事件番号:JP2023-0001

                  裁 定

  申立人:
  (名称)パランティア テクノロジーズ インコーポレーテッド
      代表者 アレクサンダー カープ
  (住所)アメリカ合衆国 コロラド州 80202 デンバー ●(省略)●
  代理人:弁理士法人三枝国際特許事務所
      担当 弁理士 田上 英二
  登録者:
  (氏名)DUAN ZuoChun
  (公開連絡先)東京都新宿区●(省略)●

 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JP ドメイン名紛争処理方針(以下、「処
理方針」という。)、JP ドメイン名紛争処理方針のための手続規則(以下、「手続規則」とい
う。)及び日本知的財産仲裁センターJP ドメイン名紛争処理方針のための手続規則の補則
並びに条理に則り、申立書・提出された証拠に基づいて審理を遂げた結果、以下のとおり
裁定する。

1 裁定主文
  ドメイン名「PALANTIR.JP」の登録を申立人に移転せよ。

2 ドメイン名
  紛争に係るドメイン名は「PALANTIR.JP」である。

3 手続の経緯
  別記のとおりである。

4 当事者の主張
 a 申立人
 申立人の主張は、以下のように整理できる。

 申立人は、米国に拠点を置く大手ビッグデータ分析会社であり、2003 年に米国コロラド
州デンバーにて設立された。申立人が提供するデータプラットフォームは航空、エネルギ
ー、ヘルスケア、製造、金融、メディア等の幅広い分野で利用され、申立人は2019 年時点
で世界25 か国の政府機関や大手企業にビッグデータ解析サービスを提供している。2019
年には大手損保グループ3社の1つであるSOMPO ホールディングスとの合弁で新会社
「Palantir Technologies Japan 株式会社」を立ち上げ、日本での事業展開を本格的にス
タートさせた。2020 年6 月には、保険や介護で得たデータを分析することによる安全な交
通サービスの開発や介護の現場の作業効率向上を狙って、SOMPO ホールディングスが申立
人に対し5 億ドル(当時のレートで約540 億円)を出資することが発表され、また、日本
市場におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)分野の強化を目的として、富士通
が申立人に対し5000 万ドル(当時のレートで約53 億円)を出資することが発表された。
 申立人の「PALANTIR」商標(商標登録第5730566 号)は、世界的な著名性を獲得してい
る商標であるといえ、また、我が国においても高い周知度を獲得している商品等表示とい
うことができ、現在はもちろんのこと、本件ドメイン名が登録された2020 年7 月1 日の
時点においても、周知・著名性を獲得していたといえる。
 よって、登録者は、申立人の「PALANTIR」商標と紛らわしいドメイン名を登録し、申立
人の高い知名度を利用する意図を有している。また、「PALANTIR」は辞書等に掲載されてい
る既存語ではなく造語であって高い識別性を備えていることにも鑑みれば、登録者が偶然
に申立人の「PALANTIR」商標と同一の文字列である「PALANTIR」を独自に考案したとは考
えがたく、登録者は申立人の「PALANTIR」商標の存在を知りながら、本件ドメイン名を不
正の目的をもって登録したものであると推認できる。ゆえに、ドメイン名は、申立人の商
標と混同を引き起こすほどに類似し、登録者はドメイン名に関係する正当な利益を有して
おらず、ドメイン名は不正の目的で登録または使用されている。
 従って、申立人は、ドメイン名登録の申立人への移転を請求する。

 b 登録者

 登録者によって答弁書は提出されなかった。

5 争点および事実認定
 a 本件ドメイン名の紛争処理に適用すべき判断基準について
   手続規則第15条(a)は、パネルが紛争を裁定する際に使用することになってい
  る原則についてパネルに次のように指示する。「パネルは、提出された陳述・書類及び
  審問の結果に基づき、処理方針、本規則及び適用されうる関係法規の規定・原則、な
  らびに条理に従って、裁定を下さなければならない。」
   処理方針第4条aは、申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指
  図している。
  (1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表
   示と同一または混同を引き起こすほど類似していること
  (2)登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこ
   と
  (3)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること

