事件番号:JP2023-0012

                  裁 定

  申立人:
   名称:株式会社NTTドコモ
   住所:東京都千代田区 ●(省略)●
  代理人:弁護士 大野 聖二、弁護士 山口 裕司、弁理士 土生 真之
  登録者:
   氏名(名称):Taka Enterprise Ltd. WHOISプライバシーサービス
   住所:東京都新宿区 ●(省略)●

 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針(以下、「処
理方針」という。)、JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則(以下、「手続規則」とい
う。)および日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理方針のための手続規則の補
則並びに条理に則り、申立書・提出された証拠に基づいて審理を遂げた結果、以下のとお
り裁定する。

1 裁定主文
  ドメイン名「FACELOG.JP」の登録を申立人に移転せよ。

2 ドメイン名
  紛争に係るドメイン名は「FACELOG.JP」である。

3 手続の経緯
  別記のとおりである。

4 当事者の主張
 a 申立人
 申立人の主張は以下のように、整理できる。
 (1)「登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示
と同一または混同を引き起こすほど類似していること」について
 申立人は、日本最大の移動体通信業者であり、スマートフォンアプリを用いて肌状態を
診断する「FACE LOG」というサービスに関連して、登録第6235678号商標「FACE LOG」(以
下、「本件登録商標」という。)を2020年3月13日に登録し、現在も保有している(甲第
1号証の1)。
 本件紛争に係るドメイン名(以下、「本件ドメイン名」という。)の要部である「FACELOG」
は、申立人の本件登録商標と「FACE」と「LOG」の間のスペースの有無を除いて同一である
が、ドメイン名で単語間のスペースを省略することは通常であるから、本件ドメイン名が、
申立人が権利または正当な利益を有する商標その他の表示と同一または混同を引き起こす
ほど類似していることは明らかである。

 (2)「登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと」
について
 本件ドメイン名は、登録者の名称に由来するものではなく、登録者が本件ドメイン名の
名称で⼀般に認識されていたという事実(処理方針4条c(ii))は確認できない。また、
申立人が登録者に対して本件登録商標の使用を承諾したこともなく、有限会社Takaエン
タプライズのウェブサイトの提供サービスの紹介ページには「FACELOG.JP」ないしはこれ
に対応する名称の商品またはサービスが掲載されている事実もないことから(甲第4号証)、
登録者が商品またはサービスの提供を正当な目的をもって行うために、本件ドメイン名ま
たはこれに対応する名称を使用している事実、あるいはその使用の準備をしている事実(処
理方針4条c(i))も、登録者が、申立人の商標その他表示を利用して消費者の誤認を惹き
起こすことにより商業上の利得を得る意図、または、申立人の商標その他表示の価値を毀
損する意図を有することなく、当該ドメイン名を非商業的目的に使用し、または公正に使
用している事実(処理方針4条c(iii))も認められない。
 登録者ウェブサイトで広告するスマートフォン向けのアプリ開発サービスは、本件登録
商標の指定役務である第42類「電子計算機用プログラムの設計・作成又は保守」(甲第1
号証の1)と同一の役務であるから、本件ドメイン名は「FACELOG」というロゴにより申立
人の商標権を侵害するウェブサイトについて使用されていると言え、「正当な目的をもっ
て行うために」(処理方針4条c(i))や「公正に使用しているとき」(処理方針4条c(iii))
に該当しないことは明らかである。
 以上のように、JPRSのWHOISの登録者として表に出ている有限会社Takaエンタプライ
ズも、登録者ウェブサイト開設者も、本件ドメイン名に関係する権利または正当な利益を
有していない。

