事件番号:JP2023-0007

                  裁 定
  申立人:
  (名称)ビクトリアズ シークレット ストアーズ ブランド マネージメント エ
     ルエルシー
  (住所)アメリカ合衆国、オハイオ州、コロンバス、 ●(省略)●
  代理人:弁護士 浅村昌弘
  登録者:
  (氏名)福島 康之
  (公開連絡先)福岡県福岡市 ●(省略)●

 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル(以下「本パネル」という)は、JPドメイ
ン名紛争処理方針(以下「方針」という)、JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則
(以下「規則」という)及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理方針のた
めの手続規則の補則並びに条理に則り、申立書・提出された証拠に基づいて審理を遂げた
結果、以下のとおり裁定する。

1 裁定主文
  ドメイン名「VICTORIASSECRET.JP」の登録を申立人に移転せよ。

2 ドメイン名
  紛争に係るドメイン名は「VICTORIASSECRET.JP」(以下、「本件ドメイン名」という。
 なお、RFCによりドメイン名のラベルに使用する英文字に大文字・小文字の区別はなく、
 申立人の主張と関係なく、ドメイン名登録照会に対する通知の割当表記に従う。)であ
 る。

3 手続の経緯
  別記のとおりである。

4 当事者の主張
 a 申立人
(1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と
  同一または混同を引き起こすほど類似していること
 ア 登録者のドメイン名
   登録者は、本件ドメイン名を、2011年4月1日に登録している(甲1:WHOIS サー
  ビス検索結果、甲2:情報開示請求回答書)。

 イ 申立人の商標その他の表示
   申立人は、「VICTORIA'S SECRET」の商標につき、以下の3つのわが国の登録商標
  (以下、下記各「VICTORIA'S SECRET」を「申立人商標」、各商標権を「申立人商標
  権」と総称する。)を有している(甲3の1、甲4の1、甲5の1:商標公報。なお、
  商標登録原簿記載の商標権者については、J-PlatPatにより現状を確認した。)。
            
以上
登録番号 登録日 登録商標 商品及び役務の区分
1847655 1986年3月26日 商標1 旧商品区分17類
3357871 1997年11月7日 商標2 35類
4168626 1994年9月20日 商標3 3類
   上記のとおり同登録商標の出願日及び登録日は、いずれも本件ドメイン名の登録
  日(2011年(平成23年)4月1日)より優に先立つものであり、現在まで長期にわ
  たり主に女性用ランジェリーに使用され、維持されている。
   なお、当該商標は「ビクトリアの秘密」との観念を有し、当該観念は上記商標登
  録の指定商品/役務である、被服、化粧品、香料類やそれらの販売に関する情報の
  提供自体と結びつかない、申立人が独自に選択した識別力の高い商標と言える。

 ウ 対比
   本件ドメイン名である「VICTORIASSECRET.JP」は、日本を意味するトップレベル
  ドメイン「.JP」を除くと、「VICTORIASSECRET」を一連一体とした文字列の構成であ
  る。しかしながら、「秘密」を意味する「SECRET」という一般的な英単語が含まれて
  いることからも、一般消費者はこれが「VICTORIAS」(ビクトリアの)と「SECRET」
  (秘密)を結合された文字列であると認識することができる。
   したがって、本件ドメイン名は、外観、称呼、観念のいずれにおいても、申立人
  が正当な権利を有する商標「VICTORIA'S SECRET」と同一または混同を引き起こす
  ほど類似している。申立人の商標「VICTORIA'S SECRET」が申立人独自の識別力の
  高い商標であり、偶然一致することがおよそあり得ないことは言うまでもない。
   申立人の商標「VICTORIA'S SECRET」の最初の単語は「ビクトリアの」という所
  有格であるアポストロフィーと「S」がついているのに対し、本件ドメイン名ではア
  ポストロフィーが存在しないが、これは英数字ドメイン名にアポストロフィーが使
  用できないことによる。このような微差は類否の判断に影響するものではなく、両
  者が同一または混同を引き起こすほど類似していることは変わりがない。

(2)登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと
   本件ドメインの登録者名は氏名を「福島康之」とする日本に在住する個人であり
  (前掲甲2)、本件ドメイン名「VICTORIASSECRET」、同ドメイン名に含まれる女性名
  「ビクトリア」又は「シークレット(秘密)」とはその文字列や意味等において何ら
  の関連性も認められない。また、現在「VICTORIASSECRET.JP」ドメインのインター
  ネット上のウェブサイトを検索しても、ウェブサイトの存在を確認できず、登録者
  が同ドメイン名を自己のウェブサイトに使用している事実も確認できない(甲6:
  URL「www.victoriassecret.jp」へのアクセス結果画面)。
   そもそも、世界的な米国の女性用被服等の販売会社である申立人が、何らの関連
  性のない日本在住の一個人に商標の使用を許可することはない。当然ながら、申立
  人が登録者「福島康之」に使用許可を与えたこともない。

