事件番号:JP2023-0013

                  裁 定

  申立人:
  (氏名/名称)株式会社ファミリーマート
  (住所)〒108-0023 東京都港区 ●(省略)●
  代理人:弁理士 網野友康、弁理士 網野誠彦

  登録者:
  (氏名/名称)Taka Enterprise Ltd. WHOIS プライバシーサービス
  (住所)東京都新宿区 ●(省略)●

 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針(以下「処
理方針」という。)、JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則(以下「手続規則」
という。)及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理方針のための手続規則の補
則並びに条理に則り、申立書・提出された証拠に基づいて審理を遂げた結果、以下のとお
り裁定する。

1 裁定主文
  ドメイン名「COCOSTORE.JP」の登録を申立人に移転せよ。

2 ドメイン名
  紛争に係るドメイン名は「COCOSTORE.JP」である(以下、「本件ドメイン名」とい
う。)。

3 手続の経緯
  別記のとおりである。

4 当事者の主張
 a 申立人
 (1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標と同一ま
    たは混同を引き起こすほど類似していること。

     申立人は、登録商標「ココストア」の商標権者(登録番号2417607号、
    2635247号、2641102号、2644388号、2670532号
    2673154号、3045301号、3057792号、3057793号、
    3060976号及び3096730号)(以下、この11の登録商標を併せて
    「本件登録商標」という。)の商標権者である(甲第3号証)。
     本件ドメイン名の要部はセカンドレベルドメインである「COCOSTORE」の部分
    であり、称呼をカタカナ表記すれば「ココストア」となる。
     本件登録商標と本件ドメイン名の要部は称呼が同一であるから、本件ドメイ
    ン名は、申立人の本件登録商標と同一または類似の標章、または混同を引き起
    こすほどに類似する標章であると言える。
     加えて、申立人は、登録商標「Coco!」7件、及び「Coco!」を構成に含む商
    標7件の商標権者である(甲第4号証)。「store」という文字列は広く販売店に
    利用されていることからCOCO部分も本件ドメイン名の要部である。本件ドメイ
    ン名の要部であるCOCOと申立人の登録商標「Coco!」と「!」を除くと同一文
    字列であり、「ココ」の称呼も共通するから、両者は混同を引き起こすほど類似
    しているといえる。

 (2)登録者が、本件ドメイン名に関係する権利または正当な権利を有していないこ
    と
     本件ドメインの登録者は、Taka Enterprise Ltd.であり、本件ドメイン名と
    は一致しない。
     また、本件ドメイン名のセカンドレベルドメイン部分と一致する登録商標は
    存在せず(甲第5号証)、登録者の正式名称である有限会社Takaエンタプライ
    ズ(甲第6号証)は、本件ドメイン名と関連する登録商標を保有していない
    (甲第7号証)。
     申立人は、申立人の把握していない第三者に、申立人の登録商標に係る商標
    の使用やドメインの登録及び使用を許諾することはない。登録者に対し本件ド
    メイン名に関してライセンスをした事実はない。
     したがって、登録者には本件ドメイン名について権利または正当な利益がな
    い。
 (3)登録者の本件ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること
    登録者は、本件ドメイン名をそのウェブサイトとして使用しているが、この
   ウェブサイトは、ココストア(Cocostore)の名称のコンビニエンスストアチェ
   ーンを運営し、申立人が2015年12月に吸収合併した株式会社ココストア
   (以下「株式会社ココストア」)(甲第9号証)のウェブサイトのコピーサイト
   である(甲第10号証)。
    そもそも、本件ドメイン名は2017年3月31日に不更新により放棄され
   るまで株式会社ココストア名義であった。
    このコピーサイトの中央のリンク先にアクセスすると「賭けっ子リンリン
   (賭けリン)」という賭けごとのウェブサイトに転送されるが、それはいわばコ
   ンビニエンスストアのココストアの公式サイトを装った詐欺サイトともいうべ
   きものである。
    したがって、登録者は本件ドメイン名を消費者誘引目的で使用するために登
   録しており、不正の目的による登録は明らかである。

    よって、申立人は、ドメイン名登録の申立人への移転を請求する。

 b 登録者
   登録者によって答弁書は提出されなかった。

5 争点および事実認定
  手続規則第15条(a)は、パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている
 原則についてパネルに次のように指示する。「パネルは、提出された陳述・書類及び審
 問の結果に基づき、処理方針、本規則及び適用されうる関係法規の規定・原則、ならび
 に条理に従って、裁定を下さなければならない。」
  処理方針第4条aは、申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図
 している。
 (1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示
   と同一または混同を引き起こすほど類似していること(第1要件)
 (2)登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと
   (第2要件)
 (3)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること(第3
   要件)

