事件番号:JP2012-0015

                   裁 定

  申立人:(名称)ウエルネル・ウント・メルツ・ゲゼルシヤフト・ミト・ベ
シュレンクテル・ハフツング
  (住所)ドイツ連邦共和国,55120 マインツ,ラインアレー,96
  申立人代理人:弁理士 中村知公
  (送達場所)〒460-0002
      愛知県名古屋市中区丸の内2-17-12 丸の内エステートビル10 階
      小西・中村特許事務所
  申立人代理人  弁理士 伊藤孝太郎
        〒460-0002
    愛知県名古屋市中区丸の内2-17-12 丸の内エステートビル10 階
    小西・中村特許事務所

  登録者  井上寛之
  (送達場所)〒490-1136 愛知県海部郡大治町花常出口90-5

 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JP ドメイン名紛争処理方針、
JP ドメイン名紛争処理方針のための手続規則及び日本知的財産仲裁センター
JP ドメイン名紛争処理方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立
書・提出された証拠に基づいて審理を遂げた結果、以下のとおり裁定する。

1.裁定主文
    本件申立を棄却する。
2.ドメイン名
  紛争に係るドメイン名は「FROSCH.JP」(以下本件ドメイン名とい
う。)である。

3.手続の経緯
 別紙の手続の経緯の通りである。

4. 当事者の主張
 (1)申立人
  ① 申立人は、下記の日本登録商標(以下、「本件登録商標」という。)の
所有者である(甲第1 号証)。
   出願番号:平成10年商標出願第069516号
   出願日 :平成10年8月17日
   登録番号:商標登録第4378680号
   登録日:平成12年4月21日
   商品区分:第3類 指定商品:せっけん類
   商標:
            
                    Frosch商標
  ② 申立人であるウエルネル・ウント・メルツ・ゲゼルシヤフト・ミト・
ベシュレンクテル・ハフツングは、本件登録商標を、本件ドメイン名の登録年
月日である2009年3月17日より、前である2002 年より、日本において
商品「食器用洗剤」につき使用しており、現在においては、旭化成ホームプロ
ダクツ株式会社が正規代理店となり、全国において商標Frosch を付した食器
用洗剤の販売を展開している(甲第14 号証)。そして、本件登録商標は、本件
ドメイン名の登録年月日前である2009年3月17日より前から、多数の雑
誌、新聞で取り上げられており(甲第2 号証乃至甲第13 号証)、日本の需要者・
取引者間に広く認識されていた。
  ③ 1980 年代、ヨーロッパの深刻な環境問題を契機に、ドイツにおける環
境意識の急激な高まりとともに、環境にやさしい洗剤を求めるようになった。
申立人は、そのような意識の変化にこたえて、1986 年環境にやさしい家庭用洗
剤のさきがけとして本件登録商標を使用する商品Frosch を開発し販売を開始
した。
  ④ 申立人の立証責任がある以下の3点について、論述する。
   ア 登録者井上寛之氏の本件ドメイン名が、申立人が権利または正当な
利益を有する商標その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似している
か
  登録者井上寛之氏の本件ドメイン名は、FROSCH.JP である。一方、申立
人の本件登録商標は本項①に記載の通り、カエルの図形商標とFrosch の文字
を上下に配してなる商標である。
 ここで、登録者井上寛之氏の本件ドメイン名FROSCH.JP は、JP がドメイ
ン名の国コードを表す共通の表示であるから、FROSCH が識別する機能を発
揮する部分である。
 他方、本件登録商標はカエルの図形とFrosch の文字からなる商標であると
ころ、カエルの図形とFrosch の文字の一方が他方に比較し殊更大きいという
違いはなく、バランスがとれ均等の大きさをもつ構成である。よって、カエル
の図形とFrosch の文字はそれぞれ独立して自他商品の識別力を発揮する部分
である。
 このように、登録者井上寛之氏の本件ドメイン名の識別する機能を有する部
分FROSCHと、申立人の本件登録商標の文字Froschは共通する。したがって、
登録者井上寛之氏の本件ドメイン名FROSCH.JP と、申立人が権利を有する本
件登録商標とは、同一または混同を引き起こすほど類似していることは明らか
である。
  イ 登録者井上寛之氏が本件ドメイン名に関係する権利または正当な利益
を有しているか
  登録者井上寛之氏は、本件ドメイン名FROSCH.JP 若しくはFROSCH に
ついて、日本特許庁に登録商標を所有していない(甲第15 号証)。
 また、登録者井上寛之氏が、本件ドメイン名に係わる紛争に関し、第三者ま
たは紛争処理機関から通知を受ける前に、商品またはサービスの提供を正当な
目的をもって行うために、本件ドメイン名FROSCH.JP、または、これに対応
する名称を使用していた事実はない。また、かかる使用開始の準備を行ってい
た事実はない。
 さらに、登録者井上寛之氏が、本件ドメイン名の名称で一般に認識されてい
る事実はない。
 よって、登録者井上寛之氏は、本件ドメイン名に関係する権利または正当な
利益を有していないことは明らかである。