(3)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること
   申立人商標の「VICTORIA'S SECRET」は、最初に1970年代に米国で使用が開
  始され、現在まで世界的に使用が継続されている。当然ながら、使用当初から米国
  においても「VICTORIA'S SECRET」商標は登録を受けており、旧くは米国商標登録
  第1,146,199号(登録日:1981年1月20日。甲7の1:米国商標登録簿。なお、
  Trademark Electronic Search System (TESS)の補充調査で申立人が同米国商標の現
  保有者であることが認められる。)及び米国商標登録第1,908,042号(登録日:1995
  年8月1日。甲7の2:米国商標登録簿。なお、TESSの補充調査で申立人が同米国商
  標の現保有者であることが認められる。)としての登録がなされている。なお、商標
  登録に使用主義を採用する米国の制度の下で、これらの米国商標登録公報では、
  1977年6月12日から商標の使用がされたという事実も記載されている。
   その後申立人商標の「VICTORIA'S SECRET」は、特に女性用ランジェリーのブラ
  ンドとして世界で最も有名になった。ビジネスデータの提供サービスである
  「Statista」(甲8の1:サイト情報)によれば、VICTORIA'S SECRETの世界での総
  売上は、2010年の時点で53億2000万米ドル(約7448億円)、2022年で63億7000
  万米ドル(約8918億円)となっており、その間2016年には最高の売上77億8100万
  米ドル(約1兆893億円)を達成している(甲8の2:同サイト統計情報)。従って、
  少なくとも本件ドメイン名の登録日(2011年4月1日)以前から、アパレル企業と
  して世界的に大きな売上を上げており、世界的に著名商標となっていたことが証明
  されている。申立人商品の世界的な売上(0.86兆円 2023年1月決算)は、「ユニ
  クロ」を展開する株式会社ファーストリテイリングの売上2.3兆円やその他の世界
  の主なアパレル製造小売業と比較される程度に、大きな数値となっている(甲9:主
  なアパレル製造小売業者の売上高比較)。
   その売上やブランドの確立に寄与したのが、独特な宣伝広告活動であり、特に、
  スーパーモデルをモデルとして採用し、大々的に行う女性用ランジェリーのファッ
  ションショーである。
   VICTORIA'S SECRETのファッションショーは世界的な注目を集めており、米国で
  はテレビ放映され、また世界的なインターネット動画配信サービスYOUTUBE上の
  VICTORIA'S SECRETの公式チャンネル上においても広告されている(甲10の1、2:
  2010年11月17日配信2010年ファッションショー)。
   日本においても、そのファッションショー自体が、日本の全国紙、ファッション
  雑誌等の各メディアでニュースとなるほどであった(甲11:毎日新聞のロイターの
  配信記事紹介、甲12:Vogue Japan記事、甲13:ニューヨーク経済新聞)。また、
  2006年には全国紙である産経新聞のサイトでもVICTORIA'S SECRETの記事が掲載さ
  れ(甲14の1及び2:産経新聞のUSA Todayの配信記事)日本の著名芸能人が2007
  年のブログで「ビクトリアズ・シークレット」の商品を紹介し(甲15:向井亜紀の
  ブログ記事)、2010年には映画の紹介サイトにおいても、VICTORIA'S SECRETのモ
  デルでもある映画女優の紹介において「人気ブランド「ヴィクトリアズ・シークレ
  ット」」として言及され(甲16:映画紹介記事)、ハワイへの日本人旅行者への観光
  ウェブサイトにおいても、2010年の時点でハワイのVICTORIA'S SECRETの店舗が紹
  介されている(甲17)。これらの記事はいずれも、本ドメイン名の登録日(2011年4
  月1日)以前のものであり、本ドメイン名の登録前から商標「VICTORIA'S SECRET」
  が日本で著名であったことが数多くの証拠から明らかである。
   さらにこれらの記事だけでなく、実際のVICTORIA'S SECRETの商品の日本への輸
  入販売等もこの時期に増えていた。申立人が抜粋した日本におけるVICTORIA'S
  SECRETの売上データ(甲18:申立人の日本向け売上データ)によれば、VICTORIA'S
  SECRET商品の日本からのオーダー件数及び日本への出荷商品数量、並びに、日本
  に対する売上も1995年から2011年の間も大きく伸びており、最も売上の高い2004
  年には約1450万米ドル(約20億3000万円)に達し、約900万米ドル(約12億6000
  万円)以上の売上を維持している。
   以上のとおり、遅くとも2011年には、申立人の商標「VICTORIA'S SECRET」は数
  多くの広告がなされ、また全国新聞、雑誌を含む数多くのメディアで紹介がされ、
  日本における売上自体も大きくなっており、畢竟、世界ではもちろん、日本の消費
  者の間で、著名となっていた。上記のとおり、遅くとも登録者が本件ドメイン名を
  登録した2011年4月1日の時点において、申立人商標「VICTORIA'S SECRET」が、
  世界的にも国内的にも著名であったことが認められる。
   従って、登録者は、申立人の本件商標の存在及びその著名性を充分に認識し、か
  つ、本件ドメイン名を使用すれば申立人のブランドと誤認混同が生じることを認識
  しながら、本件ドメイン名登録したものであることが優に認められる。
   また、登録者が、本件ドメイン名を現在まで使用している事実も確認できない。
   申立人は本件申立に先立ち、代理人を通じて、宛先を「福島康之」とし登録され
  た日本国内の住所(前掲甲2)へドメイン名の移転を求める通知書を内容証明郵便に
  て送付した(甲19)。しかしながら、同郵便は「宛先不明」として郵便局により返送
  されてきており(甲20:日本郵便における追跡サービスの検索結果画面)、登録者が
  本件ドメイン名の登録に際して、本当の名前及び連絡先を登録したかは不明である。
  また、申立人は代理人を通じて、登録者の連絡先emailアドレスへ、内容証明郵便
  で送付した通知書の写しを添付した電子メールを送付したが(甲21)、これに対して
  も、現在まで何の返信も得られていない。かかる登録者の態度により、申立人は本
  件申立を行わざるを得なくなったのである。
   以上のことから、登録者は本件ドメイン名の登録を2011年4月1日の最初の登録
  以降、現在まで、使用することもなく、非常に長期にわたり更新し続け、申立人が
  ドメイン名として使用できないようにする妨害行為を繰り返しており、また、申立
  人からの郵便及び電子メールによるドメイン名登録の交渉に関する連絡も受領でき
  ないようにし又は受領しても無視しているから、JPドメイン名紛争処理方針第4条
  b. ii「申立人が権利を有する商標その他表示をドメイン名として使用できないよう
  に妨害するために、登録者が当該ドメイン名を登録し、当該登録者がそのような妨
  害行為を複数回行っているとき」に該当する。

 b 登録者
   登録者が提出した答弁書及び証拠(一部、答弁書で引用する証拠の一部が提出の
  電子データに含まれておらず、証拠番号と整合しないものもあるため、ネット調査
  で指摘資料と思われる情報を追加確認した)は、概要、以下のように整理される。

