事件番号:JP2025-0015

裁定

申立人:
(名称)MGM Resorts International
(住所)アメリカ合衆国 ネバダ州 ●(省略)●
代理人:
弁護士 山本 健策、弁護士 井髙 将斗、弁護士 関谷 文博
登録者:
(氏名)Paul Fraser
(住所)富山県砺波市庄川町青島265

 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、 JPドメイン名紛争処理方針(以下、「処理方針」という。)、 JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則(以下、 「手続規則」という。)及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、 申立書・提出された証拠に基づいて審理を遂げた結果、 以下のとおり裁定する。

1 裁定主文

 ドメイン名「MGMOSAKA.JP」の登録を申立人に移転せよ。

2 ドメイン名

 紛争に係るドメイン名(以下、 「本件ドメイン名」という。)は「MGMOSAKA.JP」である。

3 手続の経緯

 別記のとおりである。

4 背景となる事実

 申立人は、ベラージオ、MGMグランド、 マンダレイ・ベイなどの有名なカジノホテルを運営しており、 ラスベガスのほか、マカオやドバイなどにおいても、 MGMブランドのリゾートやカジノ施設を幅広く展開する統合型リゾート(IR)を世界で開発・運営する事業を行う会社である。

 申立人は、商標「MGM」について、 1999年3月12日に登録された商標第4247805号(以下、 「商標1」とする。)、 2014年8月22日に登録された商標第5695423号(以下、 「商標2」とする。)、 2022年8月26日に登録された商標第6606187号(以下、 「商標3」とする。)の商標権者である。

 本件ドメイン名は、 2023年4月14日に登録された(甲第1号証)。

5 当事者の主張

 a 申立人

 申立人の主張は以下のように、整理できる。

 申立人は、 MGMブランドのリゾートやカジノ施設を幅広く展開している(甲第3号証)。 日本でも旅行先情報の中で取り上げられることにより(甲第4から6号証)、 MGMブランドは広く知られている。

 本ドメイン名の登録日以前の2021年9月28日に、 大阪府と大阪市がカジノを含む総合リゾート(IR)について、 申立人(MGMリゾーツ・インターナショナル)とオリックスの共同グループを正式に選定したと発表したことが大きく報道された(甲第7から12号証)。 日本経済新聞では、「大阪IR、MGMに正式決定 年間売上高5400億円見込む」というタイトルで報道され、 ビジネス規模の大きさを示すインパクトのある金額とともに、 申立人を示す「MGM」が使用されている(甲第13号証)。

 報道後も本ドメイン名の登録日である2023年4月14日まで継続的に同様の報道がされ続けた(証拠書類17)。 さらに、地方公共団体によっても上述の事実が告知されたほか(証拠書類18および19)、 全国紙でも度々取り上げられてきた(甲第20から24号証)。

 以上の各事情からすると、申立人は、 商標「MGM」について権利(商標権)を有しており、 商標「MGM OSAKA」について正当な利益を有している。 これらの商標(「カジノ施設の提供」等のサービスに関する商標)が本申立の根拠となる商標である。

 しかも、大阪カジノ構想は、 関西のみならず日本の経済にも影響を与え得る一大プロジェクトであることから、 地方公共団体やメディアにより度々取り上げられることで、 日本の需要者の注目を広く集め、 その際に使用されたブランドである「MGM」や当該ブランドに係る施設の設置場所である「OSAKA」の各語は、 相互に深く関係するものとしてカジノの興味を持っている需要者の記憶に強く残っていると考えられるのみならず、 その高い注目度に照らせば、 「MGM」および「MGM OSAKA」は特にカジノの興味を持っていない需要者の間でも広く知られていると考えられる。

 本ドメイン名は登録者の氏名と一切関係がなく、その他、 登録者と本ドメイン名の関係性を明らかにする情報は一切ないのであって、 登録者は、本ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していない。

 登録者はオンラインカジノを提供するサービスに深く関与している。 ドメイン名の登録時点で、 申立人に関する「MGM」ブランドや大阪カジノ構想のことを知らないはずはなく、 「MGM」ブランドや大阪カジノ構想のことを知りながら、 あえて本ドメイン名「mgmosaka.jp」を選択して登録したものと合理的に考えられる。

