事件番号JP2018-0007
                  裁 定

申立人:
(氏名/名称) ジュール ラブズ, インコーポレイテッド
(住所) アメリカ合衆国 カリフォルニア州 郵便番号94107 サンフランシスコ市
20thストリート560番地 ビルディング104
代理人弁護士 山本 健策 
     同 井髙 将斗 
     同 難波 早登至 
     同 千田 史皓
登録者:
(氏名/名称) bitshowy inc(登録者名:しま こうさく)
(住所) アメリカ合衆国 カリフォルニア州 郵便番号95110 サンノゼ市
エアポートパークウェイ226番地 スイート625
代理人弁護士 中谷 寛也

 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは,JPドメイン名紛争処理方針,JPドメイン
名紛争処理方針のための手続規則および日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理
方針のための手続規則の補則ならびに条理に則り,申立書・答弁書・提出された証拠に基づ
いて審理を遂げた結果,以下のとおり裁定する。

1 裁定主文
  ドメイン名「JUUL.JP」および「JUULVAPOR.JP」の登録を申立人に移転せよ。

2 ドメイン名
  紛争に係るドメイン名は「JUUL.JP」および「JUULVAPOR.JP」である。

3 手続の経緯
  別記のとおりである。
4 当事者の主張
 A 申立人
 申立人は,商品区分第34類「電子たばこ,電子式喫煙用吸引器,すなわち電子たばこ,
電子タバコ用の液状代用たばこ(医療用のものを除く)」を指定商品として「JUUL」につ
いて商標登録(国際登録番号1262817:申立人証拠書類3,以下,「本件登録商標」という)
を受けている。また,申立人は,「JUUL VAPOR」について商品および役務区分第9類,第
11類,第34類,第35類,第37類,第42類の商品および役務を指定商品および役務とし
て出願中であり(商願2018-090565:申立人証拠書類4,以下,「本件出願商標」という),
これらの区分の商品および役務について日本でそれぞれの商標を使用することを計画中で
あるとも主張している。
 申立人は,本件ドメイン名「JUUL.JP」および「JUULVAPOR.JP」(以下,これら2つ
のドメイン名を「本件ドメイン名」ということがある)を申立人に移転するよう求めている。
 B 登録者
 登録者は答弁書,追加主張書および追加主張書2を提出して,登録者が本件ドメイン名
の登録および使用につき正当な利益を有することならびに本件ドメイン名が不正な目的で
登録および使用されていないことなどをあげるとともに申立人の主張に反論している。

5 争点および事実認定
 JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則第15条(a)は,パネルが紛争を裁定するに
際して,「パネルは,提出された陳述・文書及び審問の結果に基づき,処理方針,本規則,
及び適用されうる関係法規の規定・原則,ならびに条理に従って,裁定を下さなければなら
ない」と指図している。さらに,JPドメイン名紛争処理方針第4条a項は,申立人が次の
事項の各々を証明しなければならないことも指図している。
 (i) 登録者のドメイン名が,申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と
同一または混同を引き起こすほど類似していること
 (ii) 登録者が,当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと
 (iii) 登録者の当該ドメイン名が,不正の目的で登録または使用されていること

1) 同一または混同を引き起こすほどの類似性について
 申立人は,本件登録商標の商標権者であり,また本件出願商標の出願人である。
 本件ドメイン名のうち「JUUL.JP」の「.JP」および「JUULVAPOR.JP」の「.JP」はい
ずれもトップレベルドメインであり,国別コードとして日本を意味するものに過ぎず,
JPNICの管理下にあるドメイン名を示すものとして識別力を有しない。本件ドメイン名の
識別力を有する部分はセカンドレベルドメインである,「JUUL」および「JUULVAPOR」
の部分にある。これらと申立人の本件登録商標および本件出願商標を比較すれば,ドメイン
名「JUUL」と本件登録商標ならびにドメイン名「JUULVAPOR」と本件出願商標は,いず
れも外観,称呼および観念において一致する。また,ドメイン名「JUULVAPOR」中の
「VAPOR」は蒸気,霧等の気化物質を意味する語であるが(申立人証拠書類7),「JUUL」
は英語,ドイツ語,フランス語,イタリア語等で意味を持たない造語であり,ドメイン名
「JUULVAPOR」の要部は「JUUL」にあることから,本件登録商標とは要部を共通にし,
これらは混同を引き起こすほど類似していることも明らかである。
 登録者もこれらの点について,特段反論は述べていない。

