事件番号:JP2018-0003

                  裁 定

  申立人:
  (名称)エトロ・ソチエタ・ペル・アツィオーニ
  (住所)イタリア、イ-20135ミラノ、ヴィア・スパルタコ3番
  代理人:弁理士 鮫 島  睦
      弁理士 勝 見  元 博
      弁理士 澤  由 里 子
  登録者:
  (名称)Zhao Ke
  (住所)Weihai Rd. 655, Shanghai, China

 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針、JPドメイン
名紛争処理方針のための手続規則及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理
方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立書・答弁書・提出された証拠に基づ
いて審理を遂げた結果、以下のとおり裁定する。

1 裁定主文
  ドメイン名「ETRO.JP」の登録を申立人に移転せよ。
2 ドメイン名
  紛争に係るドメイン名は「ETRO.JP」である。
3 手続の経緯
  別記のとおりである。

4 当事者の主張
 a 申立人
  申立人は、紛争に係るドメイン名(以下「本件ドメイン名」という)は、申立人の自
社ブランド名ないしは商号の一部である「ETRO」を含むものであり、申立人の権利ま
たは正当な利益を有する商標その他の表示と実質的に同一ないし混同を引き起こすほど類
似しているものであると主張する。
 また、申立人は、登録者は本件ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有してお
らず、本件ドメイン名が不正の目的で登録されていることは明らかであると主張する。
 従って、申立人は、本件ドメイン名の登録について移転の裁定を下すことを求めるもの
である。
 b 登録者
  登録者によって答弁書は提出されなかった。

5 争点および事実認定
 規則第15条(a)は、パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原則に
ついてパネルに次のように指示する。「パネルは、提出された陳述・文書および審問の結果
に基づき、処理方針、本規則および適用されうる関係法規の規定・原則、ならびに条理
に従って、裁定を下さなければならない。」
 方針第4条aは、申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図してい
る。
 (1)登録者のドメイン名が、申立人が権利又は正当な利益を有する商標その他表示と
同一又は混同を引き起こすほど類似していること
 (2)登録者が、ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有していないこと
 (3)登録者のドメイン名が、不正の目的で登録又は使用されていること

 (1)同一又は混同を引き起こすほどの類似性
 申立人は、1968年にジンモ・エトロ氏によって設立された、イタリアのミラノに本社を
置くアパレル会社であり、その店舗数、売上などを勘案すると、「ETRO」の表示は、申
立人の表示として我が国においても広く知られていることが認められる(甲第2号証~甲
第9号証)。
 また、申立人が、日本において「ETRO」の文字を含む登録商標を多数保有しており、
米国登録商標及び欧州共同体商標も多数保有していることも認められる(甲第14号証~
甲第18号証)。
 これらの事実に鑑みれば、申立人の商標その他表示として「ETRO」の文字は、本件
ドメイン名が登録された2017年5月3日より以前に、申立人が権利又は正当な利益を有
する商標その他表示として、日本においても需要者に広く知られるに至っているものであ
ることが認められる。
 他方、登録者の有する本件ドメイン名「ETRO.JP」において、「.JP」は日本を意
味するトップレベルドメインであり、これは国別コードにより当該ドメイン名登録の属す
る国別の所在を示すものに過ぎず、類否の判断には影響しない部分であるため、本件ドメ
イン名の「ETRO」の部分と申立人の商標その他表示とを比較すると、本件ドメイン名
は、申立人の登録商標と同一又は混同を引き起こすほど類似しているものといえる。
 したがって、本件ドメイン名は、申立人が権利又は正当な利益を有する商標その他表示
と同一又は混同を引き起こすほど類似しているものというべきである。

