事件番号:JP2023-0002
                   裁 定
  申立人:
  株式会社読売新聞西部本社
  (住所)福岡市中央区 ●(省略)●
  登録者:
  Taka Enterprise Ltd. WHOISプライバシーサービス
  (住所)東京都新宿区 ●(省略)●

 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針(以下、「処
理方針」という。)、JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則(以下、「手続規則」とい
う。)及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理方針のための手続規則の補則
並びに条理に則り、申立書・答弁書・提出された証拠に基づいて審理を遂げた結果、以下
のとおり裁定する。

1 裁定主文
  ドメイン名「YOMIURI-CG.JP」の登録を申立人に移転せよ。

2 ドメイン名
  紛争に係るドメイン名は「YOMIURI-CG.JP」である。

3 手続の経緯
  別記のとおりである。

4 当事者の主張
 a 申立人
 申立人の主張は、以下のように整理できる。

(1)同一又は混同を引き起こすほどの類似性
 申立人のグループ会社である株式会社読売新聞東京本社(以下「読売新聞東京本社」と
いう。)が登録商標「YOMIURI」(以下「本件登録商標」という。)の商標権者(登録
番号第3341291号)であり(申立人の資料3)、申立人は、読売新聞東京本社及び株
式会社読売新聞大阪本社(以下「読売新聞大阪本社」という。)とともに、日本最大の発行
部数を有する全国紙「読売新聞」を発行している日本最大規模の新聞社である。申立人は、
読売新聞グループの基幹7社の1社として本件申立てを行う権利を有している。
 「YOMIURI‐CG.JP」(以下「本件ドメイン名」という。)は、本件登録商標と
の誤認混同を惹き起こすほどの類似性がある。

(2)権利または正当な利益
 申立人は、2022年9月、登録者に電子メールを送り、本件ドメイン名の譲渡を求め
たところ、登録者からは、本件ドメイン名の「真の登録者」(以下「申立外A」という。)
は同社の顧客であり、申立人からの要望は申立外Aに伝えるが、申立外Aが対応するかど
うかは保証しかねるとの返信があった。
 本件ドメイン名の申立外Aは日本において「YOMIURI」及び「YOMIURI-
CG」等の一切の登録商標を有していない上、読売新聞グループとは一切関係がない。ま
た、申立人が申立外Aに対して本件登録商標その他一切の表示に関して何らライセンスを
与えたことはなく、申立外Aは、申立人と何ら関係のない第三者である。

(3)不正の目的での登録または使用
 申立人が登録者に対して、本件ドメイン名を使用し「YOMIURI CG」と題して
就職・転職活動のサポートをうたったホームページ(以下「本件HP」という。申立人の
資料9)が存在すること及び申立人が本件ドメイン名の譲渡を希望していることを伝える
と(申立人の資料6)、本件ドメイン名の申立外Aは、読売新聞グループとの誤認混同を自
認したからか、本件HP上における「YOMIURI CG」との表記を「YCG」に変
更した(申立人の資料12)ことから、本件HPが不正の目的で使用されていることは明
らかである。
 読売新聞グループの関連会社は、自ら開設したインターネットサイトで、新聞販売店の
スタッフ募集を行っている上、多角的な事業経営をしている読売新聞グループにおいて就
職・転職活動のサポートを行う事業を行う可能性があることから、本件HPは、読売新聞
グループの事業であるとの一般消費者、ネット利用者等の誤解を招くおそれがある。
 加えて、本件HP開設者と全く関係がない、実在する大手コンビニエンスストアの店舗
の住所と電話番号を記載していることから、反社会的なもので、本件HP開設者が周知性・
著名性を有する「YOMIURI」のドメイン名要部を不正利用していることは明らかで
ある。
 よって、本件ドメイン名は、申立人の商標と混同を引き起こすほどに類似し、登録者は
本件ドメイン名に関係する正当な利益を有しておらず、本件ドメイン名は不正の目的で登
録または使用されている。
 したがって、申立人は、本件ドメイン名登録の申立人への移転を請求する。