 ウ 登録者の本件ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されているこ
と
  申立人は、国際分類第3 類のせっけん、洗剤等について、日本をはじめ、
アメリカ、カナダ、ブラジル、イギリス、エストニア、オーストリア、キプロ
ス、トルコ、ドイツ、ポーランド、リトアニア、イスラエル、中国、台湾、香
港の15 の国又は地域において、Forsch の文字を構成要素に含む商標の商標登
録又は商標出願しているものである(甲第16 号証)。
  また、申立人は、国際分類第3 類のせっけん、洗剤等について、Forsch
の文字を構成要素に含む商標の国際登録を5 件所有しており、その指定国には、
欧州の各国を中心に延べ46 カ国が指定されているものである(甲第17 号証乃
至甲第21 号証)。
 申立人の商標Frosch は、ヨーロッパで最も読まれている雑誌リーダーズダ
イジェスト誌が、ヨーロッパ16 カ国で行う消費者調査の中で、読者が選ぶ「最
も信頼できるブランド」の家庭用クリーナーの商品カテゴリーにおいて、ドイ
ツで最も信頼できるブランドに10 年連続で選ばれている(甲第14 号証)。
 また、専門誌「LEBENSMITTEL PRAXIS」が、調査会社「INNOFACT AG」
によって、ドイツ全域で30 万人に及ぶ消費者アンケートを行い、「PRODUKT
DES JAHRES」(年間最優秀製品)を選定しているが、申立人の商標Frosch
は、2005 年に金賞を、2010 年には銅賞を受賞している(甲第14 号証)。
 更に、専門誌「LEBENSMITTEL PRAXIS」が、業界内で最も成功した新商
品についてのアンケートを行い、上位3 位まで受賞することができる「HIT」
(最もヒットした商品)を、申立人の商標Frosch は2009 年から2011 年まで
3 年連続で受賞している(甲第14 号証)。
 このように、申立人の商標Frosch は世界の様々な国や地域で商標登録され、
1986 年から継続して使用されており、特に、欧州において広く知られているも
のである。
 そして、日本では、2002 年より商標Frosch を付した食器用洗剤を販売して
おり、多数の雑誌、新聞でも取り上げられ(甲第2 号証乃至甲第13 号証)、日
本の需要者・取引者の間に広く認識されていたものである。現在では、旭化成
ホームプロダクツ株式会社が正規代理店となり、商標Frosch を付した食器用
洗剤を販売しており、アロエヴェラ、ソーダ、オレンジ、シトラス、パフュー
ムフリーの5種類の製品を展開している。
 また、申立人の商標Frosch は、欧州とりわけドイツの需要者・取引者の間
に広く認識されている商標であるところ、日本からドイツへの年間渡航者数(宿
泊者数)だけを見ても、2003 年度:64 万5 千人、2004 年度:71 万5 千人、
2005 年度:73 万人、2006 年度:75 万9 千人、2007 年度:66 万1 千人、2008
年度:59 万7 千人に及んでおり(株式会社JTB 総合研究所 統計による。
http://www.tourism.jp/statistics/outbound.php)、本件登録商標は我が国にお
いても申立人の業務に係る商品を表示する商標として、本件商標のドメイン登
録時である2009 年3 月17 日には、既に需要者・取引者間に広く認識されてい
たものと推認できる(甲第22 号証)。
 一方、Frosch の語は、ドイツ語で「カエル」を意味する単語であるものの、
日本国民におけるドイツ語の認知度に照らせば、認知されていない単語である。
 よって、登録者が自ら考案し本件登録商標のFrosch の文字に偶然と一致し
たとは想定し難い。むしろ、本件登録商標に依拠し採択されたものと推認せざ
るを得ないものである。
 よって、登録者の行為は、本件登録商標のFrosch の文字がドメイン名とし
て登録されていないことを奇貨としてとして本件ドメイン名を登録したもので
あり、本件ドメイン名の登録は、本件登録商標に化体した信用にただ乗りして
採択されたものと考えられ、本件ドメイン名の使用により本件登録商標の出所
表示機能を希釈化しその名声を毀損させるおそれがある、すなわち、申立人の
事業を混乱させるものである。
 したがって、登録者井上寛之氏は競業者の事業を混乱させることを主たる目
的として、本件ドメイン名を登録している場合に該当するから、登録者の本件
ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていることは明らかである。
 申立人は、ドメイン名の登録に関する請求もしくは救済、紛争または紛争処
理について、登録者のみを相手とするものであり、故意による不法行為を除き、
(a)紛争処理機関およびパネリスト、(b)JPRS 並びにその役員、従業員その他
のすべての関係者、(c)JPNIC 並びにその役員、職員、委員その他のすべての
関係者に対する一切の請求または救済を放棄することに同意する。
 申立人は、この申立書に記載されている情報は、申立人が知りうる限りにお
いて、完全且つ正確なものであり、この申立が嫌がらせなどの不当な目的のた
めになされていないことを保証する。