(1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示
   と同一または混同を引き起こすほど類似している、と申立人のなした意見に対す
  る反論

  ① 登録者のドメイン名は、「VICTORIASSECRET.JP」であり、2011年4月1日を
    登録日とするドメイン名である(乙37ドメイン名情報.pdf)
  ② 登録者は、当該ブランドの存在は認識していたが、申立人により主張されている、
    日本における商標「VICTORIA'S SECRET」の商標登録に対して認識していな
    かった。理由は、日本に法人、および、店舗が存在していなかったからである。
  ③ 登録者が本ドメインを所有することは、日本の市場において、申立人が主張する
    一般消費者における混同を引き起こし、申立人が主張する商標に対する影響が強
    く及ぼす、とは思わない。申立人が主張する正当な権利、利益を登録者が、害し
    ているとは思わない。
  ④ ③の理由:
    1) 申立人法人においては、日本において法人を設立しておらず、かつ、実店舗
      も有していない。
    2) 現在、展開されている申立人の日本におけるビジネスは、日本向けのウェブ
      サイトのみ。
    3) URLは、HTTPS://JA.VICTORIASSECRET.COM/JP/ であり、申立人の
      ブランドと商品を認識している一般消費者にとって、混同する状況にはない。
    4) 登録者が有する VICTORIASSECRET.JP は、インターネット上で展開し
      ておらず、一般消費者が混同する状況にない。
    5) 申立人法人は、申立人が主張するほど日本国内におけるマーケットシェアを
      専有していない、また、日本国内における当該法人ブランド認知度も申立人
      が主張するほど大きなものではない。
    6) 申立人が当該法人ブランドに関して示している売上をはじめとする証跡は世
      界における当該法人ブランドの状況であり、「.JP」ドメインの展開領域であ
      る日本国内のものではない。
(2)登録者が当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していない、と申
   立人のなした意見に対する反論

  ① 株式会社日本レジストリサービスウェブサイトに掲載されるように、ドメイン名
    は先願制(申請の先着順)による登録が原則であり、使用許可を申立人から得る
    ものではない、それゆえ、申立人による一方的な主張は当てはまらない。(乙36
    ドメイン先願登録制_ JPDirect.pdf)
  ② 登録者が不当な利益を得ていない現状に関しては、申立人が、自ら証明し、主張
    しているように登録者は、当該ドメインを使用して、インターネット上に営利目
    的の活動を展開していない。ゆえに、不当な利益を得ていない。

