事件番号:JP2025-0010

裁定

申立人:
The Founders Inc.
(住所)Contact details omitted, Seoul, Republic of Korea
代理人:
弁護士 相良 由里子
登録者:
播磨谷 二朗
(住所)大阪市●(省略)●

 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針(以下、「処理方針」という。)、JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則(以下、「手続規則」という。)及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立書において提出された証拠に基づいて審理を遂げた結果、以下のとおり裁定する。

1 裁定主文

 ドメイン名「ANUA.JP」の登録を申立人に移転せよ。

2 ドメイン名

 紛争に係るドメイン名(以下、「本件ドメイン名」という。)は「ANUA.JP」である。

3 手続の経緯

 別記のとおりである。

4 背景となる事実

 申立人は、大韓民国において2018年4月に設立された法人であり、ドクダミ、水分チャージのシラカバ等の植物成分を配合したスキンケア製品等を販売している(甲第1号証乃至4号証)。

 申立人は2019年11月に日本に進出し、現在韓国、日本、米国等で事業を展開している(甲第2、3号証)。

 また、申立人は我国において「Anua」「アヌア」の商標や商品等表示を使用して上記商品を販売しているほか、「Anua」の文字から成る標章について我国においても登録商標につき商標権を有している(甲第4号証、5号証)。

(1) 商標    Anua

登録番号   第6318266号

出願日    2020年1月7日

登録日    2020年11月18日

(2)商標     Anua

国際登録番号 第1787771号

出願日    2024年3月5日

国際登録日  2024年3月15日

本件ドメイン名は2024年9月1日に登録されている。

5 当事者の主張

a 申立人

 申立人の主張は、整理・要約すると、以下のとおりとなる。

 申立人は、大韓民国のスタートアップ企業であるが、上記のように2019年11月からは日本や米国等にも進出して、その年間売上高は400億円を突破し、2023年下半期から化粧品の口コミランキングの総合化粧水部門バラエティー・ドラッグストア1位を連覇するなどの人気がある。また申立人の日本の子会社に日本語の公式オンラインストアサイトを運用させており、2024年10月には人気アイドルを起用したCMを行うなど、積極的な販促活動を行っており、「Anua」なる商標及び商品等表示は日本においても良く知られている。

 さらに申立人は、日本において下記のような「Anua」の文字のみから成る商標に商標登録を行っている。

登録番号 商標 出願日 登録日/国際登録日
6318266 Anua 2020/1/7 2020/11/18
国際登録
1787771
Anua 2024/3/5 2024/3/15

 相手方は本件ドメイン名を取得しているが、

  ①本件ドメイン名は申立人の登録商標及び広く知られた商品等表示と混同を引き起こすほど類似しており

  ②登録者が当該ドメインに関する権利または正当な利益を有しないこと

  ③登録者のドメイン名が不正の目的で登録または使用されていること

 は明らかであるから、処理方針4条のaの各要件を充足しており、本件ドメイン名について移転の裁定が下されるべきである。

b 登録者

 登録者によって答弁書は提出されなかった。

6 争点および事実認定

a 適用すべき判断基準

 手続規則第15条(a)は、パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原則についてパネルに次のように指示する。

「パネルは、提出された陳述・書類及び審問の結果に基づき、処理方針、本規則及び適用されうる関係法規の規定・原則、ならびに条理に従って、裁定を下さなければならない。」

処理方針第4条aは、申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図している。

(1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること

(2)登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと

(3)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること

b 紛争処理パネルの判断

 よって、申立人において、処理方針第4条のaの上記(1)乃至(3)に規定された各事実を証明されるに足りる主張及び証拠を提出しているかにつき判断する。

 (1)同一又は混同を引き起こすほど類似しているか否か。

 イ.申立人の商標は「Anua」なる文字標章から成る商標について商標権を有しており(甲第4号証、5号証)。各登録商標につき、「権利」又は「正当な利益」を有している(以下、これらの登録商標について「本件登録商標」といい、本件登録商標に係る商標権を「本件商標権」という)。

