事件番号:JP2013-0007

                  裁 定

  申立人:
  (名称)ズィッポー マニュファクチャリング カンパニ
  (住所)アメリカ合衆国、ペンシルヴェニア州 16701、ブラッドフォード、バ
ーバー ストリート 33
  代理人:弁理士 徳岡 修二、同 南部 史
  登録者:
  (氏名)樋口 勇夫
  (住所)新潟県柏崎市安田

 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JP ドメイン名紛争処理方針、JP ドメイン
名紛争処理方針のための手続規則及び日本知的財産仲裁センターJP ドメイン名紛争処理
方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立書・答弁書・提出された証拠に基づ
いて審理を遂げた結果、以下のとおり裁定する。

1 裁定主文
  ドメイン名「ZIPPO.JP」の登録を申立人に移転せよ。
2 ドメイン名
  紛争に係るドメイン名は「ZIPPO.JP」である。
3 手続の経緯
  別記のとおりである。

4 当事者の主張
 a 申立人
(1)申立人の商標その他の表示と紛争に関わるJP ドメインとの類似性
 ① 申立人の有する商標その他の表示
 申立人は、アメリカ合衆国ペンシルヴェニア州に本社を置く法人であり、1932年の
設立以来80年余にわたってライターを始めとする製品を製造販売し、一貫して「Zip
po」という商標を使用し続けている。
 申立人は、全世界にわたる商標「Zippo」の商標権者であり、日本においても、昭
和25年に登録された商標登録第393906号を始めとして、標準文字商標やロゴタイ
プの商標など「Zippo」の文字からなる40件近くもの登録商標を有している(甲第
2号証の1~38)。平成6年には登録防護標章第1599693-2号が登録され、当該
防護標章登録は現在も存続している(甲第2号証の38)。
 ② 前記商標その他の表示の使用されている商品・役務の種類と内容
 申立人の製造販売するライター(以下、「ジッポーライター」ということもある。)は全
てその底面に前記商標が付されており、ライター以外の製品や、カタログ、広告、宣伝用
冊子にも「Zippo」の商標が付されている(甲第4号証の1~3、甲第12号証の1
~6)。
 ジッポーライターは防風機能を有し、どんな強風でも着火するオイルライターとして永
久保証制を採用しており、1933年の販売開始以来、生産・販売実績は鰻登りに増加し、
2012年に累計5億個をも超えて現在に至っている(甲第5号証)。
 日本においては、1968年に正規輸入が開始されて以来45年が経過しており、近年
では、正規輸入代理店の取り扱い分だけでも年間100万個余りの輸入実績がある(甲第
6号証)。
 現在の正規輸入代理店はマルカイコーポレーション株式会社であり、2013年5月に
は北海道から九州に至る84店もの取扱店を始めとして全国各地のデパートや専門店等で
ジッポーライターが販売されている(甲第7号証)。インターネットを通じた販売数も極め
て多く、例えば、インターネット市場「楽天」で「ジッポーライター」を検索すると2万
5千点以上の商品が抽出される(甲第8号証)。
 ジッポーライターの販売数が極めて多いことを示す他の例として、日本国内で販売され
ているライター類がほぼ全て掲載されている「2013喫煙具総合カタログ」(2012年
