事件番号:JP2019-0004

               裁   定

申立人:
(名称) ル デュフ インダストリーズ
(住所) フランス国 ゾーヌ アルティザナル オリヴェ 35530 セ
     ルヴォン・シュール・ヴィレーヌ 
代理人: 弁理士 石田  純
     弁理士 葦原 エミ
登録者:
(名称) Li
(住所) 東京都渋谷区桜丘町26-1 セルリアンタワー11階
代理人:なし

 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは,JPドメイン名紛争処理方針,
JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則及び日本知的財産仲裁センターJP
ドメイン名紛争処理方針のための手続規則の補則並びに条理に則り,申立書・
提出された証拠に基づいて審理を遂げた結果,以下のとおり裁定する。

1 裁定主文
  ドメイン名「BRIDOR.JP」の登録を申立人に移転せよ。
2 ドメイン名
  紛争に係るドメイン名は「BRIDOR.JP」である。
3 手続の経緯
  別記のとおりである。
4 当事者の主張(概要)
 A 申立人の主張
 (1) 登録者のドメイン名が,申立人が権利または正当な利益を有する商
標その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること
   ア 申立人
 申立人は,ヨーロッパやアメリカにホールディング会社を有しフランスのレ
ストラン業のコングロマリットとして有名なGroupe LE DUFF(グループ ル 
デュフ)の一員であり,同グループは100カ国に1660件を超えるレストラン
やベーカリーを有し,2017年の売上は20.5億ユーロである。そのブランドの
1つとしてBridorがあり,Bridorブランドによる売上げはグループ全体の3
7%を占めている。そして,日本でも2014年以降にレストランをオープンさ
せている。
   イ 申立人の正当な利益を有する表示
申立人は,海外では「BRIDOR」等の文字からなる登録商標を複数有し
ているが,日本では,登録第4506479号(2000年7月13日出願,2001年9月
14日登録)の登録商標(以下「本件商標」という。)を有しており,本件商標
の構成は,ローマ字斜体で「BRIDOR」と書し,その文字列の上下に一部
植物をあしらったような図形が描かれている(甲第10号証)。なお,本件商
標の商標権者は,ブリドール ホールディングスであるが,現在は申立人に社
名変更されている。
 本件商標について,現在日本国内において唯一同商標を使用する権利を有し
ており,その表示(以下「申立人表示」という。)について正当な利益を有す
る。
   ウ 本件ドメイン名
 登録者は,「BRIDOR.JP」なるドメイン名(以下,「本件ドメイン名」とい
う。)を,2018年(平成30年)6月27日に登録している。
   エ 本件ドメイン名と申立人表示との同一性・類似性
 本件ドメイン名と申立人表示は混同を引き起こすほど類似している。
 (2) 登録者が,ドメイン名の登録についての権利又は正当な利益を有し
ていないこと
 登録者は,本件ドメイン名の登録時点(2018年6月27日)において,申立人
の事業に関係したことはなく,申立人のための活動をしたことも,申立人と取
引をしたこともない。また,申立人は,登録者に「BRIDOR」の商標の使用やこ
れらを含むドメイン名の登録について許諾等の契約をしたこともない。
 したがって,登録者は,申立人表示ないしその要部を使用してドメイン名を
登録する権利を何ら有していない。
 (3) 登録者のドメイン名が,不正の目的で登録または使用されている
こと
 「BRIDOR」は申立人のブランドとして世界中で知られており,登録者が,申
立対象ドメイン名の登録時にパンやベーカリー製造の分野における申立人や申
立人の商標の存在を知らなかったとは考えられない。また,Whois検索する
と,2019年3月27日の時点で,12,000米ドルで売りに出されていることが示
され,12,000米ドルという高額で購入できるようになっている。
 これらの事実から,本件ドメイン名は,申立人やその競業者に法外な価格で
売りつける目的でのみ取得されたことは明らかであり,本件ドメイン名につい
て,登録者が不正の目的で登録を継続していることが明らかである。
 (4) よって,申立人は,本件ドメイン名の登録を申立人に移転せよとの
裁定を求める。