 よって、ドメイン名は、 申立人の商標と混同を引き起こすほどに類似し、 登録者はドメイン名に関係する正当な利益を有しておらず、 ドメイン名は不正の目的で登録または使用されている。

 従って、申立人は、ドメイン名登録の申立人への移転を請求する。

 b 登録者

 登録者によって答弁書は提出されなかった。

6 争点および事実認定

 a 適用すべき判断基準

 手続規則第15条(a)は、 パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原則についてパネルに次のように指示する。 「パネルは、提出された陳述・書類及び審問の結果に基づき、処理方針、 本規則及び適用されうる関係法規の規定・原則、ならびに条理に従って、 裁定を下さなければならない。」

 処理方針第4条aは、 申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図している。

  1. 登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること
  2. 登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと
  3. 登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること

 b 紛争処理パネルの判断

 (1)同一又は混同を引き起こすほどの類似性

 本件ドメイン名は、「MGMOSAKA」と「.JP」からなり、 「.JP」の部分は、日本国の国コードトップレベルドメインであって、 JPドメイン名の登録の必須の部分であるから、 本要件(処理方針第4条a(i))を判断するにあたって考慮されない。 よって、本件ドメイン名のうち、「MGMOSAKA」の部分と、 「申立人が権利または正当な利益を有する商標その他の表示」とを対比して本要件が判断される。

 申立人は、 世界各国で展開する自身のリゾート施設を紹介するウェブサイト等にて、 「MGM Resorts(MGM リゾーツ)」と表示し、 「MGM」が目立つように使用している。

 また申立人は、商標「MGM」について、1999年3月以降、 2022年8月に至るまで、登録第4247805号商標、 同第4247806号商標、同第5550301号商標、 同第5695423号商標、同第6488520号商標、 同第6495745号商標および同第6606187号なる7件の商標登録をし、 現在でも保有している(甲第2号証の1ないし7、 以下「本件各登録商標」という。)。

 2021年9月28日に報道発表された、 大阪府と大阪市がカジノを含む総合リゾート(IR)について、 申立人(MGMリゾーツ・インターナショナル)とオリックスの共同グループを正式に選定したことに関連し、 「MGM・オリックス コンソーシアム」と称して報道され、 各全国紙・地方紙・専門紙などは、申立人を、 その正式名称である「MGM Resorts International」でなく「MGM」と指して報道している(甲第7、8、9、11、12、13、15、16、17、18、19、20、23号証)。 申立人が、 日本初の総合リゾート開発事業の成功に不可欠な存在として頻繁に報道される中、 「MGM」は申立人を指す表示として日本全国で知られているとみるのが相当である。

 本件ドメイン名の後半に含まれる「OSAKA」の部分は、 近畿地方に所在する府である「大阪府」や、 その中に所在する市の「大阪市」、 ひいては国内第2の規模を誇る経済圏として捉えられる際にと称される地区名称「大阪」を、 アルファベットで表示したものである。 地名を表す表示は、ドメイン名を構成する部分の中で、その識別力は弱い。 したがって、本ドメイン名の要部は「MGM」の部分であり、 これは申立人が保有する7件の商標「MGM」と同一である。 つまり、本件ドメイン名に、 申立人商標「MGM」が流用されていることが客観的に認識でき(客観テスト、 JP-DRP裁定例検討最終報告書31頁)、 本件ドメイン名の要部「MGM」は、 申立人所有の本件各登録商標と同一又は混同を引き起こすほど類似するといえる。

 したがって、本申立ては、 「同一又は混同を引き起こすほどの類似性」の要件(処理方針第4条a(i))を満たしている。

 (2)権利または正当な利益

 登録者の氏名は「Paul Fraser」であるところ(甲第1号証)、 本件ドメイン名と不一致である。 また、本件ドメイン名は、2023年4月14日に登録されてから、 現在に至るまで使用されていない(処理方針第4条c(i))。 さらに、申立人が登録者に対し、 本件ドメイン名の使用・登録について許諾した事実は存在しない(JP-DRP解説22頁)。

