事件番号:JP2020-0008

                   裁 定

  申立人:
  (名称)一般社団法人 日本暗号資産取引業協会
         会長 三根 公博
  (住所)東京都千代田区一番町18番地 川喜多メモリアルビル4F

  登録者:
  (氏名/名称)竜 芹田(RYUU Serita)
  (住所)鹿児島県奄美市住用町摺勝124-1238

 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針、JPドメイン
名紛争処理方針のための手続規則及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理
方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立書・答弁書・提出された証拠に基づ
いて審理を遂げた結果、以下のとおり裁定する。

1 裁定主文
  ドメイン名「JVCEA.JP」の登録を申立人に移転せよ。

2 ドメイン名
  紛争に係るドメイン名は「JVCEA.JP」である。

3 手続の経緯
  別記のとおりである。

4 当事者の主張
 a 申立人
 申立人は、「一般社団法人日本仮想通貨交換業協会」の名称で、平成30年3月29日に
設立され、資金決済に関する法律第87条に基づく認定資金決済事業者協会の認定および
金融商品取引法第78条第1項に基づく認定金融商品取引業協会の認定を取得し、その英
語表記として「Japan Virtual Currency Exchange Association」を使用し、「JVCEA」の略
称で通称されていた(甲7)。その後、申立人は、令和2年5月1日付で、その名称を「一
般社団法人日本暗号資産取引業協会」に変更し、その英語表記も「Japan Virtual and
Crypto assets Exchange Association」に変更したが、略称は変わらず「JVCEA」として通
用しているところ(甲1~4)、登録者が、申立人の名称の上記英語表記の略称と混同を引
き起こすほどに類似した本件ドメイン名「JVCEA.JP」を登録して保持していると主張する。
申立人によれば、登録者はドメイン名に関係する正当な利益を有しておらず、ドメイン名
は不正の目的で登録または使用されており、そしてドメイン名は不正の目的で登録され、
かつ、保持されている、とのことである。
 従って、申立人は、ドメイン名登録の申立人への移転を請求している。

 b 登録者
 登録者によって答弁書は提出されなかった。

5 争点および事実認定
 規則第15条(a)は、パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原則に
ついてパネルに次のように指示する。「パネルは、提出された陳述・書類および審問の結果
に基づき、処理方針、本規則および適用されうる関係法規の規定・原則、ならびに条理
に従って、裁定を下さなければならない。」
 方針第4条aは、申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図してい
る。
  (1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示
と同一または混同を引き起こすほど類似していること
  (2)登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと
  (3)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること

また、本件において登録者は答弁書を提出していないところ、JPドメイン名紛争処
理方針のための手続規則第5条(f)においては、「もし登録者が答弁書を提出しないとき
には、例外的な事情がない限り、パネルは申立書に基づいて裁定を下すものとする」と規
定されている。
 従って、上記(1)から(3)の要件に関する申立書における主張について、各要件に
関する申立人の主張が不十分である又は各要件該当事実の存在を否定する事実が認められ
るといった例外的な事情がない限り、申立人の主張に従い、本件ドメイン名登録移転の裁
定を下すことが相当である。

以下、検討する。

 (1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示
と同一または混同を引き起こすほど類似していること
 申立人は、暗号資産交換業及び暗号資産関連デリバティブ取引業の適切かつ円滑な実施
を確保し、その健全な発展及び利用者の保護並びに投資者の保護に資することを目的とし
て設立された一般社団法人である(甲2)。上記のとおり、その名称は、設立時の「一般社
団法人日本仮想通貨交換業協会」から「一般社団法人日本暗号資産取引業協会」に変更さ
れ、その名称の変更に伴い、英語表記も「Japan Virtual Currency Exchange Association」
から「Japan Virtual and Crypto assets Exchange Association」へと変更されたが、各
語の頭文字は「JVCEA」で変更がなく、一貫して「JVCEA」をその略称を現在も継続して使
用している(甲1乃至4)。
 また、実際の取引市場においても、遅くとも、2019年2月20日には、「JVCEA」の
略称が使用されていた(甲7)。さらに、申立人は、ドメイン名「jvcea.or.jp」を使用し
てサイトを運営している(甲1及び2)。
 したがって、「JVCEA」は、申立人が正当な利益を有する商標その他の表示であると認め
られる。
 次に、本件ドメイン名「JVCEA.JP」のうち、「JP」の部分はトップレベルドメインであっ
て国別コードの日本を意味するに過ぎず、本件ドメイン名において識別力を有する要部は
「JVCEA」部分であり、申立人の使用する商標と同一である。
 したがって、本件ドメイン名は、申立人が正当な利益を有する商標その他の表示と混同
を引き起こすほど類似していると認められる。

 (2)登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと
 登録者の氏名・法人名とドメイン名は一致していない(甲8)。また、申立人は、登録者
に対して本件ドメイン名を用いることについて許諾していないと主張する。加えて、登録
者は、本件ドメイン名と一致する登録者が所有する日本の登録商標は所有していない。
 他方、当該主張に対して、登録者は答弁書を提出しておらず、また、一件記録を検討し
ても、方針第4条c(ⅰ)から(ⅲ)に該当するような登録者の本件ドメイン名に関係す
る権利又は正当な利益の存在を裏付ける事実や、権利又は正当な利益の不存在を否定する
例外的な事情は認められない。
 したがって、登録者は本件ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有していないと
認められる。

