事件番号:JP2023-0008

                  裁 定

  申立人:
  名称 :株式会社ファーストリテイリング
  所在地:山口県山口市 ●(省略)●
  代理人:弁理士 網野友康
      弁理士 網野誠彦
  登録者:
  (1)UNIQLOJAPAN.JP
  名称:none
  住所:東京都新宿区 ●(省略)●
  (2)UNIQLO-JAPAN.JP
  名称:none
  住所:東京都新宿区 ●(省略)●

 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針(以下、「処
理方針」という。)、JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則(以下、「手続規則」とい
う。)及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理方針のための手続規則の補則
並びに条理に則り、申立書・提出された証拠に基づいて審理を遂げた結果、以下のとおり
裁定する。

1 裁定主文
  ドメイン名「UNIQLOJAPAN.JP」及び「UNIQLO-JAPAN.JP」の登録を申立人に移転せよ。

2 ドメイン名
  紛争に係るドメイン名は「UNIQLOJAPAN.JP」及び「UNIQLO-JAPAN.JP」である。

3 手続の経緯
  別記のとおりである。

4 当事者の主張
 a 申立人
 申立人の主張は以下のように、整理できる。
(1)登録者のドメイン名が、申立人が権利又は正当な利益を有する商標その他表示と同
一又は混同を引き起こすほど類似していること
    ・申立人が展開する「UNIQLO(ユニクロ)」ブランドは、日本のみならず、
     世界的にも広く認知されているブランドであって、その著名性は非常に高い。
    ・申立て人は、「UNIQLO」または「ユニクロ」に関連する登録商標を78件
     保有しているほか、「UNIQLO」のロゴについては防護標章登録も受け
     ている。
    ・登録者のドメイン名のセカンドレベルドメイン「UNIQLOJAPAN」及び「UNIQLO-
     JAPAN」は、ともに前半部分の「UNIQLO」部分が申立人商標として著名な「U
     NIQLO」と同一の文字列であり、後半部分の「JAPAN」は「日本」を表す
     平易な英単語であることから、「UNIQLOJAPAN」及び「UNIQLO-JAPAN」に接す
     る取引者・需要者は、「UNIQLO」と「JAPAN」を結合したもの及び「UNIQLO」
     と「JAPAN」を「-」(ハイフン)で結合したものと認識すると考えるのが自然
     であり、当該ドメイン名の要部は「UNIQLO」部分であって、申立人の保有す
     る商標やブランドと同一または混同を起こすほど類似していることは明ら
     かである。
(2)登録者が、当該ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有していないこと
    ・申立人は自らの把握していない第三者に申立人の登録商標に係る商標の使
     用や「UNIQLO(ユニクロ)」ブランドに関連するドメインの登録及び仕
     様を許諾することはない。
    ・申立人以外の第三者が「UNIQLO」が要部となる商標について権利また
     は正当な利益を有している事実は存在しない。
(3)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録又は使用されていること
    ・Googleに残存しているキャッシュ情報からは、ドメイン登録後の2023年
     5~7月頃のいずれかの時期に申立人の著名ブランドである「UNIQLO
     (ユニクロ)」を騙り、申立人の主要商品であるアパレル商品を販売するサイ
     トとして公開されていたことが伺われる。
    ・「UNIQLOJAPAN.JP」については、キャッシュ情報にアクセスすると、現在も
     稼働している請求人のECウェブサイトを騙るサイトへ転送されていた。
    ・「UNIQLO-JAPAN.JP」については、ウェブサイト全体としてみて、申立人と同
     一領域のアパレル製品を扱うECウェブサイトが公開されていたことが確
     認できる。
    ・現在においては、いずれのドメイン名も広告収入等を得る目的のパーキング
     サイトとして使用されている。
    ・「UNIQLO(ユニクロ)」ブランドの著名性や上記を考慮すると、本件ド
     メインの登録者は、①「UNIQLO(ユニクロ)」ブランドの著名性にフリ
     ーライドし、商業上の利得を得る目的で、あたかも申立人の「UNIQLO
     (ユニクロ)」ブランドに登録者が関係しているかのように消費者の誤認混
     同を生ぜしめることを意図して、本件ドメインを登録・使用しており、また、
     ②申立人の著名な「UNIQLO(ユニクロ)」ブランドと何らかの関係があ
     るものと過ってパーキングサイトを訪れた需要者から商業上の利益を得る
     目的で本件ドメインを使用していることが容易に推認できる。
 よって、ドメイン名は、申立人の商標と混同を引き起こすほどに類似し、登録者はドメ
イン名に関係する正当な利益を有しておらず、ドメイン名は不正の目的で登録または使用
されている。
 従って、申立人は、ドメイン名登録の申立人への移転を請求する。

