事件番号:JP2025-0001

裁定

申立人:
(名称)OBAGI HOLDINGS COMPANY LIMITED
(住所)●(省略)● Camana Bay, ●(省略)● Grand Cayman, Cayman Islands
代理人:
弁護士 相良 由里子
登録者:
(氏名)Zhao Ke
(住所)東京都Shibuya City ●(省略)●

日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、 JPドメイン名紛争処理方針(以下、「処理方針」という。)、 JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則(以下、 「手続規則」という。)及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、 申立書・提出された証拠に基づいて審理を遂げた結果、以下のとおり裁定する。

1 裁定主文

ドメイン名「OBAGI.JP」の登録を申立人に移転せよ。

2 ドメイン名

紛争に係るドメイン名(以下、「本件ドメイン名」という。)は「OBAGI.JP」である。

3 手続の経緯

別記のとおりである。

4 背景となる事実

 申立人は、 医療用スキンケアブランドである「Obagi」ブランド(以下「本件ブランド」という。)の下でスキンケアに関する製品を製造販売している会社であり、 日本を含む各国で国際的に事業展開を行っている。

 申立人は、日本において、「OBAGI」ないし「Obagi」の文字を含む、 2002年5月17日に登録された商標登録第4568726号、 2003年7月11日に登録された商標登録第4691282号、 2006年7月14日に登録された商標登録第4970143号、 2006年7月14日に登録された商標登録第4970144号、 2011年7月8日に登録された商標登録第5423845号、 2012年4月6日に登録された商標登録第5483963号及び2023年3月3日に登録された国際登録第1495947号の商標権者である(以下、 これらの登録商標を併せて「本件登録商標」という。)(甲3)。

本件ドメイン名は、2024年9月12日に登録された。

5 当事者の主張

a 申立人

申立人の主張は以下のように、整理できる。

 申立人は本件登録商標の商標権者であり、 本件ブランドの下で上記4記載の事業を営んでいる。 申立人は、 日本以外の世界各国においても「OBAGI」ないし「Obagi」の文字を含む登録商標を多数保有している(甲2)。 本件ドメイン名の「obagi」の文字部分は、 申立人の保有する本件登録商標と同一である。

 本件ドメイン名の登録者は「Zhao Ke」であり(甲4)、 その名前には、「OBAGI」の表記は一切含まれておらず、また、 申立人が登録者に本件登録商標の使用を許諾したこともないから、 登録者は申立人の正規の販売代理店でもない。

 登録者は、 申立人の周知な登録商標を含む本件ドメイン名が登録されていないことを奇貨として、 2024年9月12日に本件ドメイン名を登録したうえで、 本件ドメイン名に係るウェブサイトにおいて、「しわたるみスキンケア」、 「目の下たるみとり整形」等、 化粧品や整形等の美容関連の商品やサービスの宣伝広告を行い(甲8)、 ここをクリックすると関連する化粧品や整形サービス等の宣伝広告とリンクを提供するページへ飛ぶようにすることで(甲9)申立人と何らかの関係のあるサービスであるかのように誤認混同を生ぜしめ、 もって商業上の利得を得ていることが容易に推測される。

 また、登録者は、本件ドメイン名に係るウェブサイトにおいて、 上記宣伝広告に加えて、「このドメインの購入」と記載したリンクと、 その下に「ドメインobagi.jpは9200USDで売り出し中です!」と記載した上で(甲8)、 「このドメインの購入」をクリックすると、 ドメインの購入サイトへ飛ぶようにしており(甲10)、 本件ドメイン名を9200米ドルという高額で販売することを目的として本件ドメイン名を登録していることは明らかである。

 よって、本件ドメイン名は、申立人の商標と混同を引き起こすほどに類似し、 登録者はドメイン名に関係する正当な利益を有しておらず、 本件ドメイン名は不正の目的で登録または使用されている。

 従って、申立人は、ドメイン名登録の申立人への移転を請求する。

b 登録者

登録者によって答弁書は提出されなかった。

6 争点および事実認定

a 適用すべき判断基準

 手続規則第15条(a)は、 パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原則についてパネルに次のように指示する。 「パネルは、提出された陳述・書類及び審問の結果に基づき、処理方針、 本規則及び適用されうる関係法規の規定・原則、ならびに条理に従って、 裁定を下さなければならない。」

処理方針第4条aは、 申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図している。

  1. 登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること
  2. 登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと
  3. 登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること

b 紛争処理パネルの判断

(1)同一又は混同を引き起こすほどの類似性

 申立人は、上記4に認定したとおり、 日本において「OBAGI」ないし「Obagi」の文字を含む登録商標を多数保有している(甲3)。

 本件ドメイン名は「OBAGI」と「.JP」からなり、 「.JP」の部分は日本の国コードトップレベルドメインであって、 常に登録で必要となるものであるから、 「同一または混同を引き起こすほどの類似性」の要件(処理方針第4条a (i))を判断するに当たって考慮しないのが通常である(WIPO Overview of WIPO Panel Views on Selected UDRP Questions, Third Edition 第1.11.1項参照)。

 本件ドメイン名から「.JP」の部分を除いた部分である「OBAGI」の部分は、 申立人の本件登録商標と同一である。

 したがって、本件ドメイン名は、 申立人が権利又は正当な利益を有する商標その他表示と同一又は混同を引き起こすほど類似していると認められる。

(2)権利または正当な利益

 本件ドメイン名の登録者は「Zhao Ke」であり(甲4)、その氏名には、 「OBAGI」の表記は含まれておらず、また、 申立人が登録者に本件登録商標の使用を許諾した事実も認められない。

