事件番号:JP2014-0003
裁 定
1 当事者
申立人:
(名称)サンスター株式会社
(住所)〒569-1195 大阪府高槻市朝日町3番1号
申立人代理人 弁護士 秋山 洋
弁護士 茂野祥子
弁護士 寺井昭仁
登録者:
(氏名)萩原成史
(住所)〒183-0052 東京都府中市新町クリーンコーポ303
日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JP ドメイン名紛争処理方針、JP ドメ
イン名紛争処理方針のための手続規則及び日本知的財産仲裁センターJP ドメイン名紛
争処理方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立書、追加陳述書面及び提
出された証拠に基づいて審理を遂げた結果、以下のとおり裁定する。
2 裁定主文
ドメイン名「緑でサラナ.JP」の登録を申立人サンスター株式会社に移転せよ。
3 ドメイン名
紛争に係るドメイン名は「緑でサラナ. JP」である。
4 手続の経緯
別記のとおりである。
5 当事者の主張
a 申立人
(1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表
示と同一または混同を引き起こすほど類似している。(4a(i))
ア 申立人は、別紙目録①及び②記載の2 件の登録商標「緑でサラナ」(以下、総
じて「本件登録商標」という。)を保有しており、これを商品名とする特定保
健用食品(以下、「本件製品」という。)を製造・販売している。
イ 登録者の所有するドメイン名「緑でサラナ.JP」(以下、「本件ドメイン名」
という。)のうち、「JP」は国別を示すトップレベルドメインであり、特段の
識別力を有するものではないから、本件ドメイン名の要部は「緑でサラナ」で
あり、これは、申立人が保有・使用する本件登録商標と全く同一である。
(2)登録者は、本件ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していない。
(4a(ii))
ア 登録者による登録商標もしくは使用権(ライセンス)の不存在
「緑でサラナ」と一致する登録商標は本件登録商標のみであり、申立人は、
登録者に対し、本件登録商標の使用を許諾したことはないから、登録者は、
本件ドメイン名ないしその要部である「緑でサラナ」の使用する権利を有し
ていない。
イ JP ドメイン名紛争処理方針第4 条c(i)から(iii)の不存在
登録者は、本件ドメイン名を、「※必見!緑でサラナの口コミ評判はコ
コ!」と題するウェブサイト(以下、「本件ウェブサイト」という。)に使用
している(甲第6号証)。本件ウェブサイトには、有限会社マイケア(甲第7
号証。以下、「マイケア」という。)の「ふるさと青汁」という製品を販売
するウェブサイトへのリンクが多数張れていること等から、登録者は、著名
な本件製品名を含む本件ドメイン名を用いて、インターネット上のユーザー
を同サイトへ誘導して広告収入(アフィリエイト収入)を得ていることが認
められる。
したがって、登録者による本件ドメイン名の使用は、「正当な目的」(JP
ドメイン名紛争処理方針(以下、単に「方針」という。) 第4 条c(i)項)に
よるものでも、「非商業的目的」(方針第4 条c(iii)項)によるものでもない。
また、登録者は、本件ドメイン名の名称で一般に認識されている訳でもな
い(方針第4 条c(ii))。
(3) 登録者の本件ドメイン名は、不正の目的で登録または使用されている。
(4a(iii))
ア 本件ドメイン名は善意により採択されたものではない。
「緑でサラナ」は造語であり、これを偶然に想起するとは到底考えられない
ことからすると、登録者が、善意により本件ドメイン名を採択したとは認め
られない。
申立人の本件登録商標は、商品区分第32 類については平成21 年3 月13 日
に、第29 類については平成21 年8 月28 日に、それぞれ登録され、平成21
年2 月頃から「緑でサラナ」の名称を付した本件製品の製造・販売を開始し
ており、平成24 年度の売上高は約50 億円にも上っている(甲第8 号証)。他
方、登録者の本件ドメイン名は、平成25 年7 月に登録されている(甲第9 号
証)。
本件製品が市場において広く流通していたことからすると、その製品名で
ある「緑でサラナ」は、本件ドメイン名の登録時には、既に、申立人の登録
商標として、あるいは、申立人が製造・販売する本件製品の製品名として、
世間一般に広く周知されていたことは明らかである。
また、登録者自身も、ウェブサイトにおいて、[今、コレステロールを気
にされている方から大人気のサンスター緑でサラナ]と記載しており(甲第6
号証)、「緑でサラナ」が申立人が製造・販売する本件製品の製品名であるこ
とを明確に認識している。
登録者は、本件ドメイン名を善意で採択したのではなく、申立人の登録商