 (3)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること
 申立人は、登録者は本件ドメイン名を使用してウェブサイトを運営し(以下、「登録者ウ
ェブサイト」という。)、申立人とは組織関係、取引提携関係などの関係がないにもかかわ
らず、申立人が設立から令和2年4月30日まで使用していた名称「一般社団法人日本仮
想通貨交換業協会」を、本件ドメイン名の登録日直後の2019年9月には登録者ウェブ
サイトにおいて使用していたと主張する。なお、2020年10月20日プリントアウト
の登録者ウェブページ(甲10)において、申立人の設立時の名称と同一の「一般社団法
人日本仮想通貨交換業協会」(Japan Virtual Currency Exchange Association)」の名称が
使用されていることが認められる。
 また、申立人は、登録者は、本件ウェブサイトを、申立人のウェブサイトから画像や文
章を切り貼りして作成していると主張しているところ、例えば、登録者の「新着情報一覧
NEWS」と称するページは2019年3月25日から更新されていないが、そこに記載
されているニュースの並び順および内容(甲10)は、申立人のウェブページにおける「新
着情報一覧NEWS」と同一である(甲11)。なお、申立人の主張によれば、当該登録者
ウェブサイトの「新着情報一覧NEWS」のそれぞれのニュースは、クリックができず、
当該ニュースの詳細を見ることはできない。
 さらに、登録者ウェブサイトの「協会概要」と題するページの記載(甲12)は、申立
人が設立時の名称「日本仮想通貨交換業協会」を使用していたときの申立人の「協会概要」
と同一の内容である(甲13)。
 したがって、登録者は、申立人と提携関係などの関係性を一切有しないにもかかわら
ず、無断で申立人のウェブページをコピーして使用していることが認められる。
 加えて、登録者ウェブサイトには、「お問い合わせ」欄が用意されており、問い合わせを
行うには、閲覧者の名前とメールアドレス等の個人情報を入力することが要求されている
(甲14)。この点について、申立人は、登録者ウェブサイトが、閲覧者をして申立人の運
営するウェブサイトであるかと誤認させ、閲覧者に誤って問い合わせをさせることにより、
閲覧者の個人情報を不正に取得するなど、何らかの違法または公序良俗に反する目的をも
って本件ドメイン名を使用していると主張する。かかる主張に対し、登録者は答弁を行っ
ていない。
 以上に鑑みれば、登録者が、競業者である申立人の事業を混乱させることを主たる目的
として本件ドメイン名を登録していること、または、登録者が、商業上の利得を得る目的
で、そのウェブサイト、またはそこに紹介されているサービスの出所、取引提携関係、な
どについて誤認混同を生ぜしめることを意図して、本件ドメイン名を使用していることを
推認させる。
 また、一件記録を検討しても、不正の目的での登録又は使用を否定する例外的な事情は
認められない。
 したがって、本件ドメイン名は登録者によって不正の目的で登録され、使用されている
と認められる。

6 結論
 以上に照らして、紛争処理パネルは、登録者によって登録されたドメイン名「JVCEA.JP」
が申立人の商標と混同を引き起こすほど類似し、登録者が、ドメイン名に関係する権利ま
たは正当な利益を有しておらず、登録者のドメイン名が不正の目的で登録または使用され
ているものと判断する。
 よって、方針第4条iに従って、ドメイン名「JVCEA.JP」の登録を申立人に移転するも
のとし、主文のとおり裁定する。


   2021年1月13日

   日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
          単独パネリスト    高 橋  菜 穂 恵



別記 手続の経緯
(1)申立書受領日
   2020年11月5日(電子的送信)
(2)手数料受領日
   2020年11月6日 申立手数料の受領
(3)ドメイン名及び登録者の確認
   2020年11月6日 JPRSに照会
   2020年11月6日 JPRSから登録情報の回答
   回答内容:申立書に記載された登録者がドメイン名の登録者であること、JPRS
        に登録されている登録者の電子メールアドレス及び住所等
(4)適式性
   日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、2020年11月9
  日に、申立書が紛争処理方針、手続規則及び補則に照らし申立書が適合していること
  を確認した。
(5)手続開始日
   センターは、2020年11月11日に申立人、JPRS及びJPNICには電子的送信に
  より、登録者には郵送及び電子メールにより、手続の開始を通知した。
(6)登録者への通知内容
   1)手続開始日:2020年11月11日
   2)申立書及び証拠等一式
   3)答弁書提出期限:2020年12月10日
   (但し登録者宛郵送分のうち、公開連絡窓口宛てについては「あて名不完全で配達
   できません」として返送され、電子メール送信分については一部が送信不能であっ
   た。)
(7)答弁書の提出の有無及び提出日
   センターは、提出期限日までに答弁書を受領しなかったので、2020年12月1
  1日に「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不提出通知書を、電子的
  送信により申立人及び登録者に送付した。
(8)パネリストの指名
   申立人は、1名のパネルによって審理・裁定されることを選択し、センターは、2
  020年12月17日に次のパネリストを指名した。
   パネリスト:弁理士 高橋菜穂恵
   公正性・独立性・中立性に関する言明書の受領日:2020年12月18日
(9)紛争処理パネルの指名及び裁定予定日の通知
   2020年12月17日 申立人及び登録者に電子的送信により通知
               JPNIC及びJPRSに電子的送信により通知
   裁定予定日:2021年1月14日
(10)パネリストへのパネリスト指名書及び一件書類受け渡し
   2020年12月17日(電子的送信)
(11)パネルによる審理・裁定
   2021年1月13日  審理終了、裁定。