事件番号:JP2015-0005

                  裁 定


  申立人
  名称:メイドウェル インコーポレイテッド
  住所:米国 10003 ニューヨーク州 ニューヨーク ブロードウェイ770ジ
      ェイ・クルー グループ インク内
  代理人:弁護士 渡辺 広己
      弁護士 秋山 朋子
      弁護士 立木 芙実
  登録者
  氏名:Zhao Ke
  住所:東京都港区赤坂6-18-4 スオウハイツ3C
  
 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針、JPドメイン
名紛争処理方針のための手続規則及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理
方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立書・答弁書・提出された証拠に基づ
いて審理を遂げた結果、以下のとおり裁定する。

1 裁定主文
  ドメイン名「MADEWELL.JP」の登録を申立人に移転せよ。

2 ドメイン名
  紛争に係るドメイン名は「MADEWELL.JP」である。

3 手続の経緯
  別記のとおりである。
 
4 当事者の主張
 a 申立人
  登録者によって登録された本件ドメイン名「MADEWELL.JP」は、申立人の商
 標と同一または混同を引き起こすほど類似し、登録者が本件ドメイン名に関係する権利
 または正当な利益を有しておらず、不正の目的で登録または使用されているものである
 ことは明らかである。
  従って、申立人は、ドメイン名登録の申立人への移転を請求する。

 b 登録者
  登録者によって答弁書は提出されなかった。

5 争点および事実認定
 方針第4条aは、申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図してい
る。
 (1)登録者のドメイン名が、申立人が権利又は正当な利益を有する商標その他表示と
   同一又は混同を引き起こすほど類似していること
 (2)登録者が、ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有していないこと
 (3)登録者のドメイン名が、不正の目的で登録又は使用されていること

 上記(1)から(3)の要件を判断するに当たり、規則第15条(a)は、パネルが紛
争を裁定する際に使用することになっている原則についてパネルに次のように指示する。
「パネルは、提出された陳述・文書および審問の結果に基づき、処理方針、本規則および
適用されうる関係法規の規定・原則、ならびに条理に従って、裁定を下さなければならな
い。」
 他方、本件において登録者は答弁書を提出していないところ、規則第5条(f)は、「も
し登録者が答弁書を提出しないときには、例外的な事情がない限り、パネルは申立書に基
づいて裁定を下すものとする。」と規定する。
 従って上記(1)から(3)の要件に関する申立書における主張について、各要件に関
する申立人の主張が不十分である又は各要件該当事実の存在を否定する事実が認められる
といった例外的な事情がない限り、申立人の主張に従い、本件ドメイン名登録移転の裁定
を下すことが妥当と考える。

(1)「登録者のドメイン名が、申立人が権利又は正当な利益を有する商標その他表示と同
  一又は混同を引き起こすほど類似していること」
 申立人は、アパレルメーカーJ. Crew Group, Inc. の完全子会社として2006年に設立
された米国法人である。
 申立人の前身であるMadewell Manufacturing Co., Inc. 及び申立人は、1973年に米国
で「MADEWELL」商標の登録をし(米国登録番号第0968685号、甲2号証添付番号
2)、その後日本(商標登録第4858862号商標「MADEWELL」平成17年4月
22日登録)その他32ヶ国において「MADEWELL」商標を出願・登録しているこ
とが認められる(甲第2号証)。
 また、申立人の「MADEWELL」ブランドは、日本においても2010年以降「E
LLE」(Online)その他の女性ファッション誌で紹介されており(甲第10号証乃
至13号証)、日本専用の挨拶文とショッピングガイドのページが用意されるに至ってい
る(甲第14号証)。
 これらの事実に鑑みれば、申立人の商標「MADEWELL」は、本件ドメイン名が登
録された2015年2月26日より以前に、申立人が権利又は正当な利益を有する商標そ
の他表示として、日本においても需要者に広く知られるに至っているものであることが認
められる。
 他方、登録者のドメイン名は「MADEWELL.JP」であり、「JP」は単に国別コ
ードにすぎないため、「MADEWELL」の文字部分が識別機能を果たすものである。こ
の部分は、申立人の商標その他の表示として広く知られている「MADEWELL」と実
質的に同一であり、混同を引き起こすほど類似していることは明白である。

(2)「登録者が、ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有していないこと」
 申立人は、申立人と登録者の間には雇用関係、資本関係、スポンサーシップ、取引提携
関係、または推奨関係を含め一切の関係は存在せず、かつ登録者氏名である「Zhao Ke」と
本件ドメイン名との間に関連性を見出すこともできない、と主張し、併せて、登録者は日
本において「MADEWELL」の商標及びそれに関連する商標は一切所有しておらず(甲
第15号証及び16号証)、また、その他、登録者が、「MADEWELL」という名称で
一般に知られて認識されているという事実はない(処理方針第4条c(ⅱ)非該当)、と主
張する。
 当該主張に対して、登録者は答弁書を提出しておらず、また一件記録を検討しても、方
針第4条c(ⅰ)乃至(ⅲ)に該当するような登録者の本件ドメイン名に関係する権利又
は正当な利益の存在を裏付ける事実や、権利又は正当な利益の不存在を否定する例外的な
事情は認められない。
 したがって、登録者は本件ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有していないと
認められる。

