事件番号:JP2018-0004

                裁 定

  申立人:
  (氏名/名称)株式会社日本ビデオトランス
  (住所)東京都千代田区猿楽町二丁目4番11号御茶ノ水ロイアルハイツ
      601号室
   代理人:弁護士 中野秀俊

  登録者:
  (氏名/名称)cucchiainoこと竹田孝司
  (住所)東京都中央区築地4-1-8 2F
   代理人   なし
  公開連絡先:
  (名前)さくらインターネットドメイン登録
  (住所)大阪府大阪市北区大深町4番20号グランフロント大阪タワーA
      35階

 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針、
JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則及び日本知的財産仲裁センター
JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立
書・提出された証拠に基づいて審理を遂げた結果、以下のとおり裁定する。

1 裁定主文
  本件申立を棄却する。
2 ドメイン名
  紛争に係るドメイン名は「CUCCHIANO.JP」である。
3 手続の経緯
  別記のとおりである。
4 当事者の主張(概要)
 a 申立人
  申立人は、紛争にかかるドメイン名「CUCCHIANO.JP」(以下「本件ドメイ
 ン名」という。)が、申立人の所有する2件の登録商標および申立人が上記
 商標登録の指定役務に属するイタリアンレストランに使用している店名と
 同一または混同を引き起こすほど類似している。登録者は本件ドメイン名に
 ついて権利または正当な利益を有していない。そして本件ドメイン名は登録
 者により不正の目的で登録されまたは使用されている。
  従って、申立人は、本件ドメイン名登録の申立人への移転を請求する。
 b 登録者
  登録者によって答弁書は提出されなかった。なお、登録者から本件ドメイ
 ン名を譲り受けたが移転登録はなされていないとする登録者以外の者から、
 答弁書と題する書面および2回にわたる補充書面ならびに乙第1ないし8
 号証が提出されている。しかしながら、上記書面等の提出者はJPRSの登録
 者ではなく、また、自ら譲受人と述べていることから、形式的にも実質的に
 も登録者と一体ということはできないので、登録者からの答弁書は不提出と
 みなされる。また、上記の登録者以外の者を登録者の代理人と認めることは
 できない。ただし、上記答弁書等の記載内容は、本件裁定の参考資料として
 本件手続きの記録中に留めるべきものと判断した。

5 争点および事実認定
A 本件ドメイン名の紛争処理に適用すべき判断基準について
 a JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則(以下「手続規則」と
 いう。)第15条a項は、パネルが紛争を裁定する際に使用することになっ
 ている原則についてパネルに次のように指示する。
  「パネルは、提出された陳述・文書および審問の結果に基づき、処理方
  針、本規則及び適用されうる関係法規の規定・原則、ならびに条理に
  従って、裁定を下さなければならない。」
  JPドメイン名紛争処理方針(以下「処理方針」という。)第4条a項は、
 申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図している。
  (ⅰ)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する
  商標その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること
  (ⅱ)登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有
  していないこと
  (ⅲ)登録者のドメイン名が、不正の目的で登録または使用されている
  こと
 b 本件において登録者は答弁書を提出していない。登録者による答弁書
 の不提出の場合に関して、手続規則第5条f項は「もし登録者が答弁書を
 提出しないときには、例外的な事情がない限り、パネルは申立書に基づい
 て裁定を下すものとする」と定めているが、本件においては、処理方針第
 4条a項ⅲ号についての申立人の主張立証が十分とは言えない事情がある
 ことは後述のとおりであるので、当紛争処理パネルは、上記手続規則第1
 5条a項の指示に基づき処理方針第4条a項ⅰないしⅲ号の主張・立証責
 任の分配および条理に従って判断を行うものである。

