事件番号:JP2013-0009

                  裁 定

  申立人:
  (名称)ピンタレスト インク
  (住所)アメリカ合衆国 カリフォルニア州 サンフランシスコ プラナンストリ
ート 808
  代理人:弁護士 達野 大輔
  登録者:
  (氏名)株式会社モンブラン
  (住所)東京都渋谷区笹塚ライオンズマンション笹塚1002 号
  代表者 平城晋太郎

 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針、JPドメイ
ン名紛争処理方針のための手続規則及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処
理方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立書・答弁書・提出された証拠に
基づいて審理を遂げた結果、以下のとおり裁定する。

1 裁定主文
  ドメイン名「pinterest.co.jp」の登録を申立人に移転せよ。
2 ドメイン名
  紛争に係るドメイン名は「pinterest.co.jp」である。
3 手続の経緯
  別記のとおりである。

4 当事者の主張
 a 申立人
  申立人は、申立人の登録商標 PINTEREST とその要部において同一のドメイン名
pinterest.co.jp を登録している登録者に対して、本件ドメイン名を申立人に移転するよう
求めている。
  申立人によれば、(1) 本件ドメイン名は、日本、アメリカ、EU において商標権の保
護を受けている申立人の商標と、その主要部分において同一であること、(2) 申立人は登
録者にPINTEREST の名称・商標を使用することを許可したことはなく、また造語である
PINTEREST に対して申立人を意識して登録者が使用したことは明らかであり、その他登
録者が本件ドメイン名を使用することを適法とする根拠はなく、登録者が本件ドメイン
名の名称で一般に認識されていたこともないのであるから、登録者は本件ドメイン名に
ついて正当な利益を有していない、(3) そして本件ドメイン名は、登録者がPINTEREST
商標の所有者である申立人に登録の必要経費以上の対価をもって販売する目的で登録し
たものとみなされるべきであるので、不正の目的で登録されまたは使用されている。
 以上の理由により、申立人は、ドメイン名登録の申立人への移転を請求する。
 b 登録者
  登録者は、2013 年10 月9 日に、手続開始日および答弁書提出期限を記載して申立書
等を添付した通知を電子メールおよび郵送により受けたにも関わらず、提出期限である
同年11 月8 日までに答弁書を提出せず、答弁書不提出通知書も電子メールおよび郵送に
より送付を受けたが、郵送分については「受取人不在のため配達できませんでした。」
として返送された。同様にパネル指名および裁定予定日の通知も電子メールおよび郵送
により登録者に対して送付されたが、郵送分は同様の理由により返送された。従って登
録者の現在の所在地は不明である。

5 争点および事実認定
 規則第15条(a)は、パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原則
についてパネルに次のように指示する。「パネルは、提出された陳述・文書および審問
の結果に基づき、処理方針、本規則および適用されうる関係法規の規定・原則、ならび
に条理に従って、裁定を下さなければならない。」
 方針第4条aは、申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図して
いる。
 (1)登録者のドメイン名が、申立人が権利又は正当な利益を有する商標その他表示
と同一又は混同を引き起こすほど類似していること
 (2)登録者が、ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有していないこと
 (3)登録者のドメイン名が、不正の目的で登録又は使用されていること

 (1)同一又は混同を引き起こすほどの類似性
 本件ドメイン名pinterest.co.jp は、国別コードおよび属性を示す.co.jp を除いた要部
pinterest について、申立人が商標権を有するPINTEREST と同一である。
 申立人がPINTEREST という標章(以下、本件標章という)に商標権を有することは、
申立人提出の文書(別添資料1 ないし4)により認めることができる。
 従って本件申立ては、方針第4条aの定める要件(1)登録者のドメイン名が、申立
人が権利又は正当な利益を有する商標その他表示と同一又は混同を引き起こすほど類似
していることを充足している。

 (2)権利又は正当な利益
 申立人は、本件標章の使用を登録者に許したことはないと主張し、登録者もこれを争
う主張はしていない。また申立人の主張によれば本件標章は造語であるので、登録者が
申立人とは別個に本件標章と同一の表示に対して権利または正当な利益を有することは
通常考えられない。
 従って 方針第4条aの定める要件(2)登録者が、ドメイン名に関係する権利又は正
当な利益を有していないことを充足している。

