事件番号:JP2013-0003

                  裁 定

  申立人:
  (氏名)三菱樹脂株式会社
  (住所)東京都千代田区丸の内1-1-1パレスビス
  代理人:弁護士 高井 健弎

  登録者:
  (名称)Ali Zardkaf
  (住所)東京都中野区南台5-4-16

 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JP ドメイン名紛争処理方針、JP ドメイン
名紛争処理方針のための手続規則及び日本知的財産仲裁センターJP ドメイン名紛争処理
方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立書・提出された証拠に基づいて審理
を遂げた結果、以下のとおり裁定する。

1 裁定主文
  ドメイン名「ALPOLIC.JP」の登録を申立人に移転せよ。
2 ドメイン名
  紛争に係るドメイン名は「ALPOLIC.JP」である。
3 手続の経緯
  別記のとおりである。

4 当事者の主張
 a 申立人
  申立人は、申立人の周知著名な商標「ALPOLIC」を実質的に模写し、マークに
おける申立人の好評を利用し、混同を生じさせる意図をもって登録者によって採択された
ドメイン名を登録していることを主張する。申立人によれば、ドメイン名は、申立人の商
標と混同を引き起こすほどに類似し、登録者はドメイン名について正当な利益を有してい
ない、そしてドメイン名は不正の目的で登録され且つ使用されている。
 従って、申立人は、ドメイン名登録の申立人への移転を請求する。

 b 登録者
  登録者によって答弁書は提出されなかった。
 なお、別記「手続の経緯」のとおり、登録者は、郵送物は受領していないがメールは受
信していると認められ、登録者における答弁は可能であったものと認められる。そして、
登録者からの英語による答弁書の提出を希望する旨のメール連絡は、答弁書提出期限を経
過した後であるから、これを斟酌すべき理由はない。

5 争点および事実認定
 規則第15条(a)は、パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原則に
ついてパネルに次のように指示する。「パネルは、提出された陳述・文書および審問の結果
に基づき、処理方針、本規則および適用されうる関係法規の規定・原則、ならびに条理
に従って、裁定を下さなければならない。」
 方針第4条aは、申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図してい
る。
 (1)登録者のドメイン名が、申立人が権利又は正当な利益を有する商標その他表示と
同一又は混同を引き起こすほど類似していること
 (2)登録者が、ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有していないこと
 (3)登録者のドメイン名が、不正の目的で登録又は使用されていること

 (1)同一又は混同を引き起こすほどの類似性
 ア 申立人の表示
 申立人は、日本において以下の登録商標を保有している他、海外でも多数の登録を保有し
ているものと認められる(甲第3号証、甲第4号証)。
 ① アルポリック/ALPOLIC  (旧第7類・書換済 登録第1015811号)
 ② アルポリック/ALPOLIC (第17類 登録第3161420号)
 ③ ALPOLIC(第12類 登録第5394858号)

 イ 申立人表示の周知性
 申立人は、1972年にアルミ樹脂複合板による事業を開始し、「ALUPOLOC」に
ついては、1973年に商標登録を取得し、その後現在まで、約40年に渡りアルミ樹脂
複合板に使用して、アルミ樹脂複合板の事業を牽引してきたと主張する。
 係る主張は、甲第5号証から概ね首肯することができる。ここで、「アルミ樹脂複合板」
とういう商品は理解しにくいが、申立書第3頁2行目以下の記述及び甲第9号証、甲第1
1号証、甲第12号証から、主として建物の外装材等として使用するアルミ樹脂化粧パネ
ルと理解される。
 申立人は売上げについて主張するが、その根拠とする甲第6号証には三菱樹脂株式会社
の売上げが示されているのみであって、これによっては、商標「ALPOLIC」に関連
する商品(以下「ALPOLIC商品」という。)の売上げを理解することはできない。そ
して、甲第7号証は作成者の捺印のない単なる弁護士宛の報告書であり、数字が信頼でき
るものであるとしても、ALPOLIC商品のシェアを理解することはできない。
 しかしながら、甲第5号証に「アルポリックのシェア70%強」と記載されていること
や、業界紙への継続した広告掲載(甲第11号証、甲第12号証)、建築物の外装材という
特殊な商品分野であることを考慮するとなどを総合すると、申立人の表示「ALPOLI
C」はわが国の当業者の間で広く知られていたものと認められる。
 また、申立人はイランの状況を主張するので検討すると、甲第8号証は作成者の捺印の
ない単なる弁護士宛の報告書であり、裏付け資料のないものであり、甲第13号証も裏付
けが認められないのであるから、イランにおいてALPOLIC商品が販売されていた事
実、展示会が開催された事実は認め得るとしても、その余については俄に採用することは
できない。
 上記のとおり、ALPOLIC商品のイランにおける販売や宣伝広告の状況を確定する
ことはできないが、建築物の外装材という特殊な商品分野であることを考慮すると、AL
POLIC商品はイランにおいても当業者(建築関連業者)には一定程度知られていたと
推認できる。そして登録者はそのウエブサイトにプラスチック複合板を掲載しており、A
LPOLIC商品の当業者であると認められる。
 したがって、登録者においては、建物用外装材として一定の評価を得ていた請求人の商
標「ALPOLIC」に接する機会があったものと推認できる。