 b 登録者
 登録者によって答弁書は提出されなかった。

5 争点および事実認定
 a 適用すべき判断基準
 手続規則第15条(a)は、パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原
則についてパネルに次のように指示する。「パネルは、提出された陳述・書類及び審問の結
果に基づき、処理方針、本規則及び適用されうる関係法規の規定・原則、ならびに条理に
従って、裁定を下さなければならない。」
 処理方針第4条aは、申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図し
ている。
 (1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示
と同一または混同を引き起こすほど類似していること(第1要件)
 (2)登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと
(第2要件)
 (3)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること(第3
要件)
 本件では、登録者が答弁書を提出しなかった。例外的な事情がない限り、パネルは申立
書に基づいて裁定を下すものとされる(手続規則第5条(f))一方で、処理方針第4条a
は、申立人に対して上記(1)~(3)のすべてを立証する義務を課している。そのため、
仮に答弁書が不提出であったとしても、パネルが申立書に基づき事実の認定等を行ったう
えで裁定を下すことになる。よって、以下各要件について検討する。

 b 紛争処理パネルの判断
 (1)第1要件について
(a) 申立人の権利又は正当な利益の有無
 甲第7号証乃至第10号証からは、①申立人が「UNIQLO」又は「ユニクロ」に関
連する登録商標を78件保有していること、②そのうち「UNIQLO」の文字列だけの
文字商標についても、第25類「被服」や第35類「被服の小売」等の区分において計1
6件の登録商標を保有していること、③「UNIQLO」のロゴについて防護標章登録を
受けていることが認められる。加えて、甲第2号証乃至第6号証からは、申立人が日本国
内及び海外において「UNIQLO(ユニクロ)」ブランドで多数の店舗を展開しており、
当該ブランドの著名性が高いことが認められる。
 上記事実を総合すれば、申立人は「UNIQLO」について権利及び正当な利益を有し
ていると認めることができる。

(b) 登録者のドメイン名と申立人商標の類似性の有無
 申立ての対象とされているドメイン名「UNIQLOJAPAN.JP」及び「UNIQLO-JAPAN.JP」(以
下「本件ドメイン名」と総称する。)のうち、トップレベルドメインの「.jp」には国別コ
ードという以外に識別力はないところ、セカンドレベルドメインの「UNIQLOJAPAN」及び
「UNIQLO-JAPAN」については、いずれも一見して「UNIQLO」と「JAPAN」という二つの単語
を組み合わせた文字列と認識することが通常と考えられる。そして、「JAPAN」の単語は日
本を意味する普通名詞であり、単独では特定の出所を表示する機能は低いと考えられ、他
方で、「UNIQLO」は申立人の著名なブランドを表す単語である。そうすると、「UNIQLO」と
「JAPAN」を並べた場合には、日本における「UNIQLO」ブランド等を指すものである
との誤認混同を生ぜしめる可能性が高いと認められる。

