事件番号:JP2021-0010
                  裁 定


  申立人:
  (名称)株式会社 Mizkan Holdings
  (住所)愛知県半田市中村町二丁目6番地
  代理人:弁理士 網野 友康
      弁理士 網野 誠彦
  登録者:
  (名称)mizkan-shop.jp
  公開連絡窓口の名称:
  (名称)Whois情報公開代行サービス by バリュードメイン
  (住所)大阪府大阪市北区大深町3-1 グランフロント大阪 タワーB 23階

 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針、JPドメイン
名紛争処理方針のための手続規則及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理
方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立書・提出された証拠に基づいて審理
を遂げた結果、以下のとおり裁定する。

1 裁定主文
  ドメイン名「MIZKAN-SHOP.JP」の登録を申立人に移転せよ。

2 ドメイン名
  紛争に係るドメイン名は「MIZKAN-SHOP.JP」である。

3 手続の経緯
  別記のとおりである。

4 当事者の主張
 a 申立人の主張
 (1)申立人は、1804年に創業以来、お酢などの発酵食品等の製造・販売を事業と
   する法人である。「ミツカン」という名称は1900年代前半から使用を始めてい
   たが、2004年に現在の社名の由来となるアルファベットの「mizkan」の名称を
   使用し始め、同名称の商標権を有しており、国内で販売するほとんど全ての商品に
   同登録商標は使用されている。さらに、「mizkan」のカタカナ表記である「ミツカ
   ン」は著名商標として防護標章登録を受けている。
    登録者の登録ドメイン名「MIZKAN-SHOP.JP」(以下、「本件ドメイン名」という。)
   のうち、オンラインストアと実店舗を問わず、販売店に「shop」や「store」という
   文字列を利用することは慣用されており、また「.JP」は日本の国別コードを示す
   トップレベルドメインであるため、「-SHOP.JP」部分は特段の識別力を有しない。
   そして、申立人が権利を有する登録商標「mizkan」と本件ドメイン名とは、その要
   部である「mizkan」において共通し、申立人の著名商標である「ミツカン」と本件
   ドメイン名の上記要部はその称呼が共通する。また、閲覧者(消費者)が本件ドメ
   イン名に触れた場合、「SHOP」の文字列が販売店をイメージさせることから、申立
   人の商品を販売するオンライン店舗と誤認するおそれがある。
    以上より、本件ドメイン名は申立人の商標等と混同を引き起こすほど類似してい
   ると評価できる。
 (2)申立人が登録者に対して「mizkan」の商標の使用を許諾したか否かは判断できな
   いが、申立人及び同社の商標権の使用許諾者はドメイン名の登録時、特別な事情の
   ない限り、登録者名その他の情報を明確にするよう指示しており、本件ドメイン名
   のように登録者名等が不明な状態にすることを認めていない。また、登録者は本件
   ドメイン名を用いて成人向け漫画等に関する情報を提供しており、申立人の事業と
   全く関係がないため、登録者は申立人とは全くの無関係である可能性が極めて高い。
   登録者は、ウェブサイトでアフィリエイトプログラムにより商品を紹介しているこ
   とから、本件ドメイン名を商業目的で使用している。その他公開されている情報か
   ら判明している限りでは、申立人以外の者が「mizkan」関連の登録商標を有しては
   おらず、登録者が本件ドメイン名と同一の名称で一般に認識されている事実もない。
    したがって、登録者は本件ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有して
   いない。
 (3)申立人は1804年から事業を行っている法人であり、同法人及び「mizkan」商
   標の知名度は極めて高い。本件ドメイン名は申立人が2008年に登録し、201
   5年まで公式オンラインショップとしてウェブサイトを公開していた。現在の登録
   者は2017年12月1日からそのドメイン名を登録して前記のとおり使用して
   いるが、その運営のために本件ドメイン名を利用する合理的な理由は全くなく、申
   立人の商標を利用して需要者の誤認を引き起こしたり、申立人の商標の価値を毀損
   したりする意図を有している。
    また、上述のとおり、登録者のウェブサイトではアフィリエイトプログラムによ
   り商品を紹介していることから、本件ドメイン名を使用した自己のウェブサイトに、
   以前の申立人のオンラインショップ利用者などを誤ってアクセスさせ、金銭的利益
   を得ることを目的としていることが推測できる。
    加えて、登録者は、申立人の商品カテゴリの1つである「ぽん酢」について、2
   021年6月11日時点で本件ドメイン名の下で公開されているウェブサイトの
   タイトル「無料エロ同人(ぽんず)」に「ぽんず」という文字列を使用しており、申
   立人の知名度を不正に利用している意図が垣間見える。なお、2021年8月現在
   の同ウェブサイトのタイトルは「漫画のネタバレシピ」となっているが、サイトの
   内容については特に変更はない。
    以上から、登録者は商業上の利益を得るために、申立人の知名度を利用し、イン
   ターネット上のユーザーをウェブサイトに誘引するなどの不正の目的で本件ドメイ
   ン名の登録及び使用をしていることは明白である。
 (4)以上の理由から、本件ドメイン名につき、申立人へ登録移転の裁定がなされるべ
   きである。