 ウ 類似性
 本件ドメイン名は「ALPOLIC.JP」である。
 本件ドメイン名中「JP」はトップレベルドメインであって国別コードの日本を意味する
ものであるから、類否判断における対象からは除外されるべきものである。
 そこで、本件ドメイン名中「ALPOLIC」の文字部分を検討すると、「ALPOLIC」
の文字部分が識別力を有するものとは認められる。
 以上から、本件ドメイン名に接した需要者は、本件ドメイン名を申立人がその商品の販売
のために使用するドメイン名であると誤認するおそれがあると認められる。よって、本件ド
メイン名は申立人の表示と混同を引き起こすほど類似しているというべきである。

  (2)権利又は正当な利益
 登録者は、本件ドメイン名と関連する登録商標を日本において保有しているという証拠
はない。また、登録者の欧文字表記である「Ali Zardkaf」は本件ドメイン名「ALPOLIC.
JP」やその要部と認められる「ALPOLIC」と一致しない。
 よって、登録者は本件ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有しているものと
は認められない。

  (3)不正の目的での登録及び使用
  上記(1)イで認定したとおり、申立人の表示は主として商品「建築用外装材」との関係で
使用され、需要者である建築関連業者の間で周知になっていたものである。そして、わが国
のみならず、イランでも建築関連業者の間では知られていたもの推認できる。
  加えて、以下の事実が認められる。
 ① イランにおける登録
   登録人は、申立人の了解を得ることなく、イランにおいて商標「ALPOLIC」
   の登録を取得している(甲第14号証)。
 ② 混同惹起の目的
   登録者は、本件ドメインを使用して建築用外装材の販売を目的としたサイトを開設
   しているのであり(甲第15号証)、申立人との混同を惹起し、不正の利益を目的と
   しているものといわざるを得ない。
 ③ 対価の要求
   登録者は申立人の代理店に対し、イランにおける「ALPOLIC」商標の使用に
   関し、販売利益の50%を要求した事実が認められる(甲第16号証)。

 係る事実から、登録者が本件ドメイン名を、需要者に申立人のサイトと誤認混同させて顧
客を誘引する目的、すなわち不正の目的で使用しているというべきである。

 6 結論
  以上に照らして、紛争処理パネルは、登録者によって登録されたドメイン名「ALPOL
IC.JP」が申立人の商標と混同を引き起こすほど類似し、登録者が、ドメイン名について
権利又は正当な利益を有しておらず、登録者のドメイン名が不正の目的で登録され且つ使
用されているものと判断する。
  よって、方針第4 条iに従って、ドメイン名「ALPOLIC.JP」の登録を申立人に移
転するものとし、主文のとおり裁定する。

   2013年5月31日

   日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
              峯  唯 夫
              単独パネリスト


別記 手続の経緯
(1)申立書受領日
   2013年3月29日(電子メール)及び3月29日(書面)
(2)手数料受領日
   2013年3月29日 申立手数料の受領確認
(3)ドメイン名及び登録者の確認
   2013年3月29日 JPRS へ照会
   2013年3月29日 JPRS から登録情報の回答
   回答内容:申立書に記載された登録者はドメイン名の登録者であること、JPRS に登
録されている登録者の電子メールアドレス(以下「登録アドレス」)及び住所(以下「登録
住所」)等
(4)適式性
日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、2013年4月3日に、申立
書及び委任状の補正及び代表者の資格を証明する公的証明書類の提出が必要と判断してそ
の旨を申立人に通知し、申立書、委任状、資格証明書を4月5日に受領した。センターは、
同年4月8日に、申立書が処理方針と規則に照らし申立書が適合していることを確認した。
(5)登録者への通知日及び内容
      1) 申立書送付日(手続開始日) 2013年4月8日(電子メール及び郵送。
但し郵送分については「あて所に尋ねあたりません」として返送された。)
   2) 申立書及び証拠等一式
   3) 答弁書提出期限 2013年5月9日
(6)手続開始日 2013年4月8日
   センターは、2013年4月8日に申立人には電子メール及び郵送で、登録者には
電子メールで、JPRS 及びJPNIC には電子メールで、手続開始日を通知した。
(7)答弁書の提出の有無及び提出日
   センターは、提出期限日までに答弁書を受領しなかったので、2013年5月10
日に「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不出通知書を、申立人には電子
メール及び郵送で、登録者には電子メールで送付した。
(8)パネリストの選任 2013年5月16日
   申立人は1名のパネルによって審理・裁定されることを選択。
   中立宣言書の受領日:2013年5月21日
   パネリスト:弁理士 峯 唯夫
(9)紛争処理パネルの指名及び裁定予定日の通知
   2013年5月16日 JPNIC 及びJPRS へ電子メールで通知。申立人には電子メー
ル及び郵送で、登録者には電子メールで通知。同日、登録者より、「日本語がわからない。
英語で連絡をしてほしい。」とのメールが返信された。同年5月20日、手続は日本語で行
われるため、代理人をつけて対応を促すとともに、住所を教えるように登録者へメールを
送信した。
   裁定予定日:2013年6月5日
(10)パネリストへのパネリスト指名書及び一件書類受け渡し
   2013年5月16日(電子メール及び郵送)
(11)パネルによる審理・裁定
   2013年5月31日 審理終了、裁定