10月1日発行)には、マルカイコーポレーション株式会社が取り扱うものだけでも27
7種類ものライターが掲載されている(甲第9号証)。
 また、ジッポー商標の著名性を表す例として、2004年に行われたインターネット調
査によれば、ジッポーライターの外部形状(商標が付されていないもの)を見ただけで、
ジッポーライターを想起した者の割合は75%に及び、またそのうちの約半数はジッポー
ライターを所有していないと回答した(甲第10号証)。
 また「Zippo」商標の付された商品は、ライターやライター関連商品以外にも、革
製品、時計、衣料小物、サングラス、キャンプ用品、ポケットナイフ、キーホルダー、小
銭入れ、筆記用具、巻尺等を含む様々な商品分野に及び、喫煙者のみならず非喫煙者にも
広く使用されている(甲第11号証)。
 申立人ないし正規輸入代理店マルカイコーポレーション株式会社は継続的な広告活動も
行っており、例えば全国で約61万部(2013年2月現在)発行されるフリーペーパー
「FLYING POSTMAN PRESS」の表紙への広告掲載(2011年5月号、2008年3月号)
や、小売店やアーティストのコンサート会場等で頒布されるチラシや写真集等、複数の手
段及び経路で広告活動を進めている(甲第12号証の1~7)。写真集「Zippo gi
rl」(甲第12号証の5~7)には女性向けデザインのライターも多数掲載されており、
ターゲットは男性のみでなく女性も含まれていることも理解される。
 さらに、「Zippo」商標が著名性を有することは、「Zippo」の文字を含む標章
が、登録第1599693号として防護標章登録されていることからも明らかである(甲
第2号証の38)。また、コンサイスカタカナ語辞典(三省堂発行)には「ジッポー【ZIPPO】」
の項目が設けられて、「米国ジッポー-マニュファクチャリング社製のオイルライター」と
の解説がされている(甲第13号証)。さらに、2013年2月に刊行された外国ブランド
権利者名簿(財団法人対日貿易投資交流促進協会刊行)にも「Zippo」の文字からな
るブランドマークが掲載され、多数の商標登録がされていること、権利者が申立人である
ことが示されている(甲第14号証)。
 以上のとおり、申立人の「Zippo」商標その他表示は、同社の80年余にわたる営
業努力と継続的な商標の使用の結果として、本件ドメイン名が登録された平成25年5月
以前に、すでに申立人の販売するライター等の商品等を示す商標その他表示として、申立
人の所在する米国のみならず、日本国内においても当然周知著名性を獲得していたことが
明らかである。
 なお申立人はこれまでに、「ZIPPO.WS」、「ZIPPO.UK.COM」及び「ZIPPOE.COM」について
WIPO 仲裁調停センターに、また「ZIPPODIAN.COM」についてアジアドメイン名紛争解決セ
ンターに、ドメイン名紛争解決方針に従う申し立てを行っており、いずれのケースも
「ZIPPO」の著名性やその他の要件が認められてドメイン名を移転するとの裁定を得ている
(甲第15号証の1~4)。
 ③ 登録者のドメイン名が、前記商標と同一または混同を引き起こすほど類似している
こと
 登録者のドメイン名「ZIPPO.JP」の識別力のある部分「ZIPPO」は、申立人の商標その他
の表示と同一であり、申立人が権利を有するまたは正当な利益を有する商標その他表示と
実質的に同一ないし混同を引き起こすほど類似している。