(3)登録者のドメイン名が不正の目的で登録または使用されている、と申立人のなし
   た意見に対する反論
  ① 「登録者は、申立人の本件商標の存在及びその著名性を充分に認識し、かつ、本
    件ドメイン名を使用すれば申立人のブランドと誤認混同が生じることを認識しな
    がら、本件ドメイン名登録したものであることが優に認められる。」との申立人
    の主張に対し、その主張には、悪意に満ちた一方的な主張と言わざるを得ない。
    登録者は、本ブランドに対してその存在を認識していた。しかし、本ドメインを
    取得した理由は、ひとえに本ブランドに対する敬愛からである。
  ② ①の証明として、現在にいたるまで「本件ドメイン名を使用すれば申立人のブラ
    ンドと誤認混同が生じる」活動を行っていない、また、本ドメインを使用してウ
    ェブサイトも展開していない。
  ③ 証拠説明書(ヴィクトリアズ・シークレット社の現況に関する書証として、乙(1,)
    2,3,(4,)5,20,21,22,23,24,26,27,28,29,30,31,32,33,34,35,37,38,39,(40,)41,42,44,4
    5の提出がある(括弧書きはネット調査で確認))に掲載され、世間に本ブランド
    が、情報展開されている現状においても、登録者は、まったく申立人、および、
    当該ブランドを毀損する行為を行っていない。
  ④ くわえて、2011年ドメイン取得以来、多くの事業者が、本ドメインの譲渡を希
    望してきたが、本ブランド自身ではない第三者に譲渡することなく、本ブランド
    の敬愛者として、微力ながらサポートしてきたと自負する経緯がある。
  ⑤ 本ドメイン取得以来、譲渡を希望する連絡をしてきた悪意のある第三者に本ドメ
    インを譲渡することなく、本ドメインを保持し、保護し、本ブランドを敬愛して
    きた登録者にとって、申立人、および、その代理人に、悪意をもって妨害工作を
    行っていると主張されるいわれはない。
  ⑥ 本ブランドが、性的なスキャンダルでその信用を自身の活動によって、毀損する
    ことがあっても、登録者は、申立人に対し損害を与えるような行動をとったこと
    はない、かつ、敬愛の失したこともない。
  ⑦ ⑤と同様に、本手続きにおいて代理人の実存は確認できるが、申立人(ビクトリ
    アズ シークレット ストアーズ ブランド マネージメント エルエルシー)
    が確かに代理人に本件紛争解決を依頼している証跡は提示されていない。ゆえに
    真にビクトリアズ シークレット ストアーズ ブランド マネージメント エ
    ルエルシーが、本件紛争解決を代理人に依頼した実存証明に関して疑義を感じる。
    かつてドメイン譲渡を希望した業者と同様ではないかという不安を持っている。
     申立人の氏名、住所、代表者に関しては、一般に公開されている情報であり、
    代理人が請負う法人が、当該ブランド本人か、確認すべき証拠(申立人と代理人
    間でかわされた紛争解決のための依頼書、登記簿謄本等の法的な書類)は、提示
    されていない。
  ⑧ 代理人から、メール、および、郵便にて通知したが、返信がなかった、その態度
    に悪意を感じた旨の主張があるが、この事象は、まったく当たらない。
     宛先不明の郵便、および、その返送に関しては、郵便局(本所郵便局)における
    配送データの不備により、そのような結果になったのであり、そのデータを訂正
    した後は、郵便を受領している。現にその証左として、日本知的財産仲裁センタ
    ーよりの「手続き開始通知書」を登録者は、受領している。
  ⑨ 電子メールによる通達が行われ、その返信がないことを、申立人、および、代理
    人は、悪意のある行為と断じているが、本メールの体裁を仲裁者が確認すれば、
    逼迫した重要度の高い電子メールとは認識できないことは明白である。現に、本
    メールは、迷惑フォルダに自動的に振り分けられていた(乙12 Gmail - 連絡書
    (ドメイン名登録について).pdf、乙6 20230228連絡書(email添付).pdf)。
  ⑩ 申立人、および、代理人が主張する当該ブランドの「日本における売上自体も大
    きくなっており」に関して、2023年現在の状況を示していない。かつ、現在、
    日本における唯一のビジネス展開と思われる当該ブランドのウェブサイト(乙
    9,10,13,14,15,16,17,18,19,43) を拝見するに、日本の一般消費者に、購入しや
    すいユーザビリティを保持しているサイトとは思えない。多くの改善が必要と思
    われる。
  ⑪ 日本国内における市場占有状況、及び、当該ブランドのマーケットポジションに
    関しては、主張される状況になく、有力ランキングウェブサイト等では、ベスト
    テンに入るか入らないか、また、日本経済新聞業界レポート対象会社登録におい
    ても未登録の状態である(乙25,46,47)。本件をあえて“当該人気ブランドに対し
    て大きな毀損を与えている”と根拠なく主張し、登録者においては、巨大な企業
    が一個人を脅迫しているという恐怖を感じている。
  ⑫ 「VICTORIASSECRET.JP」に対して、本事案のように、かなり一方的に、悪
    意をもって、移管を迫っているが、ほか海外における当ブランドのドメイン展開
    を確認したが、「VICTORIASSECRET.当該国ドメイン」を展開していない。
    それゆえ「VICTORIASSECRET.JP」に対してこだわる理由が不明。
  ⑬ 英国の場合は、「co.uk」で展開(乙7 couk_Victoria's Secret_ Luxury Bras,
    Knickers, Lingerie, Sleepwear & Beauty.pdf)。
  ⑭ ドイツの場合は、ページ自体が存在しない(乙8 de_400 Bad Request.pdf)。
  ⑮ フランスの場合も同様 (乙11 fr_www.victoriassecret.fr.pdf)。
  ⑯ 登録者に対して、不当、かつ、必要以上の圧力、脅迫をかけて、現状、なんらか
    のビジネス上の不利益、ブランド棄損のリスクも生じていない善意の第三者たる
    登録者に対し、ドメイン取得の先願性を原則とするインターネットの思想に対し、
    巨大な米国の法人が、一方的に、かつ、確たる正当な論拠もなく譲渡を迫ること
    に承諾しかねる。
  ⑰ 登録者が、敬愛し、2011年ドメイン取得以来、陰ながら守ってきた当該法人、
    及びそのブランドに対し、深い悲しみの感情を抱かざるを得ない。

5 争点および事実認定
(1)本パネルに権限のある判断の基礎資料
 規則第15条(a)は、パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原則につい
てパネルに次のように指示する。「パネルは、提出された陳述・書類及び審問の結果に基
づき、処理方針、本規則及び適用されうる関係法規の規定・原則、ならびに条理に従って、
裁定を下さなければならない。」
 判断の統一性をJP-DRP研究会がとりまとめたJP-DRP解説(2008年3月)(以下「解説」
という)Ⅱ1.(6)cにあって、パネルは裁定をするにあたって独自調査をすることを可能
としており、従前から多くの裁定でウェブ調査や辞書類の補充調査が行われている。
 本パネルも、手続きの効率化の観点で、規則第10条(b)に定める両当事者への公平原則
に反しない範囲で実体調査の補充を可能と判断し、申立人より提出された申立書及び書証、
登録者より提出された答弁書及び書証に加え、J-PlatPatによる登録商標の登録状況の調
査(主に、登録者の商標出願状況)、登録者の指摘する申立人の「victoriassecret.com」
のグローバルドメイン、「victoriassecret.co.uk」、「fr.victoriassecret.com/fr」のロ
ーカルドメインの確認、2014年以降の申立人の羽田空港及び関西国際空港の免税店(乙3,
4)が現在成田空港の免税店だけである等、登録者が指摘するサイト情報等を確認した。

(2)移転裁定の実体要件と立証責任
 方針第4条aは、申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図して
いる。
 (1) 登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示
  と同一または混同を引き起こすほど類似していること(第1要件)
 (2) 登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと
  (第2要件)
 (3) 登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること(第3
  要件)

(3)第1要件
 ア 登録者の本件ドメイン名
   本センターが後記手続で行ったドメイン名登録照会に対する通知により、登録者
  に本件ドメイン名が割当てられている事実を認める。

 イ 申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示
   前記のとおり、申立人は、その申立書において、フォント種別に相違はあっても、
  欧文字横一連表記の「VICTORIA'S SECRET」の本件商標の3件の本件商標権の存在を
  明らかにしている。

