事件番号:JP2025-0012
裁定
- 申立人:
-
(名称)マカフィー, エルエルシー
(住所)アメリカ合衆国 カリフォルニア州 ●(省略)● - 代理人:
-
弁理士 加藤 勉
弁理士 今井 雅夫 - 登録者:
- (氏名)Sakatani Yasutaka
- 公開連絡窓口の名称及び住所:
- (名称) Whois情報公開代行サービス by お名前.com
日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針(以下、「処理方針」という。)、JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則(以下、「手続規則」という。)及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立書・提出された証拠に基づいて審理を遂げた結果、以下のとおり裁定する。
1 裁定主文
ドメイン名「MCAFEE.JP」の登録を申立人に移転せよ。
2 ドメイン名
紛争に係るドメイン名は「MCAFEE.JP」(以下「本件ドメイン名」という)である。
3 手続の経緯
別記のとおりである。
4 背景となる事実
申立人は、コンピュータセキュリティ関連ソフトウェアの製造及び販売等に係る事業を行う米国法人であり、1999年6月4日に登録された商標第4278694号、第4278695号、及び、2011年7月29日に国内登録された国際登録第1021981号の商標権者である。
本件ドメイン名は、2023年8月1日に登録された。
5 当事者の主張
a 申立人
申立人の主張の概要は、以下のとおりである。
(1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること
(i) 申立人は、アメリカ合衆国カリフォルニア州サンタクララに本社があるコンピュータセキュリティ関連のソフトウェアとハードウェアを製作・販売する会社で、コンピュータセキュリティ関連のベンダーとして世界一の規模を有する。2013年に日本の市場の占有率で1位となったマカフィー・セキュリティー・アプライアンス「McAfee Network Security Platform」をはじめ、申立人の商品には「McAfee」の名称が使用されている。「マカフィーの名称は、「ノートン」と並ぶ世界を代表するセキュリティソフトとして、国内の業界関係者の間で周知・著名となっており、申立人は、コンピュータセキュリティ関連のベンダーとして世界的に広く知られていた。また、申立人は、本件ドメイン名の登録日以前より、日本において、黒色の横長長方形の背景内に「MCAFEE」と横書きしてなる商標登録第4278694号、標準文字で「マカフィー」と横書きしてなる商標登録第4278695号、及び、「M」の盾図形と欧文字「McAfee」からなる国際登録第1021981号(以下、これらを総称して「本件商標」という)を、遅くとも2011年7月29日から所有している。
(ii) 本件ドメイン名「MCAFEE.JP」の主たる識別記号である「MCAFEE」部分(第2レベルドメイン)から、「マカフィー」の称呼と、「商標権者であるマカフィー,エルエルシーの略称」の観念が生ずる。従って、本件ドメイン名は、本件商標と混同を引き起こすほど類似している。
(2)登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと
(i) 本件ドメイン名は、申立人以外の名義において、2023年8月1日にJPRSに登録され、その登録日は、本件商標の登録日よりも後である。
(ii) 登録者および登録者が何の業務を行っているかは不明である
(iii) 「MCAFEE」は、英語の辞書に掲載されていない語であり、造語として理解されるところ、登録者が当該造語を独自に案出したとは考え難い。
(iv) 申立人は、本件ドメイン名の登録を登録者に許諾したことはない。
(3)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること
(i) 申立人と何ら関係の無い登録者が何らかの業務を立ち上げたとき、その業務に関連する商品・役務を販売し提供するホームページで本件ドメイン名を使用するならば、本件ドメイン名は、申立人の本件商標の持つ周知著名性および高い顧客吸引力を利用して、需要者を自己のホームページへ誘導し、または、申立人の直販・提供する商品・役務であるかのごとく需要者を誤認させ、利を得る意図で使用されていると言うべきである。
(ii) 一方、本件ドメイン名が使用されておらず、単に保持されているのみであるならば、申立人の本件商標の持つ周知著名性および高い顧客吸引力を考慮した場合、不正の目的での登録とみなされるべきである。
よって、ドメイン名は、申立人の商標と混同を引き起こすほどに類似し、登録者はドメイン名に関係する正当な利益を有しておらず、ドメイン名は不正の目的で登録または使用されている。
