事件番号:JP2025-0008

裁定

申立人:
(名称)ジンマー・バイオメット合同会社
(住所)東京都港区 ●(省略)●
代理人:
弁護士 長坂省、
同   古西桜子、
同   佐藤可奈子
登録者:
(氏名)qifeng sun
(住所)東京都新宿区 ●(省略)●

 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、 JPドメイン名紛争処理方針(以下、「処理方針」という。)、 JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則(以下、 「手続規則」という。)及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、 申立書・提出された証拠に基づいて審理を遂げた結果、以下のとおり裁定する。

1 裁定主文

 ドメイン名「zimmerbiomet.jp」の登録を申立人に移転せよ。

2 ドメイン名

 紛争に係るドメイン名(以下、 「本件ドメイン名」という。)は「zimmerbiomet.jp」である。

3 手続の経緯

 別記のとおりである。

4 背景となる事実

 申立人は、米国インディアナ州に本社を有する上場会社であるZimmer Biomet Holdings, Inc. (以下、「申立人親会社」という。)の完全子会社である日本法人であり、 整形外科向け医療機器・器械(以下、「対象製品」という。)の製造、 輸入、販売等を業とする会社である。

 申立人親会社の傘下には、申立人を含め、 多数のグループ会社が存在しており(以下、 「申立人グループ会社」という)、Zimmer, Inc.(以下「ジンマー社」という。)も申立人グループ会社の一部であり、 同グループ内における商標権を含む知的財産等の権利関係を管理する米国法人である。

 ジンマー社は、対象製品を含む指名商品・役務を指定区分として、 2016年7月19日に「ZIMMER BIOMET」の国際商標登録(国際商標登録第1315437号、 以下「本件商標」という。)を受けた(甲5)。

 申立人は、2015年のZimmer Holdings, IncとBiomet, Inc.の合併による申立人親会社の設立に伴い、 2016年に組織再編を経て設立され、 ジンマー社から使用許諾を受けて本件商標を使用し、 現在に至るまで対象製品を販売している(甲2及び甲6)。

 本件ドメイン名は、2019年2月21日に登録された(甲1)。

5 当事者の主張

a 申立人

 申立人の主張は、以下のように整理できる。

 申立人は、かねてより対象製品を輸入・製造し、 ジンマー社から使用許諾を受けた本件商標を用いて本邦内で対象製品の販売をしている。 申立人は自社の紹介を目的とした自社のウェブサイトのURLに「zimmberbiomet.com/ja」を使用し、 従業員の採用を目的とした自社のウェブサイトのURLに「zimmberbiomet.co.jp」を用いてきたが、 今般、自社製品のエンドユーザーである患者向けの情報提供用のウェブサイト用に本件ドメイン名を用いようとしたところ、 同ドメイン名が登録者によって登録されていることが発覚した。 そして、本件ドメイン名のうち出所識別機能を有する「zimmerbiomet」は、 本件商標と混同を引き起こすほど類似している。 すなわち、本件ドメイン名は、 申立人が権利または正当な利益を有する商標と混同を引き起こすほど類似している(処理方針4条a(i))。

 他方で、登録者は登録者名から個人であると推察されるところ、 同人の氏名は本件ドメイン名と一致していない。 また登録者は、本件ドメイン名の出所識別機能を有する部分を用いた商標登録もしていないし、 申立人及び申立人グループは登録者に対して本件商標その他一切の表示等の使用を許諾したこともない。 さらに、登録者は本件ドメイン名をURLとするウェブサイト(以下、 「本件ウェブサイト)という。)を、 ドメイン名の販売を目的としたサイトに登録し、 また広告収入を得ることを目的として運用している反面、 処理方針4条cに規定するいずれの事情もないことから、 登録者はドメイン名に関係する権利も正当な利益も有していない(処理方針4条a(ii))。