 ウ 登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と
  同一または混同を引き起こすほど類似していること
 (ア)基準
   第1要件における同一または混同を引きおこすほど類似していることの判断手法
  について、本パネルは、ドメイン名がサイバー世界での標識であり、RFC等の規
  程に従い運用される標識である以上、申立人商標とドメイン名の表示それ自体を端
  的に見比べ、ドメイン名の表示の構成に申立人の「商標その他表示」が含まれるか、
  またはその特徴的部分が含まれているか、ドメイン名のその余の構成に特徴的部分
  が含まれて両者を区別するこが可能であるか否かをもって、同一または誤認を惹起
  するだけの類似性があるかを客観的に定めることを本則として判断する。
   ”WIPO Overview 3.0” 1.7において、誤認を惹起するほど類似するか否かについて
  は、ドメイン名と関連する商標のテキスト部分との対比観察によることが示されて
  おり、検索エンジンのアルゴリズムに則した認識可能性を肯定しているように、英
  数文字により構成されるドメイン名がこれらを包含するか否かを基準とするのが適
  切である。
   また、ドメインが人の手により入力、認識されるものである以上、音声、翻訳等
  の対比も肯定されており(”WIPO Overview 3.0” 1.7及び1.14)、以上の考え方は、
  外観、称呼、観念の各要素の対比と総合判断により客観的に類否判断を示す多くの
  裁決例に採用されてきた考え方と共通である。

 (イ)本件登録商標と本件ドメイン名との対比
   本件ドメイン名のトップレベルドメインである「.jp」部分は、IANAを承継した
  ICANNが定める国別コードトップレベルドメンを特定するラベルであって、対比の対
  象ではなく、「VICTORIASSECRET」部分だけがドメイン紛争の対比の対象である。
   RFCによれば、ドメイン名に大文字、小文字の別異はなく、アポストロフィの
  「'」及び空白は使用できないものであり、本件ドメイン名にあっては、RFCでは
  使用できない「'」や空白を取り除けば、本件商標と外観同一で、両者において生じ
  うる「ヴィクトリアズシークレット」との称呼も同一で、『ヴィクトリアの秘密』と
  いう観念も同一である以上、本件商標と本件ドメイン名とは(実質)同一であり、
  第1要件を充足することは明らかである。

 (ウ)登録者の反論について
   前記登録者の答弁書における反論は、概要、①登録者が本件商標権の存在をしら
  なかったこと、②申立人がわが国に法人の設立もしておらず、出店も限られ、消費
  者において誤認混同を招くだけの認知度がない、③申立人が「VICTORIASECRET.JP」
  のドメインを利用していない、といった旨を反論するものであるが、いずれも第1
  要件の充足性判断に関連性のない反論と言わざるをえない。
   本件商標権は、登録者により本件ドメイン名が登録された2011年よりも前に登録
  された商標権であり、登録者の知・不知は申立人がわが国の商標権の正当な権利を
  有する事実認定を左右する事項ではない。
   第1要件の認定にあたって、申立人の「商標その他表示」の著名性の検討は不要
  であり(解説Ⅲ1.(2))、”WIPO Overview 3.0” 1.5も、個人の氏名に関してコモンロ
  ー上の権利を有する場合に第1要件を充足する旨が規定されていることに鑑みれば、
  本件ドメイン名の登録時におけるわが国消費者の認識度を検討する必要性がない。
   第1要件にいう「同一または混同を引き起こすほど類似している」との要件は、
  前記のとおり、客観的に判断される事項であり、「混同を引き起こすほど」との特定
  については、あくまでも類似性を判断に係る事項であり、”WIPO Overview 3.0” 1.7
  において、誤認を惹起するほど類似するか否かについては、ドメイン名と関連する
  商標のテキスト部分との対比観察によることが示されており、検索エンジンのアル
  ゴリズムに則した認識可能性を肯定しているように、消費者が出所を混同するかに
  より結論を左右すべき事項ではない。
   ましてや、申立人が国別トップレベルドメインの「.jp」を利用していない点に
  ついては、申立人が正当な権利を有する本件商標権との同一性、類似性を判断する
  にあたって考察の対象ではない。
   したがって、登録者の反論は、本件ドメイン名が申立人が正当な商標権を有する
  本件商標と実質同一であるとの前記認定を左右するところはない。

 (エ)第1要件の結論
   以上、本パネルは、本件ドメイン名(VICTORIASSECRET.JP)は、申立人の本件商
  標と同一または混同を引き起こすほど類似であり、第1要件を充足すると判断する。

(4)第2要件
 ア 第2要件に関する方針及び解説の規定
  第2要件の位置付けについては、解説Ⅰ2.(2)において、「申立人が権利または正当
 な利益を有する商標その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似している」と
 いう第1要件を充足する場合であり、かつ、「登録者の当該ドメイン名が、不正の目的
 で登録または使用されている」という第3要件を充足する場合であっても、登録者に
 ドメインに関する「正当な利益」を認めうる場合には、本ドメイン紛争の骨格となる
 べきミニマル・アプローチの考え方に従い、不正の目的を有することが疑わしい場合
 であっても、なお、ドメイン名の登録を排除しないための要件として位置付けられて
 いる。
  このため、第2要件である「登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当
 な利益を有していないこと」については、解説Ⅲ3.(3)は、申立人に主張・立証が求め
 られる事項として、
 (i) 登録者の氏名・法人名とドメイン名の不一致
 (ii) ドメイン名と一致する登録者が保有する日本の登録商標の不存在
 (iii) 当該ドメイン名に関してのライセンスの不存在
 を例示して、申立人側が主張・立証すべき事項を定めるとともに、方針第4条c.は、
 登録者がドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していることの証明として、
 (i) 登録者が、当該ドメイン名に係わる紛争に関し、第三者または紛争処理機関から
 通知を受ける前に、商品またはサービスの提供を正当な目的をもって行うために、当
 該ドメイン名またはこれに対応する名称を使用していたとき、または明らかにその使
 用の準備をしていたとき
 (ii) 登録者が、商標その他表示の登録等をしているか否かにかかわらず、当該ドメイ
 ン名の名称で一般に認識されていたとき
 (iii) 登録者が、申立人の商標その他表示を利用して消費者の誤認を惹き起こすこと
 により商業上の利得を得る意図、または、申立人の商標その他表示の価値を毀損する
 意図を有することなく、当該ドメイン名を非商業的目的に使用し、または公正に使用
 しているとき
 を例示としてあげるものである。
  換言すると、方針第4条c.は、不正の目的による登録又は使用が疑わしい登録者に
 おいても、なお、ドメインに関する正当な利益がある場合、そのドメインが排除され
 ないという意義を有しており、その判断対象の中心は、ドメインに関する使用を行う
 べき権利または正当な利益を有するかについてである。
  このため、解説は第1要件及び第3要件の認定をした後に、第2要件の検討をする
 手法を奨励しているが、多くの裁定例の検討順序は条項どおりのものであり、本裁定
 にあたっても、第1要件に続いて第2要件を検討するが、第2要件の審理の対象は、
 登録者がドメイン名を登録または使用を継続するための正当な利益があるか、という
 事項が検討対象となるのであり、不正の目的がないことを検討対象とするものでない
 ことについては、留意すべきものである