(2)ドメイン名に関係する権利または正当な利益の欠如
 登録者は2013年5月1日に本件ドメイン名を取得したが、ドメイン名の取得前にも
ドメイン名取得後においても、申立人とも正規輸入代理店であるマルカイコーポレーショ
ン株式会社とも何ら取引関係は無いし、取引関係の形成を試みたこともなく、一切の接触
をもったことがない。
 また、登録者の居所と推察される株式会社大雅貿易商会の事業内容は、中古タイヤ、ア
ルミホイールの買取・輸出業を主としており申立人の製品と何ら関係のないものである(甲
第16号証の1,2)。すなわち登録者には本件ドメイン名を取得し、使用する必然性も正
当性もない。
 当然、申立人が登録者に対して「ZIPPO」商標の使用は勿論、「ZIPPO」を含むドメイン名
登録をすることを認めた事実は一切ない。
 よって、登録者は、本件ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していない。

(3)不正の目的による登録または使用
 本件ドメイン名が取得された当日である2013年5月1日より現在に至るまで、本件
ドメイン名にかかるウェブサイト(http://www.zippo.jp/)には、「このドメインを譲渡い
たします、ご興味がある方はadmin@557.jp までにご連絡ください。」という一文のみが掲
載されている(甲第17号証)。
 この掲載内容からは、登録者はドメインを譲渡する意図を有することが明白であり、ま
た、本件ドメイン名を取得した当日からこのような掲載を開始した事実は、当初より譲渡
することを目的として本件ドメイン名を取得したことを示唆する。
 登録者は譲渡の対価については明記していないが、仮に、登録者には譲渡によってドメ
イン名に直接かかった金額を超える対価を得る意思が無いと仮定すれば、登録者が本件ド
メイン名を取得した行為は、費用と労力とを消費するのみの全く意味のない行為となるの
で、このような仮定は成り立たない。すなわち、登録者は本件ドメイン名に直接かかった
金額を超える対価を得るために、当該ドメイン名を譲渡(販売、移転等)することを主た
る目的として、本件ドメイン名を取得したという意図は明らかである。
 また、本件ドメイン名は、前登録者による登録が2013年3月31日に廃止された後、
30日間の保留期間を経て再登録可能となった2013年5月1日当日の午前0時37分
に登録者に再登録された(甲第1号証の1)。一般に、末尾が「.JP」である汎用JP ドメイ
ンは、ドメイン廃止後の保留期間中に「予約可能ドメイン」として指定管理業者によって
予約が受け付けられ、再登録可能な時期に至ると速やかに予約が実行されて新たに登録さ
れるところ、登録者がかかる予約サービスを利用したか否かは定かではないが、いずれに
しても再登録可能となって1時間も経たないうちに登録者がドメイン名を取得した事実か
らは、登録者は何らかの手段によって本件ドメイン名が廃止・保留状態であることを知り、
5月1日に再登録可能になったと同時に本件ドメイン名を取得し、直ちにウェブサイトを
作成し、譲渡の申し出を掲載し始めたものと推察される。

 従って、申立人は、ドメイン名登録の申立人への移転を請求する。

 b 登録者
(1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と
同一または混同を引き起こすほど類似していること、の反論
 zippo は何のものか全然分かりませんでしたが、4 月末にwww.onamae.com にもうすぐ期
限切れとなるドメインのリストに掲載されてあり、zip はwindows ファイルの拡張子のひ
とつであり、po は中国語で[破]の発音で、zippo.jp を気に入り、登録しました。
 偶然に申立人の商標と一緒ですが、この単語に対し、登録者が理解してる意味は申立人
と全く別なことです。

(2)登録者が当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと、の
反論
 このドメインを登録するのは、完全に個人の趣味であり、なぜ申立人と取引関係になら
なければならないのか理解できません。
 登録者は、個人の名義でonamae.com から正常の手続きをして登録したものなのに、なぜ
登録者が勤めている会社の業務との関係がなければ、使用する必然性と正当性がないとさ
れるのか、勤めている会社と関係ないのではないですか。

(3)登録者のドメイン名が不正の目的で登録または使用されていること、の反論
 申立人の主張は、完全に自己の無根拠の推測であります。
 ドメインを譲渡する行為は違法ではありません。好きなドメインを登録するのは、自分
の興味であり、サイトを作るのは上手くありませんが、常に練習の為に作っています。た
だし、いま持っているドメインが多いので、使ってないドメインがいくつかあり、そのま
ま置くのはもったいないので、本件ドメインの譲渡掲載をしました。
 申立人が主張するように、登録者は譲渡の対価については明記していないので、違反で
はありません。
 申立人は、「仮に、登録者には譲渡によってドメイン名に直接かかった金額を超える対価
を得る意思が無いと仮定すれば、登録者が本件ドメイン名を取得した行為は、費用と労力
とを消費するのみの全く意味のない行為となるので、このような仮定は成り立たない。」と
主張していますが、これは仮定の話であり、人は無意味の事をやっても可笑しくはなく、
人の趣味は、何も意味がない事でも、自分にとって有意義になり、過程により、自分が楽
しく、満足になれば、ほかの物を気にしなくてもいいと思っています。
 登録者がこのドメインを登録するのは初めてであり、妨害行為を複数回行っているわけ
ではありません。これは完全に個人の趣味であり、競業者の事業を混乱させることを主た
る目的とするものではありません。
 サイトはまだ作っていないので、商業上の利得を得る目的で、商品およびサービスの出
所、スポンサーシップ、取引提携関係、推奨関係などについて誤認混同を生ぜしめること
を意図して、インターネット上のユーザーを、そのウエブサイトまたはその他のオンライ
ンロケーションに誘引するために本件ドメイン名を使用しておらず、また使用するつもり
もありません。