 (1)第1要件
   本件ドメイン名のトップレベルドメイン「.JP」は国別コードを表し、本件ドメイ
  ン名が商標や役務の出所表示として機能を果たす要部は、第2レベルドメインであ
  る「COCOSTORE」である。
   申立人は、甲第3号証を提出し、本件登録商標の商標権者であると主張している
  ところ、いずれも特許庁において、申立人を商標権者とする登録商標と認められる。
   そこで、本件ドメイン名の第2レベルドメイン「COCOSTORE」と、本件登録商標
  「ココストア」を対比する。
   申立人は、本件登録商標「ココストア」の称呼と第2レベルドメイン「COCOSTORE」
  の称呼が共通すると主張する。確かに、第2レベルドメイン「COCOSTORE」のうち
  「STORE」部分は、英語で店舗を意味し、広辞苑にも「ストア」は「store」で「店。
  商店。」の意とされ、「STORE」を日本語で「ストア」と称呼することは広く一般に認
  識されていると言える。したがって、第2レベルドメインの「COCOSTORE」はカタカ
  ナ表記で「ココストア」になると言え、本件登録商標「ココストア」との関係で、
  両者の称呼は同一であると認められる。
   したがって、申立人の本件登録商標と、登録者の本件ドメイン名の要部は称呼が
  同一であり、同一または混同を引き起こすほど類似であると認められるから、第1
  要件を充足する。

 (2)第2要件
   (a)登録者の氏名・法人名と本件ドメイン名の不一致
      申立人が主張する通り、本件ドメインの登録者は、Taka Enterprise Ltd.で
     あり、本件ドメイン名とは一致しない。
   (b)本件ドメイン名と一致する、登録者が保有する日本の登録商標の不存在
      本件ドメイン名の第2レベルドメインと一致する登録商標は存在しない(甲
     第5号証)。
      登録者の正式名称は有限会社Takaエンタプライズである(甲第6号証)であ
     るところ、有限会社Takaエンタプライズは、本件ドメイン名と関連する登録商
     標を保有していない(甲7)。
   (c)本件ドメイン名に関してのライセンスの不存在
      申立人は、登録者に対し本件ドメイン名に関してライセンスをした事実はな
     いと主張しているところ、登録者からの答弁書の提出がない状況であるから、
     以下の状況も勘案の上で、これを事実と認める。
      すなわち、申立人が登録者に対し本件ドメイン名に関してライセンスをした
     ものと仮定すると、登録者が本件ドメイン名を利用したウェブサイトに、申立
     人が以前開設した当時の古い情報がそのまま、申立人の登録商標もそのままに
     流用されているという、その異常な利用実態が説明できないし、そのウェブサ
     イトが消費者を賭け事サイトに誘引していることも説明できない。
      つまり、登録者自身のウェブサイトの会社概要によれば、その事業内容は
     「インターネットを利用した各種情報提供サービス」と、「コンピューターシ
     ステムの企画、開発、販売および保守に関する業務」(甲第6号証)であって、
     コンビニエンスストア運営は含まれていない。しかし、登録者が本件ドメイン
     名を使っているウェブサイトには、申立人が2015年12月に吸収合併した
     株式会社ココストアが運営していた、ココストア(Cocostore)の名称のコン
     ビニエンスストアチェーン(以下「コンビニココストア」という。)が当時開
     設していたウェブサイトにそっくりなウェブページが含まれている。このこと
     は、コンビニココストアのウェブサイトである甲第10号証の3と、登録者の
     ウェブサイトの甲第8号証を引き比べれば明らかである。ライセンサーが、自
     己の以前のウェブサイトページの内容を、日時や情報も一切アップデートせず
     にそのままライセンシーに流用させることなどまず考えられない。その上登録
     者のウェブサイト(甲第8号証)は、コンビニココストアのウェブページの外
     観を利用しつつ、その中に賭け事サイトを埋め込んで消費者を誘引しているが、
     コンビニのドメイン名のライセンス契約で、ライセンサーがそのような使用を
     認めるとはおよそ考え難い。

