事件番号:JP2021-0004

                 裁 定

  申立人:
  (名称)ATHENA COSMETICS, INC.
  (住所)1838 Eastman Ave., Suite 200 Ventura CA 93003(United States of America)
  代理人:弁理士 早津 貴久
  登録者:
  (氏名)Tetsuo Funahara(船原 徹雄)
  (住所)神奈川県8-1-11 Sakae-cho Kanagawa-ku, Yokohama-chi
      (神奈川県横浜市神奈川区栄町8-1-11)
  代理人:なし

 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル(以下「本件パネル」という。)は、JPドメイ
ン名紛争処理方針(以下「処理方針」という。)、JPドメイン名紛争処理方針のための手続
規則(以下「手続規則」という。)及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理
方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立書・提出された証拠に基づいて審理
を遂げた結果、以下のとおり裁定する。

1 裁定主文
ドメイン名「REVITALASH.JP」の登録を申立人に移転せよ。

2 ドメイン名
紛争に係るドメイン名は「REVITALASH.JP」(以下「本件ドメイン名」という。)である。

3 手続の経緯
別記のとおりである。

4 当事者の主張
 A 申立人の主張
  (1) 登録者のドメイン名が、申立人が権利又は正当な利益を有する商標その他表
示と同一又は混同を引き起こすほど類似していること
 本件ドメイン名は、現時点において、JPRSに登録されており(甲1)、かつ、現在は
GoDaddy.comにより無料でパーキングされており、使用されていない(甲2)。
 申立人は、申立対象のドメイン名と同一文字である、「REVITALASH」の登録商標(国際登
録番号第918631号、国際登録日2007年3月7日、登録日2008年8月1日。以下「申立人
商標」という。)等を日本国内で有している(甲3, 4, 5, 6, 8)。
 申立人商標は、日本において継続的に使用されている(甲7)。また、申立人は、
「REVITALASH」に関し、世界中で100件以上の商標権を保有し、かつ、使用している(甲
8)。「REVITALASH」は、申立人の業務に係る商品「まつげ美容液」を表示するものとして需
要者の間に広く認識されており、世界的な著名商標である。
  (2) 登録者が、当該ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有していないこと
 登録者である「船原 徹雄」は、『楽しく儲かる』といったコンセプトの下、「転売」「せ
どり」「物販」などの事業、及び、これらの指南を行っている人物であり(甲9ないし14)、
本件ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有していない。
  (3) 登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録又は使用されていること
 申立人は、登録者に対し、本件ドメイン名につき2,500ドル(約27万5千円)での買い
取りを申し出たところ、登録者「船原 徹雄」は、100万ドル(約1億1千万円)という法
外な対価を要求して来たことから(甲15)、不正の目的で本件ドメイン名を登録したこと
は明らかである。
  (4) したがって、申立人は、ドメイン名登録の申立人への移転を請求する。

 B 登録者の答弁
   登録者は答弁書を提出していない。

5 争点及び事実認定
 A 登録者の不答弁の効果
 (1) 本件において、登録者は、答弁書を提出していない。
 (2) 本手続には弁論主義は適用されないから、本件パネルは、登録者が答弁書を提
出しないという事実により申立人の主張事実等について擬制自白の拘束力が生じるものと
することはできず、紛争処理方針及び手続規則の定める要件が充足されているか否かの判
断を、申立人の陳述、提出した証拠、条理等に基づいて行わなければならない、というべ
きである(手続規則第15条(a)等)。
 ただし、手続規則は、「もし登録者が答弁書を提出しないときには、例外的な事情がない
限り、パネルは申立書に基づいて裁定を下すものとする。」と規定する(手続規則第5条
(f))。
 したがって、下記処理方針第4条a.の(i)ないし(iii)の各号に関する申立人の主張・立
証が明らかに不十分であると判断される例外的な事情がない限り、申立人の主張に従い、
本件ドメイン名登録移転の裁定を下すことが相当である。
 (3) 手続規則第15条(a)は、パネルが紛争を裁定する際に使用すべき原則につい
てパネルに次のように指示する。「パネルは、提出された陳述・書類及び審問の結果に基づ
き、処理方針、本規則及び適用されうる関係法規の規定・原則、並びに条理に従って、裁
定を下さなければならない。」。
 そして、処理方針第4条a.は、申立人が次の事項の各々を証明しなければならないこと
を指図している。
 (i)登録者のドメイン名が、申立人が権利又は正当な利益を有する商標その他表示と同
一又は混同を引き起こすほど類似していること
 (ii)登録者が、当該ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有していないこと
 (iii)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録又は使用されていること