 ロ.本件ドメイン名と本件登録商標が混同を引き起こすほど類似しているかについて検討する。

 (イ)本件ドメイン名と本件登録商標との間の構成の類似

 ①本件ドメイン名のうち、トップレベル・ドメインである「jp」は日本国を示すコードである、したがって、それ自体何らの識別機能を有しない。

 ②そうすると、本件ドメイン名のうち、識別機能を有するのは「ANUA」の部分であり、これは本件登録商標「Anua」とはその外観、称呼が同一もしくはきわめて類似しており、その時期と場所とを異にして両者を観察すれば、需要者(又は看者)が両者そのもの混同するか、もしくはこれによって識別される商品や役務の間に混同を生じるほど類似している。

 (ロ)申立人は、現在、我国において本件登録商標もしくはこれと称呼において類似する「アヌア」なる商品等表示(以下これを「本件商品等表示」)を使用して前記商品等の販売を行っており、その商品の販売量、年間売上高、あるいはその広告の量や質等に鑑みれば、少なくとも、その需要者にとっては、本件登録商標及び本件商品等表示は周知性を獲得していると推測される。

 そして本件商品等表示と本件ドメイン名の要部(識別性のある部分)とは「アヌア」なる称呼が同一または類似する。

 そうすると、本件ドメイン名は、申立人の上記本件登録商標および周知な本件商品等表示は、混同を生ずるほど類似している。

 (ハ)申立人は、現在SNSのXに日本語のアカウントを開設しているが、そのアカウント名は「anua.jp」であり、このアカウント名と本件ドメイン名との間にも「表示(識別標識)」として混同を引き起こすなど類似している。

 (ニ)小括

 以上のように、登録者のドメイン名が、申立人が正当な権利または利益を有する本件登録商標及び周知な本件商品等表示と同一または混同を引き起こすほど類似している。

(2)権利または正当な利益

 イ.登録者の商標とドメイン名の不一致

 登録者の氏名は播磨谷二朗であり、本件ドメイン名の「ANUA.JP」とは一致するところはない。

 また、登録者が本件ドメイン名と同一又は類似する商号又は商品等表示を使用する事実や本件ドメイン名と同一又は類似する名称や表示で一般に認識されている事実は認められない。

 ロ、また、申立人は登録者に対して、本件登録商標または本件商品等表示の使用を許諾したことはない。

 ハ.登録者は本件ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していることの主張及び証明をしていない。すなわち登録者は申立人の申立書による申立に対して、期日までに答弁書を提出せず、「登録者がドメイン名に関する権利または正当な利益を有している」ことについて、何らの主張・立証も行っていない。

 ニ.小括

 以上のように、登録者は、本件ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないと判断しうる。

(3)不正の目的での登録または使用

 イ.申立人の本件登録商標及び本件商品等表示の顕著性

 (イ)申立人がウェブサイト上で一般に説明している本件登録商標の選択の経緯は、以下のとおりである。

 「『アヌア』というブランド名は、2つのAが『Ask(尋ねる)』と『Answer(応える)』を意味し、顧客の声に耳を傾け、的確な解決策を提供する姿勢を表している。NとUは、数学の概念であり、『交差』と『和集合』に由来し、肌への『やさしさ』と『効果実感』を両立させるブランド理念を象徴している」(甲第2号証)

 この説明によれば、本件登録商標及び本件商品等表示の「Anua」「アヌア」はいずれも申立人が上記のような背景で選択した造語商標(造語商品等表示)であると考えられる。また、一般にも本件「anua」「アヌア」は一般的用語(ディクショナリーワード)ではない。

 したがって申立人の本件登録商標・本件商品等表示には、その構成的にも顕著性があり、強い識別力がある。

 (ロ)他方、本件ドメイン名を構成する「ANUA」なる、文字商標は、特定の商品や役務を識別するために選択されたものであるか否か疑わしく、実際に特定の商品又は役務を識別するための出所識別標識として使用されているわけではなく、また、登録者も上記のような文字列をドメイン名として選択した動機や目的を何ら主張立証していない。