 (2)登録者
 ① 申立人は、登録者井上寛之の保有するドメイン名:FROSCH.JP が、申
立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と同一または混同を引き
起こすほど類似している、と主張することに対する反論
  申立人が保有する本件商標登録は、「カエル」の図柄とカエルの固有名称(パ
ネリスト注:普通名詞の誤りと思われる)の「FROSCH」を組み合わせただけ
の極めてシンプルなデザインである。登録者井上寛之氏が、カエルの普通名詞
のみをドメイン名に使用することだけでは、本件商標登録に関して類似・混同
しているとは言いがたいと考える。
 ② 申立人は登録者井上寛之の保有する本件ドメイン名FROSCH.JP が、当
該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していない、と主張するこ
とに対する反論
  登録者井上寛之が本件ドメイン名FROSCH.JP を取得した経緯につきま
しては、2008 年より、登録者井上寛之の妻である恵理が、個人事業主としてデ
ザイン・撮影に関する事業を開始し、恵理自身の趣味が昂じて多数コレクショ
ンされていたカエルグッズにちなみ、屋号名称を「フロッシュ」としたことに
始まります(乙第1号証)。その際、本件ドメイン名FROSCH.JP を将来的な
事業展開を考え、2009 年に取得いたしました。その後、現在においても、事業
自体はもちろん、ホームページの開設準備を行なっていることに加え、メール
アドレスにおいては以前から使用しているなど、登録者井上寛之が本ドメイン
名における権利または正当な利益を有していることは明白であると考えます。
 ③ 申立人は登録者井上寛之が、本件ドメイン名FROSCH.JP を不正の目的
で登録または使用されている、と主張することに対する反論
  ②で主張した通り、「カエル」という普通名詞から本件ドメイン名
FROSCH.JP を取得しております。登録者井上寛之の妻である恵理のような、
いわゆる「カエル好き」は日本国内においても各地で「カエル好き」イベント
が開かれるほど全国に数多く存在しており、FROSCH=「カエル」ということ
は十二分に一般的な名称であると考えられます。(乙第2号証)
 このことからも、登録者井上寛之が、申立人が保有する登録商標に対する不
正の目的で事業を混乱させるなど特別な意図は皆無であると考えます。
 登録者は、この答弁書に記載されている情報は、登録者が知りうる限りにお
いて、完全かつ正確なものであり、この答弁書が嫌がらせなどの不当な目的の
ためになされているものではないことを保証する。