 加えて、本件ドメインは10,000米ドルにて売りに出されていたことから、 登録者は本件ドメイン名に直接かかった金額を超える不当に高い対価を得る目的を有していたうえ、 本件ウェブサイトをいわゆるパーキングサイトとして運用し、 広告収入を得ようとしていたことから、 不正の目的で本件ドメイン名を登録、 使用していると(処理方針4条a(iii)、同条b(i)及び同条b(iv))。

 よって、ドメイン名は、申立人の商標と混同を引き起こすほどに類似し、 登録者はドメイン名に関係する権利も正当な利益も有しておらず、 かつドメイン名は不正の目的で登録または使用されている。

 したがって、申立人は、ドメイン名登録の申立人への移転を請求する。

b 登録者

 登録者によって答弁書は提出されなかった。

6 争点および事実認定

a 適用すべき判断基準

 手続規則第15条(a)は、 パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原則についてパネルに次のように指示する。 「パネルは、提出された陳述・書類及び審問の結果に基づき、 処理方針、本規則及び適用されうる関係法規の規定・原則、 ならびに条理に従って、裁定を下さなければならない。」

 処理方針第4条aは、 申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図している。

  1. 登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること
  2. 登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと
  3. 登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること

b 紛争処理パネルの判断

 (1)申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示との同一性または混同を引き起こすほどの類似性

  ア 申立人の本件商標に対する権利または正当な利益

 本件商標の国際商標登録は、 対象製品を含む指名商品・役務を指定区分として、 ジンマー社によって保有されており、同社は申立人に対して、 本件商標の使用を許諾していることから、 申立人は本件商標を使用する正当な権利を有しているものと認められる(甲5及び甲6)。

 また申立人は、 本件商標を用いて対象製品を輸入・製造し本邦にて販売していることや、 同商標を用いて従業員を採用し事業を行っていることから、 本件商標の使用に関して正当な利益を有するものと認められる(甲2の1乃至甲2の3、 甲3の1乃至甲3の3)。

 以上より、申立人の本件商標に対する権利または正当な利益が認められる。

  イ 本件ドメイン名と本件商標との同一性または混同を引き起こすほどの類似性

 本件ドメイン名「zimmerbiomet.jp」は、 「zimmerbiomet」及び「.jp」の語から成るところ、 このうち「.jp」は国別コードの日本を意味し、 使用主体が属する国を表示するものに過ぎず、 出所識別機能を果たすものではない。

 他方、本件ドメイン名のうち「zimmerbiomet」が、 出所識別機能を有するところ、 本件商標との比較では「zimmber」と「biomet」との間のスペースの有無が異なるのみであり、 申立人親会社や申立人の英文会社名の一部であり、 固有名詞であるから、本件商標との類似性は認められる(甲2の1)。

 以上より、 本件ドメイン名は本件商標と混同を引き起こすほどの類似性を有することが認められる。

  ウ 小括

 以上より、本件ドメイン名が、 申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と混同を引き起こすほど類似していることが認められる(処理方針4条a(i))。

(2)登録者の権利または正当な利益

  ア 登録者の本件ドメイン名に関係する権利または正当な利益

 登録者の名称は「qifeng sun」であり、 個人であると推察されるところ、 同人の名称は本件ドメイン名と一致していないことが認められる(甲1)。 また登録者は、 本件ドメイン名の出所識別機能を有する文字列「zimmerbiomet」を用いた商標登録もしておらず、 したがって登録者は「本件ドメイン名に関係する権利」も有していないものと認められる(甲7)。

 次に、2025年2月3日時点で、本件ウェブサイトには、 「このウェブサイトは販売用です!」と表示され、 同ウェブサイトからリンクによって誘導される、 ドメイン名の販売・管理を目的とする別の事業者のウェブサイトにおいて、 本件ドメイン名が10,000米ドルにて売り出されていたことが認められる(甲8の1、 甲8の2、甲9、甲10の1、甲10の2及び甲14)。

 そして、同年4月28日時点において、本件ウェブサイトは、 いわゆるパーキングサイトとして運用されていたことが認められ、 「Zimmer Knee Replacement」、「インプラント」、 「脊柱管狭窄症日帰り治療」など、対象製品に関連する表示がなされ、 これらをクリックすると別の事業者のウェブサイトに誘導されること、 本件ウェブサイトのソースにはGoogle AdSenseのコードが組み込まれており、 広告収入の発生が意図されていたことが認められる(甲8の3、甲11)。

