事件番号:JP2013-0006

                  裁 定

  申立人:
  (名称)サルヴァトーレ フェラガモ イタリア エス. ピー. エー.
  (住所)イタリア国フィレンチェ50123トルナブオーニ通り2番
  代理人:弁護士 宮川美津子
      弁護士 尼口寛美
  登録者:
  (氏名)山口竜男
  (住所)神奈川県高津区久本3丁目3番17号

 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針、JPドメ
イン名紛争処理方針のための手続規則、及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛
争処理方針のための手続き規則の補則並びに条理に則り、申立書・答弁書・提出された証
拠に基づいて審理を遂げた結果、以下のとおり裁定する。

1 裁定主文
 ドメイン名「フェラガモジャパン.JP」の登録を申立人に移転せよ。
2 ドメイン名
 紛争に係るドメイン名は「フェラガモジャパン.JP」である。
3 手続の経緯
 別記のとおりである。
4 当事者の主張
 a 申立人
 本件紛争に係るドメイン名「フェラガモジャパン.JP」は、上記の登録者によって登
録されているところ、このドメイン名(以下、「フェラガモジャパン.JP」を「本件ドメ
イン名」という。)のうち、セカンドレベルドメインの「フェラガモジャパン」が、申立人
の登録商標「FERRAGAMO」及び「フェラガモ」と混同を引き起こすほど類似して
いること、登録者は本件ドメイン名に関係する権利または正当な利益のいずれも有してい
ないこと、及び本件ドメイン名は不正の目的で登録されていることを、申立人は主張して
いる。
 かかる理由により、申立人は本件ドメイン名登録を申立人に移転するよう求めている。
 b 登録者
 登録者から答弁書は提出されなかったが、日本知的財産仲裁センター事務局担当者に宛
てて書簡が提出されている。
5 争点および事実認定
 JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則第15条(a)は、パネルが紛争を裁定
する際に適用することになっている原則について、パネルに次のように指図している。「パ
ネルは、提出された陳述・文書および審問の結果に基づき、処理方針、本規則および適用
されうる関係法規の規定・原則、ならびに条理に従って、裁定を下さなければならない。」
 また、JPドメイン名紛争処理方針第4条aは、申立人が次の3項目のすべてを立証し
なければならないことを定めている。
 「(i)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示
と同一または混同を引き起こすほど類似していること
 (ii)登録者が、ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有していないこと
 (iii)登録者のドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること」
 以下、かかる定めに基づき、申立人は上記項目について立証しているか否かを判断する。
5-1 「登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表
示と同一または混同を引き起こすほど類似していること」について
(1) 本件ドメイン名の登録の経緯について
 本件ドメイン名「フェラガモジャパン.JP」は、本件申立日現在、登録者により登録
されている(甲第1号証)。登録者は、上記の住所に所在するとされる個人であるが、パネ
ルに提出された事務局と登録者のやりとりの記録及び本年6月20日に日本知的財産仲裁
センター東京本部で受け付けられた登録者から日本知的財産仲裁センター事務局担当者
(以下においては、「事務局担当者」という。)に提出された書簡によれば、後述の5-2
でも示すように、本件ドメイン名の登録はいわゆる「なりすまし」により登録されたもの
と認められる。
(2) 申立人の商標について
 申立人は、創業者サルヴァトーレ・フェラガモが、1928 年、イタリア・フィレンツェに
おいて靴のメーカーとして設立された法人であり、創業当初から世界的な著名人によって
愛好されてきたことは知られている(甲18 号証)。申立人は、その後、靴に止まらず、か
ばん、衣類、バック、香水等の商品分野に領域を拡大し、世界的に営業を展開してきた。
わが国においても、直営店の他に、三越、伊勢丹、高島屋といった高級百貨店において、
申立人の商品は販売されると同時に、一流ブランド品としてブランド図鑑等(甲21号証
の1乃至18)で紹介されたことなどにより、その商標「FERRAGAMO」及び「フェラ
ガモ」は周知な商標となっている。
 また、申立人の商標「FERRAGAMO」及び「フェラガモ」の商標は、第3類の化粧品、
合成香料、せっけん類他に、第14類の貴金属、時計、宝玉及びその模造品、貴金属製コ
ンパクトに、第18類の傘、かばん類、袋物、携帯用化粧道具入れ、ステッキ、つえ、つ
え金具、つえの柄に、第24類の布製身の回り品他に、第25類の被服、履物に、第26
類のボタン類に、それぞれ商標登録されている(甲2 号証の1及び2、同3 号証の1及び
2、同4 号証の1及び2、同5 号証の1及び2、同6 号証の1及び2)。したがって、申
立人は商標「FERRAGAMO」及び「フェラガモ」について登録商標権を有している。