 イ 申立人の主張・立証対象について
  上記解説Ⅲ3.(3)に従って検討をすれば、登録者である福田康之氏は自然人であり、
 本件ドメイン名と一致しない(解説Ⅲ3.(3)(i))。
  また、本パネルがJ-PlatPatで調査した範囲で、登録者が本件ドメイン名と一致する
 商標を保有していない(解説Ⅲ3.(3)(ii))。
  申立人は、登録者が申立人に在籍したことも、ライセンスを付与したこともないと
 主張しており、答弁書においても、登録者が申立人より許諾を受けて「VICTORIA'S
 SECRET」関連の活動を行ってきたことがないことを認めている(解説Ⅲ3.(3)(iii))。
  以上、解説Ⅲ3.(3)に従って、申立人は、登録者が本件ドメイン名に関係する権利ま
 たは正当な利益を有していないことを主張・立証していると認定できる。

 ウ 登録者の主張・立証対象について
  これに対して、登録者は、2011年の登録後も、本件ドメイン名を使用しておらず、
 使用の予定もないことを自ら認めており、方針第4条c.の各項に示す本件ドメイン名
 に関する権利または正当な利益を保有していないと言わざるをえない。
  すなわち、登録者は、本件ドメイン名を自己のウェブサイトのため使用しておらず、
 本申立時より前から正当にURLの使用をしていたものではないことも、その準備をして
 いたものでないことは明らかである(方針第4条c.(i))。
  前記登録者氏名からして、登録者が本件ドメイン名の表記をもって何らかの活動を
 行っていないことも明らかである(方針第4条c.(ii))。
  登録者の本件ドメイン名の前記使用態様からすれば、単なるドメイン名を保有する
 態様(passive holding)であり、営利活動だけでなく、非商業的目的にも使用してい
 ないことも、または公正に使用していないことも明らかである(方針第4条c.(iii))。
  方針第4条c.は例示であるが、登録者が主張する事項は、①ドメイン登録が先願制
 であること(乙36)、②登録者が本件ドメイン名を使用して、インターネット上に営業
 目的の活動を展開していないから、不正な利益を得ていない、といったものであって、
 いずれの事項も第2要件の充足性について関連するものではない。
  ドメインの登録を「先願制(申請の先着順)による登録が原則」としているのは、
 登録にあたって、「権利または正当な利益を有する商標その他表示と同一または混同を
 引き起こすほど類似している」ドメイン名であたるかという実質審査を行うことは、
 大量処理を行う登録機関として適切でないため登録時の無審査とすることを明らかに
 しているだけで、事後的な審査が行われることを前提とするものである。
  だからこそ登録にあたって、本ドメイン紛争の裁定に従うことを約して申請するこ
 とを申請要件としているものであり、登録されたドメイン名について、申立人の申請
 があることを前提に移転、取消の可否を判断する本ドメイン紛争の第2要件の判断を
 左右する事項ではない。
  以上、登録者が本件ドメイン名を営業目的で使用していないとの主張は、方針第4条
 c.の各項に該当しないだけでなく、登録者が本件ドメイン名を使用すべき正当な利益
 を保有していないことを自認するものであり、第2要件の充足性を否定する事項にな
 らない。

 ウ 第2要件の結論
  以上の事情から、本パネルは第2要件の「登録者が本件ドメイン名に関係する権利
 または正当な利益を有していない」ものとして、第2要件を充足するものと判断する。

