事件番号:JP2021-0011
                  裁 定

  申立人:
  (名称)株式会社 Mizkan Holdings
  (住所)愛知県半田市中村町二丁目6番地
  代理人:弁理士 網野 友康
      弁理士 網野 誠彦
  登録者:
  (氏名)南崎 大典(Nanzaki Daisuke)
  公開連絡窓口の名称:
  (名称)Whois情報公開代行サービス by お名前.com
  (住所)東京都渋谷区桜丘町26-1 セルリアンタワー11階

 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針、JPドメイン
名紛争処理方針のための手続規則及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理
方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立書・提出された証拠に基づいて審理
を遂げた結果、以下のとおり裁定する。

1 裁定主文
 ドメイン名「MIZKAN-RECRUIT.JP」の登録を申立人に移転せよ。

2 ドメイン名
 紛争に係るドメイン名は「MIZKAN-RECRUIT.JP」である。

3 手続の経緯
 別記のとおりである。

4 当事者の主張
 a 申立人の主張
 (1)申立人は、1804年に創業以来、お酢などの発酵食品等の製造・販売を事業と
   する法人である。「ミツカン」という名称は1900年代前半から使用を始めてい
   たが、2004年に現在の社名の由来となるアルファベットの「mizkan」の名称を
   使用し始め、同名称の商標権を有しており、国内で販売するほとんど全ての商品に
   同登録商標は使用されている。さらに、「mizkan」のカタカナ表記である「ミツカ
   ン」は著名商標として防護標章登録を受けている。
    登録者の登録ドメイン名「MIZKAN-RECRUIT.JP」(以下、「本件ドメイン名」という。)
   のうち、企業等の人材採用活動においてドメイン名に「RECRUIT」という文字列を
   使用することは広く採用されており、「.JP」は日本の国別コードを示すトップレベ
   ルドメインであるため、「-RECRUIT.JP」部分は特段の識別力を有しない。そして、
   申立人が権利を有する登録商標「mizkan」と本件ドメイン名とは、その要部である
   「mizkan」において共通するほか、申立人の著名商標である「ミツカン」と本件ド
   メイン名の上記要部はその称呼が共通する。また、閲覧者(消費者)が本件ドメイ
   ン名に触れた場合、「RECRUIT」の文字列が人材採用活動をイメージさせることから、
   申立人による人材採用活動のためのウェブサイトであることを想起する蓋然性が
   ある。
    以上より、本件ドメイン名は申立人の商標等と混同を引き起こすほど類似してい
   ると評価できる。
(2)申立人は、登録者の氏名に対して「mizkan」の商標の使用を許諾したことは断じ
  てない。登録者は、2021年5月19日時点において、本件ドメイン名を用いて
  「性風俗店の求人」に関わる情報を展開しており、それは申立人の事業とは全く関
  わりがない。その他、公開情報で知りうる範囲内では、登録者の氏名は「mizkan」
  の名称とは何ら関係がなく、登録者が本件ドメイン名と同一の名称で一般に認識さ
  れている事実もない。また、申立人以外の者が「mizkan」関連の登録商標を有して
  いる事実も存在しない。
   したがって、登録者は本件ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有して
  いないことは明らかである。
(3)申立人は1804年から事業を行っている法人であり、同法人及び「mizkan」商
  標の知名度は極めて高い。本件ドメイン名は申立人が2017年に登録し、人材採
  用活動のウェブサイトを公開していた。登録者は後からそのドメインを登録・利用
  して「性風俗店の求人」に関わる情報を公開したが、その運営のために本件ドメイ
  ン名を利用する合理的な理由は存在しない。また、申立人が登録者及びウェブサイ
  ト運用者(以下、「登録者等」という。)を通じて、登録者等に対して当該ウェブサ
  イトの公開停止を求めた結果、登録者等が自ら公開停止を行っており、それは、登
  録者が本件ドメイン名の使用により申立人の商標等の価値を毀損している認識が
  あったことの証左である。加えて、前記ウェブサイトを見た一部の就職活動者がS
  NSに投稿する、申立人に問い合わせるといった実害が生じており、登録者による
  本件ドメイン名の使用によって、申立人のブランドが傷つけられ、閲覧者(消費者)
  の申立人に対する信用が毀損された。
   以上から、登録者は申立人が蓄積した信用を利用し、インターネット上のユーザ
  ーをウェブサイトに誘引するなどの不正の目的で本件ドメイン名を登録、及び使用
  していたことは明らかである。
(4)登録者のウェブサイトは公開が停止されているため、現在は実害が生じていない
  が、登録者はホスティング会社を変更することにより、再度同様の行為を行うこと
  が事実上可能であり、またその蓋然性も高い。このことに加え、上記(1)から(3)
  の理由により、本件ドメイン名につき、申立人へ登録移転の裁定がなされるべきで
  ある。

