事件番号:JP2025-0014

裁定

申立人:
(名称)株式会社マークド
    代表取締役 小西 智志
(住所)東京都中央区●(省略)●
代理人:
弁護士 小西 智志
   同 辻 哲哉
登録者:
(氏名)塩崎香里
公開連絡窓口の名称及び住所:
(名称)Whois情報公開代行サービス by お名前.com
(住所)東京都渋谷区●(省略)●

 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、 JPドメイン名紛争処理方針(以下、「処理方針」という。)、 JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則(以下、 「手続規則」という。)及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、 申立書・答弁書・提出された証拠に基づいて審理を遂げた結果、 以下のとおり裁定する。

1 裁定主文

 本件申立を棄却する。

2 ドメイン名

 紛争に係るドメイン名(以下、 「本件ドメイン名」という。)は「MARKED.JP」である。

3 手続の経緯

 別記のとおりである。

4 背景となる事実

 本件ドメイン名は、 本申立書の提出時点においてJPRSに登録されている。

 申立人の商号の要部である「マークド」は、 画家・アーティストである工藤麻紀子氏(以下、 「工藤氏」という。)のフルネームである「クドウマキコ」の一部から成るアナグラムである。

 申立人の商号の株式会社を除く会社名は「マークド」であり、 本件ドメイン名は、当該会社名と同一または混同を引き起こすほど類似している。

 本件ドメイン名は、 申立人の商号中の会社名を欧文字にて表記したMARKEDを用いたものであるところ、 その登録は、申立人の設立後まもなくの時期である2023年7月4日に行われている。

 本件ドメイン名は、その登録以降から今日まで、従前、申立人の事業、 すなわち、工藤氏の活動のマネジメントおよび同人の絵画作品等の販売等の事業を紹介するための公式サイトとして開設していたホームページ(以下、 「本ホームページ」という。)のホームページアドレス(URL)と、 本ホームページに申立人の問い合わせ先として掲載されているinfo@marked.jpなるメールアドレス(以下、 「本メールアドレス」という。)とに使用されている。

5 当事者の主張

 a 申立人

 申立人の主張は以下のように、整理できる。

(1)申立人は、2023年(令和5年)2月14日、工藤氏を100%株主・取締役として、工藤氏の画家・アーティストとしての活動のマネジメントおよび同人の絵画作品等の販売等の事業を管理するための個人会社として設立された。

 申立人は、従前、 申立人の事業を紹介するための本ホームページの上段部分に見られるように、 その事業の出所識別表示(いわゆるサービスマーク)として、 「MARKED」なる欧文字から成る標章(ただし、商標登録はしていない。 以下、「本サービスマーク」という。)を用いたことがあった。

 また、申立人は、 本サービスマークを今後もその事業のために使用する意思を有している。

(2)申立人の設立当時の代表取締役であった花澤幸子氏(以下、「花澤氏」という。)と登録者は、いずれも申立人の設立以前から「コンサルタント」を自称する鈴木健一氏(以下、「鈴木氏」という。)と親しい関係にあり、鈴木氏の配下の者として、鈴木氏の指図に従って行動する者である。

 花澤氏は、鈴木氏の指図のままに、申立人の設立当初から、 その代表取締役として、100%株主・取締役である工藤氏をその経営から排除し、 工藤氏の絵画作品の販売代金を申立人名義の銀行口座に振り込ませた上でそれを工藤氏の同意なく不正に流出させるなどの不当な経営を行った。

 上記4に記載の本件ドメイン名の用途に照らせば、 申立人の名義にて登録を行うのが本来は自然であるはずであるのに、 あえて申立人の名義でなく登録者の名義にて登録されたのは鈴木氏の指図によるものと推察される。

 2025年1月27日、工藤氏は、申立人の臨時株主総会において、 設立時の代表取締役である花澤氏を解任し、 新しく代表取締役に小西智志弁護士を選任し、 鈴木氏らによる申立人の経営への不当な関与を排除した。

(3)その後、申立人は、代理人弁護士を通じて、登録者に対し、本件ドメイン名と本ホームページの管理の中止等を求めたが、登録者はこれを無視し続けている。

 現在、登録者は、申立人の商号、 本サービスマークの使用・表示に関して何らの権利または正当な利益を有しておらず、 また、本件ドメイン名に関係する権利または正当な利益も有していない。

 本ホームページには、現在、申立人の同意のないままに、 申立人の「公式サイト」である旨の表示、 解任されたはずの花澤氏が現在も代表取締役であるかのような表示や工藤氏の複数の絵画作品や工藤氏の活動歴に関する古い情報が多数掲載されたままの状態となっている。