 b 登録者
 登録者の主張は、以下のように整理できる。

(1)同一又は混同を引き起こすほどの類似性
 「Yomiuri」を含む登録商標は、読売新聞東京本社以外に多くの企業(例:株式
会社読売巨人軍、讀賣テレビ放送株式会社、読売ゴルフ株式会社、株式会社読売ハートサ
ービス、株式会社よみうりランド、株式会社読売プリントメディア、株式会社読売プラス
及び株式会社読売旅行など)が保有しており、読売新聞東京本社の独占的な商標ではない
(登録者の添付資料1)。
 「YOMIURI」という名称は、日本社会において非常に高い認知度・知名度を有し
ているが、「CG」を含める「Yomiuri CG」に関しては、特に高い認知度や知名
度があるとは言い難い(登録者の添付資料2)。
 「yomiuri」、「読売」、「読売新聞」、「読売ランド」、「読売ジャイアンツ」、「よみ
うり」及び「ヨミウリ」などのキーワードでグーグル検索を行うと、本件ドメイン名は、
最初の10ページに表示されなかった。このことから、読売新聞、読売ランド及び読売ジ
ャイアンツなどを探している者が本件ドメイン名にたどり着くことはまずない(登録者の
添付資料3)。検索結果を見ても、一般消費者やネットの利用者が読売新聞グループを探し
ている場合、本件ドメイン名にアクセスすることはまずなく、誤認混同を与える可能性は
低い。
 J-PlatPatで「yomiuri cg」、「yomiuricg」及び「yomi
uri-cg」を検索したところ、「cg」が含まれる商標は、検索時点では調査の対象と
なる他の企業には見当たらなかった(登録者の添付資料4)。
 JPRS (日本レジストリサービス)が管理するドメインのリストを作成し、現在「YO
MIURI」を含む全てのドメインを抽出した。抽出された多くのドメインは、登録者が
読売新聞、読売ジャイアンツ及び読売ランドなどの関連企業である一方、中には読売新聞、
読売ジャイアンツ及び読売ランドとは異なる登録者が含まれていた(登録者の添付資料5)。

(2)権利または正当な利益
 本件ドメイン名の申立外AはSEO会社(クライアントのウェブサイトのアクセス数向
上のため、グーグルの検索結果で上位表示を目指す施策を行う企業)であり、中古ドメイ
ンを購入している。特に、ランクが高い中古ドメインはSEOに非常に価値があり、別サ
イト(目的サイト)のランクを高めるため使用している。
 本件ドメイン名は、以前の登録者が更新しなかったため、申立外Aにとって魅力的な中
古ドメインと判断された。ドメイン名の文字列自体がSEOに影響を与えることはないが、
過去の運用履歴やドメインパワーなど、SEOに有利な要素があるため、登録に適してい
ると考えられた。

(3)不正の目的での登録または使用
 よみうりFBS文化センター株式会社(以下「よみうりFBS文化センター」という。)
は、本件ドメイン名を長年登録していた可能性はあるが、ドメインを手放した時点でその
権利は失われた。その後、本件ドメイン名は、誰でも登録可能な状態になり、申立外Aが
登録したにすぎない。つまり、申立外Aは合法的な手続により、本件ドメイン名を取得し
た。
 当時、本件ドメイン名は、ネット上の多くのいわゆるドロップリストに公開されていた。
申立外Aは、本件ドメイン名の登録に成功し、格安のクリエーターサイト(フリーランサ
ーが有料で雇えるオンラインマーケットプレイス)でデザイナーを雇い、求人情報サイト
の作成を依頼した。
 同サイトには、「YOMIURI CG」という文字が使用されていたが、これはあくま
でもドメイン名を使用しているものであり、読売新聞社を悪用する意図や不正の目的で使
用する意図はなかった。登録者から申立外Aに対し、誤解を招くという理由で「Yomi
uri」という文字を消すよう依頼したところ、数時間で「YCG」に変更された(登録
者の添付資料11)。
 一般的に、SEO目的の場合はターゲットサイトに合わせたコンテンツを作成すること
が求められる。今回の本件ドメイン名のターゲットサイトは、就職・転職活動のサイトで
あり、そのため本件ドメイン名のサイト内容も就職・転職活動に関するものとなっている。
 なお、申立外Aが作成したコンテンツには「読売新聞」、「読売ジャイアンツ」、「読売ラ
ンド」など読売新聞グループの就職・転職活動についての記載は一切ない。
 このサイトは、SEO目的であり、未完成の状態で保持されている。サイトに記載され
ている住所や電話番号は、前述のデザイナーがダミーで入力した情報のままであり、申立
外Aはその誤りに気付いていなかった。
 申立外Aは、本件ドメイン名を申立人に迷惑をかけるために登録したわけではなく、ま
た、高額で販売する意図もなかった。ドメイン紛争にならないよう、申立外Aは、申立人
に対して譲渡価格を提案せず、購入価格又はそれに近い価格を申立人から提供してもらう
ことを期待していた。
 申立人は、5,000円と提案したが、低額な提案であったため、申立人からの姿勢に
失望し、紛争に発展せざるを得ない状況に陥った。
 その後、本申立てが行われたことで申立外Aは、申立人に和解の提案をした。最初の提
案額は、申立外Aが本件ドメイン名を購入した額と同額の48,000円であったが、和
解には至らなかった(登録者の添付資料12)。その後、申立外Aは、自らが損失を被る価
格となる40,000円での和解提案をしたが、申立人は、これを拒否し、和解には至っ
ていない。
 本件ドメイン名について、過去のサイトと同様のコンテンツは使用しておらず、パーキ
ングサイトや売出しを示唆する表現も使用していない。また、サイトは未完成の状態だが、
完全に作成されていないわけではない。申立外Aは、SEOの目的で中古ドメインたる本
件ドメイン名を使用している。そのため、正当な目的で使用している。
 上記の理由により、登録者は「当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されて
いること」は認めない。