 したがって、本件ドメイン名は、いずれも申立人が権利及び正当な利益を有している商
標である「UNIQLO」と同一又は混同を引き起こすほど類似するものと認められる。

 (2)第2要件について
 第2要件である「登録者が、当該ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有してい
ないこと」については、JP-DRP解説(2008年3月)(以下「解説」という。)」Ⅲ
3.(3)は、申立人に主張・立証が求められる事項として、以下の各事項を例示している。
 (i) 登録者の氏名・法人名とドメイン名の不一致
 (ii) ドメイン名と一致する登録者が保有する日本の登録商標の不存在
 (iii) 当該ドメイン名に関してのライセンスの不存在

 他方、処理方針第4条cは、登録者がドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有し
ていることの証明として、以下のような事情がある場合には登録者は当該ドメイン名に関
係する権利又は正当な利益を有していると認めなければならないとする。
 (i) 登録者が、当該ドメイン名に係わる紛争に関し、第三者又は紛争処理機関から通知
を受ける前に、商品又はサービスの提供を正当な目的をもって行うために、当該ドメイン
名又はこれに対応する名称を使用していたとき、又は明らかにその使用の準備をしていた
とき
 (ii) 登録者が、商標その他表示の登録等をしているか否かにかかわらず、当該ドメイン
名の名称で一般に認識されていたとき
 (iii) 登録者が、申立人の商標その他表示を利用して消費者の誤認を惹き起こすことに
より商業上の利得を得る意図、又は、申立人の商標その他表示の価値を毀損する意図を有
することなく、当該ドメイン名を非商業的目的に使用し、又は公正に使用しているとき

 以上に鑑み本件ドメイン名について具体的に検討するに、まず解説Ⅲ3.(3)に例示され
る3点についてはいずれも認められる。すなわち、(i) 登録者の氏名・法人名とドメイン
名の不一致に関しては、登録者の氏名に関する登録情報がnoneとなっており、登録者の実
際の氏名等は不明であるものの、ドメイン名との同一性をうかがわせる証拠等は提出され
ていないし、(ii) ドメイン名と一致する登録者が保有する日本の登録商標の不存在、(iii)
本件ドメイン名に関してのライセンスの不存在についても申立人は証拠と共に主張してお
り、これに反する証拠は提出されていない。

 次に、処理方針第4条cに列挙される事情について検討する。申立人の登録商標である
「UNIQLO(ユニクロ)」に高い著名性が認められることは前述のとおりであるところ、
本件ドメイン名の登録時である2023年4月25日及び同年6月13日以降著名性が失
われていたことを示唆するような事情は認められない。そして、登録者が「UNIQLO」
の文字列を含む登録商標その他の権利等を有していることを示す証拠はない。上記の事情
のもとでは、(i)登録者が商品又はサービスの提供を正当な目的をもって行うために本件
ドメイン名又はこれに対応する名称を使用していた、(ii)登録者が本件ドメイン名の名称
で一般に認識されていた、(iii)本件ドメイン名を非商業的目的に使用し、又は公正に使用
していた、のいずれとも認められない。

 以上によれば、登録者が本件ドメイン名に関する権利又は正当な利益を有しているとは
認められない。

 (3)第3要件について
 第3要件は、「登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録又は使用されていること」
であり、処理方針第4条bにおいては、以下の事情がある場合は、ドメイン名の登録又は
使用は、不正の目的であると認めなければならないとされている。
 (i) 登録者が、申立人又は申立人の競業者に対して、当該ドメイン名に直接かかった金
額(書面で確認できる金額)を超える対価を得るために、当該ドメイン名を販売、貸与又
は移転することを主たる目的として、当該ドメイン名を登録又は取得しているとき
 (ii) 申立人が権利を有する商標その他表示をドメイン名として使用できないように妨
害するために、登録者が当該ドメイン名を登録し、当該登録者がそのような妨害行為を複
数回行っているとき
 (iii) 登録者が、競業者の事業を混乱させることを主たる目的として、当該ドメイン名
を登録しているとき
 (iv) 登録者が、商業上の利得を得る目的で、そのウェブサイト若しくはその他のオンラ
インロケーション、又はそれらに登場する商品及びサービスの出所、スポンサーシップ、
取引提携関係、推奨関係などについて誤認混同を生ぜしめることを意図して、インターネ
ット上のユーザーを、そのウェブサイト又はその他のオンラインロケーションに誘引する
ために、当該ドメイン名を使用しているとき