 本ホームページとそこに問い合わせ先として掲載された本メールアドレスのID・パスワードは、 現在も、申立人に知らされないまま、登録者が管理しており、 現在の申立人の100%株主・取締役である工藤氏や代表取締役である小西弁護士は、 本ホームページの管理者画面へのログインや本メールアドレスの送受信ができない状態が続いている。

 こうした態様による本件ドメイン名の登録の継続または使用により、 申立人は、申立人の代表取締役の氏名や申立人の問い合わせ先メールアドレスとして誤った情報が公衆に伝達され続けることによる不利益・損害(たとえば、 本ホームページまたは本メールアドレスを通じて生じる、 工藤氏の絵画展等のアーティスト活動の需要者や絵画作品の購入希望者からの連絡が申立人に到達しないことによる逸失利益)を被っているほか、 申立人の事業内容に関する情報(たとえば、 工藤氏の絵画作品や絵画展等のアーティスト活動を紹介する情報)がアップデートされず古いまま公衆に伝達され続けることによる信用上・風評上の不利益・損害を被っている。

 登録者には、本件ドメイン名の登録を継続し、 これを使用することに正当な権利または利益がないことは明らかであるし、 登録者が、申立人からの中止の要求にもかかわらず、 本件ドメイン名の登録を継続し、 これを使用することの意図・目的が申立人の事業を混乱させること以外にないことは明らかである。

 よって、本件ドメイン名は、 申立人の商標その他表示と同一または混同を引き起こすほどに類似し、 登録者は本件ドメイン名に関係する正当な利益を有しておらず、 本件ドメイン名は不正の目的で登録または使用されている。

 b 登録者

 登録者の主張は以下のように、整理できる。

 (1)申立人の主張の(2)について、現在、係争中である。 そのため当該ドメインやホームページの件も裁判所の判断を受けるべきであり、 当該ドメインの係争自体を単独で争うことは意味をなさない。

 (2)登録者の名義でドメインの取得を行ったのは次の経緯からである。 法人名義の銀行口座の開設を行うためにも会社ホームページを作成する必要があり、 ドメイン取得をする必要があったので、 会社の名義でドメイン取得を行うことが経費処理上では好ましかったと考えられるが、 当時、申立人は、会社名義の銀行口座及びクレジットカードを所持していなかった。 そのため会社名義で登録申請を行ったとしても、 支払い口座は会社名義とすることができずドメイン取得ができないと考えられた。 また、仮に会社名で取得をし、 支払いは会社名義ではないクレジットカードが認められたとしても、 経費処理が煩雑になることをおそれた。 そこで、広報関連を担当していた登録者の名義と支払い口座でドメインの取得を行った。

 登録者は、 申立人代理人による通知の時点より本ホームページの管理を停止している。 会社の支配権については、現在係争中の案件であるため、 管理を申立人に移譲するべきか現時点では判断ができない。

 登録者は、当該ドメインの費用を現在も支払っている。 本ホームページの管理が停止されているので、 情報が古くなり本ホームページからのメール問い合わせが難しくなったのはことについて登録者には非がない。

 そもそも工藤氏の絵画展等のアーティスト活動の告知は工藤氏個人のインスタグラムや作品の販売を行っている小山ギャラリーのホームページでも行われている。

 絵画作品の購入希望や展示会の相談も同様に本ホームページに問い合わせが来たことはない。

6 争点および事実認定

 a 適用すべき判断基準

 手続規則第15条(a)は、 パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原則についてパネルに次のように指示する。 「パネルは、提出された陳述・書類及び審問の結果に基づき、処理方針、 本規則及び適用されうる関係法規の規定・原則、ならびに条理に従って、 裁定を下さなければならない。」

 処理方針第4条aは、 申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図している。

  1. 登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること
  2. 登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと
  3. 登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること

 b 紛争処理パネルの判断

 (1)同一又は混同を引き起こすほどの類似性

 申立人の商号の株式会社を除く会社名は「マークド」であり、 その欧文字表記は本件ドメイン名と同一であるので、本要件を満たす。

 (2)権利または正当な利益

 登録者は、登録当時は、申立人の事情によって、申立人のために、 正当な委託を受けて当該ドメイン名を登録者の名義と費用で取得したと主張しており、 申立人の当時の代表取締役の花澤氏による経営が不当であったかどうかは紛争中であり、 紛争処理パネルには判断できない。 仮に、当該ドメイン名を登録者が取得することが申立人による正当な委託であった場合は、 当該ドメイン名を登録者が申立人に移転すべきか、そのための対価の有無、 登録者が登録と維持に要した費用の償還など、 委託の趣旨に従って判断されなければならず、 その点が解決するまで登録者には、 当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していることになる。 したがって、「登録者が、 当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していない」と認定することはできない。