5.争点および事実認定
 (1).規則第15条(a)は、パネルが紛争を裁定する際に使用することに
なっている原則についてパネルに次のように指示する。「パネルは、提出された
陳述及び文書の結果に基づき、方針、規則、及び適用されうる関係法規の規定、
原則ならびに条理に従って、裁定を下さなければならない。」
 方針第4条aは、申立人が次事項の各々を証明しなければならないことを指
図している。
  ① 登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標
その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること
  ② 登録者が、ドメイン名の登録についての権利又は正当な利益を有して
いないこと
  ③ 登録者のドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること
 したがって、以上の①から③について申立人の主張について検討する。
 (2).(1)の①乃至③について検討する。
  ① 同一又混同を引き起こすほどの類似性について
    登録者は、本件登録商標について、『「カエル」の図柄とカエルの普通
名詞の「FROSCH」を組み合わせただけの極めてシンプルなデザインである』
として、「カエルの普通名詞のみをドメイン名に使用することだけでは、本件商
標登録に関して類似・混同しているとは言いがたい」と主張する。
   しかしながら、本件登録商標は、カエルの図形商標と、『Frosch』の文
字商標からなる結合商標であるが、カエルの図柄が『Frosch』の上に、横幅は、
『Frosch』より小さく描かれているものの、相互の関係は、密接に関連してい
るという程の結合関係は見らず、両者は一体とも別個とも見られるのであり、
従って文字商標の『Frosch』だけを独立の商標として評価することも可能であ
る。
 他方、登録者の本件ドメイン名は「FROSCH.JP」であり、まず「.JP」の部
分はトップレベルドメインであって国別コードの日本を意味し、使用主体が属
する国を表示するものに過ぎないので、商標の要部は、「FROSCH」である。
  とすると、本件ドメイン名の要部「FROSCH」は、本件登録商標の文字商
標部分である『Frosch』と大文字小文字の違いはあるが、外観・称呼・観念に
おいて類似する。

  ② 権利又は正当な利益の欠如について
    申立人は、本件登録商標の登録の事実の不存在や、本件ドメイン名の
使用の事実の不存在、それに、本件ドメイン名の名称で一般に認識されていな
いことをもって、上記②の要件の不存在を主張するが、主張として十分なもの
ではない。他方、登録者は、『2008 年より、登録者井上寛之氏の妻である恵理
が、個人事業主としてデザイン・撮影に関する事業を開始し、恵理自身の趣味
が昂じて多数コレクションされていたカエルグッズにちなみ、屋号名称を「フ
ロッシュ」としたことに始まります。』と主張する。
 妻がカエル好きであることと、本件ドメイン名である「FROSCH」の関係は、
必ずしも定かではなく、乙1の1乃至同1の3によれば、「フロッシュ」という
屋号(商号ではないが)を使用していることは伺われが、本件ドメイン名であ
る「FROSCH」を使用している事実はない。
 更に登録者にホームページの開設した事実は、現在の所は無い。
 他方、乙1の4乃至同1の5では、登録者は会社名として「Frosch」を名乗
っており、メールアドレスとして「photo-office@frosch.jp」を使用しており、
また名刺の中に、フィルムの箱が記載されているが、その中に「Frosch」の記
載があり、フォトグラファー又はフォトグラフ プランニング デザイナーと
して、本件ドメイン名を使用している事実が見られる。
  従って、登録者に「権利又は正当な利益の欠如」と認定することは出来な
いと言わざるを得ない。なおドメイン名は商標登録の必要はないことは論を見
ないものである。