 b 登録者の答弁
   登録者によって答弁書は提出されなかった。

5 争点および事実認定
 a 本件ドメイン名の紛争処理に適用すべき判断基準について
   規則第15条(a)は、パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原
  則についてパネルに次のように指示する。「パネルは、提出された陳述・書類及び審
  問の結果に基づき、処理方針、本規則及び適用されうる関係法規の規定・原則、ならび
  に条理に従って、裁定を下さなければならない。」
   処理方針第4条aは、申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指
  図している。
  (1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表
    示と同一または混同を引き起こすほど類似していること
  (2)登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこ
    と
  (3)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること
   以下において、上記各要件が満たされているか否かを順次検討する。

 b 処理方針第4条a項各号についての当紛争処理パネルの判断
 (1)同一または混同を引き起こすほどの類似性
  ア 申立人は、以下のとおり、「mizkan」の文字からなる各商標権(以下、「本件登録
   商標」という。)を有していることが認められる(甲3の1ないし8)。
    ①登録第4751130号、②登録第4751132号、③登録第476660
   9号、④登録第4772533号、⑤登録第4799614号、⑥登録第5672
   915号、⑦登録第5672920号、⑧登録第5672921号
    以上から、申立人は、本件登録商標について権利を有していると認められる。
  イ 本件ドメイン名「MIZKAN-SHOP.JP」のうち、「.JP」の部分はトップレベルドメイ
   ンであって国別コードの日本を意味し、識別力を有しない。
    セカンドレベルドメイン「MIZKAN-SHOP」は、「MIZKAN」と「SHOP」がハイフンで
   結合した2語からなっている。そのうち、「SHOP」の部分は、販売店を意味する英
   単語であり、ドメイン名として用いられる場合にはオンラインショップを意味する
   ことが一般的であり、実際にもそのような用例がよく見られることから、特段の識
   別力を有するものとは認められない。
    とすると、本件ドメイン名の識別力は「MIZKAN」にあると認められるところ、当
   該部分は申立人の本件登録商標と同一である。
  ウ 以上より、本件ドメイン名は、申立人が権利を有する本件登録商標と混同を引き
   起こすほど類似していると認められる。