(3) 「同一または混同を引き起こすほど類似していること」について
 本件ドメイン名「フェラガモジャパン.JP」において、「JP」は国別コードトップレ
ベルドメインであり、使用主体が属する国を示すものでしかない。
 申立人商標「FERRAGAMO」及び「フェラガモ」と、類似性の判断の主要な対象とな
るのはセカンドレベルドメインである「フェラガモジャパン」にある。「フェラガモジャパ
ン」は結合標識であり、かかる場合の類似判断でも原則として全体的に考察すべきである
が、申立人商標「FERRAGAMO」及び「フェラガモ」と共通する構成部分が、需要者に
対し事業者やそのサイトの識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場
合で、それ以外の部分から識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合には、
当該構成部分だけを抽出して類似性の判断をすることができると解される。
 本件ドメイン名の「ジャパン」は日本国を意味する英語の一般名称であり、事業者やそ
のサイトの識別標識として強い支配的な印象を与えていないし、識別標識としての称呼、
観念も生じないものと認められる。事業者やそのサイトを識別する部分は、「フェラガモ」
にあり、この部分は申立人商標「FERRAGAMO」及び「フェラガモ」と外観、称呼及び
観念において実質的に同一であり、少なくとも混同を引き起こすほど類似しているという
ことができる。

5-2 「登録者が、ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有していないこと」に
ついて
 登録者は、先にも述べたように上記の住所に居住するとされる個人であるが、この登録
者が、本年6 月20 日付で、日本知的財産仲裁センター東京本部に提出した書簡によれば、
「私は今回、取得したとされているフェラガモジャパン.jp に関して、まったく身に覚えの
ないものです。配達証明におくられてきた書類及び記載されていた住所も、自分が働いて
いる会社の住所であり、自分の名前と会社の住所をかってに悪用されて登録されたもので
す。」、と陳述している。さらに、パネルに提出された本年6 月10 日の株式会社日本レジ
ストリサービスと事務局担当者間のやりとりの記録によれば、本件ドメイン名登録者の名
において他にも「十数件」のなりすましによる登録がなされていることが窺われる。
 以上の経緯及びパネルに提出された証拠書類からすると、登録者は本件ドメイン名を登
録していないものと認められることはもちろん、登録者は本件ドメイン名に関係する権利
又は正当な利益を有していないものと認められる。