 したがって、本申立ては、 「登録者が本件ドメイン名に関する権利または正当な利益を有していないこと」なる要件(処理方針第4条a(ii))を満たしている。

 (3)不正の目的での登録または使用

 本件ドメイン名は、 2023年4月14日に登録されてから現在に至るまで使用されていないため、 以下、本件ドメイン名が、不正の目的での「登録」に当たるかを判断する。

 登録者のメールアドレスは、 オンラインカジノ業界で60年以上の経験を持つ専門家がいるという「オンラインカジノ777」なるオンラインカジノ提供者が開設するウェブサイトにて(甲第33号証)、 そのサイト内で公表されるFAQ(Frequently Asked Questions)の連絡先電子メールアドレスとして公表されていた(甲第32号証)。 この電子メールアドレスは、 本件ドメイン名に関するWhoisの公開連絡窓口として、 登録者の氏名及びその住所(日本国富山県)とともに公開されているものと一致する(甲第1号証)。 そうとすると、登録者は、国内在住の、 カジノ事業に携わる人物であることがうかがえる。

 申立人が大阪IRなる大阪地区での統合型リゾート施設の運営者として選定された2021年9月28日より前に、 申立人は、所有する7件の本件各商標のうち4件を、商標登録した。 そのうち、商標登録第4247805号は、 国際分類第41類の役務であって「カジノゲーム施設の提供」に類似する、 「ゲームセンターの提供(類似群コード41K01)」を指定して1999年3月12日に商標登録され(甲第2号証の1)、 また同第5695423号は、同国際分類に、 「カジノゲーム施設の提供(類似群コード41K01)」などの役務を指定して2014年8月22日に商標登録されている(甲第2号証の4)。 申立人らのコンソーシアムが、カジノ施設を含む、 大阪IRなる大阪地区での統合型リゾート施設の運営者として選定されたのは、 これら2件の商標登録のあとの2021年9月28日であり、かつ、 本件ドメイン名の登録日である2023年4月14日より前である。 これら商標登録の事実は、日本特許庁の公開するデータベースにおいて、 登録者も確認することができる。

 前記のとおり、登録者は富山県を住所とし、しかも、 カジノ事業に携わる人物であるならば、 自己が関わるカジノ施設が大阪地区に開設されることは、 2021年9月28日以降早い段階で知っていたことは想像に難くない。 また、その後現在に至るまで盛んに、 大阪IR事業との関連で申立人の表示「MGM」が国内で多数報道されてきたことに鑑みれば(甲第7から24号証)、 「MGM」なる表示と、 大阪IR事業の地域名たる「大阪」のアルファベット表示「OSAKA」との結びつきが強いことを容易に理解できたことも想像に難くない。 そうとすれば、 申立人が「MGM」と「OSAKA」の表示を組み合わせたものを、 申立人自身の表示として使用し得ることを想像することも難しくなかったはずである。

 また、申立人の子会社である日本MGMリゾーツとオリックスが主要株主である、 大阪IRを運営するMGM大阪株式会社が、 2021年12月23日に設立されている(甲第27号証)。 ドメイン名には、 株式会社を除く商号の要部「MGM大阪」をアルファベットに置き換えた文字(ここでは「MGMOSAKA」)が採用されることが一般的である。 当該株式会社の設立時から本件ドメイン名の登録日までに、 本件ドメイン名が申立人ないし申立人関係者のいずれによっても登録されていなかったことに鑑みれば、 本件ドメイン名の登録時点において、登録者には、 申立人が権利を有する本件各商標や「MGMOSAKA」を、 ドメイン名として使用できないよう妨害するために、 本件ドメイン名を不正の目的をもって登録する意思があったとしても、 不自然でない(処理方針第4条b(ii)参照)。 なお、当該会社は、2025年4月17日に、 「MGMOSAKA.CO.JP」をそのドメイン名として登録し、 使用している(甲第28号証)。

