事件番号:JP2022-0011

                   裁 定

  申立人:
  (名称) ロイヤル カナン エスアーエス
  (住所) フランス国 30470 エマルグ アヴニュ デ ラ プティット カマルグ
650
  代理人:弁護士 宮川 美津子
      弁護士 笹川 大智
      弁護士 安西 みなみ
  登録者:
  (氏名) 中村千雪
  公開連絡窓口の名称及び住所:
(名称)エックスサーバー株式会社
(住所) 大阪府大阪市北区大深町4-20 グランフロント大阪 タワーA 32F

 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針、JPドメイン
名紛争処理方針のための手続規則及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理
方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立書・提出された証拠に基づいて審理
を遂げた結果、以下のとおり裁定する。

1 裁定主文
 ドメイン名「ROYALCANLN.JP」の登録を取り消せ。

2 ドメイン名
 紛争に係るドメイン名は「ROYALCANLN.JP」(以下「本件ドメイン名」という)である。

3 手続の経緯
 別記のとおりである。

4 当事者の主張
 a 申立人
   申立人の主張の概要は、以下のとおりである。
(1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と
同一または混同を引き起こすほど類似していること
(i) 申立人は、1968年に創業されたペットフードの製造販売を行う企業であり、世界100
か国以上で500種類以上の製品を展開するとともに、世界16か所に工場を有している。日
本においては、1991年に日本法人が設立、250種類以上の製品を展開するに至っており、
申立人の商品および事業、ドメイン名において「ROYAL CANIN」の文字商標(以下「本件商
標」という)を使用している。申立人は、日本に限らず、全世界において、飼料、動物用
サプリメント、医療用飼料、動物用薬剤、動物用の治療用シャンプー等の様々な商品およ
び役務において、本件商標をはじめ、これに関連する商標を多数商標登録している。本件
商標は、全世界で広く知られており、申立人の運営する世界的ペットフードブランドとし
て著名である。
(ii) 本件ドメイン名「ROYALCANLN.JP」は、本件商標と一文字違いかつ外観が「I」と類
似した「L」を用いた「ROYALCANLN」に、トップレベルドメインの「jp」を組み合わせたも
のであるから、本件商標を使用した申立人の商品および事業を想起させ、当該表示に接し
た者をして、混同を起こすほど類似している。

(2)登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと
(i) 登録者の氏名は「中村 千雪(Chiyuki Nakamura)」であり、本件ドメイン名である
「ROYALCANLN.JP」と不一致であり、かつ、何らの関係性も見出せない。
(ii) 登録者は、「ROYALCANLN」はもちろん、日本において一切登録商標を保有していない。
(iii) 申立人は、登録者に対して本件商標その他一切の表示等に関して何らライセンス
を与えておらず、登録者は申立人と何ら関係のない第三者である。
(iv) 以上のほか、登録者が本件ドメイン名の名称で一般に認識されているという事実は
存在しない。

(3)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること
(i) 申立人は、日本においては、「https://www.royalcanin.com/jp」及び
「https://my.royalcanin.jp/index」のURL(以下、「申立人ウェブサイト」という)にお
いて申立人商品の紹介および販売を行っている。
(ii) 登録者は、2021年11月24日に本件ドメイン名をJPRSに登録した後、本件ドメイ
ン名を用いたウェブサイト等を特に運営していないが、2021年12月23日時点において、
本件ドメイン名から申立人ウェブサイトにリダイレクトさせており、登録者が申立人との
間に緊密な取引関係を有するとの誤信を与え、本件商標にフリーライドする目的をもって
本件ドメイン名を運営しようとした。
(iii) 2021年12月24日、本件ドメイン名の公開連絡先であるエックスサーバー株式会
社を通じて、登録者に対して本件ドメイン名の使用停止および申立人等への移転を求める
通知書の送付を行ったところ、同社より、登録者と連絡がとれないため本件ドメイン名の
利用停止措置が講じられた旨の返事があった。

従って、申立人は、本件ドメイン名登録の取消を請求する。

 b 登録者
 登録者によって答弁書は提出されなかった。

5 争点および事実認定
 規則第15条(a)は、パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原則に
ついてパネルに次のように指示する。「パネルは、提出された陳述・書類及び審問の結果に
基づき、処理方針、本規則及び適用されうる関係法規の規定・原則、ならびに条理に従っ
て、裁定を下さなければならない。」
 方針第4条aは、申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図してい
る。
 (1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示
と同一または混同を引き起こすほど類似していること
 (2)登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと
 (3)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること
 本件では、登録者が答弁書を提出しなかった。例外的な事情がない限り、パネルは申立
書に基づいて裁定を下すものとされる(手続規則第5条(f))。一方で、処理方針第4条
aは、申立人に対して上記(1)~(3)のすべてを立証する義務を課している。そのた
め、仮に答弁書が不提出であったとしても、パネルが申立書に基づき事実の認定等を行っ
たうえで裁定を下すことになる。よって、以下各要件について検討する。