5 争点および事実認定
 a 適用すべき判断基準
 手続規則第15条(a)は、パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原
則についてパネルに次のように指示する。「パネルは、提出された陳述・書類及び審問の結
果に基づき、処理方針、本規則及び適用されうる関係法規の規定・原則、ならびに条理に
従って、裁定を下さなければならない。」
 処理方針第4条aは、申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図し
ている。
 (1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示
   と同一または混同を引き起こすほど類似していること
 (2)登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと
 (3)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること

 b 紛争処理パネルの判断
 (1)同一又は混同を引き起こすほどの類似性
ア 申立人のグループ会社である読売新聞東京本社は、本件登録商標の商標権者である(申
 立人の資料3)。申立人は、1964年9月23日から九州7県と沖縄、山口県で読売新
 聞西部本社版を発行しており、読売新聞東京本社、読売新聞大阪本社とともに、全国紙
 「読売新聞」を発行している新聞社であり、読売新聞グループの基幹7社のうちの1社
 である(申立人の資料4)。
  以上から、申立人は、本件登録商標について正当な利益を有しているものと認められ
 る。
  なお、登録者の添付資料1に基づく主張は、申立人が本件登録商標について正当な利
 益を有しているとの判断を左右するものではない。
イ 本件ドメイン名「YOMIURI‐CG.JP」のうち、「.JP」の部分は、トップレ
 ベルドメインであって国別コードの日本を意味し、識別力を有しない。
  セカンドレベルドメイン「YOMIURI‐CG」は、「YOMIURI」と「CG」
 をハイフンで結合した2語からなる。そのうち、「YOMIURI」は、全国紙「読売新
 聞」が日本最大規模の発行部数を有し、申立人及び登録者も一致して主張するとおり、
 我が国において広く知られている商標である。他方、「CG」からは、何らの観念も生じ
 ないか又は何らかの略語若しくはコンピュータグラフィックスなどの観念が生じるにす
 ぎず、いずれにせよ「YOMIURI」の部分と比べ、格段の識別力を有しない。すな
 わち、本件ドメイン名の要部は、「YOMIURI」の部分にある。本件ドメイン名の要
 部と本件登録商標とは同一である。
ウ 以上から、本件ドメイン名は、申立人が正当な利益を有する本件登録商標と混同を引
 き起こすほど類似していると認められる。
エ なお、登録者の添付資料2に基づく主張は、高い識別力を有する「YOMIURI」
 の部分を含む本件ドメイン名が本件登録商標との混同を引き起こすおそれがあるとの判
 断に影響を及ぼすものではない。登録者の添付資料3~5に基づく主張も、上記判断に
 影響を及ぼさないものである。