 (3)不正の目的での登録または使用

 登録者は、登録当時は、申立人の事情によって、 申立人から正当に委託を受けて、 当該ドメイン名を登録者の名義と費用で取得したと主張しており、 これを排斥する証拠は申立人によって提出されていない。

 現在、本ホームページは更新されておらず、古い情報のままとなっており、 その問い合わせ先にメールが送信されても、 申立人が受信することができない状態になっている。

 申立人は、これによって、たとえば、 本ホームページまたは本メールアドレスを通じて生じる、 工藤氏の絵画展等のアーティスト活動の需要者や絵画作品の購入希望者からの連絡が申立人に到達しないことによる逸失利益や、 工藤氏の絵画作品や絵画展等のアーティスト活動を紹介する情報がアップデートされず古いまま公衆に伝達され続けることによる信用上・風評上の不利益・損害を被っていると主張するが、 登録者は、 工藤氏の絵画展等のアーティスト活動の告知は工藤氏個人のインスタグラムや作品の販売を行っている小山ギャラリーのホームページで行われており、 絵画作品の購入希望や展示会の相談が本ホームページを通じて問い合わせられたことはないと主張している。 提出された証拠から、紛争処理パネルとしては、 申立人に逸失利益や古い情報が公衆に伝達されていることによる具体的な不利益・損害が生じているとは認定できない。 したがって、「登録者の当該ドメイン名が、 不正の目的で登録または使用されている」と認定することはできない。

7 結論

 以上に照らして、紛争処理パネルは、 登録者によって登録されたドメイン名「MARKED.JP」が申立人の商標と同一または混同を引き起こすほど類似していることは認めるが、 登録者が、 ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないと認定することはできず、 登録者のドメイン名が不正の目的で登録または使用されていると認定することはできなかった。

 よって、申立人が求めたドメイン名「MARKED.JP」の取消請求は、 主文のとおり棄却する。

2025年12月9日
日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
       単独パネリスト    平野惠稔

別記

(1)申立書の受領

 日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、 2025年10月3日に申立書(添付する関係書類を含む。)を申立人から電子的送信により受領した。

(2)申立手数料の受領

 センターは、2025年10月3日に申立人より申立手数料を受領した。

(3)ドメイン名及び登録者の確認

 センターは、2025年10月3日にJPRSに登録情報を照会し、 2025年10月3日にJPRSから申立書に記載された登録者が対象ドメイン名の登録者であることを確認する回答並びにJPRSに登録されている登録者の電子メールアドレス及び住所等を受領した。

(4)適式性

 センターは、 2025年10月9日に申立書が処理方針と手続規則に照らし適合していることを確認した。

(5)手続開始

 センターは、2025年10月10日に申立人、 JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、手続開始を通知した。 センターは、2025年10月10日に登録者に対し郵送及び電子メールにより、 開始通知を送付した。開始通知により、登録者に対し、 手続開始日(2025年10月10日)、 答弁書提出期限(2025年11月11日)並びに書面の受領及び提出のための手段について通知した。 但し登録者宛電子メール送信分については一部が送信不能であった。

(6)答弁書の提出

 センターは、 2025年11月11日に答弁書提出期限の延長を求める上申書を登録者から電子的送信により受領し、 2025年11月12日に提出期限を2025年11月17日まで延長する旨を通知した。

 センターは、 2025年11月17日に答弁書を登録者から電子的送信により受領した。 センターは、 2025年11月17日に補正(答弁書の記載事項の修正等)が必要と判断してその旨を登録者に通知し、 2025年11月24日に補正書類を受領した。 センターは、 2025年11月25日に答弁書が処理方針と手続規則に照らし適合していることを確認し、 2025年11月25日に申立人に対し電子的送信により送付した。

(7)パネルの指名及び裁定予定日の通知

 申立人、登録者とも1名のパネルによって審理・裁定されることを選択し、 センターは、2025年11月25日に弁護士 平野 惠稔を単独パネリストとして指名し、 一件書類を電子的送信によりパネルに送付した。 センターは、2025年11月25日に申立人、登録者、 JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、 指名したパネリスト及び裁定予定日(2025年12月15日)を通知した。 パネルは、 2025年11月27日に公正性・独立性・中立性に関する言明書をセンターに提出した。

(8)パネルによる審理・裁定

 パネルは、2025年12月9日に審理を終了し、裁定を行った。