 (1)同一又は混同を引き起こすほどの類似性
 甲第2号証及び第3号証からは、申立人が、我が国において、本件商標「ROYAL CANIN」
を、第33類においては1982年11月26日に、第5類においては2016年5月20日に、そ
れぞれ商標登録し(商標登録第1552398号及び国際登録第1264344号)、これらが現在も有
効に存在すること、甲第6号証及び第7号証からは、申立人が当該指定商品に、本件商標
と同一又は類似する商標を現在も使用していること、甲第4号証及び第9号証からは、申
立人の事業に係るウェブサイトにおいて「royalcanin.jp」のURLが使用されていること、
甲第5号証及び第6号証からは、申立人の事業に係るウェブサイトにおいて
「royalcanin.com」のURLが使用されていることが認められる。
 上記事実より、申立人は「ROYAL CANIN」について権利及び正当な利益を有していると認
めることができる。

 本件ドメイン名のトップレベルドメイン「.JP」は国別コードを表す部分に過ぎないから、
本件ドメイン名が商品や役務の出所表示として機能を果たす要部は、第2レベルドメイン
である「ROYALCANLN」であることは明白である。そこで本件ドメイン名の第2レベルドメ
イン「ROYALCANLN」と、本件商標「ROYAL CANIN」を対比すると、構成文字全10文字のう
ち、9文字目の「L」と「I」において差異が認められるが、当該差異によって本件ドメイ
ン名から、本件商標と異なる意味合いが認識されるものではない。また、ドメイン名の表
記においては、大文字と小文字は区別されないこと、さらに、通常、ブラウザーのアドレ
スバーにおいてドメイン名は小文字で表示されることから、それぞれを小文字で表示した
「royalcanln」と「royal canin」を比較してみると、より似通った印象を受け、小文字「l」
と「i」の差異が外観全体に与える影響は軽微と言わざるを得ない。

 したがって、本件ドメイン名の要部「ROYALCANLN」は、申立人が権利及び正当な利益を
有している商標である「ROYAL CANIN」と混同を引き起こすほど類似するものと認められ
る。

 (2)権利または正当な利益
 本件ドメイン名は2021年11月24日に登録されたところ、登録者の氏名は「中村 千
雪(Chiyuki Nakamura)」で、本件ドメイン名と一致せず、かつ、何らの関係性も見出せず、
「ROYALCANLN」はもちろん、日本において一切登録商標を保有しておらず、本件ドメイン
名またはこれに対応する名称で登録者が一般に認識されているという事実は存在しないと、
申立人は主張する。
 答弁書不提出のため、登録者の使用事実について確認する手段がなく、また、「ROYALCANLN」
の文字列について、登録者の名称として一般に認識されていると当パネルが判断すべき事
情も、見当たらない。さらに、登録者は、本件ドメイン名を用いてアクセスしてきたユー
ザーを申立人の真正なウェブサイトに、直接つながるように(リダイレクト)設定してい
たのであれば、登録者は「ROYAL CANIN」商標が申立人を表示することを知らなかったはず
はないことを強く推認させる。
 また、申立人は、登録者に対して本件商標その他一切の表示等に関して何らライセン
スを与えたことはないと主張しているところ、これと矛盾する事情は認められないから、
申立人は登録者に本件ドメイン名の登録を許諾していないものと認められる。
 以上のことから、処理方針第4条c項各号所定の事実はいずれも認められず、登録者
は本件ドメイン名に関して何らの権利または正当な利益を有するものでないと言うほかな
い。

 (3)不正の目的での登録または使用
 登録者は、本件ドメイン名を用いたウェブサイト等を特に運営していないが、2021年12月
23日時点において、本件ドメイン名から申立人ウェブサイトにリダイレクト(転送)さ
せており、登録者が申立人との間に緊密な取引関係を有するとの誤信を与え、本件商標に
フリーライドする目的をもって本件ドメイン名を運営しようとしたと、申立人は主張する。
 提出された証拠からは、申立人が、2021年12月24日、本件ドメイン名の公開連絡先で
あるエックスサーバー株式会社を通じて、登録者に対して本件ドメイン名の使用停止およ
び申立人またはその指定する者への移転を求める通知書の送付を行ったところ(甲第11
号証)、2022年1月19日、同社より、登録者に通知書を転送したものの、連絡がとれない
ため、同社利用規約に基づき、本件ドメイン名の利用を停止する対応を行ったとの返事が
あったことが認められる(甲12号証)。
 当パネルが、本件ドメイン名のURLを確認したところ、現在、当該サイトにアクセスで
きない状態になっている(添付書類1)。