 b 登録者の答弁
   登録者によって答弁書は提出されなかった。

5 争点および事実認定
 a 本件ドメイン名の紛争処理に適用すべき判断基準について
   規則第15条(a)は、パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原
  則についてパネルに次のように指示する。「パネルは、提出された陳述・書類及び審問
  の結果に基づき、処理方針、本規則及び適用されうる関係法規の規定・原則、ならび
  に条理に従って、裁定を下さなければならない。」
   処理方針第4条aは、申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指
  図している。
  (1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表
    示と同一または混同を引き起こすほど類似していること
  (2)登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこ
    と
  (3)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること
  以下において、上記各要件が満たされているか否かを順次検討する。

 b 処理方針第4条a項各号についての当紛争処理パネルの判断
 (1)同一または混同を引き起こすほどの類似性
  ア 申立人は、以下のとおり、「mizkan」の文字からなる各商標権(以下、「本件登録
   商標」という。)を有していることが認められる(甲3の1ないし8)。
    ①登録第4751130号、②登録第4751132号、③登録第476660
   9号、④登録第4772533号、⑤登録第4799614号、⑥登録第5672
   915号、⑦登録第5672920号、⑧登録第5672921号
    以上から、申立人は、本件登録商標について権利を有していると認められる。
  イ 本件ドメイン名「MIZKAN-RECRUIT.JP」のうち、「.JP」の部分はトップレベルドメ
   インであって国別コードの日本を意味し、識別力を有しない。
    セカンドレベルドメイン「MIZKAN-RECRUIT」は、「MIZKAN」と「RECRUIT」がハイ
   フンで結合した2語からなっている。そのうち、「RECRUIT」の部分は、一般に企業
   の人材採用活動で用いられることが多く、また、そのような活動を業務の1つとす
   る株式会社リクルートを示す場合もある(同社が「RECRUIT.CO.JP」のドメイン名
   を自社のウェブサイトで用いていることが認められる。)。そして、「RECRUIT」の部
   分が、ある企業名とともにハイフン等で結合されてドメイン名として用いられる場
   合には、当該企業の人材採用活動を意味するものと理解されるのが一般的であり、
   そのような使用例もよく見られることから、かかる使用形態における「RECRUIT」
   の部分は特段の識別力を有しないと言うべきである。本件ドメイン名では、
   「RECRUIT」の部分は申立人の社名を構成する主要部分である「MIZKAN」の名称と
   ハイフンで結合されていることから、「RECRUIT」の部分には特段の識別力は認めら
   れない。
    とすると、本件ドメイン名の識別力は「MIZKAN」にあると認められるところ、当
   該部分は申立人の本件登録商標と同一である。
  ウ 以上より、本件ドメイン名は、申立人が権利を有する本件登録商標と混同を引き
   起こすほど類似しているものと認められる。
 (2)権利または正当な利益
    申立人は、登録者の氏名に対して「mizkan」の商標の使用を許諾したことは断じ
   てないと主張する。また、登録者は本件ドメイン名を用いて「性風俗店の求人」に
   関わる情報を展開しているが、それは申立人の事業とは全く関わりがないと主張し、
   登録者による本件ドメイン名の上記使用を示す甲第5号証を提出している(申立人
   によると、本証拠は「INTERNET ARCHIVE Wayback Machine」が作成(保存)した2
   021年5月19日時点の本件ドメイン名の表示を、2021年6月11日にプリ
   ントアウトしたものである。)。また、公開情報から知りうる範囲内では、登録者の
   氏名は「mizkan」の名称とは何ら関係がなく、登録者が本件ドメイン名と同一の名
   称で一般に認識されている事情もないと主張し、また、申立人以外の者が「mizkan」
   関連の登録商標を有している事実も存在しないと主張する。
    まず、登録者の氏名と本件ドメイン名に共通する部分はない。登録者の本件ドメ
   イン名は、2021年4月2日に登録されており(甲1)、申立人の本件登録商標の
   登録日よりも後であることが認められる(甲3の1ないし8)。また、甲第5号証(上
   記「INTERNET ARCHIVE Wayback Machine」上では、上記日時に保存された、本証拠
   と同内容のウェブサイトが確認された。)によると、登録者は、本件ドメイン名の登
   録日以降、申立人の求めで登録者等が本件ドメイン名を用いたウェブサイトを公開
   停止するまでの間、性風俗店の求人に関する情報の公開を行っていたことが認めら
   れ、また、登録者のかかる情報の公開は、申立人の事業や商品と全く関わりのない
   ことが認められる(甲2の1及び2)。これらのことから、申立人が登録者に対して
   本件登録商標の許諾をしたとは考え難く、このことは申立人の求めで登録者等が自
   ら本件ドメイン名を用いたウェブサイトを公開停止にしていることからも裏付けら
   れる。
    さらに、J-PlatPat上でも、「mizkan」の文字(一部は他の文字も含む。)からなる
   登録商標の権利者はいずれも申立人であり、登録者の登録商標は確認されなかった。
    したがって、登録者が本件登録商標について申立人から許諾を受けていないこと、
   及び、登録者は「mizkan」関連の登録商標を有していないことが認められる。また、
   登録者が本件ドメイン名と同一の名称で一般に認識されている事実も認められない。
   登録者から答弁書等の提出がないことも、登録者が本件ドメイン名につき権利また
   は正当な利益がないことを推測させる。
    以上から、登録者が本件ドメイン名について権利または正当な利益を有するとは
   認められない。