 (3)「登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること」につ
いて
 申立人は、「FACE LOG」のサービス名称の下で、スマートフォンアプリを用いた肌状態の
診断サービスを2019年6月から2021年5月まで提供しており、当該サービスのウェブサ
イトに本件ドメイン名を用いていた(甲第7号証の1および2)。その後、申立人が本件ド
メイン名の登録を廃止したところ、登録者が本件ドメイン名を2022年4月に登録した。
 前述のとおり、本件ドメイン名は「FACELOG」というロゴにより申立人の商標権を侵害す
るウェブサイトについて使用されており、申立人と関係のあるサービスであるかの如く出
所の混同を生じさせるおそれがある。加えて、後述のようにオンラインカジノに誘導する
欺瞞的な登録者ウェブサイトの存在は、申立人が本件登録商標の使用を将来再開するに際
して、円滑な事業再開の妨げともなる。したがって、登録者は競業者(即ち、申立人)の
事業を混乱させることを主たる目的として、本件ドメイン名を登録している(処理方針4
条b(iii))と言える。
 登録者ウェブサイト中の「スロット」の文字列には、「https://www.yuugado.com/slots」
へのリンクが張られており(甲第8号証)、当該文字列をクリックするとオンラインカジノ
サイト(甲第9号証)へ誘導される仕組みとなっており、オンラインカジノ(甲第10号
証の1ないし3)にアクセスさせ、何らかの商業上の利得を得ようとする意図が強く推認
される。このような行為は、「登録者が、商業上の利得を得る目的で、そのウェブサイトも
しくはその他のオンラインロケーション、またはそれらに登場する商品およびサービスの
出所、スポンサーシップ、取引提携関係、推奨関係などについて誤認混同を生ぜしめるこ
とを意図して、インターネット上のユーザーを、そのウェブサイトまたはその他のオンラ
インロケーションに誘引するために、当該ドメイン名を使用しているとき」(処理方針4条
b(iv))に該当すると言える。
 以上により、登録者の本件ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること
は明らかである。

 b 登録者
 登録者によって答弁書は提出されなかった。

5 争点および事実認定
 a 適用すべき判断基準
 手続規則第15条(a)は、パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原
則についてパネルに次のように指示する。「パネルは、提出された陳述・書類および審問の
結果に基づき、処理方針、本規則および適用されうる関係法規の規定・原則、ならびに条
理に従って、裁定を下さなければならない。」
 処理方針第4条aは、申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図し
ている。
 (1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示
と同一または混同を引き起こすほど類似していること
 (2)登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと
 (3)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること

 b 紛争処理パネルの判断
 (1)同一または混同を引き起こすほどの類似性
 登録者の本件ドメイン名は、「FACELOG.JP」である。本件ドメイン名において「.JP」は
日本を意味するトップレベルドメインであって類否判断には影響しない部分である。した
がって、本件ドメイン名の要部は「FACELOG」の部分にあると認められる。
 一方申立人は、申立人が権利または正当な利益を有する商標として、登録第6235678号
商標「FACE LOG」(以下、「本件登録商標」という。)を2020年3月13日に登録し、現在も
保有している(甲第1号証の1)。
 そして、申立人の主張するように、本件ドメイン名の要部である「FACELOG」は、申立人
の本件登録商標とスペースの有無を除いて同一であるから、本件ドメイン名は申立人が権
利または正当な利益を有する商標その他の表示と同一または混同を引き起こすほど類似し
ていると認められる。

 (2)権利または正当な利益
 本件ドメイン名の登録者は、答弁書を提出することなく、登録者は権利または正当な利
益の存在について何ら実質的な主張を行っていない。
 また、本件ドメイン名の要部である「FACELOG」は、登録者の名称に由来するものではな
く、申立人が登録者に対して本件ドメイン名について使用許諾した事実も認められない。
その他、本件において、登録者が本件ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有し
ていることを窺わせる事情は認められない。
 したがって、登録者には、本件ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有してい
るという事情は認められない。