 登録者は、本件ドメイン名の登録から一月も経たずに申立人ウェブサイトにリダイレク
ト設定し、また、答弁書を提出せず、かつ上記通知書にも回答せず、さらに、エックスサ
ーバー株式会社による本件ドメイン名の利用停止から8ヵ月経過するも本件ドメイン名の
利用再開に向けた形跡がうかがわれないことから、本件ドメイン名を申立人ウェブサイト
へのリダイレクト(転送)のみを目的として登録し、使用したものと言わざるを得ない。

 本件ドメイン名が、登録者とは何ら関係のない申立人ウェブサイトへのリダイレクトの
ために使用されたとしても、それをもって直ちに申立人との混同は生じ難いものの、申立
人ウェブサイトは申立人の公式通販サイトであり、本件商標を付した商品の販売目的に運
営されており、相当のアクセス数が予想されることから、ユーザーを希望しないウェブサ
イトへ誘導する状態が放置されれば、申立人の事業を混乱させる可能性を否定することが
できない。
 さらに、本件商標「ROYAL CANIN」は全体として独創性のある造語と認められるところ、
ユーザーがドメイン名を頻繁に目にするアドレスバーにおいて、これと一文字違いで、し
かも、小文字表示により一層判別し難い「I」を「L」に変更した本件ドメイン名が使用さ
れた場合、ユーザーの通常の注意力において容易に両者を区別できるとは想定し得ず、申
立人の事業に混乱を招く一因と認められる。

 以上から、登録者は、申立人ウェブサイトにアクセスしようとするユーザーを誘引し、
申立人の事業を混乱させる意図において、本件ドメイン名を登録および使用としたものと
推認される。

6 結論
 以上に照らして、紛争処理パネルは、登録者によって登録されたドメイン名
「ROYALCANLN.JP」が申立人の商標と混同を引き起こすほど類似し、登録者が、ドメイン名
に関係する権利または正当な利益を有しておらず、登録者のドメイン名が不正の目的で登
録または使用されているものと判断する。
 よって、方針第4条iに従って、ドメイン名「ROYALCANLN.JP」の登録を取り消すものと
し、主文のとおり裁定する。

  2022年9月26日

   日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
          単独パネリスト    三上 真毅

別記 手続の経緯
(1)申立書の受領
   日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、2022年7月28
  日に申立書(添付する関係書類を含む。)を申立人から電子的送信により受領した。
(2)申立手数料の受領
   センターは、2022年7月28日に申立人より申立手数料を受領した。
(3)ドメイン名及び登録者の確認
   センターは、2022年7月28日にJPRSに登録情報を照会し、2022年7
  月28日にJPRSから申立書に記載された登録者が対象ドメイン名の登録者である
  ことを確認する回答並びにJPRSに登録されている登録者の電子メールアドレス及
  び住所等を受領した。
(4)適式性
   センターは、2022年7月29日に申立書が処理方針と手続規則に照らし適合し
  ていることを確認した。
(5)手続開始
   センターは、2022年8月3日に申立人、JPNIC及びJPRSに対し電子的
  送信により、手続開始を通知した。センターは、2022年8月3日に登録者に対し
  郵送及び電子メールにより、開始通知を送付した。開始通知により、登録者に対し、
  手続開始日(2022年8月3日)、答弁書提出期限(2022年9月1日)並びに
  書面の受領及び提出のための手段について通知した。但し登録者宛電子メール送信分
  については一部が送信不能であり、登録者の住所に送付した通知は「あて所に尋ねあ
  たりありません」として返送された。
(6)答弁書の提出
   センターは、提出期限日までに答弁書を受領しなかったので、2022年9月2日
  に「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不提出通知書を、電子的送信
  により申立人及び登録者に送付した。
(7)パネルの指名及び裁定予定日の通知
   申立人は、1名のパネルによって審理・裁定されることを選択し、センターは、2
  022年9月8日に弁理士 三上 真毅を単独パネリストとして指名し、一件書類を
  電子的送信によりパネルに送付した。センターは、2022年9月8日に申立人、登
  録者、JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、指名したパネリスト及び裁
  定予定日(2022年9月30日)を通知した。パネルは、2022年9月9日に公
  正性・独立性・中立性に関する言明書をセンターに提出した。
(8)パネルによる審理・裁定
  パネルは、2022年9月26日に審理を終了し、裁定を行った。