標であること、あるいは、申立人製造・販売にかかる本件製品の製品名とし
て、世間一般に広く周知されていることを認識したうえで、あえてこれを本
件ドメイン名として登録・使用している。
イ 登録者によるアフィリエイト・マーケティング
本件ウェブサイトには、その冒頭部分において、「コレステロールを下
げる【緑でサラナ】」という見出しの下、本件製品に関する約10 行程度の
簡単な製品説明があるものの、その直後には、「実は、もっといい商品があ
るんです!」との見出しが続き、以下、マイケアが販売する「ふるさと青汁」
の紹介が延々と続いている(甲第6号証)。
「ふるさと青汁」の紹介文中には、複数のリンクが張られ、このうち(b)
のリンクは、本件ウェブサイト中に合計4個も張られている(甲第6号証)。
これらのリンクをクリックすると、いずれも同じ「ふるさと青汁」の販売サ
イト2 (甲第10号証)へと移動する仕組みになっており、さらに、同サイト
に貼られた「通常で購入」、「とくとく便で購入」、「購入する」の各リン
クをクリックすると、「ふるさと青汁」の購入申し込みが出来るサイトへと
誘導される仕組みになっている (甲第11号証の1 及び2)。
リンクを右クリックしてプロパティを表示すると、いずれも同一のURL3
(以下、「本件トラッキングURL」という。)が表示される。本件トラッキン
グURL には、「track.affiliate-b.com」の文字例が含まれているが、同文
字列を含むトラッキングURL は、株式会社フォーイットの提供するアフィリ
エイト・プログラム(以下、「アフィリエイトB」という。)において用いら
れるものである(甲第12号証の1 及び2)
登録者は、アフィリエイトB に登録し、本件ウェブサイトをアフィリエイ
トサイトとして利用していることが認められる。そして、本件ウェブサイト
を訪れたインターネットユーザーが、各リンクを経由して「ふるさと青汁」
の販売サイトへと誘導され、同サイトにおいて「ふるさと青汁」を購入した
場合には、登録者がアフィリエイト収入を得る仕組みになっていることが認
められる。
ウ 登録者は、「緑でサラナ」が申立人の登録商標として著名であること、あ
るいは、少なくとも申立人が製造・販売する本件製品の製品名として著名で
あることを十分認識したうえで、これと同一の本件ドメイン名を登録し、本
件ウェブサイトに使用している。登録者には、インターネットユーザーに、
本件ウェブサイトが本件登録商標ないし本件製品と何らかの関係があるも
のと誤認・混同させ、インターネットユーザーを本件ウェブサイトに誘因す
ることで、不正に商業上の利益(アフィリエイト収入)を得ようとする意図が
ある。 換言すれば、登録者による本件ドメイン名の登録・使用は、本件登
録商標ないし本件製品名の著名性を前提として、これに意図的にフリーライ
ドするものであるから、方針第4 条b.(iv)に規定する不正目的による登録・
使用であると言わざるを得ない。したがって、本件ドメイン名は、不正の目
的で登録者により登録・使用されていることは明らかである。
b 登録者
(1) 登録者は、次の陳述から成る答弁書を提出した。
i)「3.申立書の陳述・主張に対する答弁 (方針4 条(a)(b)(c)、手続規則5 条)」
「全て認める」
ii)「5. 他の法的手続き(規則5条(b)(vi))」
「申立人が求める救済措置について、認める。」
(2) 登録者は、また、答弁書において、自身が商標に関して全く無知であったが
ために「緑でサラナ.JP」というドメインを使用しサイト運営をしていたこと
を非常に反省していること、サイトの削除をしたこと、更新され次第、検索結
果からも「緑でサラナ.JP」で運用していたサイトは消えるはずであること、
二度とこのようなことが無いように今後気を付けること等を附言している。
6 事実認定および判断
(1)JPドメイン処理のための手続規則第15条a項は、パネルが紛争を裁定する
際に使用することになっている原則についてパネルに次のように指示する。
「パネルは、提出された陳述・文書および審問の結果に基づき、処理方針、本規
則および適用されうる関係法規の規定・原則、ならびに条理に従って、裁定を下さ
なければならない」。
また、方針第4条a項は、申立人が次の事項の各々を立証しなければならないこ
とを指図している。
(1) 登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その
他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること
(2)登録者が、ドメイン名の登録についての権利または正当な利益を有していな
いこと
(3)登録者のドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること
(2)同一又は混同を引き起こすほどの類似性(4条a項(i)号)
ア 本件ドメイン名「緑でサラナ.JP」は、登録者により、平成25 年(2013 年)7 月
6日に登録された。他方、申立人は、別紙目録①及び②に示す2 件の本件登録商
標「緑でサラナ」を、本件ドメイン名登録日の約4 年前から保有している。
登録者の所有する本件ドメイン名「緑でサラナ.JP」のうち、「JP」は国別を
示すトップレベルドメインであって特段の識別力を有するものではなく、本件ド
メイン名の要部は「緑でサラナ」であるから、これを本件登録商標「緑でサラナ」
と対比すると、両者は「ミドリデサラナ」と称呼する点において同一であり、ま
た、標準文字からなる本件商標とはその外観においても同一または類似する。観
念については、「緑でサラナ」が申立人の造語 (申立書3 頁最終パラグラフ)であ
るとしても、その文字全体からは「緑色で癒しを」ほどの観念が示唆されるもの
であって、同一構成からなる本件ドメイン名とは観念の点においても同一もしく
は類似する。したがって、本件ドメイン名は、申立人が正当に保有する本件登録
商標と同一または混同を引き起こすほど類似していると認められる。
イ 更に、甲第6 号証によれば、登録者は、本件ドメイン名「緑でサラナ.JP」を使
用したサイトにおいて、「※必見!緑でサラナの口コミ評判はココ!」なるコラム
を設け、申立人の本件登録商標を付した本件製品「緑でサラナ」の記事を掲載して
おり、本件登録商標と本件ドメイン名の混同性は極めて高く、これに接する者に
おいて混同を生じさせることは必至であり、このことは、本件ドメイン名が本件
登録商標と混同を生じるほどに類似していることを一層裏付けるものと認める。
上述のとおりであるから、本件ドメイン名は、申立人の保有する本件登録商標
その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似しており、JP ドメイン名紛争
処理方針(以下、単に「方針」という。)の4条a項(i)号に該当するものと認
める。(登録者は、答弁書において反論していない。)
(3)登録者の権利又は正当な利益(4条a項(ii)号)
ア 甲第4 号証及び第5 号証によれば、現在特許庁において登録されている「緑で
サラナ」なる商標は、申立人の保有する本件登録商標2件のみであることが認め
られる。また、申立人は、登録者に対して本件登録商標の使用を許諾したことは
ないと述べ、提出された商標登録原簿(甲第1 号証の2 及び同第2 号証の2)には
使用権設定の記録はない。ただ、許諾による通常使用権の有無に関しては立証さ
れるところは無いが、登録者は答弁書において抗弁も行っていないことから、登
録者には許諾に基づく使用権もまた設定されていないと判断する。
イ 登録者は、本件ドメイン名を、「※必見!緑でサラナの口コミ評判はココ!」
と題するウェブサイト(以下、「本件ウェブサイト」という。)に使用し (甲第6号
証)、申立人の著名な本件製品に関するわずかな記事を当該記事の先頭に配し、他
の大部分を有限会社マイケア(甲第7号証。以下、「マイケア」という。)の「ふる
さと青汁」製品の販売に関する記事で埋め、更にリンクを通してマイケアのサイト
へサイト訪問者を誘導するという手法をとっている。そして、更に、申立人の主張
(第4 頁イ)及び甲第12 号証の1 及び2 に照らし合わせれば、登録者が前記手法を
通してアフィリエイト収入を得ようとしていることが認められる。
これらの一連の行為は、登録者が、申立人の商標その他表示を利用して消費者
の誤認を惹き起こすことにより商業上の利得を得る意図を有する行為であって、
かかる登録者による本件ドメイン名の使用は、方針第4 条c 項(iii)号に反するも
のと判断する。
ウ 上述のとおりであるから、本件ドメイン名は、登録者が、当該ドメイン名に関
係する権利または正当な利益を有しておらず、したがって、方針4条a項(ii)
号に該当するものと認める。 (登録者は、答弁書において反論していない。)
(4)不正の目的での登録または使用(4 条a 項(iii)号)
ア 方針4 条a 項(iii)号の判断基準の一つである方針4 条b 項(iv)号は、登録者のド
メイン名が不正の目的で登録または使用されているか否かの基準を、次のように定
めている。
「登録者が、商業上の利得を得る目的で、そのウェブサイトもしくはその他のオ
ンラインロケーション、またはそれらに登場する商品及びサービスの出所、スポン
サーシップ、取引提携関係、推奨関係などについて誤認混同を生ぜしめることを意
図して、インターネット上のユーザーを、そのウェブサイトまたはその他のオンラ
インロケーションに誘引するたに、当該ドメイン名を使用しているとき」
イ 甲第8 号証によれば、申立人の本件製品「緑でサラナ」は、平成24 年(2012
年)度には約50 億円の売上高に達しており、この時点において申立人の保有