 (2)権利または正当な利益
    申立人は、登録者に対して「mizkan」の商標の使用を許諾したか否かは判断でき
   ないが、本件ドメイン名のように登録者名等を不明な状態にすることは認めていな
   いこと、登録者は本件ドメイン名を用いて成人向け漫画等の情報を提供しており、
   それは申立人の事業や商品とは全く関わりがないことから、登録者は申立人とは全
   くの無関係である可能性が極めて高いと主張する。また、申立人は、公開情報から
   判明している限りでは、申立人以外の者が「mizkan」関連の登録商標を有しておら
   ず、登録者が本件ドメイン名と同一の名称で一般に認識されている事実もないと主
   張する。
    まず、登録者による本件ドメイン名の登録は、申立人の本件登録商標の登録日よ
   りも後であることが認められる(甲1、甲3の1ないし8)。また、登録者が現在も、
   本件ドメイン名を用いたウェブサイトにおいて、成人向け漫画等の情報提供を行っ
   ていることが確認されたところ、登録者のかかる情報提供は申立人の事業や商品と
   全く関わりのないことが認められる(甲2の1及び2)。これらの事情からは、申立
   人が、登録者が上記情報提供を行うことを目的として本件登録商標の使用を許諾す
   ることは考え難く、仮に過去に登録者に対して別の目的で許諾をしていたとしても、
   現在の登録者の使用が本件登録商標についての許諾の範囲に含まれるとは考え難い。
    さらに、J-PlatPat上でも、「mizkan」の文字(一部は他の文字も含む。)からなる
   登録商標の権利者はいずれも申立人であり、登録者の登録商標は確認されなかった。
    したがって、登録者が本件登録商標について申立人から許諾を受けていないこと、
   及び、登録者は「mizkan」関連の登録商標を有していないことが強く推認される。
   また、登録者が本件ドメイン名と同一の名称で一般に認識されている事実は認めら
   れない。登録者から答弁書等の提出がないことも、登録者が本件ドメイン名につき
   権利または正当な利益がないことを推測させる。
    以上から、登録者が本件ドメイン名について権利または正当な利益を有するとは
   認められない。

 (3)不正の目的での登録または使用
    申立人は、本件ドメイン名は申立人が2008年に登録し、2015年まで公式
   オンラインショップとしてウェブサイトを公開していたが、登録者が2017年1
   2月1日に本件ドメイン名を登録してウェブサイト上で成人向け漫画等の情報提供
   を行っているところ、登録者が申立人の本件登録商標と類似する本件ドメイン名を
   利用する合理的な理由はなく、申立人の本件登録商標を利用して需要者の誤認を引
   き起こしたり、申立人の商標の価値を毀損したりする意図を有していると主張する。
   また、登録者の前記ウェブサイトではアフィリエイトプログラムにより商品を紹介
   しており、以前の申立人のオンラインショップ利用者などを誤ってアクセスさせ、
   金銭的利益を得ることを目的としていることが推測できるなどと主張する。
    甲第6号証(申立人によると、本証拠は「INTERNET ARCHIVE Wayback Machine」
   が作成(保存)した2015年4月14日時点の本件ドメイン名の表示を、202
   1年6月11日にプリントアウトしたものである。上記「INTERNET ARCHIVE Wayback
   Machine」上では、2015年4月14日時点で保存された、本証拠と同内容のウェ
   ブサイトが確認された。)によると、「ミツカン通信販売」との表題の下で申立人の
   商品の通信販売が行われていたこと、下部の「ミツカン通信販売からのお知らせ」
   欄には、2015年3月2日付け、同月23日付け及び同年4月13日付けのお知
   らせが記載されていることも認められ、よって、少なくとも2015年3月2日か
   ら同年4月14日頃には、申立人が本件ドメイン名を保有し、自社製品の公式オン
   ラインショップを運営していたことが認められる。
    他方で、登録者の本件ドメイン名の登録日は2017年12月1日であるところ
   (甲1)、これは申立人が主張する本件ドメイン名の使用終了後である。以上から、
   本件ドメイン名は申立人が少なくとも2015年3月頃から4月頃には自社製品の
   通信販売のために使用していたが、申立人が使用を終了した後に登録者が本件ドメ
   イン名を取得して使用していることが認められる。
    また、前述のとおり、登録者は本件ドメイン名を用いたウェブサイトにおいて、
   成人向け漫画等の情報提供を行っているところ、当該ウェブサイトには、「当サイト
   は、アフィリエイトプログラムにより商品をご紹介致しております。」との記載があ
   り、登録者がアフィリエイトプログラムを利用して、成人向け漫画等の情報提供を
   商業目的で行っていることが推認される。登録者のかかる情報提供は申立人やその
   事業・商品と全く関係がないことから、登録者がかかる情報提供のために本件ドメ
   イン名を使用する合理的な理由はないと言わざるを得ない。
    とすると、登録者は、当初は申立人自身が使用していた本件ドメイン名を取得し
   て使用することにより、申立人の商品の需要者が申立人のオンラインショップを検
   索する際の検索結果に表示されることを期待し、また少なくともそのようなことが
   生じ得ることを認識して、それらの者が本件ドメイン名を用いたウェブサイトに誘
   導され、結果としてアフィリエイトプログラムによる商業上の利益を図る目的で本
   件ドメイン名を登録し、使用していることが推認される。
    この点について、登録者は答弁書を提出せず、また、一件記録を検討しても、不
   正の目的での登録または使用を否定する例外的な事情は認められない。
    したがって、本件ドメイン名は登録者によって不正の目的で登録され、使用され
   ていると認められる。