 (2)権利または正当な利益
ア 申立人及び登録者から提出され正式に受理した全ての主張(申立書及び答弁書)及び
 資料に照らして、登録者が、「YOMIURI」又は「YOMIURI-CG」として一
 般に知られている事実は認められず、「YOMIURI」又は「YOMIURI-CG」
 について、本件登録商標の商標権者が登録者にライセンスを付与した事実も認められな
 い。また、「YOMIURI-CG」について、第三者が商標登録をしている事実はない
 (登録者の添付資料4)。
 また、後記(3)アの事実から、登録者が、正当な目的をもってサービスを提供する
 ために本件ドメイン名を使用していたといえず、本件ドメイン名を非商業的目的で又は
 公正に使用しているということもできない。
  その他に、登録者が、「YOMIURI」又は「YOMIURI-CG」に関係する権
 利または正当な利益を有する事実は認められない。
  以上から、登録者は、本件ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していな
 いと認められる。
イ なお、登録者と申立外Aとのメールのやりとり(登録者の添付資料11及び12)を
 含む本件において正式に受理した全ての主張及び資料に照らすと、申立外Aについても、
 「YOMIURI」又は「YOMIURI-CG」として一般に知られている事実は認
 められず、「YOMIURI」又は「YOMIURI-CG」について、本件登録商標の
 商標権者が申立外Aにライセンスを付与した事実も認められない。
  また、後記(3)アの事実から、申立外Aが、正当な目的をもってサービスを提供す
 るために本件ドメイン名を使用していたといえず、本件ドメイン名を非商業的目的で又
 は公正に使用しているということもできない。
  その他に、申立外Aが、「YOMIURI」又は「YOMIURI-CG」に関係する
 権利または正当な利益を有する事実は認められない。
  したがって、登録者が「真の登録者」であるという申立外Aについても、本件ドメイ
 ン名に関係する権利または正当な利益を有していないと認められる。
ウ 以上から、登録者は、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有しない。