 (3)不正の目的での登録または使用
    申立人は、本件ドメイン名は申立人が2017年に登録し、人材採用活動のウェ
   ブサイトを公開していたが、登録者は後からそのドメイン名を登録・利用して「性
   風俗店の求人」に関わる情報を公開したところ、登録者が上記ウェブサイトを運営
   するために申立人の登録商標と類似する本件ドメイン名を利用する合理的な理由は
   なく、申立人が本件ドメイン名を使用することによって蓄積した信用を利用し、ユ
   ーザーを登録者のウェブサイトに誤ってアクセスさせる意図があったことが推測で
   きるなどと主張する。
    甲第6号証(申立人によると、本証拠は「INTERNET ARCHIVE Wayback Machine」
   が作成(保存)した2017年7月9日時点の本件ドメイン名の表示を、2021
   年6月11日にプリントアウトしたものである。上記「INTERNET ARCHIVE Wayback
   Machine」上では、2017年7月9日時点(保存時)の本件ドメイン名を用いたウ
   ェブサイトは確認できなかったが、その直近である2017年4月4日、同年5月
   7日及び同年6月7日時点で保存された、本証拠と同内容のウェブサイトが確認さ
   れた。)によると、申立人の本件登録商標が使用され、また、「NEWS 2017.
   02.27 採用サイトオープンしました。」の表示が認められることから、201
   7年2月頃には、申立人が本件ドメイン名を使用して人材採用活動のウェブサイト
   を公開していたことが認められる。
    他方で、登録者の本件ドメイン名の登録日は2021年4月2日であることから
   (甲1)、本件ドメイン名は申立人が2017年頃に人材採用活動のために使用し
   ていたが、その後に登録者が本件ドメイン名を取得して使用していたことが認めら
   れる。
    また、登録者は、前述のとおり、本件ドメイン名の登録日以降、申立人の求めで
   登録者等が公開停止するまでの間、自己のウェブサイト上で性風俗店の求人に関わ
   る情報を公開していたことが認められるところ、登録者によるかかる情報の公開は
   申立人の事業や商品と全く関わりがないことから、登録者がそのために本件ドメイ
   ン名を使用する合理的な理由はないと言わざるを得ない。
    とすると、登録者は、当初は申立人自身が人材採用活動において使用していた本
   件ドメイン名を取得して使用することにより、申立人の新卒採用や中途採用などの
   人材採用活動に関心のある者(申立人による新卒採用及び中途採用を希望する者は
   常に一定数いることが想定される。)が申立人の人材採用活動についてインターネ
   ット上で検索する際の検索結果に表示されることを期待し、また少なくともそのよ
   うなことが生じ得ることを認識して、それらの者を、本件ドメイン名を用いた自己
   のウェブサイトに誘導する目的で本件ドメイン名を登録し、使用していたことが推
   認される。
    また、本件ドメイン名は申立人が過去に人材採用活動の目的で登録して実際に使
   用しており、登録者の性風俗店の求人に関する情報の公開も求人・採用活動の点で
   は共通性があるため、登録者によるかかる情報の公開は申立人の人材採用活動に関
   心のある者に、申立人が性風俗店の求人と何らかの関係があると誤認される可能性
   もあった。この点、申立人は、登録者が本件ドメインの下で性風俗店の求人に関す
   る情報を公開したことにより、そのウェブサイトを見た一部の就職活動者がSNS
   に投稿する、申立人に問い合わせるといった実害が生じたと主張するところ、その
   ようなことが実際に生じたことは想定できる。登録者の本件ドメイン名の上記の使
   用形態は、申立人の人材採用活動に関心のある者の申立人に対する信用を毀損する
   おそれのある行為であったと言える。
    さらに、登録者は答弁書を提出せず、また、一件記録を検討しても、不正の目的
   での登録または使用を否定する例外的な事情は認められない。
    したがって、本件ドメイン名は登録者によって不正の目的で登録され、使用され
   ていたと認められる。

