事件番号:JP2021-0009

                  裁 定

  申立人:
  (名称) LINE株式会社
  (住所)東京都新宿区四谷1-6-1 四谷タワー23階
  代理人:弁理士 吉川 麻美
  登録者:
  (名称) LINE BANK
  (住所) 大阪府大阪市北区大深町3-1 グランフロント大阪タワーB 23階

 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針、JPドメイ
ン名紛争処理方針のための手続規則及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処
理方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立書・提出された証拠に基づいて審
理を遂げた結果、以下のとおり裁定する。

1 裁定主文
  ドメイン名「LINEBANK.JP」の登録を申立人に移転せよ。

2 ドメイン名
  紛争に係るドメイン名は「LINEBANK.JP」である。

3 手続の経緯
  別記のとおりである。

4 当事者の主張
 a 申立人
 申立人は、登録者が、申立人の著名な登録商標「LINE」と紛らわしいドメイン名
「LINEBANK.JP」を登録し、申立人の高い知名度を利用する意図を有していることを主
張する。申立人によれば、ドメイン名は、申立人の商標と同一または混同を引き起こすほ
どに類似し、登録者はドメイン名に関係する正当な利益を有しておらず、ドメイン名は不
正の目的で登録または使用されている。
 従って、申立人は、ドメイン名登録の申立人への移転を請求する。

 b 登録者
 登録者によって答弁書は提出されなかった。

5 争点および事実認定
 規則第15条(a)は、パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原則に
ついてパネルに次のように指示する。「パネルは、提出された陳述・書類及び審問の結果に
基づき、処理方針、本規則及び適用されうる関係法規の規定・原則、ならびに条理に従っ
て、裁定を下さなければならない。」
 ただし、規則は、「もし登録者が答弁書を提出しないときには、例外的な事業がない限り、
パネルは申立書に基づいて裁定を下すものとする。」と規定する(規則第5条(f))。
 したがって、下記方針第4条aの(ⅰ)ないし(ⅲ)の各号に関する申立人の主張・立
証に明らかに不十分であると判断される例外的な事情がない限り、申立人の主張にしたが
い、本件ドメイン名登録移転の裁定を下すことが相当である。

 方針第4条aは、申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図してい
る。
 (ⅰ)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示
   と同一または混同を引き起こすほど類似していること
 (ⅱ)登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと
 (ⅲ)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること

以下、方針第4条aの事項について検討する。

 (ⅰ)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示
と同一または混同を引き起こすほど類似していること

(ア)申立人の著名商標「LINE」
 本件ドメイン名は、「LINEBANK.JP」とアルファベットからなるところ、その構成中に
申立人の登録商標「LINE」(商標登録第5534399号)を包含している。
 申立人であるLINE株式会社は、コミュニケーションアプリ「LINE」を中心にインタ
ーネット関連事業を展開する企業であって(第2号証)、LINEアプリは、2013年1月18
日時点において、全世界のユーザー数1億人(うち日本のユーザーは約4151万人)、同年
7月21日には2億人、同年11月25日には3億人を突破し(第3号証乃至第5号証)、
2020年3月末の月間アクティブユーザが8,400万人を超えている(第6号証))。我が国
のSNS業界におけるLINEアプリのシェアは圧倒的で、NTTドコモ モバイル社会研究
所が実施した、2021年1月のスマホ・ケータイ所有者におけるSNS利用動向調査によれ
ば、LINE利用率は81.1%と圧倒的なシェアを誇っている(第7号証)。申立人は「LINE」
ブランドを保護するべく積極的に商標出願・権利化を行っており、「LINE」の文字を含む
商標登録・出願の件数は、本申立書提出時点で日本だけでも294件に上り(第8号証)、
「LINE」アプリのアイコンは防護標章登録もなされ、日本国特許庁において著名商標とし
て取り扱われている(第9号証)。また、株式会社日経BPコンサルティングによる、我が
国のブランドのブランド価値をランキングする「ブランド・ジャパン2020」において、
「LINE」ブランドは第2位にランキングされている(第10号証)。
 以上から、申立人の「LINE」商標は、現在はもちろん、本件ドメイン名が登録された
2014年3月12日の時点においても、すでに我が国の総人口の半数に迫るユーザー数を獲
得しており、著名性を獲得していたといえる。

