事件番号:JP2014-0004

                  裁 定

  申立人:
  (名称)LPKF Laser&Electronics 株式会社
  (住所)横浜市中区桜木町一丁目1番7号 TOCみなとみらい12階
       オフィスゾーン12-1-2区画
  代理人:弁護士 矢部 耕三
       同  大西 千尋
       同  山口 裕司

  登録者:
  (名称)イープロニクス株式会社
  (住所)東京都渋谷区代々木五丁目37番6号
  代理人:弁護士 篠島 正幸
       同  今泉 将史

 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JP ドメイン名紛争処理方針、JP ドメイン
名紛争処理方針のための手続規則及び日本知的財産仲裁センターJP ドメイン名紛争処理
方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立書・答弁書・提出された証拠に基づ
いて審理を遂げた結果、以下のとおり裁定する。

1 裁定主文
  ドメイン名「LPKF.JP」及び「LPKF.CO.JP」の登録を申立人に移転せよ。

2 ドメイン名
  紛争に係るドメイン名は「LPKF.JP」及び「LPKF.CO.JP」である。

3 手続の経緯
 別記のとおりである。

4 当事者の主張
 a 申立人
  申立人は、申立人の親会社であるLPKF Laser&Electronics
AG(以下「ドイツ法人」という。)が保有する登録商標「LPKF(標準文字)」(商
標登録第4415478 号)など3件(以下まとめて「本件登録商標」又は「本件商標権」とい
う。)を実質的に模写し、マークにおける申立人の好評を利用する意図をもって登録者に
よって採択されたドメイン名を登録していることを主張する。申立人によれば、ドメイン
名は、申立人の商標と混同を引き起こすほどに類似し、登録者はドメイン名について正当
な利益を有していない、そしてドメイン名は不正の目的で登録され且つ使用されている。
 従って、申立人は、ドメイン名登録の申立人への移転を請求する。
 b 登録者
  登録者は答弁書を提出し、次のように主張する。
 登録者は申立人の親会社であるドイツ法人との間で、申立人が設立される遙か以前から、
ドイツ法人との契約に基づき我が国における同社製品の販売を独占的に行ってきた企業で
あり、平成25年にドイツ法人の都合により法人名の変更を余儀なくされるまで、本件ド
メイン名で表象される企業名を有していた。本件各ドメイン名も、ドイツ法人と協議のう
え、登録者において取得、使用していた。
 すなわち、登録者は、本件ドメイン名に関係する権利及び正当な利益を有することが明
らかであるし、取得及び使用に不正な目的など存在しないのであるから、申立人の主張に
はいずれも理由がなく、却下を免れない。

5 争点および事実認定
 規則第15条(a)は、パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原則に
ついてパネルに次のように指示する。「パネルは、提出された陳述・文書および審問の結
果に基づき、処理方針、本規則および適用されうる関係法規の規定・原則、ならびに条理
に従って、裁定を下さなければならない。」
 方針第4条aは、申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図してい
る。
 (1)登録者のドメイン名が、申立人が権利又は正当な利益を有する商標その他表示と
同一又は混同を引き起こすほど類似していること
 (2)登録者が、ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有していないこと
 (3)登録者のドメイン名が、不正の目的で登録又は使用されていること