 (3)不正の目的での登録または使用
 申立人は、日本最大の移動体通信事業者であり、2023年度第一四半期(2023年6月)に
おける携帯電話契約件数は8796万5500件である。また、申立人の主張および提出した証
拠によれば、申立人は、「FACE LOG」のサービス名称の下で、スマートフォンアプリを用い
た肌状態の診断サービスを2019年6月から2021年5月まで提供しており、当該サービス
のウェブサイトに本件ドメイン名を用いていた(甲第7号証の1および2)ことが認めら
れる。
 一方、登録者は、申立人が本件ドメイン名の登録を廃止後、本件ドメイン名を2022年4
月に登録したことが認められる。
 申立人の主張および提出する証拠によれば、登録者のウェブサイトには、「FACELOG」と
いうロゴが掲げられ、スマートフォン向けのアプリ開発サービスを提供しているかに見え
るページが表示される(甲第5号証の1)。そうとすると、本件ドメイン名の使用は、申立
人の登録商標の指定役務に含まれる役務についての使用であるから、申立人の主張するよ
うに、申立人の商標権を侵害するおそれがあるものであり、申立人と関係のあるサービス
であるかの如く出所の混同を生じさせるおそれは否定できない。
 さらに、登録者のウェブサイトには、オンラインカジノサイト(甲第9号証)へ誘導さ
れる文字列が含まれており、オンラインカジノ(甲第10号証の1ないし3)にアクセス
させるおそれがあるものであることが認められ、申立人の主張するように、何らかの商業
上の利得を不正に得ようとする意図も推認される。
 そして、登録者が実質的な反論を行わないところにおいて申立人の主張および提出され
た証拠によればその主張に沿った事実が概ね認められるのであり、登録者が不正の目的で
の登録または使用を否定する事情は認められない。
 したがって、本件ドメイン名は登録者によって不正の目的で登録され、使用されている
というべきである。

6 結論
 以上に照らして、紛争処理パネルは、登録者によって登録されたドメイン名「FACELOG.JP」
が申立人の商標と混同を引き起こすほど類似し、登録者が、ドメイン名に関係する権利ま
たは正当な利益を有しておらず、登録者のドメイン名が少なくとも不正の目的で登録され
ているものと判断する。
 よって、処理方針第4条iに従って、ドメイン名「FACELOG.JP」の登録を申立人に移転
するものとし、主文のとおり裁定する。


  2024年1月14日

   日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
          単独パネリスト    本多敬子


別記 手続の経緯
(1)申立書の受領
   日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、2023年11月1
  0日に申立書(添付する関係書類を含む。)を申立人から電子的送信により受領した。
(2)申立手数料の受領
   センターは、2023年11月10日に申立人より申立手数料を受領した。
(3)ドメイン名及び登録者の確認
   センターは、2023年11月10日にJPRSに登録情報を照会し、2023年
  11月10日にJPRSから申立書に記載された登録者が対象ドメイン名の登録者で
  あることを確認する回答並びにJPRSに登録されている登録者の電子メールアドレ
  ス及び住所等を受領した。
(4)適式性
   センターは、2023年11月14日に申立書が処理方針と手続規則に照らし適合
  していることを確認した。
(5)手続開始
   センターは、2023年11月17日に申立人、JPNIC及びJPRSに対し電
  子的送信により、手続開始を通知した。センターは、2023年11月17日に登録
  者に対し郵送及び電子メールにより、開始通知を送付した。開始通知により、登録者
  に対し、手続開始日(2023年11月17日)、答弁書提出期限(2023年12
  月18日)並びに書面の受領及び提出のための手段について通知した。但し登録者宛
  電子メール送信分については一部が送信不能であった。
(6)答弁書の提出
   センターは、提出期限日までに答弁書を受領しなかったので、2023年12月1
  9日に「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不提出通知書を、電子的
  送信により申立人及び登録者に送付した。
(7)パネルの指名及び裁定予定日の通知
   申立人は、1名のパネルによって審理・裁定されることを選択し、センターは、2
  023年12月25日に弁理士 本多 敬子を単独パネリストとして指名し、一件書
  類を電子的送信によりパネルに送付した。センターは、2023年12月25日に申
  立人、登録者、JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、指名したパネリス
  ト及び裁定予定日(2024年1月19日)を通知した。パネルは、2023年12
  月28日に公正性・独立性・中立性に関する言明書をセンターに提出した。
(8)パネルによる審理・裁定
   パネルは、2024年1月14日に審理を終了し、裁定を行った。