事件番号:JP2025-0005

裁定

申立人:
名称:株式会社アミューズ
住所:山梨県南都留郡 ●(省略)●
代理人:
新井 悟
松嶋 舞花
登録者:
氏名:Miyuki Shinrin
住所:東京新宿区 ●(省略)●

日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針(以下、「処理方針」という。)、JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則(以下、「手続規則」という。)及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立書及び提出された証拠に基づいて審理を遂げた結果、以下のとおり裁定する。

1 裁定主文

ドメイン名「monobright.jp」の登録を申立人に移転せよ。

2 ドメイン名

紛争に係るドメイン名(以下、「本件ドメイン名」という。)は「monobright.jp」である。

3 手続の経緯

別記のとおりである。

4 背景となる事実

 申立人は、アーティストを250名以上抱える芸能事務所であり、映像・番組制作、イベント・舞台製作等のコンテンツ開発、デジタルソリューションの展開等も行う企業である。ロックバンド「モノブライト」(メンバー:桃野 陽介、松下 省伍、出口 博之)は、2006年10月1日から活動休止する2017年まで、申立人との間で専属契約を締結し、申立人に所属していた。

 申立人は、2008年1月18日に登録された商標登録第5105363号「monobright\モノブライト」(以下、「本件商標」という。)の商標権者であり、本件ドメイン名と同一のドメイン名をロックバンド「モノブライト」の公式ウェブサイトのドメイン名として、2013年3月21日から2018年3月31日まで登録及び使用していた。

 本件ドメイン名は、2018年5月1日に登録された。

5 当事者の主張

a 申立人

 申立人は、本件ドメイン名「monobright.jp」が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること、登録者が本件ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと、登録者の本件ドメイン名が不正の目的で登録または使用されていることを主張し、ドメイン名登録の申立人への移転を請求する。

b 登録者

 登録者によって答弁書は提出されなかった。

6 争点および事実認定

A 登録者の不答弁の効果

 本件において、登録者は、答弁書を提出していない。本手続には弁論主義は適用されないが、手続規則は、「もし登録者が答弁書を提出しないときには、例外的な事情がない限り、パネルは申立書に基づいて裁定を下すものとする。」と規定する(手続規則第5条(f))。よって、処理方針第4条a.の(ⅰ)ないし(ⅲ)の各号に関する申立人の主張・立証が明らかに不十分であると判断される例外的な事情がない限り、申立人の主張に従い、本件ドメイン名の登録移転の裁定を下すことが相当である。

B 処理方針第4条a.の各号についての本件パネルの判断

a 適用すべき判断基準

 手続規則第15条(a)は、パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原則についてパネルに次のように指示する。「パネルは、提出された陳述・書類及び審問の結果に基づき、処理方針、本規則及び適用されうる関係法規の規定・原則、ならびに条理に従って、裁定を下さなければならない。」

 そして、処理方針第4条aは、申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図している。

 (1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること

 (2)登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと

 (3)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること

b 紛争処理パネルの判断

 (1)同一または混同を引き起こすほどの類似性

 登録者の本件ドメイン名は、「monobright.jp」であり、欧文字で横書きされている。そして、本件ドメイン名「monobright.jp」のうち、「jp」の部分はトップレベルドメインであって国別コードの日本を意味し、使用主体が属する国を表示させるものにすぎないから、本件ドメイン名において識別力を有する要部は、セカンドレベルドメインである「monobright」の部分であると認められる。

 一方、申立人は、本件商標を2008年1月18日に登録しており、申立人と専属契約を締結した「モノブライト」というロックバンドは、少なくとも2006年10月1日から活動を休止する2017年まで営業活動を行っていたことが認められる(甲第2-1,2-2,2-3号証及び甲第3号証)。また、申立人の主張によれば、、「モノブライト」というロックバンドは、当初バンド名称を、ローマ字小文字の「monobright」と表記していたが、2008年からローマ字大文字「MONOBRIGHT」へ変更、さらに2015年からはカタカナ表記「モノブライト」に変更したとのことである。

 而して、ドメイン名が「申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似している」か否かの判断に当たっては、当該ドメイン名の識別力のある部分と申立人が保有している本件商標の識別力のある部分とを比較すべきである。

 そこで、本件ドメイン名の識別力を有する要部である「monobright」の部分と申立人の本件商標「monobright\モノブライト」を比較する。本件商標は二段併記商標であって、本件ドメイン名の「monobright」の部分と本件商標の「monobright」は同一の表記であって、外観も同一であるし、本件ドメイン名の「モノブライト」という称呼は、本件商標の「モノブライト」と同一である。

 したがって、本件ドメイン名は、本件商標と外観及び称呼を共通とするものであり、全体として、混同を引き起こすほど類似しているというべきである。

 (2)権利または正当な利益

 登録者は個人であり、その氏名には、本件ドメイン名と一致するところがない。また、2025年3月6日時点で、日本国内において、インターネットで「モノブライト」及び「monobright」を検索すると、検索結果の最初にはロックバンドの「モノブライト」が表示される(甲第10号証)。

 登録者は、本件ドメイン名と一致する日本の登録商標を所有しておらず、申立人は、登録者に対して本件ドメイン名を用いることについて許諾していない(甲第6号証)。これらの事実からすれば、登録者は、本件ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないというべきである。