B 登録者の答弁
  登録者は答弁書を提出しなかった。

5 争点および事実認定
 A 登録者の不答弁の効果
 (1) 本件において,登録者は,答弁書を提出していない。
 (2) しかしながら,本手続には弁論主義は適用されず,パネルは,登録
者が答弁書を提出しないという事実により申立人の主張事実等について(擬
制)自白の拘束力が生じるものとすることはできず,JPドメイン紛争処理方
針(以下,「処理方針」という。)および手続規則の定める要件が充足されて
いるか否かの判断を,申立人の陳述,提出した証拠,条理等に基づいて行なわ
なければならない,というべきである(手続規則第15条a.等)。
 ただし,本件において登録者は答弁書を提出していないところ,「もし登録
者が答弁書を提出しないときには,例外的な事情がない限り,パネルは申立書
に基づいて裁定を下すものとする。」と規定がある(規則第5条f.)。
 したがって,下記処理方針第4条a.の①から③の3要件に関する申立人ら
の主張・立証が明らかに不十分であると判断される例外的な事情がない限り,
申立人の主張に従い,本件ドメイン名登録移転の裁定を下すことが相当であ
る。
 (3) 規則第15条a.は,パネルが紛争を裁定する際に使用することにな
っている原則についてパネルに次のように指示する。「パネルは,提出された
陳述・文書および審問の結果に基づき,処理方針,本規則および適用されうる
関係法規の規定・原則,ならびに条理に従って,裁定を下さなければならな
い。」。
 そして,処理方針第4条a.は,申立人が次の3項目のすべてを立証しなけ
ればならない,と指図している。
  ① 登録者のドメイン名が,申立人が権利または正当な利益を有する商標
その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること
  ② 登録者が,当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有して
いないこと
  ③ 登録者の当該ドメイン名が,不正の目的で登録または使用されている
こと

 B  処理方針第4条a.の各号についての当パネルの判断
 (1) 同一または混同を引き起こすほどの類似性
 申立人の有する本件商標の構成は,ローマ字斜体で「BRIDOR」と一連に
横書され,その文字列の上下に渡り一部植物をあしらったような図形や枠が描
かれている結合商標であり,一方,本件ドメイン名は「BRIDOR.JP」からなる。
 そして,本件ドメイン名のうち「JP」の部分はトップレベルドメインであっ
て国別コードの日本を意味し,使用主体が属する国を表示するものであるに過
ぎないから,本件ドメイン名において,識別力を有する要部は,セカンドレベル
ドメインであるローマ字からなる「BRIDOR」の部分にあると認められる。
 ところで,本件商標は,「BRIDOR」と一連に横書され,その文字列の
上下に一部植物をあしらったような図形が描かれている結合商標であるが,図
形からは麦のような植物が連想される可能性はあるものの,特定の観念を想起
するほどのものとは言えず,その構成態様の全体から見て,中央の文字部分で
ある「BRIDOR」が識別力を有する要部と捉えるべきであり,「BRID
OR」のカタカナ読みが「ブリドール」ないし「ブライドール」と理解される
のが通常と考えられる。したがって,本件商標からは,識別力を有する「BR
IDOR」を要部とする外観と,「ブリドール」ないし「ブライドール」の称
呼が生じると解するのが自然である。そして,「BRIDOR」や「ブリドー
ル」は造語であり,特定の観念は生じない。なお,「BRIDOR」ないし
「ブリドール」の称呼が日本国内で周知であるか否かは申立人から提出された
証拠からは認定判断できない。
 一方,登録者の本件ドメイン名「BRIDOR.JP」の識別力ある要部は,造語で
ある「BRIDOR」である。
 そして,「商標その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似してい
る」か否かの判断にあたっては,識別力のある部分を比較すべきである。
 そうすると,申立人表示である本件商標の要部である「BRIDOR」の部
分と,本件ドメイン名の識別力を有する要部である「BRIDOR」の部分を比較す
ると,称呼において同一ないし類似し,外観も類似し,観念において同一であ
るから,申立人表示と本件ドメイン名は,全体として,混同を引き起こすほど
類似している,というべきである。
 (2) 権利または正当な利益
 登録者は,申立人とは直接的あるいは間接的にも取引がなく,本件商標など
申立人が有する表示の許諾関係もないので,登録者が,本件ドメイン名に関係
する権利または正当な利益を有していない,と判断する。
 (3) 不正の目的で登録または使用
 申立人から提出された証拠からは本件商標を含む「BRIDOR」の表示が周知で
あるとまでは推認できないが,本件ドメイン名が2019年3月27日の時点で,
12,000米ドルという高額で売りに出されていることからすれば,本件ドメイン
名は,申立人やその競業者に法外な価格で売りつける目的で取得されたと推認
され,本件ドメイン名について,登録者が不正の目的で登録を継続しているこ
とが明らかである。