  ③ 不正の目的での登録または使用
   申立人は、本件登録商標について、国際的に15 の国又は地域において、
Forsch の文字を構成要素に含む商標の商標登録又は商標出願しており、国際分
類第3 類のせっけん、洗剤等について、Forsch の文字を構成要素に含む商標の
国際登録を5 件所有しており、その指定国には、欧州の各国を中心に延べ46
カ国が指定されている(甲16乃至甲21)。そして本件登録商標は、ヨーロッ
パ16 カ国で行う消費者調査の中で、読者が選ぶ「最も信頼できるブランド」の
家庭用クリーナーの商品カテゴリーにおいて、ドイツで最も信頼できるブラン
ドに10 年連続で選ばれているとする(甲14)。専門誌「LEBENSMITTEL PRAXIS」
のアンケートで、上位3 位まで受賞することができる「HIT」(最もヒットした
商品)を、申立人の商標Frosch は2009 年から2011 年まで3 年連続で受賞して
いる(甲14)。このように、申立人の商標Frosch は世界の様々な国や地域で
商標登録され、1986 年から継続して使用されており、特に、欧州において広く
知られているものであると主張している。
  更に、日本では、2002 年より商標Frosch を付した食器用洗剤を販売して
おり、多数の雑誌、新聞でも取り上げられ(甲2乃至甲13)、日本の需要者・
取引者の間に広く認識されて、本件登録商標のドメイン登録時である2009 年3
月17 日には、既に需要者・取引者間に広く認識されていたものと推認できる(甲
22)と主張している。
  本件ドメイン名であるFrosch の語は、日本国内では認知されていない言葉
であり、登録者の行為は、本件登録商標のFrosch の文字がドメイン名として登
録されていないことを奇貨としてとして本件ドメイン名を登録したものであり、
本件ドメイン名の登録は、本件登録商標に化体した信用にただ乗りして採択さ
れたものと考えられ、本件ドメイン名の使用により本件登録商標の出所表示機
能を希釈化しその名声を毀損させるおそれがある、すなわち、申立人の事業を
混乱させるものが主たる目的であるから、登録者の本件ドメイン名が、不正の
目的で登録または使用されていることは明らかであると主張する。
 なるほど本件ドメイン名登録時には、本件登録商標は日本国内及び世界の中
で、かなり知られた商標であることは、申立人の主張立証から明らかである。
しかしながら不正の目的での登録または使用の主張立証が必要であり、乙1の
4と乙1の5からは、カエルの姿が記載され、Frosch の語も使用されているが、
このことから直ちに、本件登録商標の使用とは言えず、まして本件ドメイン名
の不正な使用とは認定できない。
 またドメイン登録についても、その登録時に本件登録商標がかなり渡った商
標だとしても、それを登録することは直ちに不正な登録であるとは認定できる
証拠はない。
  なお登録者は、「カエル」という普通名詞から本件ドメイン名である
FROSCH.JP を取得しており、登録者井上寛之の妻である恵理のような、いわゆ
る「カエル好き」を動機として、本件ドメイン名を取得しており、登録者は申
立人が保有する本件登録商標に対する不正の目的で事業を混乱させるなど特別
な意図は皆無であると考えると主張しているが、この主張自体必ずしも、理解
できるものではないことを付け加えておく。
  また、FROSCH(カエル)は一般的な名称ではないので、本件登録商標とし
て登録されており、この点についてFROSCH が一般名称であるとする登録者の言
い分は成立しないことも付け加えておく。
 以上より、本件ドメイン名は、不正な目的で登録され、かつ使用されている
とまでは認定できない。
(少数意見)
  パネリストの一人から、次のような意見が述べられた。
申立人は、国際分類第3 類のせっけん、洗剤等について、Forsch の文字を構成
要素に含む商標であり、日本を始め、15 の国又は地域において、Forsch の文字
を構成要素に含む商標の商標登録又は商標出願しており、又同商標の国際登録
を5 件所有しており、その指定国には、欧州の各国を中心に延べ46 カ国が指定
されている。本件登録商標は日本においても申立人の業務に係る商品を表示す
る商標として、本件ドメイン名登録時である2009 年3 月17 日には、既に需要
者・取引者間に広く認識されていたものであり、世界的にも著名である。従っ
て、登録者が本件ドメイン名について権利又は正当な利益を有していないこと、
登録者が不正の目的でドメイン名の登録または使用をしていることは明らかで
ある。したがって、本件、ドメイン名「FROSCH.JP」の登録は、登録者
から申立人に移転させるべきである。