2) ドメイン名に関係する権利または正当な利益について
 (1) 登録者がドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していることの証明
 紛争処理方針第4条c項によれば,「特に以下のような事情がある場合には,登録者は当
該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していると認めなければならない。た
だし,これらの事情に限定されない。」として,次に示す(i)号,(ii)号および(iii)号の各事情
を例示している。
 なお,これらの事情が存在することの立証責任は登録者にあると認められる。

 (i) 登録者が,当該ドメイン名に係わる紛争に関し,第三者または紛争処理機関から通知
を受ける前に,商品またはサービスの提供を正当な目的をもって行うために,当該ドメイン
名またはこれに対応する名称を使用していたとき,または明らかにその使用の準備をして
いたとき
 (ii) 登録者が,商標その他表示の登録等をしているか否かにかかわらず,当該ドメイン
名の名称で一般に認識されていたとき
 (iii) 登録者が,申立人の商標その他表示を利用して消費者の誤認を惹き起こすことによ
り商業上の利得を得る意図,または,申立人の商標その他表示の価値を毀損する意図を有す
ることなく,当該ドメイン名を非商業的目的に使用し,または公正に使用しているとき

 このうち(ii)号の事情については,答弁書においても「登録者が当該ドメイン名の名称で
一般に認識されている事実はないと思料する」とされており,本件ドメイン名の登録が2017
年4月22日であって(申立人証拠資料1および2)需要者の間で周知となる十分な時間が
経過していないこと,そして今日では検索エンジンが多用されかつてのようにドメイン名
それ自体に需要者の関心が払われないことなどからも,(ii)号の事情を認めるべき特段の事
情はない。

 (i)号の事情に関する申立人の主張によれば,「登録者は,個人使用目的の日本の需要者に
向けて,申立人製品の販売を行って」いるにとどまり,「登録者自らの商標として「JUUL」
を使用している事実も存しない」などの理由で本件ドメイン名を使用することに正当な利
益は認められないと申立人は主張するが,登録者の答弁書によれば,登録者は2018年3月
末米国カリフォルニア州の小売業の許可(登録者証拠書類3),およびタバコ類の販売許可
(登録者証拠書類4)を取得しており,このとき以降申立人の真正商品の提供を正当な目的
をもって本件ドメイン名の使用をしていたのであるから,(i)号の事情が認められる,と登録
者は反論している。以下,この事情につき立証責任を有する登録者の答弁書の主張について
検討する。
 答弁書の主張によれば,概略,次の事実が認められる。登録者は,電子たばこ(カートリ
ッジおよびリキッド)等の申立人商品「JUUL」に接し,これを日本に輸出して販売するこ
とを考えたところ,医薬品に該当するところから個人輸入という形であれば日本への輸出
も適法であることが判明した(登録者証拠書類1)。そこで,日本の需要者に対して申立人
の商品の個人輸入をウェブサイト上で募り,需要者に提供することは商売として成り立つ
と考えた。答弁書によれば,登録者が行っていることは,申立人の真正商品を適法に米国内
で仕入れて日本に向けて販売するのであるから,正規代理店ではない者が本国で正規品を
購入し,自ら輸出入をして顧客に販売している並行輸入の形で申立人の商品を販売するも
の,といえると抗弁している。加えて,本仲裁センター事件番号:JP2003-0001事件での,
「並行輸入した真正商品の販売のために,真正商品に付された商標等を使用することも原
則として適法な行為であると認められる。そのように解さないと,真正商品を輸入すること
はできても,販売することが極めて困難となるからである。また,真正商品の販売に関し許
容される商標の使用行為は,現実の取引社会における広告行為に関してであると,ウェブサ
イト上での使用行為に関してであると,あるいはドメイン名として使用する行為に関して
であると,いずれをも問わないものであると解される」とした判断理由(登録者証拠書類8)
を援用している。
 しかし,本件の事案は,登録者ウェブサイト(申立人証拠書類8)および登録者の主張か
らも明らかなように,真正商品の個人輸入のケースでありその代行サービスであるから,本
仲裁センター事件番号:JP2003-0001事件とは事案を異にする。真正商品の並行輸入では,
その輸入行為だけではなく,その商品の販売を行うために商標などの表示の使用が必要と
なるが,個人輸入のケースでは,日本国内の購入者が米国の申立人商品を認識した上で購入
して輸入するか,あるいは当該商品を指定して登録者にその代行を依頼するものであり,い
ずれにしても米国の申立人と日本国内の個人との間の直接取引に他ならない(税関HP・輸
出入手続・カスタムアンサー・3001:http://www.customs.go.jp/tetsuzuki/c-answer/kojin/
3001_jr.htm)。かかる場合においては,真正商品の並行輸入で求められる内国での販売の
ために登録商標等の表示の使用が必要になるわけではない。
 したがって,登録者に,(i)号の事情が存在していると認めることはできない。