 さらに、申立人は、登録者に対し2024年12月20日付で、 郵送により書面にて、日本語で、 本件ドメイン名を申立人に譲渡するよう申し入れを行った。 しかし返答がなかったため、 本件ドメイン名の公開連絡窓口として公開されている電子メールアドレス宛てに、 2025年1月21日に接触をしたところ(甲第29号証、同第30号証)、 登録者は、 「英語で説明がほしい」旨の返信を2025年2月17日に申立人に対して行った。 申立人が同日、英文での申し入れを送信したものの(甲第31号証)、 以降、登録者は申立人に応答をしていない。 この登録者の無反応な対応は、処理方針第4条b(ii)に列記された、 本要件の認定を義務付ける事項に、 少なくとも間接的には該当すると考えられる。 前記郵送による本件ドメイン名の譲渡の申し入れの2週間前に当たる2024年12月6日時点で、 登録者の電子メールアドレスは、 前記FAQの連絡先としてウェブサイトに掲載されていたが(甲第32号証)、 本件申立日の2025年11月5日までには、 いずれのウェブサイトにも掲載が見当たらないという事実も、 申立人から登録者への接触を困難にする行為と言え、登録者が持つ、 本件ドメイン名の登録に係る不正の目的を、 他人により認定されにくくする行為のひとつと捉えられる。

 本件ドメイン名の登録は、実際に使用されず、 登録者が申立人に自ら接触するなどの実際の動きに至っていない“passing holding”に該当するものの、以上のとおり、申立人の商標登録の時期、 大阪IR事業の運営者として申立人が選定された時期、 登録者がカジノ事業に関与する点、本件ドメイン名の登録時期、 登録者の公開連絡窓口へのアクセス可能性の変遷、 登録者と申立人の交渉過程、などを総合考慮すると、 本件ドメイン名は、 「不正の目的で登録されている」との要件を満たしている(処理方針第4条a(iii)、 同第4条b(ii)、JP-DRP解説20頁)。

7 結論

 以上に照らして、紛争処理パネルは、 登録者によって登録されたドメイン名「MGMOSAKA.JP」が申立人の商標と混同を引き起こすほど類似し、 登録者が、ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有しておらず、 登録者のドメイン名が不正の目的で登録または使用されているものと判断する。

 よって、処理方針第4条iに従って、 ドメイン名「MGMOSAKA.JP」の登録を申立人に移転するものとし、 主文のとおり裁定する。

2026年1月8日
日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
       単独パネリスト    筒井 章子

別記

(1)申立書の受領

 日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、 2025年11月5日に申立書(添付する関係書類を含む。)を申立人から電子的送信により受領した。

(2)申立手数料の受領

 センターは、2025年11月12日に申立人より申立手数料を受領した。

(3)ドメイン名及び登録者の確認

 センターは、2025年11月13日にJPRSに登録情報を照会し、 2025年11月13日にJPRSから申立書に記載された登録者が対象ドメイン名の登録者であることを確認する回答並びにJPRSに登録されている登録者の電子メールアドレス及び住所等を受領した。

(4)適式性

 センターは、 2025年11月13日に申立書が処理方針と手続規則に照らし適合していることを確認した。

(5)手続開始

 センターは、2025年11月19日に申立人、 JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、手続開始を通知した。 センターは、 2025年11月19日に登録者に対し郵送及び電子メールにより、 開始通知を送付した。 開始通知により、登録者に対し、 手続開始日(2025年11月19日)、 答弁書提出期限(2025年12月18日)並びに書面の受領及び提出のための手段について通知した。

(6)答弁書の提出

 センターは、提出期限日までに答弁書を受領しなかったので、 2025年12月19日に「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不提出通知書を、 電子的送信により申立人及び登録者に送付した。

(7)パネルの指名及び裁定予定日の通知

 申立人は、1名のパネルによって審理・裁定されることを選択し、 センターは、2025年12月25日に弁理士 筒井 章子を単独パネリストとして指名し、 一件書類を電子的送信によりパネルに送付した。 センターは、2025年12月25日に申立人、登録者、 JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、 指名したパネリスト及び裁定予定日(2026年1月22日)を通知した。 パネルは、 2025年12月25日に公正性・独立性・中立性に関する言明書をセンターに提出した。

(8)パネルによる審理・裁定

 パネルは、2026年1月8日に審理を終了し、裁定を行った。