6 結 論
 以上に照らして,紛争処理パネルは,登録者によって登録された本件ドメイ
ン名「BRIDOR.JP」が申立人表示と全体として混同を引き起こすほど類似し,
登録者が,ドメイン名について権利又は正当な利益を有しておらず,登録者の
ドメイン名が不正の目的で登録されているものと認定する。
 よって,処理方針第4条i.に従って,紛争処理パネルは,ドメイン名
「BRIDOR.JP」の登録を申立人に移転するものとし,主文のとおり裁定する。

  2019年6月28日
   日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
               小 松 陽一郎
               (単独パネリスト)

別記  手続の経緯
(1)申立書受領日
      2019年4月22日(電子メール)及び4月25日(書面)
(2)手数料受領日
      2019年4月19日  申立手数料の受領確認
(3)ドメイン名及び登録者の確認
      2019年4月25日  JPRSへ照会
      2019年4月25日  JPRSから登録情報の回答
      回答内容:申立書に記載された登録者はドメイン名の登録者であること,
               JPRSに登録されている登録者の電子メールアドレス及び住所
               等
(4)適式性
      日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は,2019年
    4月26日に,一部の書類のメールによる送付,申立書における他の法的手
    段及び代理人の住所の記載について補正が必要と判断してその旨を申立人
    に通知し,5月8日に補正書類を受領し,申立書が処理方針と規則に照らし
    適合していることを確認した。
(5)登録者への通知日及び内容
      1) 申立書送付日(手続開始日) 2019年5月9日(電子メール及び
        郵送)
      2) 申立書及び証拠等一式
      3) 答弁書提出期限  2019年6月6日
(6)手続開始日  2019年5月9日
      センターは,2019年5月9日に申立人及び登録者には電子メール及
    び郵送で,JPRS及びJPNICには電子メールで,手続開始日を通知した。
    (但し,登録者宛の通知については,JPRS登録情報の登録者住所に送付
    した通知は「あて所に尋ねあたりません」として返送され,次に申立書に記
    載された登録者の住所(国外)に送付した通知は「保管期限が過ぎた」とし
    て返送された。)
(7)答弁書の提出の有無及び提出日
      センターは,提出期限日までに答弁書を受領しなかったので,2019年
    6月7日に「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不提出通知
    書を,電子メール及び郵送で申立人及び登録者に送付した。
    (但し,申立書に記載された登録者の住所(国外)に送付した通知は「転居
    先不明」として返送された。)
(8)パネリストの指名 2019年6月11日
     申立人は,1名のパネルによって審理・裁定されることを選択。
      言明書の受領日:2019年6月13日
      パネリスト:弁護士 小松 陽一郎
(9)紛争処理パネルの指名及び裁定予定日の通知
      2019年6月11日  JPNIC及びJPRSへ電子メールで通知
                          申立人及び登録者へ電子メール及び郵送で通知
      裁定予定日:2019年7月1日
(10)パネリストへのパネリスト指名書及び一件書類受け渡し
      2019年6月11日(電子メール及び郵送)
(11)パネルによる審理・裁定
      2019年6月28日  審理終了,裁定。