5 争点および事実認定
 規則第15条(a)は、パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原則に
ついてパネルに次のように指示する。「パネルは、提出された陳述・文書および審問の結果
に基づき、処理方針、本規則および適用されうる関係法規の規定・原則、ならびに条理
に従って、裁定を下さなければならない。」
 方針第4条aは、申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図してい
る。
 (1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示
と同一または混同を引き起こすほど類似していること
 (2)登録者が、ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと
 (3)登録者のドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること

 (1)同一または混同を引き起こすほどの類似性
 ① 本件ドメイン名と申立人商標の類似性
 登録者のドメイン名「ZIPPO.JP」は、そのうち「.JP」の部分が国別コードにより日本を
意味する部分であるので、識別力を有するのは「ZIPPO」の部分にある。
 一方、申立人は、欧文字「ZIPPO」(以下、「ZIPPO欧文字商標」という。)、片
仮名文字「ジッポー」、平仮名文字「じっぽー」の各文字からなる登録商標、「Zippo」
の構成中「Zi」の部分を「Z」の文字と炎の図形を組み合わせて表してなる登録商標(別
紙商標1及び2参照。以下、「Zippoロゴ商標」という。)を所有する(以下、申立人
の所有するこれらの商標を総称するときには「ZIPPO関係商標」という。)。
 この登録者のドメイン名の要部「ZIPPO」と申立人の所有するZIPPO関係商標とは、
称呼を共通にするものであり、特に、ZIPPO欧文字商標とは外観も類似するものであ
る。
 よって、登録者のドメイン名「ZIPPO.JP」は、申立人の所有するZIPPO関係商標と
混同を引き起こすほど類似しており、方針第4条a(ⅰ)の要件を充足する。
 ② 申立人商標の周知性
 申立人は、「Zippo」商標が周知著名であると主張するので、各証拠を中心に検討す
る。
 甲第2号証の1~38によれば、ZIPPO関係商標が、第3類、第4類、第6類~第
9類、第11類、第12類、第14類、第16類、第18類、第20類~第22類、第2
5類、第27類、第28類、第34類、第35類、第37類、第41類、第42類にわた
り、計38件商標登録されており、うちZippoロゴ商標が「第3類 せっけん類、化
粧品、歯磨き、つや出し剤、靴クリーム、靴墨」について防護標章登録されていることが
認められる。そして、甲第4号証の1~3及び甲第9号証により、ZIPPO欧文字商標
及びZippoロゴ商標が、1932年以降現在に至るまで継続して使用されていること
が認められる。
 ジッポーライターは、販売開始以来鰻登りに販売個数が増加しており、累計5億個を超
えていること(甲第5号証)、2009年~2012年にわたり、正規輸入品が年間100
万個余りであること(甲第6号証)、日本国内における取扱店が84店あること(甲第7号
証)、インターネット市場「楽天」で2万5千点以上出品されていること(甲第8号証)が
認められる。
 また、甲第10号証によれば、2004年に行われたジッポーライター形状調査報告書
において、外形のみでジッポーライターと認識できるとした回答が75%に及ぶことが認
められる。
 さらに、甲第11号証~甲第12号証によれば、新聞、フリーペーパー、チラシ、写真
集において、Zippoロゴ商標が使用されていることが認められる。
 また、1996年、株式会社三省堂発行の「コンサイスカタカナ語辞典」に、「ジッポー
【ZIPPO】」の項目が設けられて、申立人のライターであることが解説されていることが認
められ(甲第13号証)、2013年2月、財団法人対日貿易投資交流促進協会刊行の「外
国ブランド権利者名簿」にZIPPO関係商標が5件掲載されていることが認められる(甲
第14号証)。
 さらに、甲第15号証の1~4によれば、申立人がWIPO 仲裁調停センターにした
「ZIPPO.WS」、「ZIPPO.UK.COM」及び「ZIPPOE.COM」、アジアドメイン名紛争解決センターに
した「ZIPPODIAN.COM」に関する申立において、いずれもドメイン名を移転するとの裁定を
得ていることが認められる。
 以上の認定した事実を総合すれば、申立人のZIPPO関係商標は、特にZIPPO欧
文字商標及びZippoロゴ商標については、本件ドメイン名の登録時(2013年5月
1日)において、我が国において広く認識されていたものと認めることができる。