 (1)同一又は混同を引き起こすほどの類似性
(ア)申立人は本件登録商標について権利又は正当な利益を有するか
 本件登録商標は、申立人の親会社であるドイツ法人が保有するものである。申立人がド
イツ法人の100%子会社であることは、当事者間に争いがない。そして、申立人がドイ
ツ法人の製品を我が国において販売する目的で設立されたものであることも、当事者間に
争いがない。
 他方、ドイツ法人と申立人との間に本件登録商標に関する契約が存在することを裏付け
る証拠は提出されていない。そうではあるが、申立人がドイツ法人の100%子会社であ
ること、及び上記申立人の設立の目的を斟酌すれば、申立人が本件登録商標について使用
権者の立場にあると推認できる。
 この点に関し登録者は、商標その他の権利はドイツ法人に帰属するものであり、同社の
100%子会社とはいえ別法人である申立人には何らの権利も帰属しないと主張するが、
ドイツ法人が我が国に販売目的の子会社を設立するに際して、ドイツ法人が保有する本件
商標権について、100%子会社である申立人に何らの権利も認めないということは、想
定することができない。
 したがって、申立人は本件登録商標について「権利又は正当な利益」を有するものと認
められる。
(イ)類似性
 本件登録商標中、商標登録第4415477号は「LPKF(ロゴ)」、商標登録第4
415478号は「LPKF(標準文字)」であり、いずれも欧文字「LPKF」よりな
るものと認識されるものである。また、商標登録第4415479号は「エルピーケーエ
フ」であって、欧文字「LPKF」を容易に認識させるものである。
 他方、紛争に係るドメイン名「LPKF.JP」及び「LPKF.CO.JP」は、文字列「LPKF」に
よって識別されるものである。JPは地域を示すものであり、COは属性を示すものであ
ってドメイン名の識別力を有する部分は両者ともに「LPKF」の文字列である。
 そして、本件登録商標の指定商品・指定役務と登録者の事業とは共通する。
 したがって、申立人が権利又は正当な利益を有すると認められる本件登録商標と登録者
のドメイン名とは、同一又は混同を引き起こすほど類似しているものと判断する。
 なお、登録者は、我が国では登録者の表示「LPKF」が周知・著名であり申立人の表
示こそが登録者の事業と混同をひき起こすものであると主張している。この点については
次項で判断する。

 (2)権利又は正当な利益
(ア)当事者の主張
(a)申立人
 申立人は、登録者は契約終了に伴い2014年6月30日にLPKF製品の販売代理店
ではなくなり、LPKF製品の提供を正当な目的をもって行うために、本件ドメイン名を
使用することはできなくなった、と主張する。
(b)登録者
 登録者は、ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有していると主張し、以下の理
由を述べている。
① 登録者は15年間にわたりドイツ法人の独占的販売代理店として、我が国における本
件登録商標及び商品等表示を使用する権利を有していたものであるという経緯からすれば、
我が国では登録者の表示「LPKF」が周知・著名であり申立人の表示こそが登録者の事
業と混同をひき起こすものである。
② 登録者は、ドメイン名に関わる紛争に関し、紛争処理機関から通知を受ける前に、商
品又はサービスの提供を正当な目的を持って行うために、当該ドメイン名又はこれに対応
する名称を使用してきた。
③ 登録者は、本件ドメイン名の名称で一般に認識されていた。

(イ)事実認定
 証拠によれば、以下の事実を認めることができる。
 登録者は、平成10年(1998年)3月頃から、ドイツ法人の製品の日本における販
売代理店としての事業を行い、販売代理店契約は2014年6月30日に終了し、登録者
はドイツ法人の製品の取り扱いを終了したことは当事者間に争いはない(甲6,乙1,乙
2)。登録者は、販売代理店契約の存続中である2000年9月にドメイン名「LPKF.CO.JP」
を登録し、2001年5月にドメイン名「LPKF.JP」を登録した(パネルにおいて顕著な事
実)。
 また、登録者は、本件ドメイン名の登録は商標権者たるドイツ法人の許諾に基づいて行
ってきたと主張する。

(ウ)判断
 登録者は、ドイツ法人の契約解除の不当性について述べているが、契約終了については
認めているので(答弁書(2)ウ)契約の終了を有効なものとして以下判断する。
 上記事実認定及び登録者の主張を総合すると、登録者はドイツ法人との契約の下にドイ
ツ法人の製品を我が国において販売し、販売のために本件ドメイン名をドイツ法人の許諾
の下に取得したものということができる。また、登録者の旧商号「日本エルピーケーエフ
株式会社」についても同様の事情があると認められる(答弁書3.(4)ア、乙1の2)。
 すなわち、登録者は、ドイツ法人の我が国における代理人として旧商号を採択し、本件
登録商標を使用し、本件ドメイン名を登録し、使用していたということになる。
 登録者が提出する証拠説明書には、乙1の2の立証趣旨として「登録者は、もとの商号
を「日本サンテック株式会社」と称していたが、日本におけるLPKFブランドの定着を
図るため、平成10年、あえて商号を「日本エルピーエフ株式会社」に変更したこと。」
と記載されている。乙1の2によって係る事実が裏付けられていると認めることはできな
いが、立証趣旨の記述は、登録者が「日本におけるLPKFブランドの定着を図ること」
を目的として事業を行ってきたという主張を含むものと理解することができる。
 ところで、「LPKFブランド」とは、需要者から見れば、登録者が代理店として取り
扱っていたドイツ法人の製品に対する信用・評価であって、登録者の貢献度を無視するこ
とはできないとしても、そのブランド価値は製品の製造者であるドイツ法人に帰属するも
のである。
 すなわち、商標もしくは表示としての「LPKF」は、代理店である登録者を表示する
ものとしてよりも、販売する製品の製造者であるドイツ法人を指標するものとして需要者
の間で認識されているというべきである。
 他方登録者は、我が国では登録者の表示「LPKF」が周知・著名であると主張するが、
長期間に亘る我が国での独占的販売の事実や旧商号の使用の事実があるとしても、この主
張を認めることはできない。
 そうすると、我が国では登録者の表示「LPKF」が周知・著名であり申立人の表示こ
そが登録者の事業と混同を惹き起こすものであるという主張、及び登録者は本件ドメイン
名の名称で一般に認識されていたという主張は理由がない。
 以上から、登録者の主張はいずれも理由がないものであり、登録者は、ドメイン名に関
係する権利又は正当な利益を有していないものと判断する。