 (3)不正の目的での登録または使用
ア 申立人及び登録者から提出され正式に受理した全ての主張及び資料によれば、以下の
 事実が認められる。
 (ア)本件登録商標は、1997年8月22日に読売新聞東京本社により商標登録された
   (申立人の資料3)。
 (イ)本件ドメイン名は、2006年から、申立人の関連会社であるよみうりFBS文化
   センターが登録者となり、同社ホームページで使用された(申立人の資料7)。
 (ウ)2020年11月の株主総会決議により、よみうりFBS文化センターが解散し(申
   立人の資料7)、本件ドメイン名の登録が同社により維持されることはなかった。
 (エ)本件ドメイン名は、2021年9月1日、登録者により登録された(申立人の資料
   1)。申立外Aは、SEO企業であり、中古ドメインを他のターゲットサイトのSEO
   対策のランクを高めるために使用している。
 (オ)本件登録商標は、遅くとも、本件ドメイン名が登録された2021年9月1日時点
   で、我が国において広く知られていた。
 (カ)2022年6月、本件ドメイン名が、「YOMIURI CG」の表示(ページ上部
   に配置され、上下に線を伴うようにデザイン化され、周囲の文字より大きな字体から
   なる。)を付したウェブサイトで使用されていた。同ウェブサイトには、「ホームペー
   ジ」、「当社について」、「ご連絡先」及び「個人情報保護方針」などのリンクがあり、
   「ご連絡先」をクリックして遷移したページには、住所、Eメール及び電話番号の記
   載がある。また、同ページには、「最近の投稿」として「高収入のカジノ求人トップ5」
   とのリンクもある(申立人の資料9及び10)。
    本件ドメイン名が使用されている2023年4月25日時点のウェブサイトの内容
   は、よみうりFBS文化センターが本件ドメイン名を使用していた当時のウェブサイ
   トとは異なる(登録者の添付資料10)。
    2023年4月25日時点のウェブサイトには、「やりがいがある仕事を一緒にし
   ませんか?」、「当社は、充実したカスタマーサポートサービスを提供しています。企
   業様で採用率を上げたい場合や採用フローの改善に取り組みたいなどがございました
   ら、ぜひ当社にご相談ください。当社では雇用主様や企業様が納得した上で、求人広
   告を掲載しています。」及び「当求人への応募には、このウェブサイトから会員登録が
   必要になります。メールアドレスと個人情報を入力いただくだけで完了です。」との記
   載があり、同ウェブサイトの最下部には「©Yomiuri Cg 2023」との記載
   がある(登録者の添付資料10)。
 (キ)同ウェブサイトに記載された住所及び電話番号は、実在する大手コンビニエンスス
   トアの店舗の住所と電話番号であったので、2022年8月3日、申立人が同店舗の
   オーナーと面談を行ったところ、住所及び電話番号を勝手に使われたものである旨の
   回答があった(申立人の資料11)。
    登録者は、「YOMIURI CG」の表示と違って、住所と電話番号の変更が読売
   新聞に与える影響が軽微であると判断し、また、住所と電話番号は、申立外Aの友人
   や家族と関係がある可能性もあると考えたため、申立外Aに対して住所と電話番号の
   変更を依頼しなかった。
 (ク)2022年9月1日、申立人は、登録者に対し、本件ドメイン名の譲渡などの申入
   れを行い、同年10月7日、譲渡価格5,000円で譲渡を求めた(申立人の資料6)。
 (ケ)2022年9月3日、登録者は、申立外Aに同年9月1日付の申立人からのメール
   を転送し、申立外Aは、登録者の提案を踏まえ本件ドメイン名が使用されているウェ
   ブサイトにおける「YOMIURI CG」の表示を、「YCG」に変更した(登録者
   の添付資料11、申立人の資料12)。
 (コ)2023年3月27日、登録者は、申立人に対し、申立外Aがドメイン取得に要し
   た価格(48,000円)と同額でドメインを購入する意思がないか確認することを
   希望している旨伝えた。これに対し、申立人は、同年3月31日、登録者に対し申立
   外Aの連絡先の開示及び反社会的勢力ではないことの誓約等を求めた。登録者は、同
   年4月1日、申立外Aの情報は公開できない旨回答し、同年4月6日、申立外Aから
   のメールを申立人に転送した。同メールにおいて、申立外Aは、ドメインの譲渡価格
   として、40,000円を提示すること、申立人のブランドを傷つけるつもりはなく、
   「yomiuri」を含むドメイン名を登録する意図もないこと、申立外AはSEO
   事業者であり犯罪組織とは関係ないこと、連絡先は非公開としておきたいこと、これ
   らに申立人が同意しない場合は、本件ドメイン名を手放すことを述べた(登録者の添
   付資料12)。
イ 以上によれば、まず、申立外Aは、SEO対策を行う自社事業の遂行に当たり、商業
 目的で、本件ドメイン名を登録し、求人情報に関するウェブサイトに現に使用しており、
 商業上の利得を得る目的があった。すなわち、本件ドメイン名は、商業上の利得を得る
 目的で使用されているものである。
  また、本件登録商標は、本件ドメイン名が登録者により登録された2021年9月1
 日の時点で、我が国において広く知られた商標であったこと、本件ドメイン名を使用し
 たウェブサイトでは、のちに削除されたとはいえ、削除されるまでは「YOMIURI
 CG」の表示(ページ上部に配置され、上下に線を伴うようにデザイン化され、周囲の
 文字より大きな字体からなる。)が、目立つ態様で使用されており、同ウェブサイトは本
 件登録商標に化体する信用にフリーライドしていたこと、同ウェブサイトに掲載されて
 いる住所及び電話番号は実在する店舗のもので、同店舗のオーナーは同ウェブサイトと
 の関係を否定したものの、なお掲載が継続されていること及び同ウェブサイトの最下部
 には「©Yomiuri Cg 2023」との記載があることから、本件ドメイン名は、
 正当な目的で公正に使用されているものではなく、同ウェブサイトを訪れたインターネ
 ット上のユーザーに生じる誤認混同(同ウェブサイトが提供するサービスの出所が、あ
 たかも申立人、読売新聞東京本社又は読売新聞グループであるかのような又はそれらと
 何らかの提携関係があるかのような誤認混同)を利用して、使用されているものと認め
 られる。
  すなわち、本件の事実関係の下では、本件ドメイン名は、商業上の利得を得るため、
 ウェブサイトの提供するサービスの出所や提携関係等について誤認混同を生ぜしめるこ
 とを意図して、インターネット上のユーザーを同ウェブサイト又はターゲットとなる他
 のウェブサイトへ誘因するために使用されていたと認められる。
  よって、本件ドメイン名は、不正の目的で使用されていることが認められる。
ウ この点、申立外AはSEO企業であり、中古ドメインとして登録可能になったドメイ
 ンの中から、SEOの目的で(すなわち「YOMIURI」の文字列ではなくドメイン
 の過去の運用履歴などに着目して)本件ドメイン名を登録したものであったとしても、
 上で指摘した事実関係の下では本件ドメイン名の使用に不正の目的がなかったとはいえ
 ない。
  答弁書によれば、本件ドメイン名を使用したウェブサイトは、申立外Aがオンライン
 マーケットプレイスで雇ったフリーランサーに委託して作成されたものであるが、単に、
 実際にコンテンツを制作した者が、申立外Aから委託を受けた第三者であることをもっ
 て、本件ドメイン名の使用に不正の目的がなかったということもできない。
  また、答弁書によれば、他の中古ドメインを多数挙げてそれらについても不正の目的
 を肯定するか否かを問題としているが、本裁定は、本件ドメイン名を対象とし上記事実
 関係を前提とする判断であり、他の中古ドメインの取引について判断を示すものではな
 い。