 (2)権利または正当な利益
 「登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと」に
ついて、申立人から一応の主張がなされており、また、「権利または正当な利益」の有無は
登録者に固有の事情であるので、登録者が証明責任を負うものと解すべきである。
 そして、方針第4条c は「登録者がドメイン名に関係する権利または正当な利益を有し
ていることの証明」として、以下のような事情がある場合には、登録者は当該ドメイン名
に関する権利または正当な利益を有していると認めなければならないと規定する。
  (ⅰ) 登録者が、当該ドメイン名に係わる紛争に関し、第三者または紛争処理機関か
ら通知を受ける前に、商品またはサービスの提供を正当な目的をもって行うために、当該
ドメイン名またはこれに対応する名称を使用していたとき、または明らかにその使用の準
備をしていたとき
  (ⅱ) 登録者が、商標その他表示の登録等をしているか否かにかかわらず、当該ドメ
イン名の名称で一般に認識されていたとき
  (ⅲ) 登録者が、申立人の商標その他表示を利用して消費者の誤認を惹き起こすこと
により商業上の利得を得る意図、または、申立人の商標その他表示の価値を毀損する意図
を有することなく、当該ドメイン名を非商業的目的に使用し、または公正に使用している
とき
 ところで、登録者は、ドメインを登録するのは完全に個人の趣味である等と答弁するだ
けで、答弁の全趣旨を勘案しても、登録者には、上記方針第4条c(ⅰ)ないし(ⅲ)の
事情を認めることはできない。
 よって、登録者が本件ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していると認め
ることはできず、本件においては、方針第4条a(ⅱ)の要件を充足するものと認める。

 (3)不正の目的での登録及び使用
 方針第4条b は、方針第4条a(ⅲ)を受けて、「不正の目的で登録または使用している
ことの証明」として、(ⅰ)ないし(ⅳ)に規定された事情がある場合には、当該ドメイン
名の登録または使用は、不正の目的であると認めなければならないとし、「ただし、これら
の事情に限定されない。」との但し書が規定されており、(ⅰ)ないし(ⅳ)の例示以外の
場合にも、不正の目的を認定することが妥当な場合が存在すると解される。
 そこで、本件について検討する。
 登録者が本件ドメイン名を登録した時点(2013年5月1日)において、申立人のZ
IPPO関係商標は、特にZIPPO欧文字商標及びZippoロゴ商標については、我
が国において広く認識されていたものと認めることができる。
 登録者は、本件ドメイン名の取得に際して、期限切れとなるドメインのリストに掲載さ
れていた「zippo.jp」について、「zip」はwindows ファイルの拡張子のひとつであり、「po」
は中国語で[破]の発音であり、気に入り登録したものであり、申立人の商標と偶然に一致
したと主張しているが、「zip-po」等であればそうとも言えるかもしれないが、主張が不自
然である。
 また、申立人によると、本件ドメイン名が取得された当日である2013年5月1日よ
り現在に至るまで、本件ドメイン名にかかるウェブサイト(http://www.zippo.jp/)には、
「このドメインを譲渡いたします、ご興味がある方はadmin@557.jp までにご連絡くださ
い。」という一文のみが掲載されているとのことである(甲第17号証)。
 そして、登録者は、いま持ってるドメインが多いので、使ってないドメインがいくつか
あり、そのまま置くのはもったいないので、本件ドメインの譲渡掲載をしたと答弁してい
るが、本件ドメイン名は、前登録者による登録が2013年3月31日に廃止された後、
30日間の保留期間を経て再登録可能となった2013年5月1日当日の午前0時37分
に登録者に再登録されたものであり(甲第1号証の1)、本件ドメイン名の取得に熱心であ
った登録者の上記取得意図とは矛盾しており、本件ドメイン名を取得した当日から譲渡掲
載を開始した事実からして、登録者は使用する目的で本件ドメイン名を取得したとは伺え
ない。
 なお、本件ドメイン名に関しては、第三者の登録⇒登録廃止⇒保留期間を経て登録開放
⇒別の者により再登録されるというサイクルを繰り返し、1年半余の期間に3名もの登録
者の間で変転して、現登録者に登録されたという経緯がある(甲第18号証の1、2)。そ
して、申立人は、その都度登録者と交渉に当たったが交渉は途絶し、廃止となった本件ド
メイン名を取得すべく準備を進めていたが、再登録可能となるや現在の登録者が新たに登
場し、再びドメイン名を取得されたとのことである。
 以上の諸事実を総合的に勘案すると、本件ドメイン名が登録者により取得日から譲渡掲
載のみで使用されており、申立人のZIPPO関係商標、特にZIPPO欧文字商標及び
Zippoロゴ商標については、我が国において広く認識されているものであり、登録者
のドメイン名の登録または使用が善意によるものと考えることは不可能であり、上記方針
第4条a(ⅲ)の「不正の目的で登録または使用している」と考えざるを得ない。