 (3)不正の目的での登録及び使用
(ア)当事者の主張
(a)申立人
 申立人は、登録者が本件ドメイン名を不正の目的で登録及び使用するものであることを
裏付けるものとして以下の通り主張する。
 ①登録者は、2014年6月30日頃より、保有しているドメイン名のウエブサイトの
内容を変更して、「http://www.lpkf.jp」に「lpkf.jp 売却
交渉中」と表示し(甲11.甲12)、「http://www.lpkf.co.jp」
に「lpkf.co.jp 停止中」と表示している(甲13、甲14)。
 ②申立人が登録者に上記表示をやめさせようにも、申立人から登録者への連絡は取れな
い状態にある他、取引先から会社の財務状態についての多数の問い合わせを受けるに至り、
営業に重大な影響を生じている(甲20)。
 ③登録者は、販売代理店業務を終了する取引先への通知で、今後の連絡先として申立人
に一切言及せず、日本語での対応ができないドイツ法人の連絡先を挙げたり、競合製品の
販売準備について述べたりするなど、登録者に申立人及びドイツ法人に対する悪意が認め
られる(甲22,23)。
 ④ウエブサイトが変更された場合、変更前のウエブサイトにアクセスした閲覧者を変更
後のウエブサイトに誘導するために自動転送を設定することは一般的に行われる方法であ
るが、登録者がウエブサイトを変更して上記①のように表示することは、通常ではおよそ
考えられない行為である。
 ⑤登録者がウエブサイトに「売却交渉中」と表示していることから、本件ドメイン名を
相当な対価(登録者が当該ドメイン名を取得するのにかかった金額よりもはるかに高い営
業上の価値を有していると考えられる)で売却して不正の利益を得る目的が認められる。
(b)登録者
 登録者は、本件ドメイン名の登録、使用、表示の変更等のいずれをとっても、登録者に
一切の不正の目的がなく、ドイツ法人の商標その他表示を利用して消費者の誤認を惹き起
こすことにより商業上の利得を得る意図や、同社の商標その他表示の価値を毀損する意図
を有していないことは明らかであるとして、以下の通り主張する。
 ①本件ドメイン名の登録、使用に関しては、ドイツ法人の許諾に基づいて行ってきた。
 ②本件ドメイン名で表示されるウエブサイトは、かつては申立人の主張のように表示さ
れていたようであるが、現在ではその表示もされていない(乙3)。
 ③「売却中」なる表示の存在は、単に本件各ドメイン名の売却交渉が進展中であるよう
にしか見えず、不正の利益を図る目的があるということはできない。
 ④本件各ドメイン名の適正価格での売却を申し出ようとしたところ、仮処分命令の申立
とそれに引き続くドイツ法人からの金銭請求がきたことから、交渉不能になってしまった
のである。

(イ)事実認定
 登録者は、本件ドメイン名で表示されるウエブサイトに、2014年7月2日時点では
「停止中」「売却交渉中」と表示していたが(争いがない)、同年7月23日には削除さ
れている(乙3)。本件裁定の手続開始日は2014年7月16日(登録者に申立書を
電子メール及び郵送)であるから、削除時期は手続き開始後と推認できる。
 登録者は、販売代理店業務を終了する取引先への通知で、ドイツ法人の連絡先を挙げた
り、競合製品の販売準備について述べたりした(甲22,23)。
 その余の主張の事実は証拠から認定することができない。