する本件登録商標及び表示は既に全国的な著名性を有していたと認められ
る。
これに対し、登録者が本件ドメイン名「緑でサラナ. JP」を登録したの
は平成25 年7 月6 日であり、申立人の保有する本件登録商標及び表示が全
国的な著名性を有するようになっていた後であり、登録者のホームページの
開設はさらにそれ以降となる。
ウ 甲6 号証は、「※必見!緑でサラナの口コミ評判はココ!」なるウエブ
タイトルを付けた登録者のウェブページであるが、このページでは、登録者
は先ずその冒頭で申立人の本件製品を紹介し、「コレステロールを下げる
【緑でサラナ】」、「今、コレステロールを気にされている方から大人気の
サンスター緑でサラナ」、「とにかく、大手サンスターの商品であることか
ら信頼性の高い商品です。」等々と記載し、ウェブサイト訪問者に、該ウェ
ブサイトが申立人のもの、あるいは申立人と取引関係にある者等を容易に信
じさせる手法をとっていることが認められる。 そして、その後に、「実は
もっといい商品があるんです!」と書いて、「マイケア ふるさと青汁」の
宣伝が延々と続くため、あたかも申立人もしくは申立人と取引関係にある者
が、ふるさと青汁を推奨しているとの誤解をウェブサイト訪問者に与え、リ
ンクされた購入サイトに訪問者が誘導されるように仕組まれていると判断
することができる。そして、甲第12 号証の1 及び2 から、登録者自身は、
他のオンラインロケーションを使って商業上の利得を得ることができるよ
うに構成されていることが認められる。
エ これら一連からなる複数の行為は、方針4 条b 項(iv)号の要件に該当する
ものであって、それゆえ、本件ドメイン名は、方針第4 条a 項(iii)号の不正
の目的で登録者により登録され使用されているものであると認める。
(登録者は、答弁書において反論していない。)
7 結論
以上のとおりであるから、登録者によって登録された本件ドメイン名「緑でサラ
ナ.JP」が申立人の商標および表示と混同を引き起こすほど類似し、登録者が、ドメ
イン名について権利又は正当な利益を有しておらず、登録者のドメイン名が不正の
目的で登録されかつ使用されているものと裁定する。
よって、方針第4条(i)項に従って、ドメイン名「緑でサラナ」の登録を申立
人に移転するものとし、主文のとおり裁定する。
2014年8月5日
日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
下坂スミ子 (印)
(単独パネル)
【別紙目録】
① 商 標 : 緑でサラナ
出願日 : 平成20年(2008年) 9月 1日
登録日 : 平成21年(2009年) 3月13日
登録番号 : 第5214251号
指定商品及び役務の区分 : 第32類
② 商 標 : 緑でサラナ
出願日 : 平成21年(2009年) 2月23日
登録日 : 平成21年(2009年) 8月28日
登録番号 : 第5260912号
指定商品及び役務の区分 : 第29類
別記 手続の経緯
(1)申立書受領日
2014年7月2日(電子メール)及び7月3日(書面)
(2)手数料受領日
2014年7月2日 申立手数料の受領確認
(3)ドメイン名及び登録者の確認
2014年7月3日 JPRSへ照会
2014年7月3日 JPRSから登録情報の回答
回答内容:申立書に記載された登録者はドメイン名の登録者であること、JPRS
に登録されている登録者の電子メールアドレス及び住所等
(4)適式性
日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、2014年7月
4日に、申立書が処理方針と規則に照らし申立書が適合していることを確認した。
(5)登録者への通知日及び内容
1) 申立書送付日(手続開始日) 2014年7月4日(電子メール及び郵送)
2) 申立書及び証拠等一式
3) 答弁書提出期限 2014年8月5日
(6)手続開始日 2014年7月7日
センターは、2014年7月7日に申立人及び登録者には電子メール及び郵送
で、JPRS及びJPNICには電子メールで、手続開始日を通知した。
(7)答弁書の提出の有無及び提出日
センターは、2014年7月15日に答弁書を受領した。
(8)パネリストの選任 2014年7月15日
申立人、登録者とも1名のパネルによって審理・裁定されることを選択。
中立宣言書の受領日:2014年7月18日
パネリスト:弁理士 下坂 スミ子
(9)紛争処理パネルの指名及び裁定予定日の通知
2014年7月15日 JPNIC及びJPRSへ電子メールで通知
申立人及び登録者へ電子メール及び郵送で通知
裁定予定日:2014年8月5日
(10)パネリストへのパネリスト指名書及び一件書類受け渡し
2014年7月15日(電子メール及び郵送)
(11)パネルによる審理・裁定
2014年8月5日 審理終了、裁定。