 (iii)号の事情について,登録者は「申立人商品の並行輸入販売という公正な目的のために
本件ドメイン名を使用して」おり,「消費者をして誤認混同させる意図ないし商標の価値を
毀損する意図などない」と述べるが,この(iii)号の事情は登録者がドメイン名を合法的な非
商業目的または学術目的等で公正に使用している事情をいうのであり,その事情がどうい
う場合であるかを明確にするために,(iii)号の前段において,消費者の誤認に便乗して商業
上不当に利得を図るとか,申立人の商標の価値を汚染又は毀損する意図がないことをあげ
ている(参照,松尾和子「JPNICによるドメイン名紛争処理手続(JP-DRP)」ドメイン名
紛争67-8頁)ものに他ならない。登録者のドメイン名は,登録者も認めるように,非商業
目的で使用されているのではないし,「個人輸入の代行サービス」は(iii)号でいう公正な使用
と認めることはできない。
 したがって,登録者に(iii)号の事情が存在しているとは認めることができない。

 3) 本件ドメイン名に関する権利または正当な利益の不存在について
 登録者は,先に述べたように個人輸入の代行サービスを提供しているのであり,申立人の
「JUUL」関連商標・表示とは関係のない第三者に過ぎず,登録者がドメイン名として
「JUUL」を選択せざるを得ない合理的な理由は認められない。むしろ,申立人が主張する
ように,登録者は「JUUL」関連商標の高い評価に商業上便乗して利益を図る意図で本件ド
メイン名を選択・利用したものであることがうかがわれ,本件ドメイン名に関する権利また
は正当な利益は存在しないもの解される。
 この本件ドメイン名に関する権利または正当な利益が存在しないことについては申立人
が立証すべきものであるが,登録者において,JPドメイン名紛争処理方針第4条c項(i)号,
(ii)号および(iii)号の事情のいずれも存在することが立証されない場合にあっては,申立人の
証明としては係る合理的な蓋然性の立証で足りるものと解される。

 4) ドメイン名の不正な目的での登録または使用について
  申立人は,「JUUL」関連商標を付した申立人商品が米国内で販売されて以来,欧米等
で人気を博し,電子タバコ業界で大きなシェアを占めるに至った時期に本件ドメイン名が
登録されていることは,申立人商品のスポンサーシップ,取引提携関係,推奨関係などにつ
いて誤認混同を生ぜしめることを意図したものであり,不正な目的で登録または使用され
ているとして,ドメイン名紛争処理方針第4条b項(iv)号.の事情のあることを主張する。こ
れに対し,登録者は,偽物への注意喚起を促すなど「JUUL」としての正しいブランド価値
を提供することのサポートをしているのであり不正な目的はなく,申立人商品を適法に販
売して,いわば公正に商機をつかんだに過ぎないと抗弁するが,たとえそうであっても登録
者が本件ドメイン名を使用することで,申立人商品についての個人輸入代行サービスを行
うライセンスを受けているとの誤認混同を生ずるおそれのあることは否定しがたいように
思われる。
 また,申立書提出後の事情からすると,登録者は正規販売店等の取引提携関係の具体的な
「お墨付き(authorization)」を求めていることは明らかであるとともに(2018年12月27
日付けメール,申立人証拠書類11),さらにその後の交渉においては本件ドメイン名の移転
に50,000ドルの支払いを求めていることも認められる(2019年1月9日付けメール,申
立人証拠書類12)。前者については,本件ドメイン名を代理店選定等を受けるための手段と
して使用していると認められ,後者については,移転の対価50,000ドルというのはドメイ
ン名取得に直接かかった金額をはるかに超える金額であることも明白である。
 したがって,これら一連の事情を総合すると,登録者による当該ドメイン名の登録または
取得もしくは使用は,不正な目的に基づくものであると認められる。なお,JPドメイン名
紛争処理方針第4条(b)項ただし書きは,かかる総合的判断を許容しているものである。
 