(4)申立人が事実上提出した上申書・訂正申立書の取扱い
 申立人は、申立書のほかに、事実上上申書・訂正申立書を提出したが、パネリストは、
申立書及び答弁書のほかに主張の追加を要しないと判断したことから、申立人が提出した
上申書・訂正申立書は受理せず、本裁定書の判断の基礎としなかった。

6 結論
 以上に照らして、紛争処理パネルは、登録者によって登録されたドメイン名「YOMIURI-
CG.JP」が申立人の商標と混同を引き起こすほど類似し、登録者が、ドメイン名に関係する
権利または正当な利益を有しておらず、登録者のドメイン名が不正の目的で登録または使
用されているものと判断する。
 よって、処理方針第4条iに従って、ドメイン名「YOMIURI-CG.JP」の登録を申立人に移
転するものとし、主文のとおり裁定する。


   2023年5月31日

   日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
          単独パネリスト    石神 恒太郎

別記 手続の経緯
(1)申立書の受領
   日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、2023年3月2日
  に申立書(添付する関係書類を含む。)を申立人から電子的送信により受領した。
(2)申立手数料の受領
   センターは、2023年3月10日に申立人より申立手数料を受領した。
(3)ドメイン名及び登録者の確認
   センターは、2023年3月10日にJPRSに登録情報を照会し、2023年3
  月10日にJPRSから申立書に記載された登録者が対象ドメイン名の登録者である
  ことを確認する回答並びにJPRSに登録されている登録者の電子メールアドレス及
  び住所等を受領した。
(4)適式性
   センターは、2023年3月17日に補正(申立書の記載事項の修正等)が必要と
  判断してその旨を申立人に通知し、2023年3月17日に補正書類を受領し、20
  23年3月17日に申立書が処理方針と手続規則に照らし適合していることを確認し
  た。
(5)手続開始
   センターは、2023年3月23日に申立人、JPNIC及びJPRSに対し電子
  的送信により、手続開始を通知した。センターは、2023年3月23日に登録者に
  対し郵送及び電子メールにより、開始通知を送付した。開始通知により、登録者に対
  し、手続開始日(2023年3月23日)、答弁書提出期限(2023年4月20日)
  並びに書面の受領及び提出のための手段について通知した。但し登録者宛電子メール
  送信分については一部が送信不能であった。
(6)答弁書の提出
   センターは、2023年4月13日に答弁書提出期限の延長を求める上申書を登録
  者から電子的送信により受領し、2023年4月17日に提出期限を2023年5月
  2日まで延長する旨を通知した。
   センターは、2023年5月2日に答弁書(添付する関係書類を含む。)を登録者
  から電子的送信により受領した。センターは、2023年5月2日に補正(答弁書の
  記載事項の修正等)が必要と判断してその旨を登録者に通知し、2023年5月2日
  に補正書類を受領した。センターは、答弁書が処理方針と手続規則に照らし適合して
  いることを確認し、2023年5月2日に申立人に対し電子的送信により送付した。
(7)パネルの指名及び裁定予定日の通知
   申立人、登録者とも1名のパネルによって審理・裁定されることを選択し、センタ
  ーは、2023年5月12日に弁護士・弁理士 石神 恒太郎 を単独パネリストと
  して指名し、一件書類を電子的送信によりパネルに送付した。センターは、2023
  年5月12日に申立人、登録者、JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、
  指名したパネリスト及び裁定予定日(2023年6月1日)を通知した。パネルは、
  2023年5月22日に公正性・独立性・中立性に関する言明書をセンターに提出し
  た。
(8)パネルによる審理・裁定
   パネルは、2023年5月31日に審理を終了し、裁定を行った。