 (4)救済について
    本件ドメイン名を用いた登録者のウェブサイトは現在公開が停止されており、申
   立人自身が認めるように、現在は実害が生じていない状態である。しかし、申立人
   が本件ドメイン名の移転を求めており、また、仮に本件ドメイン名の登録を取り消
   す裁定を行う場合には、登録者による再登録が可能となるほか、登録者以外にも本
   件ドメインを登録して使用する者が現れる可能性があり、その場合には再度紛争処
   理手続が利用される可能性が高く、本件ドメイン名についての終局的な解決とはな
   らない。
    以上から、本件における救済としては、本件ドメイン名の申立人への移転を認め
   るのが相当である。

6 結論
  以上に照らして、紛争処理パネルは、登録者によって登録されたドメイン名「MIZKAN-
 RECRUIT.JP」が申立人の本件登録商標と混同を引き起こすほど類似し、登録者が、ドメ
 イン名に関係する権利または正当な利益を有しておらず、登録者のドメイン名が不正の
 目的で登録または使用されていたものと判断する。
  よって、処理方針第4条iに従って、ドメイン名「MIZKAN-RECRUIT.JP」の登録を申立
 人に移転するものとし、主文のとおり裁定する。

   2021年11月11日
   日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
          単独パネリスト    小 山 隆 史

別記 手続の経緯
(1)申立書の受領
   日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、2021年8月27
  日に申立書(添付する関係書類を含む。)を申立人から電子的送信により受領した。
(2)申立手数料の受領
   センターは、2021年8月31日に申立人より申立手数料を受領した。
(3)ドメイン名及び登録者の確認
   センターは、2021年8月31日にJPRSに登録情報を照会し、2021年8
  月31日にJPRSから申立書に記載された登録者が対象ドメイン名の登録者である
  ことを確認する回答並びにJPRSに登録されている登録者の電子メールアドレス及
  び住所等を受領した。
(4)適式性
   センターは、2021年9月7日に補正(申立書の記載事項の修正)が必要と判断
  してその旨を申立人に通知し、2021年9月7日に補正書類を受領し、2021年
  9月13日に申立書が処理方針と手続規則に照らし適合していることを確認した。
(5)手続開始
   センターは、2021年9月14日に申立人、JPNIC及びJPRSに対し電子
  的送信により、手続開始を通知した。センターは、2021年9月14日に登録者に
  対し郵送及び電子メールにより、開始通知を送付した。開始通知により、登録者に対
  し、手続開始日(2021年9月14日)、答弁書提出期限(2021年10月14
  日)並びに書面の受領及び提出のための手段について通知した。但し登録者の住所に
  送付した通知は「あて名不完全で配達できません」として返送された。
(6)答弁書の提出
   センターは、提出期限日までに答弁書を受領しなかったので、2021年10月1
  5日に「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不提出通知書を、電子的
  送信により申立人及び登録者に送付した。
(7)パネルの指名及び裁定予定日の通知
   申立人は、1名のパネルによって審理・裁定されることを選択し、センターは、2
  021年10月21日に弁護士 小山 隆史を単独パネリストとして指名し、一件書
  類を電子的送信によりパネルに送付した。センターは、2021年10月21日に申
  立人、登録者、JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、指名したパネリス
  ト及び裁定予定日(2021年11月11日)を通知した。パネルは、2021年1
  0月21日に公正性・独立性・中立性に関する言明書をセンターに提出した。
(8)パネルによる審理・裁定
   パネルは、2021年11月11日に審理を終了し、裁定を行った。