6 結論
 以上に照らして、紛争処理パネルは、登録者によって登録されたドメイン名「ZIPPO.JP」
が申立人の商標と混同を引き起こすほど類似し、登録者が、ドメイン名について権利また
は正当な利益を有していない、登録者のドメイン名が不正の目的で登録され且つ使用され
ているものと裁定する。
 よって、方針第4条iに従って、ドメイン名「ZIPPO.JP」の登録を申立人に移転するも
のとし、主文のとおり裁定する。

   2013年7月29日

   日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
              福井 陽一
              単独パネリスト


別紙商標1
Zippoロゴ1

別紙商標2
Zippoロゴ2

別記 手続の経緯
(1)申立書受領日
   2013年6月12日(電子メール)及び6月12日(書面)
(2)手数料受領日
   2013年6月11日 申立手数料の受領確認
(3)ドメイン名及び登録者の確認
   2013年6月12日 JPRS へ照会
   2013年6月12日 JPRS から登録情報の回答
   回答内容:申立書に記載された登録者はドメイン名の登録者であること、JPRS

        に登録されている登録者の電子メールアドレス及び住所等
(4)適式性
   日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、2013年6月
  14日に、申立書の補正が必要と判断してその旨を申立人に通知し、補正した申
  立書を6月17日に受領した。センターは,同日に,申立書が処理方針と規則に
  照らし申立書が適合していることを確認した。
(5)登録者への通知日及び内容
   1) 申立書送付日(手続開始日) 2013年6月17日(電子メール及び郵送)
   2) 申立書及び証拠等一式
   3) 答弁書提出期限 2013年7月16日
(6)手続開始日 2013年6月17日
   センターは、2013年6月17日に申立人及び登録者には電子メール及び郵
  送で、JPRS 及びJPNIC には電子メールで、手続開始日を通知した。
(7)答弁書の提出の有無及び提出日
   センターは、2013年7月2日に答弁書を受領した。
(8)パネリストの選任 2013年7月9日
   申立人、登録者とも1名のパネルによって審理・裁定されることを選択。
   中立宣言書の受領日:2013年7月12日
   パネリスト:弁理士 福井 陽一
(9)紛争処理パネルの指名及び裁定予定日の通知
   2013年7月9日 JPNIC 及びJPRS へ電子メールで通知

             申立人及び登録者へ電子メール及び郵送で通知
   裁定予定日:2013年7月30日
(10)パネリストへのパネリスト指名書及び一件書類受け渡し
   2013年7月9日(電子メール及び郵送)
(11)パネルによる審理・裁定
   2013年7月29日 審理終了、裁定。