(イ)「LINE」商標との類似性
 本件ドメイン名は「LINEBANK.JP」とアルファベット文字からなる構成であるところ、
「JP」の部分は国別コードに過ぎない。
 また、登録者は本件ドメイン名を使用して、ウェブサイトを開設しているところ(第1
1号証)、同ウェブサイトページには「Welcome LINE BANK/linebank.jpへようこそ」
の表示がある。登録者は、「Welcome to」の語の後に「LINE BANK」と称する名称を使用
しているところ、「BANK」は「銀行」を示す英語として広く理解されている言葉であり、
このウェブページが、銀行などの金融関連サービス向けの場合においては、「BANK」の語
は要部となるものではなく、本件ドメイン名のうち「LINE」部分が最も注意を引く部分と
なる。
 一方、申立人の「LINE」商標は著名な商標である。また、申立人は「LINE」の文字を
含む商標登録・出願を数多く有しているところ、銀行業務の属する第36類に限ってみて
も、「LINE」(商標登録第5544081号)、「LINE」(商標登録第5978272号)等の商標登録
を有している(第12号証及び第13号証)。
 本件ドメイン名「LINEBANK.JP」は、著名な申立人の商品等表示「LINE」及び、申立
人登録商標のうち少なくとも商標登録第5544081号、商標登録第5978272号と、主たる
識別力を有する「LINE」の部分において共通し、登録者がウェブページを金融関連サービ
スに使用する場合は、混同を引き起こすほど類似しているというべきである

 (ⅱ)登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと

 申立人は、登録者に対して本件ドメイン名を用いることについて許諾していないと主張
している。加えて、登録者は、本件ドメイン名と一致する日本の登録商標は所有していな
い。
 他方、登録者の名称は、「LINE BANK」であるところ、申立人の当該主張に対して、答
弁書が提出されておらず、法人格の有無や、「LINE BANK」の実体の確認ができない。ま
た、一件記録を検討しても、方針第4条c(ⅰ)ないし(ⅲ)に該当するような登録者の
本件ドメイン名に関係する権利または正当な利益を裏付ける事実や、権利または正当な利
益の不存在を否定する例外的な事情は認められない。
 したがって、登録者は本件ドメイン名に関する権利または正当な利益を有していないと
認められる。

 (ⅲ)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること

 申立人は、2012年8月には仮想通貨「LINEコイン」を導入し(第14号証)、2014年
12月にはモバイル送金・モバイル決済サービス「LINE PAY」の提供を開始する(第15
号証)等、金融関連サービスを展開している。なお、申立人は「LINEコイン」(商標登録
第5557738号)、「LINE Pay」(商標登録第5706000号)を商標登録している(第16号
証及び第17号証)。
 本件ドメイン名が登録された時点で、申立人の登録商標「LINE」はすでに著名商標であ
り、また、本件ドメイン名の登録時には申立人が商標登録第5534399号「LINE」の他、
商標登録第5544081号「LINE」、商標登録第5557738号「LINEコイン」等、「LINE」
の文字から構成される登録商標をすでに多数所有していたこと、申立人が仮想通貨の導入
等の金融関連サービスを開始していたこと等の事情を鑑みると、登録者による本件ドメイ
ン名の登録は不正の目的によるものであって、申立人による本件ドメイン名と同一のドメ
イン名の登録を不可能にする妨害行為ということができ、本件ドメイン名を不当な価格で
販売すること等を主たる目的とした行為であると推認される。
 現に、申立人は2019年5月に、傘下のLine Financial株式会社と株式会社みずほ銀行
を通じた共同出資によるLINE Bank設立準備株式会社を設立し(第18号証)、第36類
の役務を指定して商標「LINE Bank」(商標登録第6228153号)を登録した(第19号証)
が、本件ドメイン名の存在により、同一名のドメイン名登録は不可能となっており、事業
が妨害されているといえる。
 なお、2000年1月に大手インターネット通信販売会社の楽天グループ株式会社が、傘
下に楽天銀行株式会社を設立し、2002年4月からモバイルバンキングサービスを提供開
始していること(第20号証)や、2010年頃から携帯電話メーカー各社がNFC技術を搭
載した機種を発表し、スマートフォン決済の普及が拡大し始めたこと(第21号証及び第
22号証)等の当時の業界を取り巻く事情に鑑みれば、申立人を含むインターネットやス
マートフォンに関連する事業者が、将来的に銀行業務を開始する可能性については容易に
想像できた。
 また、登録者が本件ドメイン名を使用するウェブサイトのトップページには、黄緑色の
背景に対して、白色の文字で大きく「Welcome LINE BANK/linebank.jpへようこそ」
と表示されている。黄緑色と白色の組み合わせは、申立人の提供するコミュニケーション
アプリ「LINE」においても使用されており、その普及率を鑑みると、当該色彩の組み合わ
せが申立人の出所を表示するものとして広く知られている。よって、「LINE BANK」の名
称、黄緑色と白色の組み合わせは、申立人の事業を想起させるものであり、登録者に不正
の目的があることは明らかである。
 なお、申立人の提供するコミュニケーションアプリ「LINE」の色彩を伴ったロゴは、本
件ドメイン名が登録される前に、申立人により商標登録がされている(商標登録第557
0784号)。また、コミュニケーションアプリ「LINE」の色彩を伴ったロゴは、第36
類は指定していないものの、防護標章としても登録されている(第9号証)。
 登録者の、本件ドメイン名を使用するウェブサイトのトップページにおいて、その下部
に小さな目立たない表示で「なおこのサイトはLINE Bank設立準備株式会社様、LINE
Financial株式会社様および株式会社みずほ銀行様とは一切関係ありません。」と表示して
いるが、この記載の存在のみによって、登録者の不正の目的を打ち消すことできない。