6 結論
  以上に照らして、紛争処理パネルは、登録者によって登録されたドメイン名「MIZKAN-
 SHOP.JP」が申立人の本件登録商標と混同を引き起こすほど類似し、登録者が、ドメイン
 名に関係する権利または正当な利益を有しておらず、登録者のドメイン名が不正の目的
 で登録または使用されているものと判断する。
  よって、処理方針第4条iに従って、ドメイン名「MIZKAN-SHOP.JP」の登録を申立人
 に移転するものとし、主文のとおり裁定する。

   2021年11月11日

   日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
          単独パネリスト 小 山 隆 史

別記 手続の経緯
(1)申立書の受領
   日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、2021年8月27
  日に申立書(添付する関係書類を含む。)を申立人から電子的送信により受領した。
(2)申立手数料の受領
   センターは、2021年8月31日に申立人より申立手数料を受領した。
(3)ドメイン名及び登録者の確認
   センターは、2021年8月31日にJPRSに登録情報を照会し、2021年8
  月31日にJPRSから申立書に記載された登録者が対象ドメイン名の登録者である
  ことを確認する回答並びにJPRSに登録されている登録者の電子メールアドレス及
  び住所等を受領した。
(4)適式性
   センターは、2021年9月7日に補正(申立書の記載事項の修正)が必要と判断
  してその旨を申立人に通知し、2021年9月7日に補正書類を受領した。
   センターは、2021年9月13日に補正(2回目)(申立書の記載事項の修正)
  が必要と判断してその旨を申立人に通知し、2021年9月13日に補正書類を受領
  し、2021年9月13日に申立書が処理方針と手続規則に照らし適合していること
  を確認した。
(5)手続開始
   センターは、2021年9月14日に申立人、JPNIC及びJPRSに対し電子
  的送信により、手続開始を通知した。センターは、2021年9月14日に登録者に
  対し郵送及び電子メールにより、開始通知を送付した。開始通知により、登録者に対
  し、手続開始日(2021年9月14日)、答弁書提出期限(2021年10月14
  日)並びに書面の受領及び提出のための手段について通知した。
(6)答弁書の提出
   センターは、提出期限日までに答弁書を受領しなかったので、2021年10月1
  5日に「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不提出通知書を、電子的
  送信により申立人及び登録者に送付した。
(7)パネルの指名及び裁定予定日の通知
   申立人は、1名のパネルによって審理・裁定されることを選択し、センターは、2
  021年10月21日に弁護士 小山 隆史を単独パネリストとして指名し、一件書
  類を電子的送信によりパネルに送付した。センターは、2021年10月21日に申
  立人、登録者、JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、指名したパネリス
  ト及び裁定予定日(2021年11月11日)を通知した。パネルは、2021年1
  0月21日に公正性・独立性・中立性に関する言明書をセンターに提出した。
(8)パネルによる審理・裁定
   パネルは、2021年11月11日に審理を終了し、裁定を行った。