出された証拠に基づ
いて審理を遂げた結果、以下のとおり裁定する。

1 裁定主文
  ドメイン名「SCSK.CO.JP」の登録を申立人に移転せよ
2 ドメイン名
  紛争に係るドメイン名は「SCSK.CO.JP」である。
3 手続の経緯
  別記のとおりである。

4 当事者の主張
 a 申立人
 申立人は概略以下のとおり主張する。
(1)  本件紛争に係わる登録者のJPドメイン名である「SCSK.CO.JP」(以下「本件登録ド
    メイン名」という。)は、申立人の有する商標権に係る登録商標である「SCSK」
    と同一であるのみならず、申立人の商号である「SCSK株式会社」のうち、法人
    の種別を示す「株式会社」の部分を除いた「SCSK」の部分とも同一である。
(2)  本件登録ドメイン名の登録者は有限会社サンファミリアであり、登録者の商号は本
    件登録ドメイン名と一致せず、類似もしていない。また、登録者らが、本件登録ド
    メイン名と一致又は類似する日本の登録商標を有している事実は確認できなかっ
    た。
(3)  登録者が本件登録ドメイン名を登録したのは、申立人の商号の「SCSK株式会社」
    への変更予定を発表した直後、すなわち同日午後8時35分頃である(証拠番号1-1
    参照)。この1点のみをもってしても、登録者が、申立人に対して当該ドメイン名
    につき取得費用を上回る対価にて転売等すること、又は、申立人のウェブサイトを
    訪れようとするインターネット利用者を自己が運営するウェブサイトに誘引する
    ことにより、不正の利益を得る目的を有していたことは、明らかである。
 従って、申立人は、ドメイン名登録の申立人への移転を請求する。

 b 登録者
  登録者によって答弁書は提出されなかった。

5 争点および事実認定
 規則第15条(a)は、パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原則に
ついてパネルに次のように指示する。「パネルは、提出された陳述・文書および審問の結果
に基づき、処理方針、本規則および適用されうる関係法規の規定・原則、ならびに条理
に従って、裁定を下さなければならない。」
 方針第4条aは、申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図してい
る。
 (1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示
と同一または混同を引き起こすほど類似していること
 (2)登録者が、ドメイン名の登録についての権利又は正当な利益を有していないこと
 (3)登録者のドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること

 (1)同一又混同を引き起こすほどの類似性
 申立人は、その前身である住商情報システム株式会社及び株式会社CSKが合併する際、
住商情報システム株式会社の英語表記(Sumisho Computer Systems Corporation)の略称
である「SCS」と株式会社CSKの「CSK」とを組み合わせて「SCSK」とし、商
号変更により合併後の商号として使用し、また、登録商標としても出願、登録しているも
のであると主張する。
 係る商号決定の経緯ならびに商標登録の事実は、申立人が提出する証拠(証拠番号2な
いし4)により裏付けられる。
 したがって、申立人は、「SCSK」という商標等について権利または正当な利益を有す
るものと認められる。
 本件紛争に係わる登録者のJPドメイン名である「SCSK.CO.JP」は、本申立書提出日現在、
株式会社日本レジストリサービスにより、「有限会社サンファミリア」を登録者として登録
されている(証拠番号1-1)。
 本件登録ドメイン名のうち、使用主体が属する国及び組織を表示するものにすぎない
「CO.JP」の部分を除いた「SCSK」の部分は、申立人の有する商標権に係る登録商標である
「SCSK」(商標登録第5436238号(証拠番号2)及び第5440949号(証拠番号3)と同
一である。そして、申立人の商号である「SCSK株式会社」のうち、法人の種別を示す
「株式会社」の部分を除いた「SCSK」の部分とも同一である。
 したがって、本件登録ドメイン名は、申立人が権利または正当な利益を有する商標その
他表示と同一または混同を引き起こすほど類似しているものと認められる。
 なお、申立人は、本件登録ドメイン名は、申立人が自己のウェブサイトにおいて用いて
いるドメイン名である「SCSK.JP」と混同を引き起こすほど類似していることは明らかであ
る、とも主張するが、前記ドメイン名の使用は証拠によって裏付けられていないので斟酌
しない。

 (2)権利又は正当な利益
 本件登録ドメイン名の登録者は有限会社サンファミリアであり(証拠番号1-1)、登録者
の商号は本件登録ドメイン名と一致せず、類似もしていない。
 また、申立人は、特許電子図書館(http://www.ipdl.inpit.go.jp/homepg.ipdl)にて確
認する限り、本申立書提出日現在、登録者、登録者の代表取締役である李偉卓氏、登録者
の取締役である野口幸廣氏、及び同氏が代表取締役を務め登録者の関連会社と推測される
三洋ガス株式会社が、本件登録ドメイン名と一致又は類似する日本の登録商標を有してい
る事実は確認できなかった旨主張するところ、係る事実は証拠番号9-1ないし9-4で
確認することができる。
 そうすると、登録者が本件登録ドメイン名の登録についての権利も正当な利益も有して
いないものと推認することができる。