 以上から、登録人は、申立人の著名な商標を利用して、インターネット上のユーザーを
自己のウェブサイト等に誘導することを意図し、申立人の商品または役務の出所と誤認混
同を生ぜしめ、申立人の事業を混乱させること、または商業上の利益を得ることも目的と
して、本件ドメイン名を不正の目的で使用しているものといえる。

6 結論
 以上に照らして、紛争処理パネルは、登録者によって登録されたドメイン名
「LINEBANK.JP」が申立人の著名な登録商標「LINE」および「LINE Bank」等の「LINE」
を含んだ商標と混同を引き起こすほど類似し、登録者が、ドメイン名に関係する権利また
は正当な利益を有しておらず、登録者のドメイン名が不正の目的で登録または使用されて
いるものと判断する。
 よって、方針第4条iに従って、ドメイン名「LINEBANK.JP」の登録を申立人に移転
するものとし、主文のとおり裁定する。

  2021年11月16日

   日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
          単独パネリスト   西 野 吉 徳

別記 手続の経緯
(1)申立書の受領
   日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、2021年8月31
  日に申立書(添付する関係書類を含む。)を申立人から電子的送信により受領した。
(2)申立手数料の受領
   センターは、2021年8月4日に申立人より申立手数料を受領した。
(3)ドメイン名及び登録者の確認
   センターは、2021年8月31日にJPRSに登録情報を照会し、2021年8
  月31日にJPRSから申立書に記載された登録者が対象ドメイン名の登録者である
  ことを確認する回答並びにJPRSに登録されている登録者の電子メールアドレス及
  び住所等を受領した。
(4)適式性
   センターは、2021年9月7日に補正(申立書の記載事項の修正・証拠の一覧及
  び説明書の提出)が必要と判断してその旨を申立人に通知し、2021年9月10日
  に補正書類を受領した。
   センターは、2021年9月13日に補正(証拠の一覧及び説明書の修正)が必要
  と判断してその旨を申立人に通知し、2021年9月15日に補正書類を受領し、2
  021年9月15日に申立書が処理方針と手続規則に照らし適合していることを確認
  した。
(5)手続開始
   センターは、2021年9月22日に申立人、JPNIC及びJPRSに対し電子
  的送信により、手続開始を通知した。センターは、2021年9月22日に登録者に
  対し郵送及び電子メールにより、開始通知を送付した。開始通知により、登録者に対
  し、手続開始日(2021年9月22日)、答弁書提出期限(2021年10月21
  日)並びに書面の受領及び提出のための手段について通知した。但し登録者宛電子メ
  ール送信分については一部が送信不能であり、登録者の住所に送付した通知は「あて
  所に尋ねあたりません」として返送された。
(6)答弁書の提出
   センターは、提出期限日までに答弁書を受領しなかったので、2021年10月2
  2日に「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不提出通知書を、電子的
  送信により申立人及び登録者に送付した。
(7)パネルの指名及び裁定予定日の通知
   申立人は、1名のパネルによって審理・裁定されることを選択し、センターは、2
  021年10月28日に弁理士 西野 吉徳を単独パネリストとして指名し、一件書
  類を電子的送信によりパネルに送付した。センターは、2021年10月28日に申
  立人、登録者、JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、指名したパネリス
  ト及び裁定予定日(2021年11月18日)を通知した。パネルは、2021年1
  1月4日に公正性・独立性・中立性に関する言明書をセンターに提出した。
(8)パネルによる審理・裁定
   パネルは、2021年11月16日に審理を終了し、裁定を行った。