     したがって、登録者には本件ドメイン名について権利または正当な利益がな
    く、第2要件を充足する。

 (3)第3要件
   標題の点について、登録者は答弁書を提出せず、何らの反論もしていない。そこ
  で、申立人主張について、処理方針第4条bの「不正の目的で登録または使用して
  いることの証明」に関し、特に処理方針第4条b(iv)の「登録者が、商業上の利
  得を得る目的で、そのウェブサイトもしくはその他のオンラインロケーション、ま
  たはそれらに登場する商品及びサービスの出所、スポンサーシップ、取引提携関係、
  推奨関係などについて誤認混同を生ぜしめることを意図して、インターネット上の
  ユーザーを、そのウェブサイトまたはその他のオンラインロケーションに誘引する
  ために、当該ドメイン名を使用しているとき」に、以下の通り該当すると判断する。
   登録者は、本件ドメイン名を甲第8号証に示される通りのウェブサイトに使用し
  ているが、本件ドメイン名は2017年3月31日に不更新により放棄されるまで、
  申立人が吸収合併した株式会社ココストアが保有していたものである(甲第11号
  証)。登録者は、本件ドメイン名を2021年5月1日付で登録している。
   申立人が2015年12月に吸収合併した株式会社ココストアは、当時ココスト
  ア(Cocostore)の名称のコンビニエンスストアチェーンを運営しており、本件ドメ
  イン名のウェブサイトに甲第10号証の通りの内容を記載して発信したことがある。
  登録者のウェブサイトである甲第8号証は、コンビニココストアのウェブサイト甲
  第10号証の3のコピーサイトと言えるほど、ほぼ同一である。したがって、登録
  者のウェブサイトを見る消費者からすれば、登録者のドメイン名が使用されたウェ
  ブサイトは、コンビニココストアの情報が掲載された、株式会社ココストアのウェ
  ブサイト、つまりはこれを吸収合併した申立人のウェブサイトである、と誤解しか
  ねない。
   ところが、登録者のウェブサイト(甲第8号証)の、中央のWhat’s Newの欄の本
  文部分は、コンビニココストアのウェブサイトである甲第10号証の3と異ってお
  り、「「週刊イバラキング」を更新しました。」 〉〉さよなら週刊イバラキング!~
  これまでの歩みを振り返る~」との記載が「ネットカジノって何なのか学んで、ス
  キルと幸運をオンラインで試してみてね」との文章に差し替えられている。このう
  ち「ネットカジノって何」の部分が、文字色が多少異なったウェブリンクとなって
  おり、転送先は「賭けっ子リンリン(賭けリン)」という賭け事のウェブサイトであ
  る(甲第12号証)。
   このように、登録者は、消費者を賭け事のウェブサイトへ誘引しているから、登
  録者には商業上の利益目的があったと認められる。
   つまり、登録者が本件ドメイン名を使用するウェブサイトは、コンビニココスト
  アの過去の公式サイトの構成や見かけをそのまま流用してコンビニココストアの公
  式サイトのように見せて消費者を誤認混同させ、賭け事に興味のない消費者を引き
  付けたうえで、賭け事サイトへ誘引するものということができる。
   以上のことから、処理方針4条b(iv)の示す「登録者が、商業上の利得を得る
  目的で、そのウェブサイトもしくはその他のオンラインロケーション、またはそれ
  らに登場する商品およびサービスの出所、スポンサーシップ、取引提携関係、推奨
  関係などについて誤認混同を生ぜしめることを意図して、インターネット上のユー
  ザーを、そのウェブサイトまたはその他のオンラインロケーションに誘引するため
  に、当該ドメイン名を使用しているとき」の例示に該当することが明らかである。

   したがって、登録者の本件ドメイン名登録が、不正の目的によるものであると認
  められる。

6 結論
  以上に照らして、紛争処理パネルは、登録者によって登録されたドメイン名
 「COCOSTORE.JP」が申立人の商標と混同を引き起こすほど類似し、登録者が、ドメイ
 ン名に関係する権利または正当な利益を有しておらず、登録者のドメイン名が不正の
 目的で登録または使用されているものと判断する。
  よって、処理方針第4条iに従って、ドメイン名「COCOSTORE.JP」の登録を申立人に
 移転するものとし、主文のとおり裁定する。


   2024年1月24日

    日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
           単独パネリスト   生田 美弥子

別記 手続の経緯
(1)申立書の受領
   日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、2023年11月1
  6日に申立書(添付する関係書類を含む。)を申立人から電子的送信により受領した。
(2)申立手数料の受領
   センターは、2023年11月16日に申立人より申立手数料を受領した。
(3)ドメイン名及び登録者の確認
   センターは、2023年11月16日にJPRSに登録情報を照会し、2023年
  11月16日にJPRSから申立書に記載された登録者が対象ドメイン名の登録者で
  あることを確認する回答並びにJPRSに登録されている登録者の電子メールアドレ
  ス及び住所等を受領した。
(4)適式性
   センターは、2023年11月21日に申立書が処理方針と手続規則に照らし適合
  していることを確認した。
(5)手続開始
   センターは、2023年11月24日に申立人、JPNIC及びJPRSに対し電
  子的送信により、手続開始を通知した。センターは、2023年11月24日に登録
  者に対し郵送及び電子メールにより、開始通知を送付した。開始通知により、登録者
  に対し、手続開始日(2023年11月24日)、答弁書提出期限(2023年12
  月22日)並びに書面の受領及び提出のための手段について通知した。
(6)答弁書の提出
   センターは、提出期限日までに答弁書を受領しなかったので、2023年12月2
  5日に「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不提出通知書を、電子的
  送信により申立人及び登録者に送付した。
(7)パネルの指名及び裁定予定日の通知
   申立人は、1名のパネルによって審理・裁定されることを選択し、センターは、2
  023年12月28日に弁護士 生田 美弥子を単独パネリストとして指名し、一件
  書類を電子的送信によりパネルに送付した。センターは、2023年12月28日に
  申立人、登録者、JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、指名したパネリ
  スト及び裁定予定日(2024年1月24日)を通知した。パネルは、2023年1
  2月28日に公正性・独立性・中立性に関する言明書をセンターに提出した。
(8)パネルによる審理・裁定
   パネルは、2024年1月24日に審理を終了し、裁定を行った。