 ロ.本件ドメイン名の登録時期と申立人の本件登録商標及び本件商品等表示の周知性

 (イ)申立人は2019年11月に我国に進出以来、営業努力を重ね、「2024年は売上高として400億円を突破」し、その売上高は事業開始後5年間で売り上げは65倍に成長したと主張している。(甲2号証)、また、さらに2024年10月ごろからは、有名タレントを起用して、テレビCMを行うなど、その販売する商品及び事業の広告宣伝に相当の営業努力を払っていることがうかがわれる(甲第2号証、甲第3号証)。

 以上のような申立人の活動により、本件ドメイン名が登録された2024年9月から10月ころには申立人の本件登録商標や本件商品等表示は我国の化粧品需要者を中心とした消費者の間で相当程度の周知性を獲得していたものと推定される。

 (ロ)従って、登録者が2024年9月ごろには、前記のように本件ドメイン名を申立人の本件登録商標や周知な本件商品等表示との間に混同を生じる可能性は十分予想できた。

 ハ.小括

 しかるに登録者が本件ドメイン名を登録することにより、本件ドメイン名と申立人の本件登録商標及び本件商品等表示の間に混同のおそれが生じる可能性を予見していたか、少なくとも予見することが可能であったと推測することができる。また、登録者には、本件ドメイン名に関係する権利や正当な利益がなく、登録者が「ANUA」を選択した動機や目的が明らかでない。しかるに登録者が本件ドメイン名を登録したことは、上記のような混同が生じる虞があることを認識・認容し、それによって、申立人の事業の妨害や需要者らの困惑の惹起等の不正の目的で本件ドメイン名の登録を行っているものと判断する。

7 結論

 以上に照らして、紛争処理パネルは、登録者によって登録されたドメイン名「ANUA.JP」が申立人の商標と混同を引き起こすほど類似し、登録者が、ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有しておらず、登録者のドメイン名が不正の目的で登録または使用されているものと判断する。

 よって、処理方針第4条に従って、ドメイン名「ANUA.JP」の登録を申立人に移転するものとし、主文のとおり裁定する。

2025年10月9日
 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
        単独パネリスト 松 村  信 夫

別記 手続の経緯

(1)申立書の受領

 日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、2025年8月15日に申立書(添付する関係書類を含む。)を申立人から電子的送信により受領した。

(2)申立手数料の受領

 センターは、2025年8月19日に申立人より申立手数料を受領した。

(3)ドメイン名及び登録者の確認

 センターは、2025年8月19日にJPRSに登録情報を照会し、2025年8月19日にJPRSから申立書に記載された登録者が対象ドメイン名の登録者であることを確認する回答並びにJPRSに登録されている登録者の電子メールアドレス及び住所等を受領した。

(4)適式性

 センターは、2025年8月19日に申立書が処理方針と手続規則に照らし適合していることを確認した。

(5)手続開始

 センターは、2025年8月22日に申立人、JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、手続開始を通知した。センターは、2025年8月22日に登録者に対し郵送及び電子メールにより、開始通知を送付した。開始通知により、登録者に対し、手続開始日(2025年8月22日)、答弁書提出期限(2025年9月22日)並びに書面の受領及び提出のための手段について通知した。

(6)答弁書の提出

 センターは、提出期限日までに答弁書を受領しなかったので、2025年9月24日に「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不提出通知書を、電子的送信により申立人及び登録者に送付した。

(7)パネルの指名及び裁定予定日の通知

 申立人は、1名のパネルによって審理・裁定されることを選択し、センターは、2025年9月30日に弁護士 松村 信夫を単独パネリストとして指名し、一件書類を電子的送信によりパネルに送付した。センターは、2025年9月30日に申立人、登録者、JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、指名したパネリスト及び裁定予定日(2025年10月21日)を通知した。パネルは、2025年9月30日に公正性・独立性・中立性に関する言明書をセンターに提出した。

(8)パネルによる審理・裁定

 パネルは、2025年10月9日に審理を終了し、裁定を行った。