 (3)「登録者のドメイン名が、不正の目的で登録又は使用されていること」
 本件ドメイン名は、ドメイン売買のためのプラットフォームを提供するSedo GMBH(以
下「セド社」という)を通じて、本件ドメイン名が登録された直後から売りに出されてい
ることが認められる(甲第17号証乃至19号証)。
 さらに、本件ドメイン名のウェブサイトによると、本件ドメイン名が、セド社が提供す
る「ドメインパーキングプログラム」において、クリック報酬型広告を通じて登録者が収
入を得ることができる対象となっていることが認められる(甲第17号証)。このセド社の
クリック報酬型広告とは、ドメインパーキングプログラムに掲載されている対象ドメイン
にかかるウェブサイトにアクセスして表示された広告を、インターネット上のユーザがク
リックすることでその都度対象ドメインの登録者が広告収入を得るという経済的利益を上
げることができるものである。
 かかる登録者の行為は、本件ドメイン名登録時には既に日本においても需要者に広く知
られるに至っている商標「MADEWELL」を含む本件ドメイン名を利用して、「商業上
の利得を得る目的で、そのウェブサイトまたはその他のオンラインロケーション…につい
て誤認混同を生ぜしめることを意図して、インターネット上のユーザーを、そのウェブサ
イトまたはその他のオンラインロケーションに誘引するために、当該ドメイン名を使用し
ている」(方針第4条b(ⅳ))ものと言わざるを得ない。
 以上に対して、登録者は答弁書を提出しておらず、また一件記録を検討しても、上記不
正の目的での登録又は使用を否定する例外的な事情は認められない。
 したがって、登録者の本件ドメイン名は不正の目的で登録され、使用されていると認め
られる。

6 結論
 以上に照らして、紛争処理パネルは、登録者によって登録されたドメイン名「MADE
WELL.JP」が申立人の商標と混同を引き起こすほど類似し、登録者が、ドメイン名に
ついて権利又は正当な利益を有していない、登録者のドメイン名が不正の目的で登録され
且つ使用されているものと裁定する。
 よって、方針第4条(i)に従って、ドメイン名「MADEWELL.JP」の登録を申
立人に移転するものとし、主文のとおり裁定する。

   2015年12月9日

   日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
                            本多敬子
              単独パネリスト

別記  手続の経緯
(1)申立書受領日
   2015年9月15日(電子メール)及び9月16日(書面)
(2)手数料受領日
   2015年9月15日  申立手数料の受領確認
(3)ドメイン名及び登録者の確認
   2015年9月17日  JPRSへ照会
   2015年9月18日  JPRSから登録情報の回答
      回答内容:申立書に記載された登録者はドメイン名の登録者であること、JPRSに登
  録されている登録者の電子メールアドレス及び住所等
(4)適式性
   日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、2015年9月24日
  に、申立書記載事項及び法人の代表者の資格を証する書類について補正が必要と判断
  してその旨を申立人に通知し、同年9月30日に申立書記載事項の補正及び法人の代
  表者の資格を証する書類についての上申書を受け、及び10月9日に法人の代表者の
  資格を証する書類の提出を受け、センターは、同年10月14日に、申立書が処理方
  針と規則に照らし申立書が適合していることを確認した。
(5)登録者への通知日及び内容
  1) 申立書送付日(手続開始日) 2015年10月14日(電子メール及び郵送)
  2) 申立書及び証拠等一式
  3) 答弁書提出期限  2015年11月12日
  (但し、登録者宛郵送分については「あて所に尋ねあたりません」として返送された。)
(6)手続開始日  2015年10月14日
   センターは、2015年10月14日に申立人及び登録者には電子メール及び郵送
  で、JPRS及びJPNICには電子メールで、手続開始日を通知した。
  (但し、登録者宛郵送分については「あて所に尋ねあたりません」として返送された。)
(7)答弁書の提出の有無及び提出日
   センターは、提出期限日までに答弁書を受領しなかったので、2015年11月1
  3日に「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不提出通知書を、申立人
  及び登録者に送付した(電子メール及び郵送)。
(8)パネリストの選任  2015年11月19日
      申立人は1名のパネルによって審理・裁定されることを選択。
      中立宣言書の受領日:2015年11月24日
      パネリスト:本多 敬子
(9)紛争処理パネルの指名及び裁定予定日の通知
      2015年11月19日  JPNIC及びJPRSへ電子メールで通知
             申立人及び登録者へ電子メール及び郵送で通知
  (但し、登録者宛郵送分については「あて所に尋ねあたりません」として返送された。)
   裁定予定日:2015年12月10日
(10)パネリストへのパネリスト指名書及び一件書類受け渡し
   2015年11月19日(電子メール及び郵送)
(11)パネルによる審理・裁定
   2015年12月9日  審理終了、裁定。