 また、登録者は答弁書を提出しておらず、一件記録を検討しても、 処理方針第4条c(ⅰ)乃至(ⅲ)に該当するような登録者の本件ドメイン名に関係する権利又は正当な利益の存在を裏付ける事実や、 権利又は正当な利益の不存在を否定する例外的な事情は認められない。

 したがって、登録者は本件ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有していないと認められる。

(3)不正の目的での登録または使用

 申立人の主張及び提出した証拠によれば、 申立人が本件ブランドの下で、 スキンケア商品について申立人の登録商標を使用して事業を行っていること、 日本においても本件ブランド及び当該事業について一定の周知性を獲得していることが認められる。

 登録者は、2024年9月12日に本件ドメイン名を登録しており(甲4)、 これは申立人の本件登録商標の登録日よりも後のことである(甲3)。 また、本件ドメイン名を使用したウェブサイトは、 「目の下たるみ整形」、「しわたるみスキンケア」及び「クマ目解消」といった、 いわゆる美容関連サービスに関する表示をしている(甲8)。 さらに、当該ウェブサイトの当該表示部分をクリックすると、 美容関連サービスについての宣伝広告が複数表示されるとともに、 「ウェブサイトにアクセス」という文字列が表示され、 当該文字列をクリックすると当該個別の美容関連サービスのページに転送される形となっている(甲9)。

 以上からすると、登録者は、何らかの商業上の利得を得る目的で、 本件ドメイン名を使用したウェブサイト及び当該ウェブサイトに表示されるサービス等について誤認混同を生じさせることを意図して、 本件ドメイン名を使用していることが推認される。

 よって、本件は、処理方針4条b(iv)に規定する、「登録者が、 商業上の利得を得る目的で、 そのウェブサイトもしくはその他のオンラインロケーション、 またはそれらに登場する商品及びサービスの出所、スポンサーシップ、 取引提携関係、推奨関係などについて誤認混同を生ぜしめることを意図して、 インターネット上のユーザーを、 そのウェブサイトまたはその他のオンラインロケーションに誘引するために、 当該ドメイン名を使用しているとき」に該当すると認められる。

 また、本件ドメイン名を使用したウェブサイトにおいては、 「このドメインの購入」、 「ドメインobagi.jpは9200 USDで売り出し中です!」という文字列が表示されている(甲8)。 そして、これらの文字列をクリックすると、 「This domain obaji.jp is for sale!」、「Buy domain」、「Buy Now for 9,200 USD」、「About the seller」、「In 中国」などといった記載のある、 ドメイン名の売買を目的とするウェブサイトに転送されることが認められる(甲10)。

 以上からすると、登録者は、申立人又は第三者に対して、 本件ドメイン名を9200米ドルで販売することを目的として本件ドメイン名を登録していることが推認される。

 よって、本件は、処理方針4条b(i)に規定する、「登録者が、 申立人または申立人の競業者に対して、 当該ドメイン名に直接かかった金額(書面で確認できる金額)を超える対価を得るために、 当該ドメイン名を販売、貸与または移転することを主たる目的として、 当該ドメイン名を登録または取得しているとき」にも該当すると認められる。

 したがって、紛争処理パネルは、登録者の本件ドメイン名が、 不正の目的で登録又は使用されていると考える。

7 結論

 以上に照らして、紛争処理パネルは、 登録者によって登録されたドメイン名「OBAGI.JP」が申立人の商標と混同を引き起こすほど類似し、 登録者が、ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有しておらず、 登録者のドメイン名が不正の目的で登録または使用されているものと判断する。

 よって、処理方針第4条iに従って、 ドメイン名「OBAGI.JP」の登録を申立人に移転するものとし、主文のとおり裁定する。

2025年4月15日
 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
        単独パネリスト    井上葵

別記 手続の経緯

(1)申立書の受領

 日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、 2025年1月31日に申立書(添付する関係書類を含む。)を申立人から電子的送信により受領した。

(2)申立手数料の受領

 センターは、2025年1月29日に申立人より申立手数料を受領した。

(3)ドメイン名及び登録者の確認

 センターは、2025年2月3日にJPRSに登録情報を照会し、 2025年2月3日にJPRSから申立書に記載された登録者が対象ドメイン名の登録者であることを確認する回答並びにJPRSに登録されている登録者の電子メールアドレス及び住所等を受領した。

(4)適式性

 センターは、 2025年2月6日に補正(申立書の記載事項の修正等)が必要と判断してその旨を申立人に通知し、 2025年2月10日に補正書類を受領し、 2025年2月10日に申立書が処理方針と手続規則に照らし適合していることを確認した。

(5)手続開始

 センターは、2025年2月17日に申立人、 JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、手続開始を通知した。 センターは、2025年2月17日に登録者に対し郵送及び電子メールにより、 開始通知を送付した。 開始通知により、登録者に対し、手続開始日(2025年2月17日)、 答弁書提出期限(2025年3月18日)並びに書面の受領及び提出のための手段について通知した。 登録者の住所に送付した通知は「あて所に尋ねあたりありません」として返送された。

(6)答弁書の提出

 センターは、提出期限日までに答弁書を受領しなかったので、 2025年3月19日に「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不提出通知書を、 電子的送信により申立人及び登録者に送付した。

(7)パネルの指名及び裁定予定日の通知

 申立人は、1名のパネルによって審理・裁定されることを選択し、 センターは、2025年3月26日に弁護士 井上 葵を単独パネリストとして指名し、 一件書類を電子的送信によりパネルに送付した。 センターは、2025年3月26日に申立人、登録者、 JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、 指名したパネリスト及び裁定予定日(2025年4月15日)を通知した。 パネルは、2025年3月27日に公正性・独立性・中立性に関する言明書をセンターに提出した。

(8)パネルによる審理・裁定

 パネルは、2025年4月15日に審理を終了し、裁定を行った。