 本件ドメイン名については、①申立人の「UNIQLO(ユニクロ)」ブランドの著名性
の高さ、②本件いずれのドメインにおいても以前申立人のアパレル商品を販売するサイト
として公開されていたことを示すキャッシュ情報が存在すること(甲第12号証の1及び
2。なお、申立人がアパレル商品の販売を業として行っていることは、申立人の令和5年
8月10日付現在事項全部証明書等から認められる。)、③現在では本件いずれのドメイン
も広告収入等を得る目的のパーキングサイトとして利用されていること(甲第14号証)
の各事情を総合すれば、上記(iv)に該当すると認められる。

 そして、上記の各事情を総合すれば、本件ドメイン名がいずれも申立人の「UNIQLO
(ユニクロ)」ブランドの高い著名性に便乗し、ECサイトの運営による売上又はパーキン
グサイトを通じた広告収入という商業上の利得を得る目的で、あたかも申立人の「UNI
QLO(ユニクロ)」ブランドに登録者が関係しているかのように消費者の誤認混同を生ぜ
しめることを意図して使用されていること、すなわち本件ドメイン名が不正の目的で使用
されていることが認められる。
 6 結論
 以上に照らして、紛争処理パネルは、登録者によって登録されたドメイン名
「UNIQLOJAPAN.JP」及び「UNIQLO-JAPAN.JP」が申立人の商標と混同を引き起こすほど類似
し、登録者が、ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有しておらず、登録者のド
メイン名が不正の目的で登録または使用されているものと判断する。
 よって、処理方針第4条iに従って、ドメイン名「UNIQLOJAPAN.JP」及び「UNIQLO-JAPAN.JP」
の登録を申立人に移転するものとし、主文のとおり裁定する。


2023年11月28日
 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
        単独パネリスト    卜部 晃史

別記 手続の経緯
(1)申立書の受領
   日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、2023年9月26
  日に申立書(添付する関係書類を含む。)を申立人から電子的送信により受領した。
(2)申立手数料の受領
   センターは、2023年9月26日に申立人より申立手数料を受領した。
(3)ドメイン名及び登録者の確認
   センターは、2023年9月26日にJPRSに登録情報を照会し、2023年9
  月27日にJPRSから申立書に記載された登録者が対象ドメイン名の登録者である
  ことを確認する回答並びにJPRSに登録されている登録者の電子メールアドレス及
  び住所等を受領した。
(4)適式性
   センターは、2023年9月28日に申立書が処理方針と手続規則に照らし適合し
  ていることを確認した。
(5)手続開始
   センターは、2023年10月3日に申立人、JPNIC及びJPRSに対し電子
  的送信により、手続開始を通知した。センターは、2023年10月3日に登録者に
  対し郵送及び電子メールにより、開始通知を送付した。開始通知により、登録者に対
  し、手続開始日(2023年10月3日)、答弁書提出期限(2023年11月1日)
  並びに書面の受領及び提出のための手段について通知した。
(6)答弁書の提出
   センターは、提出期限日までに答弁書を受領しなかったので、2023年11月2
  日に「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不提出通知書を、電子的送
  信により申立人及び登録者に送付した。
(7)パネルの指名及び裁定予定日の通知
   申立人は、1名のパネルによって審理・裁定されることを選択し、センターは、2
  023年11月9日に弁護士 卜部 晃史を単独パネリストとして指名し、一件書類
  を電子的送信によりパネルに送付した。センターは、2023年11月9日に申立人、
  登録者、JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、指名したパネリスト及び
  裁定予定日(2023年11月30日)を通知した。パネルは、2023年11月9
  日に公正性・独立性・中立性に関する言明書をセンターに提出した。
(8)パネルによる審理・裁定
   パネルは、2023年11月28日に審理を終了し、裁定を行った。