6. 結論
 以上に照らして、紛争処理パネルは、多数意見により、登録者によって登録
された本件ドメイン名が申立人の本件登録商標と同一又は混同を生ずるほど類
似はしているが、登録者の本件ドメイン名に関して権利又は正当な利益を有し
ていないとは認定できず、登録者の本件ドメイン名が不正の目的で登録され、
又は使用されているとは認定できないと判断した。
 よって、申立人が求めた本件ドメイン名「FROSCH.JP」の申立人への
移転請求は、主文の通り、棄却すると裁定する。
2013年3月18日
        日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル

        主任パネリスト     下 坂 スミ子

        パネリスト       土 井 輝 生

        パネリスト       渡 邊   敏


別記 手続の経緯
(1)申立書受領日
   2012年12月14日(電子メール)及び12月17日(書面)
(2)手数料受領日
   2012年12月7日 申立手数料の受領確認
(3)ドメイン名及び登録者の確認
   2012年12月14日 JPRS へ照会
   2012年12月14日 JPRS から登録情報の回答

   回答内容:申立書に記載された登録者はドメイン名の登録者であること、
         JPRS に登録されている登録者の電子メールアドレス(以下
         「登録アドレス」)及び住所(以下「登録住所」)等
(4)適式性
   日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、2012
  年12月17日に、証拠説明書の提出が必要と判断してその旨を申立人に
  通知し、12月19日に電子メール及び12月20日に書面にて証拠説明
  書を受領した。センターは、同年12月19日に、申立書が処理方針と規
  則に照らし申立書が適合していることを確認した。
(5)登録者への通知日及び内容
  1) 申立書送付日(手続開始日) 2012年12月21日(電子メール及
 び郵送)
  2) 送付物 申立書及び証拠等一式
  3) 通知した答弁書提出期限 2013年1月28日
(6)手続開始日 2012年12月21日
   センターは、2012年12月21日に申立人及び登録者には電子メー
  ル及び郵送で、JPRS 及びJPNIC には電子メールで、手続開始日を通知した。
(7)答弁書の提出の有無及び提出日
   センターは、2013年1月28日に答弁書を受領し、同日、答弁書が
  処理方針と規則に照らし、答弁書の補正及び証拠説明書の提出が必要と判
  断して、その旨を登録者に通知した。センターは、2月3日に電子メール
  及び2月4日に書面にて補正書面及び証拠説明書を受領した。センターは、
  2月4日に答弁書が処理方針と規則に照らし答弁書が適合していることを
  確認した。
(8)パネリストの選任 2013年2月12日
   申立人及び登録者が3名のパネルによって審理・裁定されることを選択
したため、センターは、次の3名のパネリストを選任した。
      パネリスト:土井 輝生(申立人が提示した候補者から指名)
            渡邊 敏(登録者が提示した候補者からパネリス
            トを指名することができなかったので、セ
            ンターのパネリスト名簿登載者全員の中か
            ら指名)
            下坂 スミ子(「三番目のパネリスト」として指名)
  中立宣言書の受領日:(土井・下坂)2012年2月15日、(渡邊)同
            年2月18日
(9)紛争処理パネルの指名及び裁定予定日の通知
   2013年2月12日 JPNIC 及びJPRS へ電子メールで通知
              申立人及び登録者へ電子メール及び郵送で通知
   通知した裁定予定日:2013年3月4日
(10)パネリストへのパネリスト指名書及び一件書類受け渡し
   2013年2月12日(電子メール及び郵送)
(11)裁定期限の延長
   2013年3月4日、パネリストは、手続規則10条(c)ただし書の
  規定により本件裁定期限を同年3月18日まで延長する旨を、電子メール
  及び郵送により申立人及び登録者に、また電子メールによりJPNIC 及び
  JPRS に、通知した。
(12)パネルによる審理・裁定
   2013年3月18日 審理終了、裁定。