5-3 「登録者のドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること」につい
て
 5-2で述べたように、本件ドメイン名の「登録者」が、本件ドメイン名を不正の目的
で登録または使用していないことは明らかであるが、JPドメイン名紛争処理方針第4条
a.(iii)は、「当該ドメイン名」が、不正の目的で登録または使用されていること、を求め
ている。
 本件ドメイン名は、「Salvatore Ferragamo フェラガモ公式通販専門店」なるオンライ
ンストア(以下、「本件オンラインストア」という。)において使用されており、本件オン
ラインストアでは、取扱商品のカテゴリとして「フェラガモ靴、フェラガモバッグ、フェ
ラガモ財布、フェラガモ時計、フェラガモコート、フェラガモシャツ、フェラガモサング
ラス、フェラガモネクタイ、フェラガモベルト」の各商品が、営利の目的で販売のため提
供されていることが認められる(甲14号証)。さらに、本件オンラインストアでは、トッ
プページに真正性を連想させる「Salvatore Ferragamo」のロゴの入った店舗写真ととも
に、「フェラガモ公式通販専門店」と表示し、あたかも本件オンラインストアが申立人から
ライセンスを受けた正規ディストリビュータないし正式な通販専門店であるかのようなサ
イトの構成ないし表示となっていることが認められる。
 本件ドメイン名は、このように、本件オンラインストア運営者が申立人からライセンス
を受けた正規ディストリビュータないし正式な通信販売専門店であるかのように運営する
手段の1つとして利用されている。これら一連の行為において、本件ドメイン名を使用す
る行為は、申立人の商標として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似
の商品等表示を使用等して他人の営業と混同を生じさせる行為に該当し、不正競争防止法
2 条1 項1 号の営業主体混同惹起行為を構成するものと認められる。したがって、本件ド
メイン名は不正の目的で使用されていると認定することができ、これに反する証拠はない。
6 結論
 これまで述べてきたところから、紛争処理パネルは、登録された本件ドメイン名「フェ
ラガモジャパン.JP」が申立人の商標と実質的に同一あるいは少なくとも混同を引き起
こすほど類似し、登録者が、本件ドメイン名について正当な利益を有しない者により不正
な目的で登録されているものと裁定する。
 よって、JPドメイン名紛争処理方針第4 条i に従って、本件ドメイン名「フェラガモ
ジャパン.JP」の登録を申立人に移転するものとし、主文のとおり裁定する。

2013年7月29日

日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
            土肥 一史
            単独パネリスト


別記 手続の経緯
(1)申立書受領日
   2013年6月4日(電子メール)及び6月4日(書面)
(2)手数料受領日
   2013年6月4日 申立手数料の受領確認
(3)ドメイン名及び登録者の確認
   2013年6月5日 JPRS へ照会
   2013年6月5日 JPRS から登録情報の回答
   回答内容:申立書に記載された登録者はドメイン名の登録者であること、JPRS に登

        録されている登録者の電子メールアドレス及び住所等
(4)適式性
   日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、2013年6月5日
  に、申立書が処理方針と規則に照らし申立書が適合していることを確認した。
(5)登録者への通知日及び内容
   1) 申立書送付日(手続開始日) 2013年6月6日(電子メール及び郵送)
   2) 申立書及び証拠等一式
   3) 答弁書提出期限 2013年7月4日
(6)手続開始日 2013年6月6日
   センターは、2013年6月6日に申立人及び登録者には電子メール及び郵送で、
  JPRS 及びJPNIC には電子メールで、手続開始日を通知した。
(7)文書受領 2013年6月20日
   センターは、登録者から、ドメイン名の登録に関してまったく身に覚えがなく、氏
  名及び連絡先を悪用されたようで、困っている旨の文書を受領した。
(8)答弁書の提出の有無及び提出日
   センターは、提出期限日までに答弁書を受領しなかったと判断し、2013年7月
  4日に「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不提出通知書を、電子メ
  ールと郵送にて申立人及び登録者に送付した。
(9)パネリストの選任 2013年7月11日
   申立人は1名のパネルによって審理・裁定されることを選択
   中立宣言書の受領日:2013年7月16日
   パネリスト:土肥 一史
(10)紛争処理パネルの指名及び裁定予定日の通知
   2013年7月11日 JPNIC 及びJPRS へ電子メールで通知

             申立人及び登録者へ電子メール及び郵送で通知
   裁定予定日:2013年7月3日
(11)パネリストへのパネリスト指名書及び一件書類受け渡し
   2013年7月11日(電子メール及び郵送)
(12)パネルによる審理・裁定
   2013年7月29日 審理終了、裁定。