 (3)不正の目的での登録または使用
 申立人は、登録者が本件ドメイン名を登録した意図を「本件ドメイン名の譲渡を提案
し、申立人から利得を得よう」というものと推測している。
 他方、登録者は答弁書を提出せず、申立人に対して売却を申し入れるなどの行動にも
出ておらず、本件ドメイン名を用いたウェブサイトの開設やメールアドレスの設定もし
ていないので、いわゆる非活動的所有 passive holding である。
 非活動的所有を「不正の目的での登録または使用」に該当するといえるかどうかは、
JP-DRP 手続のみならず、インターネット・コーポレーション・オブ・アサインド・ネー
ムズ・アンド・ナンバーズ(ICANN)の定める(ドメイン名)統一紛争処理ポリシー
(UDRP)においても問題となってきた。
 こ の 点 に 関 す る 先 例 を み る と 、 JP-DRP 手続ではJP2001-0002 事件裁定
(SONYBANK.CO.JP)、JP2001-0003 事件裁定(ICOM.NE.JP)、JP2001-009 事件裁定
(ARMANI.CO.JP)、JP2002-0005 事件裁定(DIOR.CO.JP)、JP2002-0007 事件裁定
(PHARMACIA.JP)、JP2003-0003 事件裁定(LASTMINUTE.JP ただし、この事件では実
質的な理由が記載されていない。)、JP2005-0001 事件裁定(WALMART.JP ただし、この
事件では上申書は提出されており、登録者のサイトの開設と閉鎖等の事情が説明されて
いる。)、JP2006-0002 事件裁定(THAWTE.JP ただし、この事件では商標登録抹消事件
が先行し、登録者の商標は申立人の登録商標と誤認混同させるものとして抹消されてい
る。)、JP2006-0005 事件裁定(STARBUCKS.JP ただし、名目的ページは存在する。)な
どにおいて、登録者が答弁書を提出せず、申立人に譲渡を申し込むこともなく、また登
録ドメイン名によりウェブサイト等の利用をしない場合に、移転または取消の裁定が下
されている。もっとも、それらの理由は必ずしも一致せず、確立した先例の準則がある
わけではない。
 UDRP の手続を担うWIPO においても同様にPassive holding の事例が問題となる。そこ
では、少なくともPassive であることが直ちにbad faith を否定することにはならず、パネ
ルは全事情に照らして登録者がbad faith であるかどうかを認定しなければならないとさ
れている。その際考慮される事情としては、著名商標であること、答弁書不提出、およ
び登録者が身元を隠していることが挙げられている( http://www.wipo.int/amc/en
/domains/search/overview2.0/#32 参照)。
 以上の先例および他機関における取扱いの傾向に照らし、本パネルは、一方では申立
人の標章がユニークな、あるいは著名な標章であること、登録者の氏名・名称等から登
録者が当該ドメイン名を申立人と無関係に選択して登録する可能性はないこと、登録者
の登録時期以前から申立人の標章が著名な存在となっていたこと、そして登録者が身元
を隠すなどして申立人による交渉を実質的に妨害していることなどの事情が認められれ
ば、非活動的所有のケースにおいても「不正の目的での登録または使用」を推認できる
ものと解する。
 本件では、申立人の標章が造語であってユニークなものであることは既に認定したと
おりである。また申立人の標章が登録者の登録時期(2012 年7 月)以前から既に著名で
あることは、申立人の主張および提出書類(特に別添資料7)から明らかであり、またパ
ネリストにも顕著である。他方、登録者が申立人と無関係に本件ドメイン名を選択し登
録した可能性は乏しく、著名な標章であることを認識し、これに依拠する意図をもって
登録したものと推認できる。さらに、登録者は住所が明らかでなく、当センターからの
郵便物も宛先不明となって戻っており、申立人が交渉をもとうとしてもできない状況を
作出している。
 従って、方針第4条aの定める要件(3)登録者のドメイン名が、不正の目的で登録
又は使用されていることを充足していると認める。

6 結論
 以上に照らして、紛争処理パネルは、登録者によって登録されたドメイン名
「pinterest.co.jp」が申立人の商標と要部において同一であり、登録者が、ドメイン名につ
いて権利または正当な利益を有しておらず、かつ、登録者のドメイン名が不正の目的で
登録または使用されているものと裁定する。
 よって、方針第4条iに従って、ドメイン名「pinterest.co.jp」の登録を申立人に移転す
るものとし、主文のとおり裁定する。

   2013年11月11日

   日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
              町村泰貴
              単独パネリスト


別記 手続の経緯
(1)申立書受領日
   2013年8月30日(電子メール)及び9月3日(書面)
(2)手数料受領日
   2013年9月6日 申立手数料の受領確認
(3)ドメイン名及び登録者の確認
   2013年9月6日 JPRS へ照会
   2013年9月6日 JPRS から登録情報の回答
   回答内容:申立書に記載された登録者はドメイン名の登録者であること、JPRS
        に登録されている登録者の電子メールアドレス及び住所等
(4)適式性
   日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、2013年9月
  11日に、証拠一覧表及び証拠説明書、委任状の及び代表者の資格を証明する公
  的証明書類の提出が必要と判断してその旨を申立人に通知した。
   証拠一覧表及び証拠説明書及び上申書を9月19日に受領し,同日付けで,
  補正期間を9月30日まで延長することを通知した。委任状及び上申書を10
  月2日に受領し,同日付けで,補正期間を10月15日まで延長することを通
  知した。代表者の資格を証明する公的証明書類を10月8日付けで受領した。
   センターは,同年10月8日に,申立書が処理方針と規則に照らし申立書が
  適合していることを確認した。
(5)登録者への通知日及び内容
   1) 申立書送付日(手続開始日) 2013年10月9日(電子メール及び郵
送)
   2) 申立書及び証拠等一式
   3) 答弁書提出期限 2013年11月8日
(6)手続開始日 2013年10月9日
   センターは、2013年10月9日に申立人及び登録者には電子メール及び郵
  送で、JPRS 及びJPNIC には電子メールで、手続開始日を通知した。
(7)答弁書の提出の有無及び提出日
   センターは、提出期限日までに答弁書を受領しなかったので、2013年11
  月12日に「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不提出通知書を、
  電子メールと郵送にて申立人及び登録者に送付した。
  (但し登録者宛郵送分については「受取人不在のため配達できませんでし
  た。」として,返送された。)
(8)パネリストの選任 2013年11月15日
   申立人、登録者とも1名のパネルによって審理・裁定されることを選択。
   中立宣言書の受領日:2013年11月22日
   パネリスト:町村 泰貴
(9)紛争処理パネルの指名及び裁定予定日の通知
   2013年11月15日 JPNIC 及びJPRS へ電子メールで通知
             申立人及び登録者へ電子メール及び郵送で通知
              (但し登録者宛郵送分については「受取人不在のた
               め配達できませんでした。」として,返送され
               た。)
   裁定予定日:2013年12月5日
(10)パネリストへのパネリスト指名書及び一件書類受け渡し
   2013年11月15日(電子メール及び郵送)
(11)パネルによる審理・裁定
   2013年12月4日 審理終了、裁定。