 b 処理方針第4条a項各号についての当紛争処理パネルの判断
 (1)同一又は混同を引き起こすほどの類似性
   本件ドメイン名は「PALANTIR.JP」とのアルファベット文字からなる構成であるとこ
  ろ、「JP」の部分はトップレベルドメインであって国別コードの日本を意味するに過ぎ
  ず、本件ドメイン名の要部は「PALANTIR」である。
   一方、申立人の「PALANTIR」商標(商標登録第5730566 号)は、本件ドメイン名の
  要部である「PALANTIR」と称呼及び外観において同一であることから、両者は全体と
  して混同を引き起こすほど類似しているというべきである。
 (2)権利または正当な利益
   申立人によると、本件ドメイン名の登録日である2020 年7 月1 日時点を含め、申
  立人と本件ドメイン名の登録者の間には過去に一切取引はなく、申立人表示
  「PALANTIR」について使用許諾を与えている事実等もないとのことであり、登録者か
  らは答弁書が提出されず、何ら反論がないことからこれを事実と認める。
   また登録者が、現時点で「PALANTIR」を商品またはサービスに使用しているとか、
  非商業的に使用しているなどの事実は認められず、さらに、登録者が「PALANTIR」の
  名称で認識されているとの事実も認められない。
   したがって、登録者には、本件ドメイン名を有する権利や正当な利益がない。
 (3)不正の目的での登録または使用
   申立人の「PALANTIR」商品や商品等表示は、申立人による造語であり、周知・著名
  であるとまではいえないものの、一定の周知性を持っていることから、登録者が不正
  の目的での登録を行った疑いがあり、その点を十分に検討する必要がある。
   本件ドメイン名は、sedo.com において売りに出されており、金額は指定されていな
  いが、入札できるようになっており、当該ドメイン名に直接かかった金額(書面で確
  認できる金額)で販売することは考えにくく、当該金額よりも相当高額で販売するこ
  とを意図していると認定できる。
   また、本件ドメイン名の他にも、「DUAN ZuoChun」にて登録者名検索をすると、194
  件のドメイン名が検索され、中には我が国でよく知られた商標や商号をセカンドレベ
  ルドメインとする「kose.hk」「reebok.tw」「tiffany.tw」といったドメイン名があり、
  これらもsedo.com において本件ドメイン名と同様の方法で販売されている。
   さらに、登録者に対しては、他のJP ドメイン名紛争処理事件でも、不正の目的で
  の登録または使用が認められている(エヌジーブランド対DUAN ZuoChun 事件裁定JP
  2019-0007 <NICOLAS-GHESQUIERE.JP>および<NICOLASGHESQUIERE.JP>、Ares Managem
  ent Corporation 対DUAN ZuoChun 事件裁定JP2021-0008 <ARESMGMT.JP>参照)。
   これら事実からすれば、登録者は、申立人の競業者に対して、当該ドメイン名に直
  接かかった金額(書面で確認できる金額)を超える対価を得るために、当該ドメイン
  名を販売することを主たる目的として、当該ドメイン名を登録または取得している
  (処理方針第4条b(i))と認定できることから、登録者は本件ドメイン名を不正の
  目的で登録していると言える。

6 結論
  以上に照らして、紛争処理パネルは、登録者によって登録されたドメイン名「PALANTIR.JP」
 が申立人の商標と混同を引き起こすほど類似し、登録者が、ドメイン名に関係する権利ま
 たは正当な利益を有しておらず、登録者のドメイン名が不正の目的で登録または使用され
 ているものと判断する。
  よって、処理方針第4条iに従って、ドメイン名「PALANTIR.JP」の登録を申立人に移転
 するものとし、主文のとおり裁定する。

   2023年 4月25日

   日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
          単独パネリスト    平野惠稔




別記 手続の経緯
(1)申立書の受領
   日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、2023年2月22
  日に申立書(添付する関係書類を含む。)を申立人から電子的送信により受領した。
(2)申立手数料の受領
   センターは、2023年2月22日に申立人より申立手数料を受領した。
(3)ドメイン名及び登録者の確認
   センターは、2023年2月22日にJPRSに登録情報を照会し、2023年2
  月22日にJPRSから申立書に記載された登録者が対象ドメイン名の登録者である
  ことを確認する回答並びにJPRSに登録されている登録者の電子メールアドレス及
  び住所等を受領した。
(4)適式性
   センターは、2023年2月24日に申立書が処理方針と手続規則に照らし適合し
  ていることを確認した。
(5)手続開始
   センターは、2023年3月1日に申立人、JPNIC及びJPRSに対し電子的
  送信により、手続開始を通知した。センターは、2023年3月1日に登録者に対し
  郵送及び電子メールにより、開始通知を送付した。開始通知により、登録者に対し、
  手続開始日(2023年3月1日)、答弁書提出期限(2023年3月30日)並び
  に書面の受領及び提出のための手段について通知した。
(6)答弁書の提出
   センターは、提出期限日までに答弁書を受領しなかったので、2023年3月31
  日に「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不提出通知書を、電子的送
  信により申立人及び登録者に送付した。
(7)パネルの指名及び裁定予定日の通知
   申立人は、1名のパネルによって審理・裁定されることを選択し、センターは、2
  023年4月6日に弁護士 平野 惠稔を単独パネリストとして指名し、一件書類を
  電子的送信によりパネルに送付した。センターは、2023年4月6日に申立人、登
  録者、JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、指名したパネリスト及び裁
  定予定日(2023年4月26日)を通知した。パネルは、2023年4月7日に公
  正性・独立性・中立性に関する言明書をセンターに提出した。
(8)パネルによる審理・裁定
   パネルは、2023年4月25日に審理を終了し、裁定を行った。