従って、申立人は、ドメイン名登録の申立人への移転を請求する。
b 登録者
登録者によって答弁書は提出されなかった。
6 争点および事実認定
a 適用すべき判断基準
手続規則第15条(a)は、パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原則についてパネルに次のように指示する。「パネルは、提出された陳述・書類及び審問の結果に基づき、処理方針、本規則及び適用されうる関係法規の規定・原則、ならびに条理に従って、裁定を下さなければならない。」
処理方針第4条aは、申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図している。
(1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること
(2)登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと
(3)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること
本件では、登録者が答弁書を提出しなかった。例外的な事情がない限り、パネルは申立書に基づいて裁定を下すものとされる(手続規則第5条(f))。一方で、処理方針第4条aは、申立人に対して上記(1)~(3)のすべてを立証する義務を課している。そのため、仮に答弁書が不提出であったとしても、パネルが申立書に基づき事実の認定等を行ったうえで裁定を下すことになる。よって、以下各要件について検討する。
b 紛争処理パネルの判断
(1)同一又は混同を引き起こすほどの類似性
甲第2号証乃至第5号証からは、申立人が、我が国において、欧文字「MCAFEE」(大文字小文字の差異を含む)、又は、その読み方「マカフィー」を主たる構成要素とする本件商標を、第9類及び第42類(コンピュータソフトウェア関連商品及び役務)において、1999年6月4日(商標登録第4278694号及び第4278695号)、及び、2011年7月29日(国際登録第1021981号)に、それぞれ商標登録し、これらが現在も有効に存在すること、甲第6号証及び第7号証からは、申立人が当該指定商品に、本件商標と同一又は類似する商標を現在も使用していること、甲第6号証乃至第9号証からは、申立人の事業に係る公式サイトに「mcafee.com」のURLが使用されていること、申立人のセキュリティソフトに「McAfee」(1文字目の「M」と3文字目の「A」が大文字で、他の文字は小文字で表記)が使用されていることが認められる。
上記事実より、申立人は「MCAFEE」について権利及び正当な利益を有していると認めることができる。
本件ドメイン名のトップレベルドメイン「.JP」は国別コードを表す部分に過ぎないから、本件ドメイン名が商標や役務の出所表示として機能を果たす要部は、第2レベルドメインである「MCAFEEN」であることは明白である。そこで本件ドメイン名の第2レベルドメイン「MCAFEE」と、本件商標の欧文字部分を対比すると、「M」と「A」以外に大文字と小文字の差異が認められるが、当該差異によって本件ドメイン名から、本件商標と異なる意味合い及び称呼が認識されるものではない。また、ドメイン名の表記においては、大文字と小文字は区別されないこと、さらに、通常、ブラウザーのアドレスバーにおいてドメイン名は小文字で表示されることから、それぞれを小文字で表示した「mcafee」と「mcafee」は共通することから、「M」と「A」の文字以外の文字部分の差異が外観全体に与える影響は極めて軽微と言わざるを得ない。
したがって、本件ドメイン名の要部「MCAFEE」は、申立人が権利及び正当な利益を有している本件商標と混同を引き起こすほど類似するものと認められる。
(2)権利または正当な利益
本件ドメイン名は2023年8月1日に登録されたところ、登録者が本件ドメイン名と同一又は類似の文字列を含む(又はその読み方に相当する)日本の商標登録を有する事実はうかがえない。
答弁書不提出のため、登録者の使用事実について確認する手段がなく、当パネルが、本件ドメイン名のURLを確認したところ、現在、当該サイトにアクセスできない状態になっている(添付資料1)。
また、申立人は、本件ドメイン名の登録を登録者に許諾したことはないと主張しているところ、これと矛盾する事情は認められないから、申立人は登録者に本件ドメイン名の登録を許諾していないものと認められる。
さらに、申立人の主張に対して、登録者は答弁書を提出しておらず、本件ドメイン名を採用するに至った理由その他の権利又は正当な利益を明らかにしていない。
以上のことから、処理方針第4条c項各号所定の事実はいずれも認められず、登録者は本件ドメイン名に関して何らの権利または正当な利益を有するものでないと言うほかない。
(3)不正の目的での登録または使用
