事件番号:JP2025-0011
裁定
- 申立人:
-
(名称)シャネル合同会社
(住所)東京都中央区●(省略)● - 代理人:
- 弁護士佐藤力哉、弁護士石戸あかね、弁護士櫛田沙希
- 登録者:
-
(氏名)伊藤美加子
(住所)奈良県●(省略)● - 代理人:
- なし
日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、 JPドメイン名紛争処理方針(以下、「処理方針」という。)、 JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則(以下、 「手続規則」という。)及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、 申立書・提出された証拠に基づいて審理を遂げた結果、 以下のとおり裁定する。
1 裁定主文
ドメイン名「CHANELNEXUSHALL.JP」の登録を申立人に移転せよ。
2 ドメイン名
紛争に係るドメイン名(以下、 「本件ドメイン名」という。)は「CHANELNEXUSHALL.JP」である。
3 手続の経緯
別記のとおりである。
4 背景となる事実
申立人は、 スイス法人シャネル・エス・アー・エール・エル(以下「シャネル社」という。)の関連会社として、 日本において「CHANEL」との表示を用いて、化粧品、香水、香料、 化粧道具等の製造、販売、供給及び輸出入等を行う会社である。 また申立人は、 シャネル社の保有する商標第5140747号及び商標第4964604号の商標について同社の許諾を得て、 「CHANEL」との表示を日本国内においてその指定商品及び指定役務に使用する権利を有する(甲2の1、甲2の2、甲3の1から4)。
本件ドメイン名は、2022年2月1日に登録された。
5 当事者の主張
a 申立人
申立人の主張は以下のように、整理できる。
申立人が事業に使用する「CHANEL」(シャネル)及び申立人が運営しているシャネル・ネクサス・ホール(以下「申立人ホール」という。)の名称「CHANEL NEXUS HALL」という表示は、 日本において周知著名な商品表示及び営業表示である。 本件ドメイン名の要部「CHANEL」は申立人の表示と一致する。 また、本件ドメイン名は、 申立人の営業表示として周知著名な申立人ホールの名称「CHANEL NEXUS HALL」のスペース部分を形式的に詰め、 国別コードの日本を意味し、 使用主体が属する国を表示するものに過ぎないトップレベルドメインの「JP」を組み合わせたものにすぎない。 登録者は、 本件ドメイン名に関係する登録商標等を有するなどしていないにもかかわらず、 本件ドメイン名を用いたウェブサイトにおいて、 申立人のウェブサイトで使用されていた画像を含むコンテンツを無断で使用して申立人ホールの紹介をし、 またオンラインカジノのサイトへのリンクを含むオンラインカジノの解説記事を掲載した。 これらの事実から、登録者には、 申立人ホールに関心のある者を不当に誘引し、 申立人との関係があるかのように誤認混同を生ぜしめ、 オンラインカジノサイトへ誘導することで商業上の利得を得ようとする意図が推認される。
よって、ドメイン名は、申立人の商標と混同を引き起こすほどに類似し、 登録者はドメイン名に関係する正当な利益を有しておらず、 ドメイン名は不正の目的で登録または使用されている。
従って、申立人は、ドメイン名登録の申立人への移転を請求する。
b 登録者
登録者によって答弁書は提出されなかった。
6 争点および事実認定
a 適用すべき判断基準
手続規則第15条(a)は、 パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原則についてパネルに次のように指示する。 「パネルは、提出された陳述・書類及び審問の結果に基づき、処理方針、 本規則及び適用されうる関係法規の規定・原則、ならびに条理に従って、 裁定を下さなければならない。」
処理方針第4条aは、 申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図している。
- 登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること
- 登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと
- 登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること
b 紛争処理パネルの判断
(1)同一又は混同を引き起こすほど類似しているか否か。
申立人は、 日本において「CHANEL」との表示を用いて事業活動を行っており、 また当該表示の使用について、 商標権者たるシャネル社から許諾を得ていることから、 当該表示について権利または正当な利益を有するといえる(甲2の1、 甲2の2、甲3の1から4)。 本件ドメイン名は「CHANELNEXUSHALL.JP」であるところ、このうち、 「NEXUS」は結びつき等を意味する英単語、 「HALL」はホール等を意味する英単語であり、 いずれも一般的に使用されているありふれた表示である。 また「.jp」は国別コードを示すトップレベルドメインであり、 使用主体が属する国を示すに過ぎない。 そのため、本件ドメイン名において、「NEXUS」「HALL」、 「JP」の部分は特段の識別力を持たないものといえるが、 これらを除外した本件ドメイン名の「CHANEL」の部分は、 申立人が権利または正当な利益を有する表示「CHANEL」と完全に一致する。
従って、 本件ドメイン名は申立人が権利または正当な利益を有する商標その他の表示と同一または混同を引き起こすほど類似しているといえる。
(2)権利または正当な利益
登録者が本件ドメイン名に関して権利または正当な利益を有するかであるが、 登録者の名前と本件ドメイン名とは一致せず、 何らの関係性も見いだせない。 また、登録者が本件ドメイン名と同一又は類似の文字列を含む日本の商標登録を有する事実はうかがえず(甲9)、 申立人が、「CHANEL」との表示及びこれを含む「CHANELNEXUSHALL」について登録者にライセンスを付与した事実も、 何らかの関係があるとの事実もない。 さらに、 登録者が本件ドメイン名の名称で一般に認識されているという事実も見当たらない。