B 処理方針第4条a項各号についての当紛争処理パネルの判断
(1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標そ
 の他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること(処理方針第
 4条a項ⅰ号)
  a 申立人は、いずれも2015年4月29日に出願され2015年10
  月9日に登録された商標登録第5797797号にかかるローマ字の標準
  文字「Cucchiaino」からなる商標(以下「申立人ローマ字登録商標」とい
  う)および商標登録第5797796号にかかる片仮名書きの標準文字「ク
  ッキアイノ」からなる商標(以下「申立人片仮名登録商標」という。両登
  録商標を合わせて「申立人登録商標」という)を所有しており、上記各商
  標登録は、第43類の「レストラン・バー・カクテルラウンジ・パブ・宴
  会及びパーティにおける飲食物の提供」を含む役務を指定役務としている
  (甲1及び2)。また、申立人が引用するURLには「CUCCHIAINO」「クッキ
  アイノ」の名称のレストランが記載されており、現在上記レストランは申
  立人もしくはその代表者により経営されていると推認される。
   そうすると、申立人が、申立人商標につき正当な利益を有していないと
  認めるべき理由は存在しない。
  b 本件ドメイン名の「CUCCIAINO.JP」のうち、「JP」は日本を意味するト
  ップレベルドメインであり、類否の判断に影響しない部分である。しかる
  ところ、本件ドメイン名の「CUCCIAINO」の文字部分は、申立人ローマ字登
  録商標が最初の文字を大文字としそれ以下の文字を小文字としている点を
  除き、構成する文字列が同一である。また、申立人片仮名登録商標の「ク
  ッキアイノ」は、上記本件ドメイン名「CUCCIAINO」をイタリア語で読んだ
  場合の片仮名書きと認められる。そうすると、本件ドメイン名は、申立人
  が所有する上記各登録商標および申立人のレストラン名と同一ないし混同
  を引き起こす程度に類似していると認められる。
(2)登録者が当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していな
 いこと(処理方針第4条a項ⅱ号)
  申立人は、本要件に関して、前(1)項に述べた商標権の存在を主張する
 のみである。本書5.A.aの項に述べたとおり、処理方針第4条a項は、
 本要件についても申立人が立証しなければならないと規定している。しかし、
 処理方針第4条c項の規定を参酌すると、本要件の主張立証責任は登録者に
 あると解されるところ、登録者は答弁書を提出せず、処理方針第4条c項に
 例示されたような事情を含め自己がドメイン名に関する権利または正当な
 利益を有することを主張も立証もしていないので、登録者の権利または正当
 な利益の存在を認定することはできない。
(3)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されているこ
 と(処理方針4条a項ⅲ号)
  本要件は申立人が主張立証責任を負うものであるが(処理方針第4条a項
 末文)、申立人は「登録者は、レストランのホームページのURLとして使
 用しており、申立人の商標を侵害するものであり、当該ドメイン名が、不正
 の目的で登録または使用されているといえる」とのみ主張している。
  登録者は前述のとおり答弁書を提出していないが、申立人は登録者のレス
 トランのホームページの存在もそのURLも具体的に主張立証していない
 ので、登録者が本件ドメイン名を不正の目的で使用していることを証拠によ
 り認定することはできない。
  むしろ、日本知的財産仲裁センターの照会に対する株式会社日本レジスト
 リーサービス(JPRS)からの2018年6月11日付け「ドメイン名登
 録照会に対する通知」によれば、登録者が本件ドメイン名を登録したのは2
 012年5月14日であり、申立人登録商標の出願日である2015年4月
 29日よりほぼ3年ほど前であった事実に鑑みると、登録者が本件ドメイン
 名の登録を不正の目的で行ったと認定あるいは推認することはできず、その
 他にも処理方針第4条b項ⅰ号ないしⅳ号に例示されたような事情を認定
 するに足りる事実は申立人により主張も立証もされていない。
  よって、登録者が、本件ドメイン名を不正の目的で登録または使用されて
 いることを認めることはできない。

6 結論
 以上に照らして、当紛争処理パネルは、登録者によって登録されたドメイン
名「CUCCIAINO.JP」が申立人の登録商標と混同を引き起こすほど類似しており
かつ登録者がドメイン名について権利又は正当な利益を有しているものの、登
録者のドメイン名が不正の目的で登録または使用されていないものと判断する。
 よって、本件申立は、処理方針第4条a項ⅲ号の要件が充足されないため、
申立人の申立は理由がなく、移転請求を認めることができないので、主文のと
おり裁定する。

    2018年9月12日

   日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
              熊 倉 禎 男
              単独パネリスト

別記  手続の経緯
(1)申立書受領日
      2018年5月21日(電子メール)及び6月25日(書面)
(2)手数料受領日
      2018年6月7日  申立手数料の受領確認
(3)ドメイン名及び登録者の確認
      2018年6月11日  JPRSへ照会
      2018年6月11日  JPRSから登録情報の回答
      回答内容:申立書に記載された登録者はドメイン名の登録者であること、
                JPRSに登録されている登録者の電子メールアドレス及び住
                所等
(4)適式性
      日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、2018
      年6月18日に補正(申立書の記載事項の不足、証拠の一覧及び説明書、
      委任状、法人の代表者の資格を証明する公的証明書類、及び申立書等の郵
      送)が必要と判断してその旨を申立人に通知し、6月25日に書類を受領
      し、申立書が処理方針と規則に照らし適合していることを確認した。
(5)登録者への通知日及び内容
      1) 申立書送付日(手続開始日)2018年6月28日(電子メール及び
        郵送)
      2) 申立書及び証拠等一式
      3) 答弁書提出期限  2018年7月27日
(6)手続開始日  2018年6月28日
      センターは、2018年6月28日に申立人及び登録者には電子メール
      及び郵送で、JPRS及びJPNICには電子メールで、手続開始日を通知した。
(7)答弁書の提出の有無及び提出日
      センターは、2018年7月27日に登録者以外の者から「答弁書」と
      題する書面を受領した。この書面の提出者は、本件ドメインのJPRSの登録
      情報の登録者とは一致しなかったため、登録者としての適格性の確認が必
      要と判断して、8月1日に登録者以外の者に対しその旨を通知し、8月8
      日に書面を受領した。しかし、その回答をもっても登録者としての適格性
      を確認するには至らず、8月9日に登録者以外の者、及び登録者(JPRS登
      録情報の登録者)に対して、改めて登録者からの答弁書の提出を求めたが、
      期限である8月16日までに答弁書の提出はなかった。(なお、登録者以
      外の者から8月24日にメールにて書面を受信した。)
       そのため、センターは、2018年8月22日に申立人及び登録者(JPRS
      登録情報の登録者)に対し、「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨
      の答弁書不提出通知書、及び申立人に対し「書面(登録者以外からの提出
      書面)」を電子メール及び郵送で送付した。
(8)パネリストの指名 2018年8月23日
      申立人は、1名のパネルによって審理・裁定されることを選択。
      言明書の受領日:2018年8月27日
      パネリスト:弁護士 熊倉 禎男
(9)紛争処理パネルの指名及び裁定予定日の通知
      2018年8月23日  JPNIC及びJPRSへ電子メールで通知
                          申立人及び登録者へ電子メール及び郵送で通知
      裁定予定日:2018年9月12日
(10)パネリストへのパネリスト指名書及び一件書類受け渡し
      2018年8月23日(電子メール及び郵送)
(11)パネルによる審理・裁定
      2018年9月12日 審理終了、裁定。