(5)第3要件
 ア 本事案における第3要件の検討の視点
  第3要件は、「登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されている
 こと」であり、登録時または使用時のいずれかにおいて不正の目的で登録または使用
 されたものというのが要件である。
  方針第4条b.は、以下の事情がある場合は、ドメイン名の登録または使用は、不正
 の目的であると認めなければならないとされている。
 (i) 登録者が、申立人または申立人の競業者に対して、当該ドメイン名に直接かかっ
  た金額(書面で確認できる金額)を超える対価を得るために、当該ドメイン名を販
  売、貸与または移転することを主たる目的として、当該ドメイン名を登録または取
  得しているとき
 (ii) 申立人が権利を有する商標その他表示をドメイン名として使用できないように妨
  害するために、登録者が当該ドメイン名を登録し、当該登録者がそのような妨害行
  為を複数回行っているとき
 (iii) 登録者が、競業者の事業を混乱させることを主たる目的として、当該ドメイン
  名を登録しているとき
 (iv) 登録者が、商業上の利得を得る目的で、そのウェブサイトもしくはその他のオン
  ラインロケーション、またはそれらに登場する商品及びサービスの出所、スポンサ
  ーシップ、取引提携関係、推奨関係などについて誤認混同を生ぜしめることを意図
  して、インターネット上のユーザーを、そのウェブサイトまたはその他のオンライ
  ンロケーションに誘引するために、当該ドメイン名を使用しているとき
  しかしながら、方針第4条b.の各項は例示であり、これを満たさない場合に不正の
 目的が肯定されないわけではない。
  本パネルは、本件において、方針第4条b.の各項の定める事情については、認定が
 困難であるものの、以下の観点で第3要件の充足性を検討する。
  すなわち、本件にあって、登録者は申立人に本件ドメイン名の売却等の交渉をして
 おらず(方針第4条b.(i)不充足)、登録者が複数回にわたってドメイン名の使用する
 ことの妨害を行ったものでもなく(同(ii)不充足)、本件ドメイン名の実際の使用等が
 ないことから登録者の本件ドメイン名の登録が事業者の事業を混乱させることを主た
 る目的であったと即断することはできず(同(iii)不充足)、登録者は本件ドメイン名
 の下での独自のウェブサイトを開設しておらず、独自のウェブサイトに消費者を誘引
 するものでもない(同(iv)の不充足)。
  しかしながら、登録者も認めるとおり、登録者は、申立人の「VICTORIA'S SECRET」
 ブランドの存在を知って本件ドメイン名の登録に及んでいるものであり(登録者の
 (3)①の主張)、敬愛から登録を行ったと主張しつつ(①)、従前、第三者より本件
 ドメイン名の譲渡の申入れが複数回あった中で(④)、申立人の登録の移転には応じら
 れないとしており(⑯)、申立人の「VICTORIA'S SECRET」としての活動に敬意を払う
 としつつ、不正の目的を有しないと主張するものである(⑤)。
  解説Ⅲ2.(1)c.は、単に登録者がドメイン名を使用していないというpassive
 holding(非活動的保有)の一事をもって、登録者に不正の目的がないと認定すること
 にならないとされ、また、先例として、「WALMART.JP」事件(JP2005-0001)、
 「CYBERLINK.JP」事件(JP2006-0008)、「MOBAGE.JP」事件(JP2011-0012)及
 「PINTEREST.CO.JP」事件(JP2013-0009)があげられるものであり、いずれの事案に
 おいても、ドメイン名を使用していない中で不正の目的が認定されている。
  ”WIPO Overview 3.0” 3.3にあっても、passive holdingにおける不正の目的を認定
 することは妨げられないとして、不正の目的は総合考慮により認定すべきものとし、
 passive holdingの際の考慮事情として、(i)申立人の標章の識別性と著名性の程度、
 (ii)登録者による答弁書の不提出や現実の又は検討する善意使用の証拠の不提供、
 (iii)登録者の同一性の隠匿または誤った連絡先の使用(登録時契約の違反となる)、
 (iv)ドメイン名を付す何らかの善意使用があると考えがたいという4事情をあげて
 おり、本件にあっても以上の考慮要素を検討した上で、本件事案を総合的に評価して
 不正の目的の認定を行う。

 イ 本件商標の識別性又は著名性の程度
  本件商標は、観念として『ヴィクトリアの秘密』を意味し、それ自体は記述的意味
 しか有さないが、女性名の「VICTORIA」に係る記述的意味である以上、造語とまでは
 いえなくても、識別性を肯定するには十分である。
  他方、申立人があげる甲8の1~甲18の各書証に照らせば、申立人の本件商標を冠
 するブランド、及び下着のファッションショーの冠名は、世界的に十分な著名商標で
 あると認定するに十分である。
  確かに、登録者が主張するように、本件ドメイン名の登録時までの申立人の日本国
 における年間販売高は、せいぜい20億円程度の規模であって、わが国のファッション
 関連に意識の高い消費者や取引業者に本件商標が申立人を指すものであるは知られて
 いたとはいえても、商品や役務の区別なく、不正競争防止法第2条1項2号の著名な
 商品等表示としてわが国で広く知られていた商標であったとまではいえない。
  しかしながら、登録時または使用時の不正の目的の認定に際して検討の対象となる
 べき識別性や著名性の程度は、国境を越えて広く使用されるドメイン名紛争として、
 世界的な著名性も含めて検討の対象となるものであり、だからこそ、登録時に不正の
 目的を推認する事情として考慮されるのである。
  本件にあっては、登録者は、世界的に著名な商標として定着している「VICTORIA'S
 SECRET」の存在を知って本件ドメイン名の登録を行ったことを自認しており、不正の
 目的を推認すべき事情の一つとして、以上の本件商標の識別性と著名性の程度は有利
 に参酌される事情である。

 ウ 本件ドメイン紛争に対する応答の態様
  後記手続の経緯のとおり、登録者は、答弁書を定められた期間に提出し、申立人の
 「VICTORIA'S SECRET」ブランドに関する書証を提出している。
  しかしながら、登録者が主張・立証する本件ドメイン名の登録を行った理由、及び
 現在もこれを維持して申立人への譲渡を拒否する理由とするところは、前記のとおり、
 申立人の「VICTORIA'S SECRET」ブランドに対する敬愛からとするだけであり、第三者
 からの譲渡の申出を断わり悪意者による使用を防いできたとする一方で、ドメイン名
 の取得費用等の合理的な価格をもってする申立人への譲渡の申出(甲20)を拒否する
 だけで、実際の使用も検討する将来の使用の証拠も提出していないものである。
  登録者は、申立人が乙7の「victoriassecret.com」のグローバルドメイン、乙7~
 11のイギリス、フランス等の国別ドメインを保有していることを認識している一方で、
 本件ドメイン名を維持することで、わが国の国別ドメイン名を申立人が取得できない
 ことを熟知しており、登録者が自身の将来の善意使用の検討の証拠も提出していない
 という事情は、登録時または使用時の不正の目的があることを推認する方向で有利に
 参酌される事情である。