従って、 登録者は本件ドメイン名に関する権利または正当な利益を有していないといえる。
(3)不正の目的での登録または使用
申立人は、2004年12月に申立人ホールの運営を開始し(甲4)、 展覧会等のプログラムを開催していたが、 2016年に「chanelnexushall.jp」という本件ドメイン名と同一のドメイン名を登録し(甲8)、 当該ドメイン名を用いたウェブサイト(以下「申立人旧サイト」という。)において、 申立人ホールの広告宣伝を行っていた(甲7の1から3まで)。 申立人は、その後、 新たにドメイン名「nexushall.chanel.com」を用いたウェブサイト(以下「申立人新サイト」という。)を立ち上げ、 申立人ホールの宣伝広告等を申立人新サイトに移行して行うようになり、 申立人登録にかかる「chanelnexushall.jp」は2021年12月末に期間満了により失効した。
登録者は、2022年2月1日に本件ドメイン名の登録をした。 登録者は、 本件ドメイン名を用いたウェブサイト(以下「本件サイト」という。)において、 申立人が申立人旧サイト運営時に使用していた画像を含む一部のコンテンツを申立人に無断で使用し、 申立人ホールの紹介をしている(甲11の1から6まで)。 また登録者は、 本件サイトにおいて、オンラインカジノの解説記事をも掲載している(甲12)。 当該記事においては、 オンラインカジノのおすすめサイト(甲13)に誘導するリンクが設定されているところ(甲14)、 リンク先のサイトでは多数のオンラインカジノの公式サイトが紹介され、 それぞれの公式サイトに誘導するリンクも設定されている。
申立人の表示「CHANEL」は周知著名性を有する商標であるところ(甲2)、 当該表示と同一または混同を引き起こすほど類似し、 かつ申立人が過去に申立人旧サイトの運営のために使用していたドメイン名と同一のドメイン名を登録し、 使用することは、 申立人旧サイトで使用されていた一部のコンテンツを無断で使用するという態様から見ても、 申立人又は申立人ホールに関心のある者との関係で、 登録者が申立人又は申立人の関連会社である旨ないし申立人との間に緊密な取引関係を有する者である旨の誤認を生ぜしめ、 申立人の事業に混乱をもたらす不正な目的を持つものであるといえる。 また、本件サイトに掲載されるオンラインカジノの解説記事において、 オンラインカジノのサイトへ誘導するリンクが設定されていることに鑑みると、 申立人の表示の著名性が有する誘引力を不正に利用して、 インターネット上のユーザーをオンラインカジノのサイトへ誘導し、 商業上の利益を得ようとする目的もうかがえる。
従って、登録者の当該ドメイン名は、 不正の目的で登録または使用されているものといえる。
7 結論
以上に照らして、紛争処理パネルは、 登録者によって登録されたドメイン名「CHANELNEXUSHALL.JP」が申立人の商標と混同を引き起こすほど類似し、 登録者が、ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有しておらず、 登録者のドメイン名が不正の目的で登録または使用されているものと判断する。
よって、処理方針第4条iに従って、 ドメイン名「CHANELNEXUSHALL.JP」の登録を申立人に移転するものとし、 主文のとおり裁定する。
2025年11月5日
日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
単独パネリスト 木村 育代
別記 手続の経緯
(1)申立書の受領
日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、 2025年8月29日に申立書(添付する関係書類を含む。)を申立人から電子的送信により受領した。
(2)申立手数料の受領
センターは、2025年8月29日に申立人より申立手数料を受領した。
(3)ドメイン名及び登録者の確認
センターは、2025年8月29日にJPRSに登録情報を照会し、 2025年8月29日にJPRSから申立書に記載された登録者が対象ドメイン名の登録者であることを確認する回答並びにJPRSに登録されている登録者の電子メールアドレス及び住所等を受領した。
(4)適式性
センターは、 2025年9月4日に申立書が処理方針と手続規則に照らし適合していることを確認した。
(5)手続開始
センターは、2025年9月5日に申立人、 JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、手続開始を通知した。 センターは、2025年9月5日に登録者に対し郵送及び電子メールにより、 開始通知を送付した。 開始通知により、登録者に対し、手続開始日(2025年9月5日)、 答弁書提出期限(2025年10月7日)並びに書面の受領及び提出のための手段について通知した。 但し登録者宛電子メール送信分については一部が送信不能であり、 登録者の住所に送付した通知は「あて所に尋ねあたりありません」として返送された。
(6)答弁書の提出
センターは、提出期限日までに答弁書を受領しなかったので、 2025年10月8日に「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不提出通知書を、 電子的送信により申立人及び登録者に送付した。
(7)パネルの指名及び裁定予定日の通知
申立人は、1名のパネルによって審理・裁定されることを選択し、 センターは、 2025年10月15日に弁護士 木村 育代を単独パネリストとして指名し、 一件書類を電子的送信によりパネルに送付した。 センターは、2025年10月15日に申立人、登録者、 JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、 指名したパネリスト及び裁定予定日(2025年11月5日)を通知した。 パネルは、 2025年10月16日に公正性・独立性・中立性に関する言明書をセンターに提出した。
(8)パネルによる審理・裁定
パネルは、2025年11月5日に審理を終了し、裁定を行った。