当パネルが、本件ドメイン名のURLを確認したところ、現在、当該サイトにアクセスできない状態になっており(添付資料1)、提出された証拠からは、申立人ウェブサイトへのリダイレクト又は誘引等のために使用されたといった事情は確認されない。
一方、本件商標の欧文字部分は、我が国の需要者、取引者に馴染みある外国語ではなく、造語と認識されるところ、当パネルがインターネット検索エンジンGoogleを用いて「MCAFEE」をキーワード検索したところ、検出されたサイトの殆どが申立人の事業や商品に関するものであることが確認された(添付資料2)。
本件ドメイン名の登録者の連絡先(担当者、電話番号)、所在地及び電子メールについて、当パネルが調べたところ、ドメイン登録やドメイン売買を行う事業者(代表者)である可能性が高いことが確認された(添付資料3)。「登録者」と「登録者の連絡先」が同一主体か確認する手段がないものの、2024年10月16日付けドメイン名「PASCO-SNACKPA.JP」裁定(事件番号:JP2024-0012)において、本件ドメイン名の登録者の連絡担当者「Sakatani Yasutaka」と同じ氏名の者が関わっていることが確認された(添付資料4)。同事業者のウェブサイトには、WHOIS上に個人情報を開示しない「WHOIS代理公開」(無料)サービスを活用すれば、「東京都渋谷区」の住所が公開情報窓口として掲載されることが記されており(添付資料5)、JP2024-0012の登録者住所と重なる。JP2024-0012の登録者が本件ドメイン名の登録者とすれば、同事業者の事業分野とコンピュータソフトウェアの密接な関連性も勘案すると、同事業者は本件商標を知っていただけでなく、また、答弁書を提出していないことから、正当な目的で本件ドメイン名を登録した事情は認められない。
以上から、登録者は、本件商標を知って、当該商標に化体した申立人の信用、名声、顧客吸引力等を毀損させる意図において、本件ドメイン名を登録および使用としたものと推認される。
7 結論
以上に照らして、紛争処理パネルは、登録者によって登録されたドメイン名「MCAFEE.JP」が申立人の商標と混同を引き起こすほど類似し、登録者が、ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有しておらず、登録者のドメイン名が不正の目的で登録または使用されているものと判断する。
よって、処理方針第4条iに従って、ドメイン名「MCAFEE.JP」の登録を申立人に移転するものとし、主文のとおり裁定する。
2025年11月26日
日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
単独パネリスト 三上 真毅
別記
(1)申立書の受領
日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、2025年9月19日に申立書(添付する関係書類を含む。)を申立人から電子的送信により受領した。
(2)申立手数料の受領
センターは、2025年9月17日に申立人より申立手数料を受領した。
(3)ドメイン名及び登録者の確認
センターは、2025年9月19日にJPRSに登録情報を照会し、2025年9月19日にJPRSから申立書に記載された登録者が対象ドメイン名の登録者であることを確認する回答並びにJPRSに登録されている登録者の電子メールアドレス及び住所等を受領した。
(4)適式性
センターは、2025年9月25日に申立書が処理方針と手続規則に照らし適合していることを確認した。
(5)手続開始
センターは、2025年9月29日に申立人、JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、手続開始を通知した。センターは、2025年9月29日に登録者に対し郵送及び電子メールにより、開始通知を送付した。開始通知により、登録者に対し、手続開始日(2025年9月25日)、答弁書提出期限(2025年10月28日)並びに書面の受領及び提出のための手段について通知した。
(6)答弁書の提出
センターは、提出期限日までに答弁書を受領しなかったので、2025年10月29日に「答弁書の提出はなかったものと見為す」旨の答弁書不提出通知書を、電子的送信により申立人及び登録者に送付した。
(7)パネルの指名及び裁定予定日の通知
申立人は、1名のパネルによって審理・裁定されることを選択し、センターは、2025年11月5日に弁理士 三上 真毅を単独パネリストとして指名し、一件書類を電子的送信によりパネルに送付した。センターは、2025年11月5日に申立人、登録者、JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、指名したパネリスト及び裁定予定日(2025年11月26日)を通知した。パネルは、2025年11月12日に公正性・独立性・中立性に関する言明書をセンターに提出した。
(8)パネルによる審理・裁定
パネルは、2025年11月26日に審理を終了し、裁定を行った。