事件番号:JP2015-0001
裁 定
申立人:
(名称)BOEHRINGER Ingelheim Pharma GmbH & Co. KG
(住所)Postfach 200 D-55216 INGELHEIM D-55216 ドイツ
登録者:
(名称)Zhao Ke
(所在地)東京都港区赤坂6-18-4 スオウハイツ3C 〒107-0052(株式会社日本レ
ジストリサービスに登録されたものであり,かつ,申立書等の送付先)
(公開連絡窓口の住所)Weihai Rd. 655 Shanghai 200041中国(株式会社日本レジス
トリサービスに登録されたもの)
日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針、JPドメイン
名紛争処理方針のための手続規則及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理
方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立書・提出された証拠に基づいて審理
を遂げた結果、以下のとおり裁定する。
1 裁定主文
ドメイン名「boehringeringelheim.JP」の登録を申立人に移転せよ。
2 ドメイン名
紛争に係るドメイン名は「boehringeringelheim.JP」である。
3 手続の経緯
別記のとおりである。
4 当事者の主張
a 申立人
申立人は、家族経営の製薬会社グループでAlbert Boehringerにより1885年に設立
された事業を礎とし、世界各国に140社の関連会社を設け、2013年単独でもグループを構
成する会社の純準売上高が約141億ユーロに達する世界規模の研究開発型の製薬企業であ
る。
申立人は、「Boehringer」および「Boehringer Ingelheim」の語を含むブランド・ポート
フォリオを複数の国で所有している(添付書類3)。
また、申立人は、「Boehringer」、「Boehringer Ingelheim」含むドメイン名を複数所有し
ている(添付書類4)。
申立人は、登録者に登録の理由を知るために警告状を送信し、米ドル250ドルの金額を
支払う用意があると伝えたが、これに対し登録者はドメイン名が米ドル8千ドルで売るだ
し中であると返答した(添付書類6)。
申立人によれば、登録者のドメイン名(以下「本件ドメイン名」)は、上記申立人の商標
及びその所有するドメイン名と混同を引き起こすほどに類似し、登録者は本件ドメイン名
について正当な利益を有していない、そして本件ドメイン名は不正の目的で登録されてい
る。
従って、申立人は、ドメイン名登録の申立人への移転を請求する。
b 登録者
登録者によって答弁書は提出されなかった。
5 争点および事実認定
a 規則第15条(a)は、パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原則
についてパネルに次のように指示する。「パネルは、提出された陳述・文書および審問の結
果に基づき、処理方針、本規則および適用されうる関係法規の規定・原則、ならびに条理
に従って、裁定を下さなければならない。」
方針第4条aは、申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図してい
る。
(1)登録者のドメイン名が、申立人が権利又は正当な利益を有する商標その他表示と
同一又は混同を引き起こすほど類似していること
(2)登録者が、ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有していないこと
(3)登録者のドメイン名が、不正の目的で登録又は使用されていること
b 事実認定および判断
(1)同一又は混同を引き起こすほどの類似性
申立人は、日本を指定国に含む以下の国際登録を有している。
商標 登録番号 登録日
① BOEHRINGER
INGELHEIM 国際登録第722462号 2001年10月12日
② BOEHRINGER 国際登録第799761号 2004年6月18日
本件ドメイン名「boehringeringelheim.JP」と申立人の「BOEHRINGER」の文字と「INGELHEIM」
の文字とを図形中に二段書きしてなる国際登録第722462号商標を比較する。
本件ドメイン名中「JP」は単に国別コードにすぎないため、本件ドメイン名においては
「boehringeringelheim」部分が要部となる。
そうとすると、本件ドメイン名と申立人の登録商標とは、大文字小文字・二段書き等の
差異はあるが、その文字構成を同じくするものであり、そこから生じる称呼も同一のもの
である。
したがって、両者は混同を引き起こすほどの類似性を有していると認められる。
(2)権利又は正当な利益
申立人は、登録者が本件ドメイン名に関連する権利または正当な利益を有しておらず、