 すなわち登録者は、 本件ドメイン名に関連する製品の製造・販売や役務提供など実体のある事業を行っているのではなく、 本件ドメイン名そのものの販売を試み、または、 申立人親会社及び申立人を含む申立人グループの提供する製品や役務提供に興味を持った本件ウェブサイトの閲覧者を別の事業者のウェブサイトに誘導することで広告収入を得ようとしていたと認められる。

 以上より、 登録者が本件ドメイン名に関し「権利」も「正当な利益」のいずれも有していないことが認められる。

  イ 処理方針4条cに規定する事情

 処理方針4条cは、 同条項(i)乃至(iii)に規定する事情がある場合には「登録者は当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していると認めなければならない。」と規定しているため、 以下に、同条に規定する事情の存否を検討する。

 まず、 登録者による本件ドメイン名をURLとする本件ウェブサイトの運用状況は上記のとおりであり、 「(i) 登録者が、当該ドメイン名に係わる紛争に関し、 第三者または紛争処理機関から通知を受ける前に、 商品またはサービスの提供を正当な目的をもって行うために、 当該ドメイン名またはこれに対応する名称を使用していたとき、 または明らかにその使用の準備をしていた」事情、 及び「(iii)登録者が、 申立人の商標その他表示を利用して消費者の誤認を惹き起こすことにより商業上の利得を得る意図、または、 申立人の商標その他表示の価値を毀損する意図を有することなく、 当該ドメイン名を非商業的目的に使用し、 または公正に使用している」事情は認められない。

 次に、登録者の名称は上記のとおり「qifeng sun」であり、 「(ii)登録者が、商標その他表示の登録等をしているか否かにかかわらず、 当該ドメイン名の名称で一般に認識されていた」との事情も認められない。

 したがって、本件ドメインに関して、 処理方針4条cに規定するいずれの事情も認められない。

  ウ 小括

 以上より、処理方針4条cに規定するいずれの事情も認められないことから、 登録者が、 当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないことが認められる(処理方針4条a(ii))。

(3)登録者による当該ドメイン名の不正の目的での登録または使用

 処理方針4条bは、 同条項の(i)乃至(iv)に規定する事情が認められる場合には、 「当該ドメイン名の登録または使用は、 不正の目的であると認めなければならない。」と規定しているところ、 本件においては以下に述べるとおり同条項(i)及び(iv)の事情が認められるため、 不正の目的が認められる。

  ア (i) 登録者が、 当該ドメイン名に直接かかった金額(書面で確認できる金額)を超える対価を得るために、 当該ドメイン名を販売、貸与または移転することを主たる目的として、 当該ドメイン名を登録または取得している事情

 前記6b(2)アにおいて認定したとおり、登録者は、 2025年2月3日時点で、 本件ウェブサイトをドメイン名の販売・管理を目的とする別の事業者の運営するウェブサイトを用いて、 10,000米ドル(2025年2月3日時点の為替相場である1ドル=約155円によると、 日本円で約155万円相当)にて売り出していたことが認められる(甲8の1、 甲8の2、甲9、甲10の1、甲10の2及び甲14)。

 登録者が本件ドメイン名の登録・維持のために直接、 出捐した費用の金額は、明らかではないが、 上記10,000米ドルと比較すれば僅少であると考えるのが合理的である。

 以上より、登録者が、 本件ドメイン名に直接かかった金額を超える対価を得るために、 本件ドメイン名を販売、貸与または移転することを主たる目的として、 当該ドメイン名を登録または取得している事情が認められる。

  イ (iv) 登録者が、商業上の利得を得る目的で、 商品及びサービスの出所などについて誤認混同を生ぜしめることを意図して、 ユーザーをその他のオンラインロケーションに誘引するために、 当該ドメイン名を使用している事情