 B 処理方針第4条a.の各号についての本件パネルの判断
 (1)同一又は混同を引き起こすほどの類似性
 登録者の本件ドメイン名は、「REVITALASH.JP」であり、ローマ字大文字体で横書きされ
ている。そして、本件ドメイン名「REVITALASH.JP」のうち、「JP」の部分はトップレベル
ドメインであって国別コードの日本を意味し、使用主体が属する国を表示させるものにす
ぎないから、本件ドメイン名において識別力を有する要部は、セカンドレベルドメインで
ある「REVITALASH」の部分であると認められる。
 一方、申立人の有する、申立人商標の構成は、ローマ字大文字体で「REVITALASH」と横
書きされている。
 そして、ドメイン名が「商標その他表示と同一又は混同を引き起こすほど類似している」
か否かの判断に当たっては、当該ドメイン名の識別力のある部分と「商標その他表示」の
識別力のある部分とを比較すべきである。
 そこで、本件ドメイン名の識別力を有する要部である「REVITALASH」の部分と、申立人
商標である「REVITALASH」の表示を比較する。まず、両者は、いずれも「リバイタラッシ
ュ」の呼称を生じるため、称呼において同一である。また、いずれも、同一のローマ字大
文字体で表記されているため、外観においても同一である。さらに、申立人商標である
「REVITALASH」は、申立人の業務に係る商品「まつげ美容液」を表示するものとして需要
者の間に広く認識されていることが認められるため(甲7, 8)、申立人商標からは、申立
人の「まつげ美容液」の商品に関する観念が生じ、他方で、本件ドメイン名からも同一の
観念が生じるから、観念においても同一である。
 したがって、本件ドメイン名と申立人商標とは、全体として、混同を引き起こすほど類
似している、というべきである。
 (2)権利又は正当な利益
 登録者は、「転売」「せどり」「物販」などの事業及びこれらの指南を行っている人物であ
ること(甲9ないし14)、及び、現時点において本件ドメイン名を使用していないこと(甲
2)が認められ、これらの事実からすれば、登録者は、本件ドメイン名に関係する権利又は
正当な利益を有していないというべきである。
 (3)不正の目的での登録又は使用
 申立人は、本件ドメイン名が登録された2016年9月22日よりも前の、2008年8月1日
に申立人商標を登録していること(甲1, 3)、及び、申立人は、登録者に対し、本件ドメ
イン名につき2,500ドル(約27万5千円)での買い取りを申し出たところ、登録者は、
100万ドル(約1億1千万円)という法外な対価を要求して来たこと(甲15)が認められ、
これらの事実からすれば、本件ドメイン名は、登録者が申立人に売却する目的で取得し、
不正の目的で登録を継続しているものと推認される。

6 結論
 以上の認定事実に照らして、本件パネルは、登録者によって登録された本件ドメイン名
「REVITALASH.JP」が申立人の商標と混同を引き起こすほど類似し、登録者が、本件ドメイ
ン名に関係する権利又は正当な利益を有しておらず、本件ドメイン名が不正の目的で登録
又は使用されているものと判断する。
 よって、処理方針第4条i.に従って、本件ドメイン名「REVITALASH.JP」の登録を申立
人に移転するものとし、主文のとおり裁定する。


2021年6月14日

   日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
                    単独パネリスト        清 水    節
 
別記 手続の経緯
(1)申立書受領日
   日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、2021年4月5日
  に申立書(添付する関係書類を含む。)を申立人から電子的送信により受領した。
(2)申立手数料受領日
   センターは、2021年4月5日に申立人より申立手数料を受領した。
(3)ドメイン名及び登録者の確認
   センターは、2021年4月5日にJPRSに登録情報を照会し、2021年4月
  5日にJPRSから申立書に記載された登録者が対象ドメイン名の登録者であること
  を確認する回答並びにJPRSに登録されている登録者の電子メールアドレス及び住
  所等を受領した。
(4)適式性
   センターは、2021年4月5日に申立書が処理方針と手続規則に照らし適合して
  いることを確認した。
(5)手続開始日
   センターは、2021年4月12日に申立人、JPNIC及びJPRSに対し電子
  的送信により、手続の開始を通知した。センターは、2021年4月12日に登録者
  に対し郵送及び電子メールにより、開始通知を送付した。開始通知により、登録者に
  対し、手続開始日(2021年4月12日)、答弁書提出期限(2021年5月14
  日)並びに書面の受領及び提出のための手段について通知した。但し登録者の住所に
  郵送した通知は「あて所に尋ねあたりありません」として返送された。
   センターは、2021年4月16日に申立人から申立書及び証拠の補正を電子的送
  信により受領した。センターは、2021年4月19日に登録者に対し電子的送信に
  より、答弁書提出期限を2021年5月21日に変更することを通知した。
(6)答弁書の提出
   センターは、提出期限日までに答弁書を受領しなかったので、2021年5月24
  日に「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不提出通知書を、電子的送
  信により申立人及び登録者に送付した。
(7)パネルの指名及び裁定予定日の通知
   申立人は、1名のパネルによって審理・裁定されることを選択し、センターは、2
  021年5月28日に弁護士 清水 節を単独パネリストとして指名し、一件書類を
  電子的送信によりパネルに送付した。センターは、2021年5月28日に申立人、
  登録者、JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、指名したパネリスト及び
  裁定予定日を通知した。パネルは、2021年5月28日に公正性・独立性・中立性
  に関する言明書をセンターに提出した。
(8)パネルによる審理・裁定
   パネルは、2021年6月14日に審理を終了し、裁定を行った。