 (2)権利又は正当な利益
  申立人は、甲28号証より、登録者が自ら商品またはサービスを提供し、またはその準
備をしていた本件ドメイン名を取得したものではなく、高額転売の目的で本件ドメイン名
を取得し、不当な利益を得る意図を有していることは、明らかである、と主張し、また、
登録者に対して、本件ドメイン名または「ETRO」を含んだドメイン名の使用を許可し
たこともない旨、主張する。さらに、申立人は、登録者が、「ETRO.JP」ないしは「E
TRO」という名称で一般に知られているという事実は、申立人が知る限りは存在しない、
とする。
  また本件ドメイン名の登録者名はZhao Keであって、本件ドメイン名とはその文字列
や意味等において何らの関連性も認められない。
 申立人の主張に対して、登録者は答弁書を提出しておらず、また一件記録を検討しても、
方針第4条c(i)乃至(iii)に該当するような登録者の本件ドメイン名に関係する権利
又は正当な利益の存在を裏付ける事実や、権利又は正当な利益の不存在を否定する例外的
な事情は認められない。
 したがって、登録者は本件ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有していないと
認められる。

 (3)不正の目的での登録及び使用
 申立人は、本件ドメイン名について本件ドメイン名が登録された2017年5月以降、
6月、8月、10月の3回に亘って販売の申し入れを受けていることが認められ(甲第30
号証~甲第32号証)、当該申し入れに記載のURLにアクセスすると、当該アクセス時に
おいて、本件ドメイン名が9999USDで販売されていることが認められる(甲第33号
証)。
 以上に対して、登録者は答弁書を提出しておらず、また一件記録を検討しても、上記を
否定する例外的な事情は認められない。
 したがって、本件ドメイン名は、登録者が専ら申立人に対して当該ドメイン名を販売す
ることを主たる目的として、当該ドメイン名を登録しているものと推認することができる。
 よって、本件ドメイン名が不正の目的で登録され、使用されているものと認められる。

6 結論
 以上に照らして、紛争処理パネルは、登録者によって登録されたドメイン名「ETRO.
JP」が申立人が権利又は正当な利益を有する商標その他表示と同一又は混同を引き起こ
すほど類似し、登録者が、ドメイン名について権利又は正当な利益を有していない、登録
者のドメイン名が不正の目的で登録され且つ使用されているものと裁定する。
 よって、方針第4条iに従って、ドメイン名「ETRO.JP」の登録を申立人に移転す
るものとし、主文のとおり裁定する。

    2018年7月3日

   日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
              本多敬子
              単独パネリスト

別記  手続の経緯
(1)申立書受領日
      2018年4月27日(電子メール)及び5月2日(書面)
(2)手数料受領日
      2018年4月26日  申立手数料の受領確認
(3)ドメイン名及び登録者の確認
      2018年5月1日  JPRSへ照会
      2018年5月1日  JPRSから登録情報の回答
      回答内容:申立書に記載された登録者はドメイン名の登録者であること、JPRSに登
録されている登録者の電子メールアドレス及び住所等
(4)適式性
      日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、2018年5月9日に、
申立書が処理方針と規則に照らし申立書が適合していることを確認した。
(5)登録者への通知日及び内容
      1) 申立書送付日(手続開始日) 2018年5月9日(電子メール及び郵送)
      2) 申立書及び証拠等一式
      3) 答弁書提出期限  2018年6月2日
(6)手続開始日  2018年5月9日
      センターは、2018年5月9日に申立人及び登録者には電子メール及び郵送で、
JPRS及びJPNICには電子メールで、手続開始日を通知した。
(7)答弁書の提出の有無及び提出日
      センターは、提出期限日までに答弁書を受領しなかったので、2018年6月7日
に「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不提出通知書を、電子メール及び
郵送で申立人及び登録者に送付した。
(8)パネリストの指名 2018年6月13日
     申立人は、1名のパネルによって審理・裁定されることを選択。
      言明書の受領日:2018年6月15日
      パネリスト:弁理士 本多敬子
(9)紛争処理パネルの指名及び裁定予定日の通知
      2018年6月13日  JPNIC及びJPRSへ電子メールで通知
                          申立人及び登録者へ電子メール及び郵送で通知
      裁定予定日:2018年7月3日
(10)パネリストへのパネリスト指名書及び一件書類受け渡し
      2018年6月13日(電子メール及び郵送)
(11)パネルによる審理・裁定
      2018年7月3日  審理終了、裁定。