6 結論
 以上に照らし,パネルは,登録者によって登録されたドメイン名「JUUL.JP」および
「JUULVAPOR.JP」が申立人の本件登録商標および本件出願商標と混同を引き起こすほど
類似しており,登録者が当該ドメイン名について権利または正当な利益を有しておらず,当
該ドメイン名が登録者によって不正の目的で登録され,取得されそして使用されている,と
認定する。
 よって,ドメイン名紛争処理方針第4条(i)項にしたがい,ドメイン名「JUUL.JP」およ
び「JUULVAPOR.JP」の登録を申立人に移転すべきものとし,主文のとおり裁定する。

2019年2月27日
   日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル 
              土肥 一史 
              単独パネリスト

別記  手続の経緯
(1)申立書受領日
   2018年12月18日(電子メール)及び12月19日(書面)
(2)手数料受領日
   2018年12月19日  申立手数料の受領確認
(3)ドメイン名及び登録者の確認
   2018年12月19日  JPRSへ照会
   2018年12月19日  JPRSから登録情報の回答
   回答内容:申立書に記載された登録者はドメイン名の登録者であること,JPRSに登
           録されている登録者の電子メールアドレス及び住所等
(4)適式性
   日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は,2018年12月19日に,
  申立書が処理方針と規則に照らし申立書が適合していることを確認した。
(5)登録者への通知日及び内容
   1) 申立書送付日(手続開始日) 2018年12月26日(電子メール及び郵送)
   2) 申立書及び証拠等一式
   3) 答弁書提出期限  2019年1月31日
(6)手続開始日  2018年12月26日
   センターは,2018年12月26日に申立人及び登録者には電子メール及び郵送で,
  JPRS及びJPNICには電子メールで,手続開始日を通知した。
(7)答弁書の提出の有無及び提出日
   センターは,2019年1月30日に答弁書を受領し,処理方針と規則に照らし答弁書
  が適合していることを確認し,2019年2月4日に電子メール及び郵送で申立人に送付
  した。
(8)パネリストの指名 2019年2月6日
   申立人,登録者とも1名のパネルによって審理・裁定されることを選択。
   言明書の受領日:2019年2月8日
   パネリスト:土肥 一史
(9)紛争処理パネルの指名及び裁定予定日の通知
   2019年2月6日  JPNIC及びJPRSへ電子メールで通知
            申立人及び登録者へ電子メール及び郵送で通知
   裁定予定日:2019年2月27日
(10)パネリストへのパネリスト指名書及び一件書類受け渡し
   2019年2月6日
(11) 追加陳述書及び証拠書類
   パネリストは,2019年2月12日に手続規則12条の規定により,申立人及び登録者
  に対し,追加書類の提出を求めた(電子メール及び郵送)。
   センターは,2019年2月15日に申立人及び登録者の双方から追加書類を受領し,
  同日,申立人と登録者(電子メール及び郵送),及びパネリスト(電子メール及び手交)
  に送付した。
   パネリストは,2019年2月15日に登録者に対し,相手方の追加書類を受けてさら
  に提出すべき書類がある場合は,2月19日までに提出するよう求めた(電子メール及
  び郵送)。
   センターは,2019年2月19日に登録者から追加書類を受領し,同日,申立人及びパ
  ネリスト(電子メール及び郵送)に送付した。
(12)パネルによる審理・裁定
   2019年2月27日  審理終了,裁定。