申立人といかなる形でも関連がないと主張し、さらに、申立人は登録者のために事業を遂
行することはなく、取引がある訳でもなく、申立人が使用したり本件ドメイン名の登録を
申請したりするために登録者に対しライセンスや許可を与えたことはない、と主張する。
これら申立人の主張に対して、登録者は答弁書を提出しておらず、また提出されたすべ
ての証拠を検討しても、ドメイン名紛争処理方針第4条c(ⅰ)乃至(ⅲ)に該当するような
登録者の本件ドメイン名に関係する権利又は正当な利益の存在を裏付ける事実や、権利又
は正当な利益の不存在を否定する例外的な事情は認められない。
したがって、登録者は本件ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有していないと
認められる。
(3)不正の目的での登録及び使用
申立人は、製薬分野における申立人の好評と成功とを考慮すると、登録者が本件ドメイ
ン名登録時に申立人の会社名及び所有する商標に関する法的権利について全く知らなかっ
たとは考えがたいと主張する。
さらに、申立人は2015年1月21日に登録者に対し警告状を送り、本件ドメイン名を米
ドル250ドルで買い取る旨を申し出たが、これに対し登録者は米ドル8千ドルの対価を提
示した(添付書類6)。
添付書類6の応答に鑑みれば、登録者の本件ドメイン名の登録は、ドメイン名紛争処理
方針第4条b.(ⅰ)「登録者が申立人または申立人の競業者に対して、当該ドメイン名に
直接かかった金額を超える対価を得るために、当該ドメイン名を販売、貸与または移転す
ることを主たる目的として、当該ドメイン名を登録または取得しているとき」に該当する
ものと言わざるを得ない。
したがって、登録者の本件ドメイン名の登録は、不正の目的に基づくものと認められる。
6 結論
以上に照らして、紛争処理パネルは、登録者によって登録されたドメイン名
「boehringeringelheim.JP」が申立人の商標と混同を引き起こすほど類似し、登録者が、
ドメイン名について権利又は正当な利益を有していない、登録者のドメイン名が不正の目
的で登録され且つ使用されているものと裁定する。
よって、方針第4条iに従って、ドメイン名「boehringeringelheim.JP」の登録を申立
人に移転するものとし、主文のとおり裁定する。
2015年5月21日
日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
本多敬子
単独パネリスト
別記 手続の経緯
(1)申立書受領日
2015年2月6日(電子メール)及び2月20日(書面)
(2)手数料受領日
2015年2月17日 申立手数料の受領確認
(3)ドメイン名及び登録者の確認
2015年2月20日 JPRSへ照会
2015年2月20日 JPRSから登録情報の回答
回答内容:申立書に記載された登録者はドメイン名の登録者であること、JPRSに登
録されている登録者の電子メールアドレス及び住所等
(4)適式性
日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、2015年2月20日に、申
立書の補正、証拠一覧表と説明書の提出が必要と判断してその旨を申立人に通知した。証
拠一覧表と説明書を3月3日に受領した。訂正申立書を3月10日に受領した。法人の代
表者の資格を証明する公的証明書類を3月20日に受領した。センターは、3月23日に、
申立書が処理方針と規則に照らし申立書が適合していることを確認した。
(5)登録者への通知日及び内容
1) 申立書送付日(手続開始日) 2015年3月23日(電子メール及び郵送)
2) 申立書及び証拠等一式
3) 答弁書提出期限 2015年4月20日
(6)手続開始日 2015年3月23日
センターは、2015年3月23日に申立人及び登録者には電子メール及び郵送で、
JPRS及びJPNICには電子メールで、手続開始日を通知した。
(但し、登録者宛郵送分については「あて所に尋ねあたりません」として返送された。)
(7)答弁書の提出の有無及び提出日
センターは、提出期限日までに答弁書を受領しなかったので、2015年4月21
日に「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不提出通知書を、申立人へ電子
メールと郵送にて、登録者へ電子メールにて送付した。
(8)パネリストの選任 2015年4月27日
申立人は、1名のパネルによって審理・裁定されることを選択。
中立宣言書の受領日:2015年4月30日
パネリスト:弁理士 本多敬子
(9)紛争処理パネルの指名及び裁定予定日の通知
2015年4月27日 JPNIC及びJPRSへ電子メールで通知
申立人へ電子メール及び郵送で通知
登録者へ電子メールで通知
裁定予定日:2015年5月21日
(10)パネリストへのパネリスト指名書及び一件書類受け渡し
2015年4月27日(電子メール及び郵送)
(11)パネルによる審理・裁定
2015年5月21日 審理終了、裁定。