 前記6b(2)アにおいて認定したとおり、登録者は、 同年4月28日時点において、 本件ウェブサイトをいわゆるパーキングサイトとして運用していたことが認められ(甲8の3、 甲11)、申立人親会社及び申立人を含む申立人グループの提供している製品や役務提供に興味を持った本件ウェブサイトの閲覧者を別の事業者のウェブサイトに誘導することで広告収入を得ようとしていたものと認められる。

 また、同サイトには「Zimmer Knee Replacement」など本件商標の一部を用いた製品名も掲載されていたことから、 登録者が商品及びサービスの出所などについて、 閲覧者に誤認混同を与えることを意図していたことも窺われ、加えて、 本件ウェブサイトのドメイン名が本件商標と混同を引き起こすほど類似し、 掲載されていた商品や役務提供の種類が申立人親会社及び申立人を含む申立人グループの提供する対象製品と類似・関連することからも、 これらの出所に誤認混同が生じることを意図していたと理解するのが合理的である。

 以上より、登録者が広告収入という商業上の利得を得る目的で、 商品及びサービスの出所につき誤認混同を生じさせ、 他のオンラインロケーションに誘引する目的で本件ウェブサイトを運用していたものと認められる。

  ウ 小括

 以上のとおり、登録者による本件ドメイン名の運用状況からは、 処理方針4条bの(i)及び(iv)に規定する事情が認められる結果、 登録者による本件ドメイン名の登録または使用は、 不正の目的によるものであると認められる。

7 結論

 以上に照らして、紛争処理パネルは、 登録者によって登録されたドメイン名「zimmerbiomet.jp」が申立人の権利または正当な利益を有する商標と混同を引き起こすほど類似し、 登録者がドメイン名に関係する権利または正当な利益を有しておらず、 登録者のドメイン名が不正の目的で登録または使用されているものと判断する。

 よって、処理方針第4条iに従って、 ドメイン名「zimmerbiomet.jp」の登録を申立人に移転するものとし、 主文のとおり裁定する。

2025年7月22日
 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
        単独パネリスト    松本 はるか

別記 手続の経緯

(1)申立書の受領

 日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、 2025年5月23日に申立書(添付する関係書類を含む。)を申立人から電子的送信により受領した。

(2)申立手数料の受領

 センターは、2025年5月23日に申立人より申立手数料を受領した。

(3)ドメイン名及び登録者の確認

 センターは、2025年5月26日にJPRSに登録情報を照会し、 2025年5月26日にJPRSから申立書に記載された登録者が対象ドメイン名の登録者であることを確認する回答並びにJPRSに登録されている登録者の電子メールアドレス及び住所等を受領した。

(4)適式性

 センターは、 2025年5月26日に申立書が処理方針と手続規則に照らし適合していることを確認した。

(5)手続開始

 センターは、2025年5月29日に申立人、 JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、手続開始を通知した。 センターは、2025年5月29日に登録者に対し郵送及び電子メールにより、 開始通知を送付した。開始通知により、登録者に対し、 手続開始日(2025年5月29日)、 答弁書提出期限(2025年6月26日)並びに書面の受領及び提出のための手段について通知した。 但し、登録者の住所に送付した通知は「あて所に尋ねあたりありません」として返送された。

(6)答弁書の提出

 センターは、提出期限日までに答弁書を受領しなかったので、 2025年6月27日に「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不提出通知書を、 電子的送信により申立人及び登録者に送付した。

(7)パネルの指名及び裁定予定日の通知

 申立人は、1名のパネルによって審理・裁定されることを選択し、 センターは、2025年7月3日に弁護士 松本 はるかを単独パネリストとして指名し、 一件書類を電子的送信によりパネルに送付した。 センターは、2025年7月3日に申立人、登録者、 JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、 指名したパネリスト及び裁定予定日(2025年7月24日)を通知した。 パネルは、 2025年7月4日に公正性・独立性・中立性に関する言明書をセンターに提出した。

(8)パネルによる審理・裁定

 パネルは、2025年7月22日に審理を終了し、裁定を行った。