 (3)不正の目的での登録及び使用
 申立人は、登録者が本件登録ドメイン名を登録したのは、申立人の前身である住商情報
システム株式会社及び株式会社CSKが、平成23年2月24日に、記者発表や「住商情報
システム株式会社と株式会社CSKの合併契約締結に関するお知らせ」と題する同日付プ
レスリリース(証拠番号4)において両社の合併及びそれに伴う存続会社の商号の「SC
SK株式会社」への変更予定を発表した直後、すなわち同日午後8時35分頃である(証拠
番号1-1)。この1点のみをもってしても、登録者が、上記発表に接し、「SCSK株式会
社」が著名になることを見越して、自己の商号や業務内容と関連性がまったく無い本件登
録ドメイン名を取得し、申立人に対して当該ドメイン名につき取得費用を上回る対価にて
転売等すること、又は、申立人のウェブサイトを訪れようとするインターネット利用者を
自己が運営するウェブサイトに誘引することにより、不正の利益を得る目的を有していた
ことは、明らかであると主張する。
 登録時期がプレスリリース(証拠番号4)の直後であること、本件登録ドメイン名の要
部である「SCSK」が造語であることに加え、「SCSK」とは、登録者の名称の英文表
記である「Sunfamilia Corporation」の頭文字と、「設備」と「化粧品」の頭文字を組み合
わせたものである旨述べた(証拠番号5)、という登録者の説明がいささか不自然であるこ
とを加味しても、これらの事実は登録者の悪意を感じさせるものではあるものの、これら
の事実のみをもって不正の目的を認定することはできない。
 そこで更に検討する。
 申立人は、本件申立前の交渉段階において、登録者の取締役である野口幸廣氏から7万
円くらいで本件登録ドメイン名の譲渡という条件の提示を受け(証拠番号8)、申立人は、
早期解決を実現すべく野口氏の要求に応じ、譲渡代金を7万円とすること等を内容とする
ドメイン名譲渡契約書の案文を作成し、電子メールで送付した(証拠番号6)ことが認め
られる。登録者は自ら条件を提示しつつも、本件申立に至っていることから、登録者は交
渉に誠実に対応しなかったものと推認できる。
 更に、登録者は、本申立書提出日現在、本件登録ドメイン名を用いて内容のあるウェブ
サイトを設営していないことが認められる(証拠番号7)。
 以上を総合すると、登録者は不正の目的、すなわち申立人の事業を妨害し、不当な経済
的利益を獲得することを主たる目的として本件登録ドメイン名を登録したものと言わざる
を得ない。

6 結論
 以上に照らして、紛争処理パネルは、登録者によって登録されたドメイン名「SCSK.CO.JP」
が申立人の商標と混同を引き起こすほど類似し、登録者が、ドメイン名について権利又は
正当な利益を有していない、登録者のドメイン名が不正の目的で登録されているものと裁
定する。
 よって、方針第4条iに従って、ドメイン名「SCSK.CO.JP」の登録を申立人に移転する
ものとし、主文のとおり裁定する。



   2012年4月26日

   日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
                            峯  唯 夫
              単独パネリスト



別記  手続の経緯
(1)申立書受領日
      電子メール及び書面 2012年2月28日(電子メール書面)
(2)手数料受領日
      2012年1月28日  申立手数料の受領確認
(3)ドメイン名及び登録者の確認
      2012年1月28日  JPRSへ照会
      2012年1月28日  JPRSから登録情報の確認
      確認内容:申立書に記載された登録者はドメイン名の登録者であること
(4)適式性
      日本知的財産仲裁センター(以下、センターという。)は、2012年2月28日に、
申立書が処理方針と規則に照らし申立書が適合していることを確認した。
(5)手続開始日  2012年2月29日
      手続開始日の通知  2012年2月29日に申立人、登録者、JPRS及びJPNICへ通
知(電子メール及び郵送)
(6)登録者への通知日及び内容
         1) 2012年2月29日(電子メール及び郵送)
      2) 申立書及び証拠等一式
      3) 答弁書提出期限  2012年3月29日
(7)答弁書の提出の有無及び提出日
      日本知的財産仲裁センターは、提出期限日までに答弁書を受領しなかったので、2
012年3月30日に「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不出通知書を、
電子メールと郵送にて申立人および登録者に送付した。
(8)パネリストの選任  2012年4月5日
      申立人は1名のパネルによって審理・裁定されることを選択。
      中立宣言書の受領日:2012年4月10日
      パネリスト:峯 唯夫
(9)紛争処理パネルの指名及び裁定予定日の通知
      2012年4月5日  JPNICおよびJPRSへ通知(電子メール)
                         申立人および登録者へ通知(電子メール及び郵送)
      裁定予定日:2012年4月25日
(10)パネリスト指名書及び一件書類受け渡し
      2012年4月5日(電子メール及び郵送)
(11)追加書類
   2012年4月19日、パネリストは、手続規則12条の規定により、申立人に対
  し、申立書中「特許電子図書館」の情報に基づく主張事実を裏付ける証拠の補充を求
  め(電子メール)、同日、申立人から追加資料を受領した。
(12)パネルによる審理・裁定
      2012年4月26日  審理終了、裁定。