(ウ)判断
 登録者とドイツ法人との代理店契約は、2014年6月30日に終了している。本件ド
メイン名の登録、使用に関しては、ドイツ法人の許諾に基づいて行ってきた(登録者の主
張)ところ、ドイツ法人との代理店契約が解消されている以上、ドメイン名の登録、使用
に関するドイツ法人の許諾もまた撤回されているというべきである。そうすると、登録者
はドイツ法人との契約終了後においては、本件ドメイン名の登録を保有し、使用し得る地
位を失ったというべきである。
 また、登録人は、現在は削除されているとはいえ本件ドメイン名で表示されるウエブサ
イトに、「停止中」「売却交渉中」と表示していたのであり、ドイツ法人の許諾の下に取
得した本件ドメイン名の売却先はドイツ法人若しくは申立人以外に考えられないところで
ある。登録者は「適正価格での売却を申し出ようとした」と主張するが、その価格は示さ
れていない。
 そうすると、登録者は、本件ドメイン名の登録を正当な理由なく保有しているものであ
り、これをドイツ法人又は申立人に売却して不正な利益を得る目的を有しているといわざ
るを得ない。
 したがって、登録者のドメイン名が、不正の目的で登録又は使用されているものと認め
る。
 なお、登録者は、販売代理店業務を終了する取引先への通知で、ドイツ法人の連絡先を
挙げたり、競合製品の販売準備について述べたりした事実があるとしても、登録者の契約
相手方はドイツ法人であったこと、ドイツ法人の製品を販売できなくなった登録者が他の
製品の取り扱いを計画することは通常の事業行為であって、登録者の本件ドメイン名の使
用などについての不正を根拠づけるものではないと判断するが、上記認定を左右するもの
ではない。

6 結論
 以上に照らして、紛争処理パネルは、登録者によって登録されたドメイン名「LPKF.JP」
及び「LPKF.CO.JP」が申立人の商標と混同を引き起こすほど類似し、登録者が、ドメイン
名について権利又は正当な利益を有していない、登録者のドメイン名が不正の目的で登録
され且つ使用されているものと裁定する。
 よって、方針第4条iに従って、ドメイン名「LPKF.JP」及び「LPKF.CO.JP」の登録を申
立人に移転するものとし、主文のとおり裁定する。

   2014年9月3日

   日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
              峯  唯 夫
              単独パネリスト


別記 手続の経緯
(1)申立書受領日
   2014年7月10日(電子メール)及び7月11日(書面)
(2)手数料受領日
   2014年7月11日 申立手数料の受領確認
(3)ドメイン名及び登録者の確認
   2014年7月11日 JPRS へ照会
   2014年7月11日 JPRS から登録情報の回答
   回答内容:申立書に記載された登録者はドメイン名の登録者であること、JPRS に登
録されている登録者の電子メールアドレス及び住所等
(4)適式性
   日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、2014年7月15
日に、申立書が処理方針と規則に照らし申立書が適合していることを確認した。
(5)登録者への通知日及び内容
   1) 申立書送付日(手続開始日) 2014年7月16日(電子メール及び郵送)
   2) 申立書及び証拠等一式
   3) 答弁書提出期限 2014年8月14日
(6)手続開始日 2014年7月16日
   センターは、2014年7月16日に申立人及び登録者には電子メール及び郵送で、
JPRS 及びJPNIC には電子メールで、手続開始日を通知した。
(7)答弁書の提出の有無及び提出日
 センターは、2014年8月13日に答弁書を受領した。
(8)パネリストの選任 2014年8月20日
   申立人、登録者とも1名のパネルによって審理・裁定されることを選択。
   中立宣言書の受領日:2014年8月25日
   パネリスト:弁理士 峯 唯夫
(9)紛争処理パネルの指名及び裁定予定日の通知
   2014年8月20日 JPNIC 及びJPRS へ電子メールで通知
             申立人及び登録者へ電子メール及び郵送で通知
   裁定予定日:2014年9月9日
(10)パネリストへのパネリスト指名書及び一件書類受け渡し
   2014年8月20日(電子メール及び郵送)
(11)パネルによる審理・裁定
   2014年9月3日 審理終了、裁定。