 (3)不正の目的での登録または使用

 申立人は、もともと本件ドメイン名と同一のドメイン名(monobright.jp)を保有し、2013年3月21日から2018年3月31日まで、ロックバンド「モノブライト」の公式ウェブサイトのドメイン名として使用していた(甲第11号証)。2018年、申立人が本件ドメイン名と同一のドメイン名(monobright.jp)の登録を廃止したところ、同年5月1日付で登録者がすぐに本件ドメイン名を取得した(甲第12号証)。

 本件ドメイン名で構成される登録者のウェブサイトでは、申立人が同年3月31日まで運営していた公式ウェブサイトに表示していたメンバーの写真や文章の一部が無断で掲載されており(甲第17号証乃至甲第20号証)、申立人が作成・管理するウェブサイトであるかのような外形が作出されているというべきである。

 また、登録者のウェブサイトでは、「モノブライトの楽曲ネットギャンブルで元気がないときの特効薬!」とのタイトルのニュースが投稿されている(甲第21号証)。当該ニュースの本文中には、「何よりオンラインカジノは、モノブライトの楽曲を聴くときのように、自分の好きな時に遊ぶことができるのは最大のメリット。落ち込んだとき、元気のないとき、24時間365日すぐに遊ぶことができます。特にオンラインギャンブルが好きな方にとってはかなり魅力を感じる部分なのではないでしょうか。」との記載があり(甲第22号証)、「オンラインギャンブルも」の文字列にはリンクが貼られ、当該文字列をクリックするとオンラインカジノの情報サイトへ誘導される仕組みとなっている(甲第23号証及び甲第24号証)。(なお、裁定時においては、甲第22号証乃至同第24号証は閲覧できないが、申立人提出の甲第22号証及びそこから先に進むことのできる状態(甲第23号証及び甲第24号証)に鑑みると、本件オンラインカジノサイトへの誘導の事実は明らかであったと思料する。)。

 申立人に所属するロックバンドと誤認するようなウェブサイトの公開やかかるウェブサイトにおいて不適切なウェブサイトへのリンクを貼り付ける等の登録者の行為は、結果として申立人および申立人に所属するロックバンド「モノブライト」の正常な事業遂行に混乱を生じさせる。

 よって、処理方針第4条b(ⅲ)に規定される「登録者が、競業者の事業を混乱させることを主たる目的として、当該ドメイン名を登録している」という事情に該当するというべきである。

 また、同(iv)の「登録者が、商業上の利得を得る目的で、そのウェブサイトもしくはその他のオンラインロケーション、またはそれらに登場する商品及びサービスの出所、スポンサーシップ、取引提携関係、推奨関係 などについて誤認混同を生ぜしめることを意図して、インターネット上のユーザーを、そのウェブサイトまたはその他のオンラインロケーションに誘引するために、当該ドメイン名を使用しているとき」にも該当するというべきである。

 これらの事実からすれば、本件ドメイン名は、登録者が申立人に売却する目的で取得し、 不正の目的で登録を継続しているものと推認される。

7 結論

 以上に照らして、紛争処理パネルは、登録者によって登録された本件ドメイン名「monobright.jp」が申立人の商標と混同を引き起こすほど類似し、登録者がドメイン名に関係する権利または正当な利益を有しておらず、登録者のドメイン名が不正の目的で登録または使用されているものと判断する。

 よって、処理方針第4条iに従って、ドメイン名「monobright.jp」の登録を申立人に移転するものとし、主文のとおり裁定する。

2025年6月15日
 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
        単独パネリスト    加藤 ちあき

別記 手続の経緯

(1)申立書の受領

 日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、2025年4月9日に申立書(添付する関係書類を含む。)を申立人から電子的送信により受領した。

(2)申立手数料の受領

 センターは、2025年4月10日に申立人より申立手数料を受領した。

(3)ドメイン名及び登録者の確認

 センターは、2025年4月10日にJPRSに登録情報を照会し、2025年4月10日にJPRSから申立書に記載された登録者が対象ドメイン名の登録者であることを確認する回答並びにJPRSに登録されている登録者の電子メールアドレス及び住所等を受領した。

(4)適式性

 センターは、2025年4月12日に申立書が処理方針と手続規則に照らし適合していることを確認した。

(5)手続開始

 センターは、2025年4月17日に申立人、JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、手続開始を通知した。センターは、2025年4月17日に登録者に対し郵送及び電子メールにより、開始通知を送付した。開始通知により、登録者に対し、手続開始日(2025年4月17日)、答弁書提出期限(2025年5月20日)並びに書面の受領及び提出のための手段について通知した。但し登録者宛電子メール送信分については一部が送信不能送信不能であり、登録者の住所に送付した通知は「あて所に尋ねあたりありません」として返送された。

(6)答弁書の提出

 センターは、提出期限日までに答弁書を受領しなかったので、2025年5月21日に「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不提出通知書を、電子的送信により申立人及び登録者に送付した。

(7)パネルの指名及び裁定予定日の通知

 申立人は、1名のパネルによって審理・裁定されることを選択し、センターは、2025年5月27日に弁理士 加藤 ちあきを単独パネリストとして指名し、一件書類を電子的送信によりパネルに送付した。センターは、2025年5月27日に申立人、登録者、JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、指名したパネリスト及び裁定予定日(2025年6月16日)を通知した。パネルは、2025年5月28日に公正性・独立性・中立性に関する言明書をセンターに提出した。

(8)パネルによる審理・裁定

 パネルは、2025年6月15日に審理を終了し、裁定を行った。