 エ 登録者の同一性及び連絡先の開示
  申立人は、登録者が住所を偽っていたとして、登録者の住所地に送付した内容証明
 郵便(甲19)が所在不明のため返送された(甲20)を主張するが、登録者が、住所地
 において登録者の個人としての氏名を表示していたかは別として、郵便局への届出に
 より登録者の住所地への郵送は現在可能となっている。
  また、申立人が本件ドメイン名の公開連絡窓口を通じて登録者と連絡をとった事情
 も認められない。
  確かに登録メールアドレスに送付したメールに対して、登録者が速やかに対応して
 いない事実は認められるが(甲21)、登録者は迷惑フォルダ内に分類されていたと説明
 しており(乙6)、登録者が同一性及び連絡先の開示を偽ったとは認定できず、この点
 においては、登録者は自身の所在と同一性を偽っておらず、不正の目的があることを
 否定する方向で参酌される事情である。

 オ 将来的な登録者の善意使用の可能性の不存在
  登録者は、本件ドメイン名を登録以来12年間にわたって使用しておらず、保有する
 理由についても、申立人の「VICTORIA'S SECRET」ブランドに対する敬愛からとする
 一方、ドメイン名の取得費用等の合理的な価格での申立人への譲渡を拒否している。
  前記のとおり、申立人の本件商標は、本件ドメイン名の登録時の2011年当時に既に
 世界的に著名ブランドであり、わが国においても一定の需要者に対する周知性が肯定
 できる商標であって、その後、「VICTORIA'S SECRET」ブランドの業績に変動があると
 しても、世界的な著名ブランドであることも、わが国における周知性を肯定できる点
 には変わりなく、登録者が適法に本件ドメイン名を善意使用しうる可能性があるとの
 想定は困難であり、実際、申立人も将来の善意使用の計画を明らかにしていない。
  以上の事情は、登録時または使用時の不正の目的があることを推認する方向で有利
 に参酌される事情である。

 カ 第3要件の結論
  以上検討してきた事情を総合すると、登録者は、申立人の「VICTORIA'S SECRET」が
 世界的な著名ブランドであることを認識し本件ドメイン名を登録しているものであり、
 わが国への将来的な活動があることを予期して、本件ドメイン名の登録を行ったもの
 と言わざるをえない。
  本件ドメイン名の登録後も第三者からの譲渡の申出を複数回受けてきていた中で、
 登録者に本件ドメイン名を付す善意使用の計画もなければ、実際に善意使用する可能
 性も想定しがたいものであり、申立人から本件ドメイン名の取得費用等の合理的価格
 での譲渡の申入れがあってもこれを拒否している以上、少なくとも、本件ドメイン名
 に関する何らかの不正な目的があることを推認することができる。
  したがって、本パネルは、登録者の本件ドメインの登録及び使用の態様がpassive
 holdingの非活動的保有であっても、登録者の本件ドメイン名は、不正の目的で登録ま
 たは使用されているものと認定し、第3要件を充足すると判断する。

(6)結論
 以上の認定事実に照らして、本パネルは、登録者によって登録された本件ドメイン名
「VICTORIASSECRET.JP」が申立人の本件商標と実質同一であり、登録者が本件ドメイン名
に関係する正当な利益を有しておらず、本件ドメイン名が不正の目的で登録又は使用され
ているものと判断する。

 よって、方針第4条iに従って、ドメイン名「VICTORIASSECRET.JP」の登録を申立人に
移転するものとし、主文のとおり裁定する。

  2023年12月6日

   日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
          単独パネリスト 小 池 眞 一


別記 手続の経緯
1)申立書の受領
  日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、2023年8月1日に
  申立書(添付する関係書類を含む。)を申立人から電子的送信により受領した。
(2)申立手数料の受領
  センターは、2023年8月1日に申立人より申立手数料を受領した。
(3)ドメイン名及び登録者の確認
  センターは、2023年8月1日にJPRSに登録情報を照会し、2023年8月1
  日にJPRSから申立書に記載された登録者が対象ドメイン名の登録者であることを
  確認する回答並びにJPRSに登録されている登録者の電子メールアドレス及び住所
  等を受領した。
(4)適式性
  センターは、2023年10月2日に補正(証拠書類の追完)が必要と判断してそ
  の旨を申立人に通知し、2023年10月3日に補正書類を受領し、2023年10
  月4日に申立書が処理方針と手続規則に照らし適合していることを確認した。
(5)手続開始
  センターは、2023年10月11日に申立人、JPNIC及びJPRSに対し電子
  的送信により、手続開始を通知した。センターは、2023年10月11日に登録者
  に対し郵送及び電子メールにより、開始通知を送付した。開始通知により、登録者に
  対し、手続開始日(2023年10月11日)、答弁書提出期限(2023年11月
  9日)並びに書面の受領及び提出のための手段について通知した。
(6)答弁書の提出
  センターは、2023年11月9日に答弁書を登録者から電子的送信により受領した。
  センターは、2023年11月10日に答弁書が処理方針と手続規則に照らし適合し
  ていることを確認し、2023年11月13日に申立人に対し電子的送信により送付
  した。
(7)パネルの指名及び裁定予定日の通知
  申立人、登録者とも1名のパネルによって審理・裁定されることを選択し、センター
  は、2023年11月16日に弁護士 小池 眞一を単独パネリストとして指名し、
  一件書類を電子的送信によりパネルに送付した。センターは、2023年11月16
  日に申立人、登録者、JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、指名したパ
  ネリスト及び裁定予定日(2023年12月7日)を通知した。パネルは、2023
  年11月24日に公正性・独立性・中立性に関する言明書をセンターに提出した。
(8)パネルによる審理・裁定
  パネルは、2023年12月6日に審理を終了し、裁定を行った。